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367:名無しさん:2013/09/10(火) 00:23:22 ID:hlCx1fTU0
会社の後輩の山野部という20代のやつから聞いた話。
こいつは去年の12月に急性肺炎で2週間ほど会社を休んだんだけど、
そのときの詳しい話を聞かせてもらった。
その日は初雪が降ってから3日目くらいで、
朝寒くてフトンから出られず早朝の日課だったタクの散歩を休んでしまった。
タクというのは山野部が飼ってる雑種の小型犬。
それで会社が終わって家に帰った8時過ぎ頃にリードを引いて散歩に出かけた。
住宅街を抜けてスポーツ公園を通り、出たのと逆方向の住宅街から家に帰るというコースで、
ゆっくり歩いても30分程度。
もう5分もあれば家に着くというところで、タクがうなり声を上げ始めた。
小さなビルとビルの1mないくらいのすき間に入っていこうとした。
何があるのかと見れば、ポリバケツや側溝があってあまり清潔とはいえないそのすき間の少し奥に、
人の背丈よりちょっと高い雪だるまが作られていた。
「へー、よく雪を集めたな」と思った。
この3日、雪は深夜から朝方にかけて少ししか降らなかったためにほとんど積もらず、
今も道路に雪はないし、軒などにちょこちょこと残ってる程度だったからだ。
雪だるまはたて長のだ円に丸い頭をのせた形で顔は作られていない。
ただ胴体の片側に木の棒がさしてあって、その先に子ども用と思われる青い手袋がついていた。
タクは思い切りリードを引っぱってそっちへいこうとしては、
また飛びすさって離れるという行動をくり返した。
早く家に戻りたかったので「タク、だめ!」と言いながら無理に引きずったときに、
「かわって」というはっきりした子どもの声を聞いた。
あたりを見回したが、道に車通りはあるものの子どもの姿などどこにもない。
空耳かなと、そのときはあまり深くは考えなかったそうだ。
次の朝「タクがいなくなった」という母親の声で起こされた。
庭の犬小屋を見ると、丈夫な革編みのリードが途中からぶっつりと切れてた。
近所に気兼ねしながらも「タク、タク」と呼んだが姿を現さない。
前に首輪が外れたときはどこにも行かず庭をうろうろしてただけだったが・・・
そのうち出勤の時間になってしまったので、
会社から帰っても戻らないなら探してみようと考えながら家を出た。
その日はサービス残業をこなさなくてはならず家に着いたのが9時過ぎ。
まだタクは戻らないということだったので、
もしかしたら車に轢かれたか、ここらではあまり聞いたことがないけど
保健所の野犬狩りにあったか、雑種の老犬なので盗まれるとはちょっと考えにくい・・・
ダメかもしれないと思いながらいつもの散歩コースを回ってみることにした。
スポーツ公園ではグラウンド内に入ってみたりもしたがやはり見つからない。
「まあ無理だよな」とあきらめかけていたとき、20mほど先の歩道の上に犬の姿があった。
タク・・・に見えた。
小走りに近づいていくとやっぱりタクだ。こちらを向いて口に何かをくわえていた。
青い子ども用の手袋だ。
「タク、こっち」と名前を呼びながら近づいていくと、
5mくらいまでにきたとき、くるっと後ろを向いて走り出した。
それを小走りになって追いかけると、きのう雪だるまがあった街路に出た。
そのビルのすき間がある前でタクが立ち止まってこっちを見ていた。
「世話をやかせるなよ。こっちは運動不足だ」と思いながら歩いていくと、
そのすき間から子どものような二本の手が出て、タクを抱えて引きずり込んだ。
「えっ!」
走ってすき間までいって中をのぞくと、雪だるまもタクの姿もなく、
あちこちグチャぐちゃにつぶれた8歳くらいの男の子が側溝に突っ伏していた。
右手を不自然な形で上にのばし、血まみれの手に青い手袋を握っていた。
「こっから記憶がないんです」と山野部は言った。
「もしもし、もしもし聞こえますか!」という大声がした。
目を開けると救急車が横付けされ、
「名前を言ってみてください」
救急隊員が耳元で呼びかけていた。
「発見されたときには12時を過ぎていたようです。
ダウンジャケットどころか下着までぜんぶ脱いでしまって、そのビルのすき間に立ってたみたいなんです。
両側のビルに足をかけて踏ん張って。
しかも手には先に青い手袋をさした木の枝を持って。
人が見れば完全な変態ですよね。よく先に警察に通報されなかったと思います。
2時間ほどあの季節に裸でいたために低体温症になって、重い肺炎も引き起こしてしまったんです。
タクはいました。
というか自分のまわりで吠えていてくれたために発見されたようなんですよ。
あと、その子どもの青い手袋なんですが、
救急車で運ばれたどさくさでどっかにいってしまいました。
・・・あのあと何回かその道は通ってるんですが、ビルのすき間は絶対に見ません。
またあれを見つけてしまうと今度は・・・」と言葉を濁した。