https://toro.2ch.sc/test/read.cgi/occult/1535920044/-100

17 :本当にあった怖い名無し:2018/09/05(水) 15:24:59.25 ID:mjMHFqIX0.net
石じじいの話です。

みなさんは「人形液」というものを知っていますか?
これは昔、日本人形の肌の表面を汚れや傷からまもるために用いられた一種の樹脂です。
昔の人形の肌は貝がらをすりつぶしたもの(胡粉)を使っていたので
はかなく繊細で美しいものでした。
しかし、柔らかく傷がつきやすく汚れがつくと落ちにくかったのです。
その対策として昭和のはじめごろに考え出されたものだとか。

じじいは、面白い石をとることができる比較的近場の採集地に
トラックの定期便に便乗して通っていました。
ある日、山に登るところの集落で一人の少女を見かけたそうです。
彼女は、農家の前で歌を歌っていました。
『それはのう、「門付け」ゆうもんでのう。まあ、ゆうたら乞食(ママ)よ。」
しかし家の人はだれも出てきませんでした。
留守だったのかもしれません。
じじいは不憫に思って彼女に声をかけて話を聞きました。

彼女が言うには、母親と二人で住んでいるのだが今母親は病気で伏っていて
お金がないのでこうやってお金を乞うているのだ、ということでした。
彼女が言う彼女たちの住処はじじいの行く方向とは逆だったので
少しのお金をやって別れたそうです。

その日、帰るときに村の人に訪ねたところ
その母子は数年前にどこから流れてきて
村外れのお堂(そのころは廃されていた)に住み着いたのだとか。
(昔はそのような人を「ほいと」、「ほいど」などと呼んでいました。)
母親はそのときは元気で手先が器用だったので
竹箕の修繕や農作業の手伝いをして金を稼いで生活をしていたと。
彼女たち以外の家族や親戚は空襲で全滅した、ということでした。
よそ者でしたが戦後の混乱期だったので不憫なことと思って
村の近くでの滞在を許したそうです。
母親の人間性も良かったからだとも。

別に彼女たちを嫌って特に冷たく接している様子は
地元の人間には見られなかったといいます。
ただ、少し前から母親は病気がちとなり
あまり外出しているところを見かけることがないとのこと。




18 :本当にあった怖い名無し:2018/09/05(水) 15:26:00.84 ID:mjMHFqIX0.net
次にその女児に会ったとき
彼女は青い顔をしてすこしやつれているように見えました。
田舎では戦後の食料危機はそれほどでもありませんでしたが
まあ、乞食の身であるので食べられないこともあるだろうと思い
じじいは自分の飯をあげたそうです。

彼女はそれの半分を美味しそうに食べ、残りを習字に使われた半紙(ほご)にくるみました。
これは病気で寝ている母にあげるのだ、と。
そして彼女は、もっている巾着のようなものから
茶色のガラス瓶を取り出してその中の液体を一口飲んだそうです。
じじいはそれは何か?と尋ねると、彼女はこれは「人形液」だと答えたそうです。
「にんぎょうえき?」じじいは意味を尋ねました。

彼女曰く:
これを飲むと、人形になれるのだ。
人形になれば、病気になることも、年をとることも、死ぬこともない。寒くもない。
だから、これを飲んで人形になるのだ。
もし自分が人形になれたら、この薬を母親にも飲ませて一緒に人形として暮らすのだ。
ということでした。

じじいは迷信深い人間ではなかったし、ある程度の医療の心得もあったので(衛生兵程度)
そんな薬はないだろうということを彼女に話して
それは害はあっても益は無いのでやめるように説得しました。
母親が病気なら医者に見せて
それなりのところ(孤児院:当時の名称)に移れるのではないか?とも話しました。
いろいろと説得しましたが彼女は納得せず
困ったような顔をして泣きそうになったそうです。

「こどもあいてに、おとながむつかしいことゆうてもわからなんだろうのう。
わしもばかやったい。」

彼女はつらそうな顔をして言ったそうです。
「こんなもので人形になどになれないことは、わかっている。」と。
大人のような口調だったといいます。

じじいは、あとから村の人がお堂に行くから言うことを聞くようにと言い残して別れました。
石の採集作業の帰りに村人何人かにあって
その母子の命が危ないかもしれないので面倒をみること
役場や警察などと相談すること
なにか手助けできることがあれば連絡するように、と自分の住所を教えました。

じじいが自宅に帰ってから1周間ほどたって電報が届いたそうです。
「ホイトハハコシス・・・」


19 :本当にあった怖い名無し:2018/09/05(水) 15:27:31.18 ID:mjMHFqIX0.net 
じじいはその部落に急行しました。
村人に尋ねるとじじいが村を離れたあと
村人がその母子のところにいって説得し、役場にも相談して
母親を病院に入れようということになり
母子を迎えに行ったら母親はお堂のなかで死んでいたそうです。
病死(心臓麻痺)だったとか。
では、その女児は?

女の子の姿はどこにも無かったそうです。
村人は探しましたが見つけられなかったと証言しました。
警察にもとどけましたが
まあ、そのような時代ですからあまり真剣に捜査などはされなかったそうです。

それからしばらくたって
その村(山)に再度石を取りに行ったときに
山の中で人形(種類不明、メモに記述なし)を見つけたそうです。
それは、松の木の根本に転がっていたそうです。

女児の「人形液」のことを思いだしたじじいは、感じることがあり
それを寺のお堂(廃堂とは別)に持ち込みました。
その人形は、そのお堂にずっと祀られていたそうです。

「その女の子の薬(人形液)は、どうやって、どこで、だれからもろうたん?」
私は当然の質問をしたと思うのですが
それの答えについてはメモの記録にも私の記憶にもありません。
このような話であったと思います。


21 :本当にあった怖い名無し:2018/09/05(水) 20:28:10.53 ID:bs8U3HkCO.net
本意との母子は切なくて悲しい最期でしたね。
願わくば娘だけでも人形に変化して生きる苦しみから解放されたと思いたいです。