http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/study/9405/1209619007/-100

763
おいら ◆9rnB.qT3rc:2010/05/02(日) 16:42:56 ID:EgsXsJKE0

【出土品】
1/3

「お兄ちゃんの知り合いのあの子なあ、アレとはイマイチ合わん」
上野の飲み屋で、味噌鍋を二人でつつきながらヒレ酒を呑んでいたとき、
急に広島弁のジイさんに言われた。
最初、何を言っているのか判らなかった。
どうやら、最近ここに飲みに来るミカドさんのことを言ってるらしい。

この広島弁のジイさんは三船敏郎声のヒッピー崩れ。
「ごめんねバアさん」の時、空襲で死んだ女の子の憑き物を抜いて貰った恩人だ。
だが、ふざけているのかヒネくれているのか、自分の名前を絶対に明かさない。
店の大将も教えてもらえてないそうだ。
そのくせ、お爺さんと呼ぶと怒る。
始末に悪い。

一方ミカドさんは、変な踏切で助けた訳アリ女子大生だ。
ここを彼女に紹介してから、このジイさんとも何回か顔を合わせていたが、
当の店の大将がそういった話をあまり好まないので、
お互いにオカルトな話題は振らせない様にしている。
彼女の『スタンド』と呼ばれる、大きな黒い口のワニの化け物の話題にも、今ひとつ振り切れていない。
そこのところは残念だ。

「あの子って、ミカドさんの事ですか?」
「帝?大仰な名前じゃのう」
「違いますよ。三門と書いてミカド。大仰でも何でもないでしょ」
「変わらん。空門、無相門、無願門で三門。三解脱門じゃ。知らんのか?」
…このジジイ、こういったことは変に詳しい。
実際、何をしていた人だろう?
というか、その前にいい加減あんたの名前を教えろよ。
話し難くて仕方ない。


764おいら ◆9rnB.qT3rc:2010/05/02(日) 16:43:45 ID:EgsXsJKE0

2/3

「何か理由でも?彼女、気に障るようなコト言ってましたっけ?」
「いんや。よう解らんが、コレが妙にイガイガしよる。それと爪先が痛い」
「それも、決まってあの子が来ているときだけよ。気味が悪い」
あの…その爪先が痛いってのは、痛風です。きっと。
オカルトとは関係ありませんから。
と思っていると、ジジイがGジャンの上着のポケットから、何か取り出すのが見えた

ポケットから出されたソレ。
ヒッピー崩れのジジイが持つには、不釣り合いなアクセサリだった。
おい、いつも言ってる割には、ピースマークじゃないのかよ。
ガッカリだ。
ブローチくらいの大きさか、象牙で出来ている様にも見えたソレは、
何と言うか…何かの爪が2つ、三日月のように連なって「C」の字を成していた。
ブーメラン?
いや、何かの刃物を模している様にも見えるが…
多分日本のものではない。
どことなくアジア系の意匠の浮き彫りには、全面に赤黒くスミ入れが成されている。
結構古いものかもしれない。

で、ミカドさんが近くにいるとイガイガ反応するわけですか、これが?
彼女の『スタンド』と関係があるのか?
判らない。
取り敢えず今は話題を戻そう。

どこで見つけたのかしつこく尋ねても
「それは話したくない」と言って、ジジイはどこか苦しそうに笑った。
これはジイさんの個人的なお守りなのだという。
詳しい入手の経緯を聞きたかったが、上手くはぐらかされる。

「ほんなら、少しだけ教えたる。コレは越南の土産じゃ」
「骨と一緒に出て来た。大勢の人の骨だ。その中にあった。ワシが掘った」
「この黒いのは人の血だ。洗っても取れん」
「…」
店の大将が、露骨に嫌な顔をしたのが横目に入ってきた。


765おいら ◆9rnB.qT3rc:2010/05/02(日) 16:44:21 ID:EgsXsJKE0

3/3

かの国で大勢の人が一時に死んだとなると、その原因はだいたい察しがつく。
ヒッピージジイでPieceと言えば…、
「ベトナム戦争ですね?その時の遺骨と一緒に出た…?」
ジイさんは眉を片方上げて、少しニヤリとした。
ビンゴだ。
でも当時、その戦争に反対していたヒッピーが、何故現地に行っているのだろう?

その後、ジジイから引き出せたネタは、結局一つだけだった。
それもくだらないクイズ付き。
しかもおいらが正解した訳ではない。

「教えてくださいよ。ベトナムの何処で出たんです?」
「ワシの口からは言えん。呪われとる、嫌な場所じゃ」
「その変わり、クイズを出しちゃる。当ててみい」
そう言って、横に置いていた店の味噌の容器を逆さにして、ドンとカウンターの上に置いた。
「ほれ、読んでみ」
「はぁ…味噌の反対…醤油じゃなくて、塩でもなくて…、トンコツでもないよな」
「ばかもん。そのまんま読まんかい」
「味噌、噌味、ソミねぇ…ソミ…ソミ…うーむ」

ジイさんはマジにイラついていたのだろう。
そこまで言っておいて、思わずその呪われているという、嫌な場所の名前を、自ら言ってしまった。

あの有名な、虐殺のあった村の名前だった。                    




関連記事