【閲覧注意】

1985年。全国規模の悪徳商法詐欺事件が明るみになった。
世にいう「豊田商事事件」であり、被害総額は2000億円近く。
これは2016年現在であっても、最大の被害額である。

この事件の大きな特徴は、被害者の大半が高齢者であったこと。
特にターゲットにされていたのが、1人暮らしの老人であった。
被害者は数万人に及び、その結果として老後の蓄えを喪失した被害者が続出、社会的混乱を引き起こす。
(その影響の大きさは、この事件の後にはクーリングオフ制度が導入され法律が改正される程)

社会問題とまで発展したこの詐欺事件であったが、この会社そのものは巨大な組織力を持ち、広告やCMなどのマスコミをうまく活用していたため「豊田商事」の知名度は高く、結果として被害が拡大する。

また、事件発覚後はマスコミが連日現場に押し寄せ、取材合戦となった。
さらには豊田商事の会長が各マスコミの目の前で惨殺され、その様子がそのままテレビでライブ中継されるという前代未聞の惨事まで引き起こした。


【閲覧注意】



この日、豊田商事会長の逮捕の情報がありマスコミは会長宅へと集まっていた。
驚くべきことに、刺殺犯人らはマスコミのカメラを前に堂々と殺害予告を述べている。
くわえタバコで取材を受ける犯人は、飄々としてまるでスター気取りのように見える。
さらには、会長宅に押し入り、惨殺し、返り血塗れの姿もカメラは納めており、瀕死の被害者(会長)の様子を競って映そうとするマスコミの様子もそのまま放映された。

この映像は衝撃映像として強く人々の心に残ることとなる。
マスコミの姿勢にも批判が集まったが、それ以上に人々がこの詐欺事件に注目し関心が高かったといえる。
当時の豊田商事に対する世論の怒りは相当なものであった。


【豊田商事事件とは】
・前身は「大阪豊田株式会社」。私設の市場で先物取引を扱っていた会社である。
1982年に「豊田商事」へと改名し、徐々に被害告発が増えてゆく。
1985年には、国民生活センターに豊田商事関連の110番が設置されるほど。
驚くことに、巨額の資金を集めていたにも関わらずこの会社の資金は自転車操業状態であり、次々とターゲットから契約(金)を集めなければ運営すら難しい状態であったらしい。

同年4月、関連会社の者が逮捕され、本格的な捜査が開始された。
6月には会社運営が完全に行き詰っていたとみられる。
永野一男豊田商事会長の刺殺事件が起きたのは6月18日。


⁂前提として。実は80年代当時は、全国的に純金の取引ブーム現象が起きていた。
1981年は国内金輸入量は史上最高を記録。私設の先物取引き市場も多く横行していた。

「豊田商事」の画像検索結果

その手口は「ペーパー商法」と称されるもので、金の地金の購入契約をめぐって展開されるものだった。
曰く、金の価値は不変なものであるとして金の購入を持ちかける。
(景気に左右されない安定した資産として)
しかし、購入者(被害者)には代金と引き換えに「純金ファミリー契約証券」という書類のみが手渡され、実際には金の現物を手にすることも、確認することさえできなかった。


⁂実際には、豊田商事の各営業拠点には見せ金として金の延べ棒が積まれていたとう。
被害者らの信用を得るためだったと思われるが、後にそれらは全て贋物であったことが判明。


その手口は実に巧妙で、孤独な独り暮らしの老人をターゲットにとことん親身に親切に接し、信用を得て、その後人情につけこみ契約を結ばせる
被害者老人の中には、「親切にしてもらったのだから」と、騙されたと信じない者も多かったという。


⁂身内の者が異変に気がついても、肝心の被害者が被害を認めないため犯行が表面化しにくいこのやり方は、現在でも多くの事件で同じように繰り返され行われている。


また、契約しない老人に対しては強硬な手段で迫り、強制的に契約させ、購入資金を無理に引きだす事も繰り返し行われていた。
「葬式代まで毟り取れ」永野会長の言葉である。
実際、老後の蓄えをほとんど失くし、自殺に追い込まれた老人も少なくない。

メディアへの露出も多く、テレビCMを多く放映し、主催イベントにも芸能人らを多く起用した。
他の有名企業のブランド名も多く悪用しており、「豊田商事」の名もトヨタ自動車との系列関係を錯覚させるためにつけられたにすぎない。
この企業グループは他にも系列会社を設立しており、それらのうちの1つ「鹿島商事」も鹿島建設の系列会社を装っていた。
「ベルギーダイヤモンド」はダイヤを使った詐欺集団であったが、実際にベルギー大使館から発行される文章をそのまま無断で使用している。


⁂あまりにも巨大化した組織であるため、逆に詐欺集団とは思われにくかった点が指摘されている。
利用された芸能人もまた騙されていた可能性が高い。
その後悪名が知れ渡るにしたがって、今度は似たような名前の企業が風評被害に晒されるなど、どこまでも周囲にトラブルを与え続けた。その被害額は計り知れない。

「中坊公平 豊田...」の画像検索結果

現実的には巨大詐欺事件であるにも関わらず「悪徳商法」と称されたのは、人々の勘違いをうまく利用してのらりくらりと切り抜け続けていた成果と思われる。
前述のように私設先物取引市場も横行していたため、他の市場会社でも取引に失敗し巨額な損失を受ける者も多く問題化していた。
その中でも、豊田商事関連に関しては国民生活センターに専用部署が設けられるほど悲惨な被害が後を絶たなかったが、刑事事件としてはなかなか発展しづらい状況が巧みに作り出されていた。


余談ではあるが豊田商事が破産宣告を受けたのは同年7月1日。
永野一男会長の死よりわずか半月後である。
破産管財人を中坊公平弁護士が務めた。

「中坊公平 豊田...」の画像検索結果
⁂彼らの人気も相当なものであり、後に番組にとりあげられた。

豊田商事企業そのものは多くの金を集金していたが、実際には内情はすでに破産状態であり、資産はほとんど残っていなかったという。
従業員の給料(支店長クラスで基本給90〜140万+役職手当90万+α)、会社運営資金の他、残りの売り上げの半分が永野会長個人の先物取引の損失や事業の失敗に消えており、永野会長自身も殺害された時の所持金はわずか711円であった。

しかし、中坊公平弁護士率いるチームにより徹底した金の回収が行われ、被害者救済に当てられた。
その金額は総額100億円を超える
だが彼らに対する妨害行為も多々発生し、1部の暴力団や金融機関により回収した金の奪取事件、建物の占有行為事件なども起こっている。

尚、この回収チームの事務を務めた人物に坂本堤弁護士がいる。
(坂本弁護士は後にオウム真理教により殺害された。)

事件 「坂本堤弁護士一家殺害事件」


【豊田商事の系列会社 一部】
被害の大きさとともに、当時の様子をわかりやすくするために、ざっと並べてみる。

鹿島商事
・純金の取引をゴルフ場会員権に変えたもの。会員権に価値は全く無し。

ベルギーダイヤモンド
・国内の屑ダイヤを恒久資産になるとして販売。マルチ商法。睡眠商法も悪用。
ベルギーの大使館が発行する公式挨拶文の流用。
その被害額は豊田商事本社と並ぶ。

白道グループ
・グループの統括団体。宗教団体を目指していたという話がある。

銀河計画
・詳細不明。

海外タイムス
・新聞の発行が主な事業。

公共施設地図空港
・航空会社

公営競技施設株式会社
・競輪の場外車券発売所の賃貸、投票権の販売代行。実現できず。

他にもいくつかの団体があったと思われるが、潰れたものも多く全体像は不明。

海外にも進出する予定もあったが、いずれも頓挫している。
・インドネシア海軍の機材納入企業
・ハイチ共和国国軍のための被服工場
・オーストラリア・沖縄を対象とした総合レジャークラブ(名称・太陽商事) など


信じ難いことに、これらのグループが巨大化していった運営資産は、全て詐欺行為により集められたものであった。
あくまでグループ側は、破産は企業経営の失敗によるもので詐欺行為ではなかったと説明。
悪徳商法とされたものも、運営指針によるもので犯罪行為を示唆したものではないと主張し続けた。

「豊田商事」の画像検索結果

しかし全国的に被害が高まるにつれ、世論が厳しくなってゆくのは流れとしては当然であり、警察の介入捜査が始まるのも時間の問題となる。

そのような中、豊田商事会長永野一男の逮捕が6月18日に行われるとの情報があり、各マスコミはこぞってマンションの会長宅前に待機しライブ中継を行う。
刺殺事件はその最中の出来事であった。

関連記事
【閲覧注意】事件「豊田商事永野会長殺人事件」 1
【閲覧注意】事件「豊田商事永野会長殺人事件」 2