死ぬ程洒落にならない怖い話をあつめてみない?

903 :喪服の貴婦人:2007/03/21(水) 23:58:20 ID:KxU07LWCO
俺の妹は霊感が強い。
とゆうか、そうゆう家系らしい。


俺が16の時だから、妹が中2の時の夏だと思う。
もうすぐ夏休みという時期だった。

勉強が嫌いとゆう理由でDQN高校に通っていた俺は、遅刻しているにも関わらず、
喫茶店で小説を読んでいた。

冷房のよく利いた店内は天国のようで、一歩外に出ればヒートアイランド。
工事現場では、汗を流しながら土方が仕事をしていた。
地獄の釜を開けた様なとはよく言ったもので、
結構な酷暑でTVでも、記録的という言葉を記録的に安売りしていた。

こんなに熱い日は、あらゆる異常が起こりやすいのかも知れない。
アスファルトの熱で歪んだ景色は、現世との境目があやふやになっているのかも。
俺は結局学校をさぼり、バイト先のファミレスへ向かった。

おばはん達の濁声の苦情に苦笑いを返しつつ、苦行を乗り越えた体で家路につく。

駅前を通ると、噴水に黒ずくめの女の人が腰掛けていた。
多分喪服だと思う。キリスト方面の。顔が隠れるベール付きの帽子とドレス。
外人さんかな、と思いながら見ていると、目が合った気がした。
慌てて会釈をして通り過ぎた。
視界の端で、上品に微笑み会釈を返す黒い貴婦人の姿を見た気がする。





904 :喪服の貴婦人:2007/03/22(木) 00:01:24 ID:z8xRvYYwO
家に帰ると、なぜか妹が玄関に立っていた。
妹はため息をつき、リビングへ消えた。


その日夢を見た。
よく覚えてる。雷の鳴る豪雨の中を、俺は必死に駆けていた。
青白い手が俺を追いかけてくる。
俺は必死に逃げ、見知らぬ教会に逃げ込む。
なぜかもう大丈夫だと思いこんだ俺は、罰当たりにも煙草をくわえた。
お気に入りのジッポライターに火を灯すと、同時に稲光が走った。
一瞬の稲光が何かを照らす。
「うわあああ!」
俺は悲鳴を上げた。立っていた影に。
血の気の無いような色白の肌。
腰当たりまであるブロンドヘアーの下で、真っ赤な唇が清楚につり上がった。
歓喜の形に弧を描き、大きく開いた唇が視界を埋め尽くす。


そこで俺は目を覚ました。
寝汗がひどく、着ていたタンクトップが絞れそうなくらい濡れていた。


次の日もやはり学校をさぼり、喫茶店で本を読みバイトへ向かう。

バイトが終わり帰る途中、近所の女と会った。
こいつは同い年で近くのケーキ屋でバイトしていた。
一緒に帰ることになり、他愛もない会話をしながら歩いていると、駅前の噴水を通りかかった。

昨日と同じ位置に、同じ格好で座っていた。
喪服だからか、このクソ暑いのに長袖だった。



905:黒い貴婦人:2007/03/22(木) 00:05:37 ID:KxU07LWCO
やはり目が合って、会釈をすると微笑みと会釈が返された。
俺は何となくいい気分で家に帰った。愚かにも。


家へ帰ると、妹がリビングのソファーで横になっていた。
足下には飼い犬三匹が眠っていた。
うちは両親とも共働きで、夕飯は俺が作ることになっていた。
しかしその日は珍しく、妹が夕飯の用意をしたらしい。
テーブルの上にはすでにカレーが置かれていた。

「珍しいな。遅くなって悪かったな」と言うと、妹はテレビのリモコンをいじりながら言った。
「お兄ちゃんさあ、あんまり知らない人に関わらない方がいいかもよ」
そのときは意味が分からなかった。
妹が意味分からないのはいつもの事なので、聞き流していた。


やはり俺は学校をさぼり、喫茶店で三島由紀夫を読んでいた。
七時の閉店時間までコーヒーと軽食で粘り、外へ出ると辺りは薄暗くなっていた。
ポツポツと雨が降り出した。
ほんの小雨だった。喫茶店に置いていかれた傘を借り、家路を急ぐ。

駅前の噴水を通りかかると、昨日と同じように喪服の女性が座っていた。雨に打たれながら。
俺は立ち止まり、女性の上に傘をかざした。

女性がベールに隠された顔を上げる。
アップにした後れ毛がブロンドで、やはり外国の人だったかと思った。



906 :黒い貴婦人:2007/03/22(木) 00:07:32 ID:z8xRvYYwO
「濡れますよ」
俺が言うと、女性はベールに隠された顔で穏やかに笑った。
「優しいのね」
たぶんそんなことを言ったんだと思う。
「雨の中、何をしてらっしゃるんですか」
「人を待ってるの。でも、その人は来ることは無い」
正直なところ、ブロンドの喪服の年上女性と、一夏の恋を期待していたのは否定出来ない。
「もうあの人に、お別れを言うべき時期なのかも知れないわね」
女性は立ち上がると、傘を持った俺の手をそっと握った。冷たかった。

「あなたはこの町の人かしら?」
「はい」
「○○墓地へ行きたいの」
彼女は大きな外人墓地の名を告げた。



907:黒い貴婦人:2007/03/22(木) 00:08:37 ID:z8xRvYYwO
次第に強さを増す雨の中を、俺は外人墓地へ向けて歩いていた。
少し遠回りになるが、家と方角は同じだ。
走れば十分ほどの霊園の一角に、その外人墓地はある。
傘を彼女に渡し、俺は雨に打たれながら歩いた。

夏とはいえ、夜も深さを増し、雨も降っている。
まばらにしかない街灯が、やけに頼り無く見えた。

「あなたはこの辺りの人かしら?」
「ええ。歩いても近いですね。墓地からも遠く無いです。あっ、見えましたね」
俺が指さす方向に、大きな外人墓地が見えた。
映画で見るような石版の墓が、規則正しく並んでいる。

「ここです」
俺は言いながら、スケベ心もあり彼女の顔を盗み見た。
顔に掛けられたベールは思いのほか厚いのか、街灯の真下でも
彼女の鼻先から上を見る事は出来なかった。
顎のラインや輪郭、鼻の形なんかは、外人さんだけあってかなり整ってた。
相当美人なんだろーなと予測。
「ありがとう」
彼女はそれだけ言うと、傘を俺の手に返した。
「風邪を引いてしまうわ。今日はありがとう。こんな町にも、あなたみたいな優しい人がいたのね」

実は下心ありありだったなんて言える筈もない。
この時点で俺は彼女に好感を持っていた。
落ち着いた物腰や涼しげな雰囲気。
なにより美人。



908 :黒い貴婦人:2007/03/22(木) 00:09:43 ID:z8xRvYYwO
しかもスタイル抜群のパツキンの貴婦人。
(と言っても、三十路には差し掛かってないと思う。外人は老けて見えるから、案外20代前半かも)
雨の中の出会い。ロマンティックじゃないか。
正直なところ、淡い恋心のようなものもほのかに抱き始めていた。
俺は健全な高校生で、DQN高校で馬鹿だった。



909 :黒い貴婦人:2007/03/22(木) 00:11:57 ID:z8xRvYYwO
彼女は雨に濡れながら、墓地へ続く階段に足をかけた。
意を決して彼女の横に並ぶ。
傘を彼女の上に。彼女はびっくりした様に俺を見上げた。

「危ないから、墓参りが終わるまで付き合います」
俺が言うと彼女は驚き、少ししてから微笑んだ。KOされそうな微笑みだった。

「本当に…優しいのね」
彼女はそう言うと、傘を持つ俺の手の上に両手を重ねた。
雨に濡れたその手は冷たかった。
別に優しい訳じゃなく、あくまで下心有りだったのに。

俺と彼女は密着したまましばらく歩いた。

彼女は俺に身を預けるように密着している。
舞い上がりきった俺は、彼女の話もほとんど右から左に抜けていた。
「この町にいい思い出なんか無かった」
そんなことを言ってた気がする。


しばらく歩き、彼女は目的の墓の前で止まった。
周りに比べると比較的新しい墓の様だ。
でも墓石なんてそうそう風化するもんじゃないから、周りの墓が古いだけなのかも知れない。
彼女は石版の上に花を一輪乗せると、多分名前が掘ってある部分を指でなぞり、言った。
「なにひとつ幸せな記憶も無く死んでいった人は、なんの為に生まれてくるのかしら」
俺は何も言えず、阿呆のようにただ立ちつくしていた。



910 :黒い貴婦人:2007/03/22(木) 00:13:06 ID:z8xRvYYwO
「今日は優しくしてくれてありがとう」
墓地の入り口前で、彼女は俺の傘を握り言った。
「こんなに優しくして貰えたのは初めて。あなたのことは忘れないわ」

傘は彼女にあげた。
家は走れば近いし、雨も止みそうだった。

別れてから坂道を少し歩くと、携帯の着信音が鳴った。
坂の下の墓地を振り返ると、彼女は街灯の下で微動だにせずに俺を見送っていた。

妹からのメールだった。
遅くなっちまったから怒ってるだろーな。
メールを開いた。
『走って帰れ』
命令メールだった。腹を空かしているのだろう。続いてまた妹からメールがきた。
なんだ?お使いかな?
『絶対に振り返っちゃだめ』

耳のすぐ後ろで衣擦れの音が聞こえ、かすかに香水が香った。
全身の毛穴が開き、パニックとともに冷たい汗が噴き出した。



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