だが、日本の特撮技術が世間を圧巻した時代もあった。
今の感覚からすれば拙い映像のように感じるかもしれないが、当時は日本の特撮技術は世界に引けを取らぬほど先端をゆくものでもあり、日本の独特のストーリー感覚から生まれる物語は、現在でも海外にすらファンを持つ。
「大魔神」シリーズは、1966~1969年に製作された大映映画会社(現・KODOKAWA )が手掛けた特撮時代劇3部作であり、大魔神とは物語中に登場する守護神を指す。
1作目「大魔神」2作目「大魔神怒る」3作目「大魔神逆襲」ともに、ストーリーは至ってシンプル。
古代信仰の象徴であった武人の石像が、人々の願いとともにその怒りを爆発させ、神罰を与えるというもの。
各エピソードは独立しており、同じ石像が登場するというよりは、各地に残る信仰を各々の土地の人々が崇拝しているといった設定を持つ。
しかしそのシンプルさと対照的な重厚で深みのあるリアリティに満ちた時代劇ワールドは、かえって時代や権力に翻弄される人々の願いや必死に生きる様を見事に描き出した。
とはいえ娯楽性の高い作品であり、無表情の武人神が両腕を振ると怒りに満ちた表情に変わるといったパターン性は多くのファンを獲得し、現在でもパロディ的なサブカルチャーを生みだしている。
海外名はそのものズバリ「DAIMAJIN」。
ここでは1作目を取り上げる。
【ストーリー】
・時は戦国時代。
丹波の国には、決して人は登ってはならないという神山があった。
魔神「阿羅羯磨(あらかつま)」が山に封印され、さらに武神が魔神を抑え込んでいるという。
山鳴り(地鳴り)の響くなか、村人達は神の怒りを鎮める為に祭り(儀式)を綿々と行ってきていた。
ある夜、再び地鳴りが響く。
村人達は神を鎮めるために集まり、不安にさいなまれながらも祭りを行う。
その祭りは独特のもので、古代信仰色が強く、巫女・しのぶを中心とした炎の儀式だった。
一方、領主の花房家では幼い息子と姫が怯えていた。父親である領主は、村人の不安を取り除くために祭りへと使いを走らせる。
しかし、その夜は花房家最後の夜でもあった。
家老・大館左馬之助は下剋上を企んでおり、既に多くの家臣が左馬之助に寝返っていた。
花房家の者は次々と惨殺されてゆき、わずかに残っ花房家臣らも、幼い兄弟・忠文と小笹を忠臣・小源太に託して囮となる。「生き延びたら、10年後に会おう」と約束して。
小源太は、魔神の巫女しのぶの甥にあたる。
花房の生き残りの兄弟を抱え、必死に国超えを図るも包囲網は厚く、仕方なくしのぶは3人を魔神の住む山へと導いた。
・10年後。
野心家の左馬之助は領土を拡げ、領民達は次々と作られる砦の建設に苦役を強いられていた。
左馬之助は人々が団結することを警戒し、魔神の祭りも禁じている。
男達は全員徴収され、村には女と子供しか残らず、作物も満足に育たない。
怪我をした者、病気の者も満足に手当てを受けることもできず、人々は生きる希望を失っていた。
幼い男の子・タケは病気の母のために父親を探しに砦に紛れ込むが、作業の遅れを気にやむ上役は殺してしまえと命じる。老いた祖父の助けをかりてタケは脱出するが、母親は死んでしまった。
タケの父親もまた、病気の仲間を気にかけたことで上役の怒りを買っていた。
さらに、花房家の家臣の生き残りが未だにウロウロと姿を現す。領民達もまた、かつての領主を慕っている。
現領主である左馬之助の怒りは納まらない。
阿羅羯磨が封印される山奥にて、花房の生き残りの兄弟は立派に成長していた。
阿羅羯磨は巨大な武人の石像に封印されており、その石像のすぐ側らにある祭壇の洞穴に暮らしながら、兄弟と小源太、しのぶは密かに御家再興の機を伺っている。
里に偵察に出た小源太は左馬之助らに捕まり、拷問を受けた後、見せしめのために吊るされたという。
助けに行った忠文が見たのは、小源太ではなく、半殺しにされたタケの父親だった。忠文をおびき出すための罠だったのだ。
小源太としのぶの関係は秘密のままだったが、しのぶは巫女の立場から、領民達の苦しみは神の怒りに触れると左馬之助に忠告し、圧政をやめるように嘆願。
しかし、左馬之助は「神罰があるなら見せて見よ」と、しのぶを斬り殺してしまった。
血を吐くような呪いの言葉とともに、魔神の巫女は死ぬ。
領民共が素直に従わないのは、魔神の信仰のせいだ。この世に神などいない。
人々の団結の源となっている信仰を打ち砕くため、左馬之助は神山にあるという神の像の破壊を配下に命じた。
従わねば、自らの身が危うい。
祟りを信じる者、笑い飛ばす者、様々な心中を抱えながら、人々は石像の破壊に向かう。
・神山には、母を亡くしたタケが神に助けを求めて入り込んでいた。
タケを人質に取られ、小笹は仕方なく武人神の元へと左馬之助配下を案内する。
巨大な神の石像に人々は畏れ戦くが、命令通りに破壊せねばならない。
ついに、石像の額に鏨(たがね)が打ちこまれた。深々と刺さるその傷跡からは、鮮血がしたたり落ちた。
人々がパニックに陥るなか、突然地震が起き、地面がぱっくりと開いた。
ゆっくりと、石像の全身があらわになる。
左馬之助の配下の者達は、次々と地割れの中にのみこまれていった。
怒れる神に、小笹は自らの命をかけて兄の助けを乞う。
憤怒の表情を浮かべた魔神は、光となって飛び去った。
・砦の建設現場。
花房家最後の生き残りである忠文と、小源太、そしてタケの父が磔で殺されようとしていた。
花房の殿様が生きていれば、いつかこの圧政は終わる。そう信じていた領民達の希望も打ち砕かれ、左馬之助は勝利に酔う。かつて、放浪していた自分を取り立て、家臣とした花房家を出し抜いて藩を奪った時のように。
だが突然、突風が吹き荒れて天から光が舞い降りた。それは巨大な魔神の姿と化し、ゆっくりと、砦と城を踏み潰しながら歩き出した。
逃げ惑う人々を次々と踏み潰し、魔神はひたすらに左馬之助を追う。
こっそりと忍び込んでいた花房家の残党により、小源太と忠文、タケの父親は助け出された。
ついに追い詰められた左馬之助は、魔神の手により磔にされた。
額に打ちこまれた鏨を引き抜き、魔神は左馬之助の胸に突き刺したのだ。
・神の怒りに村人達は怯えた。
怒れる魔神の歩みは止まらない。全てを破壊し踏み潰してゆく魔神の祟りは領民達にも及びかねない。
再び小笹が身を投げ出した。
人とはどこまで身勝手なものなのだろう、神の祟りを願い、今度は鎮めようとする。
しかし、罪のない領民達を苦しませるわけにはいかない。
自らの命と引き換えに怒りを鎮めてくれるよう懇願し、はらはらと涙を流す。
・ラスト。
魔神は小笹を見ている。
そして、怒りの表情を拭い去ると、もとの無表情な武人の石像に戻り、やがてさらさらとした土に戻ってゆく。
完全に崩れ去った神像は、静かに風の中に消えてゆくのだった。