サイケデリック・奇譚

永遠の日常は非日常。

カテゴリ:非日常への扉 > 百物語

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111 :花梨◆km01tk49hI :2015/02/15(日)01:12:27 ID:I4J ×
第38話 花梨◆km01tk49hI

友人から聞いた話をそのまま書かせていただきます。


俺の母親、中学のとき死んだんだよ。
その後、いつだったか、俺、
反抗期になって父親と喧嘩して家を飛び出したんだ。
何にも考えずに家から離れたくて全力で走ってた。
そんで前見てなかったせいで車道に飛び出しそうになったんだけど、
その時なんかもやもやした変な物体が目の前を横切ってった。
びっくりして止まったら真ん前をトラックが走っていって呆然としてた。
今思えばあれ母ちゃんだったのかなあ?


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108 :薄荷柚子◆CYOadRFefE :2015/02/15(日)01:04:55 ID:wq1 ×
第37話『夜烏』

我が家では「夜烏が鳴くと良くない事が起こる」と言い伝えられている。
夜烏とは読んで字の如く「夜に鳴く烏」の事だが、
不吉の前兆の夜烏は、真夜中に一声だけ鳴くという。


私の伯父は昔、夜烏を聞いた。

夜中にトイレに起きた時、家の中にもかかわらずはっきりと「カァー…」と聞こえたのだそうだ。
翌朝その話をすると、伯父の祖母が顔色を変えた。
「少しの間、外出は控えなさい」
祖母は真剣そのもので、とにかく外に出るなと言う。
伯父は言い伝えなど信じていなかったし、会社員がそんな理由で休む訳にもいかない。
ただ、幸か不幸か連休初日だった為、休みの間は出かけないという事で祖母に納得してもらった。

何事も無いまま迎えた連休最終日、伯父の学生時代の友人A、Bが遊びに来た。
たまたま近くまで来たので寄ったのだと言う。
暇を持て余していた伯父は大喜びだったが、祖母は良い顔をしない。
「物忌み中に人と会うものじゃないよ」

伯父は祖母の言葉を無視して友人達を招き入れ、夕食を共にし大いに語らった。
上機嫌で二人が帰った数時間後、伯父に電話があった。
先ほどまで一緒にいた友人Bからだ。

「Aが死んだ」

伯父の家を後にし二人で帰る途中、Aは車に飛び込んだのだそうだ。
伯父は突然の訃報に戸惑いながらも、最期に自分に会いに来てくれたんだな…と涙した。

だが、それは違うとBは言う。
伯父の所に行こうと言い出したのはBなのだそうだ。
その上自殺ではないとも言う。
その根拠は、AとBは卒業後も頻繁に会っていたのだが、
Aは仕事も家庭も順調で、死ぬほどの悩みがある様には見えなかった事。
そしてAが車に飛び込んだ時の状況だ。

 

109 :薄荷柚子◆CYOadRFefE :2015/02/15(日)01:07:01 ID:wq1 ×

AとBは駅に向かい、夜道を歩いていた。
会社での失敗談で盛り上がり、二人で大笑いしたそうだ。
それはAが話している時の事。

「そうしたら課長が書類をわs

そのまま車に飛び込んだ。
話の区切りどころか単語の途中で、Aは車に突っ込んで行った。
その変貌ぶりがあまりに唐突で、Aの意志とは思えなかった、とBは語る。

「何か…病気とかの発作だったんじゃないか?」
そう疑問を投げかけても、Aは病気なんかしていなかった、とにかく自殺ではないと主張するB。
伯父は少し落ち着く様に促して、電話を切った。

友人の不可思議な最期。
受け入れる事が出来ず呆然としていると、祖母がどうしたのか、と声をかけてきた。
Aの事を聞いた祖母は沈痛な面持ちになり

「厄を受けたんだね」

と呟いた。
伯父は冷水を浴びせられた様な寒気を覚えたと言う。


伯父の聞いた夜烏とAさんの死に、因果関係があったのかは分からない。
ただ、伯父はその後40年近くAさんの供養を欠かしていないのだ。

ちなみに伯父の祖母が亡くなった時には、私の母が夜烏を聞いている。


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104 :0202◆7fx3VkTePk :2015/02/15(日)00:57:07 ID:v8H ×
第36話目 0202◆7fx3VkTePk

友人の祖母は半分自給自足をしている田舎暮らしの人のため、
漬物や干し野菜など、保存食をよく作るそうだ。
けれど一つだけ作らないものがある。
それは梅干しだ。
祖母の畑には梅の木があり、毎年それなりに実をつける。
それを使って梅酒は作るのに。

「どうしてお婆ちゃんは梅干しだけ作らないんだろ?」
「昔は作っていたのよ」
ある時ふと漏らした友人の疑問に、彼女の母親は複雑な表情で答えた。
そうしてその理由を教えてくれた。

「お婆ちゃんの梅干しはとてもおいしかったんだけどね。
私が子供の時に、その年作った梅干しが全部カビちゃったことがあったの。
お婆ちゃんは『ああ、また・・・』って苦しそうな顔してね。
上手なお婆ちゃんが失敗するのも珍しいとは思ったんだけど、
その時は、なんのことだろう?っていうくらいだったかな。
それから一か月しないうちに近親者が突然亡くなって。
次の年から梅干し作らなくなって。
理由を聞いたら、悲しそうな顔して笑うだけ。
でもその顔を見た時に、多分前にも梅干しがカビた時に誰か死んだんだって、
子供ながらになんとなく理解したわ」
「生ものだし偶然でしょ?」

友人がそう問いかけると、母親は苦笑して答えた。
「二度あることは三度あるなのか、本当に偶然かどうか確かめるのって、結構勇気がいると思うけど?」



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100 :代理投稿立候補◆YtFiiqjbeo :2015/02/15(日)00:48:47 ID:mJS ×
第35話 葛◆5fF4aBHyEs

まだ小学校に上がる前、一時的に親戚の家に預けられていたことがある
その親戚の家は古い日本家屋で、大人になった今から思えば「趣のある」家なのだが、
小さい頃は妙に暗いし妙に埃っぽいし妙に湿度が高いし、とにかく怖かった
特に、ガラスケースに入った日本人形が怖かった
何故か、ふと視線を向けると必ず目が合うような印象があって、
常に見られているようで気持ちが悪かった


そんなある日、何かの用事で親戚が出掛けることになり、一人で留守番をすることになった
「夕方までには帰ってくるから。おうちの外には出ないようにね」
そう言われて頭を撫でられたのは、確か昼過ぎた辺りだったと思う
ぬいぐるみ、ままごとセット、スケッチブックにクレヨン……一人で遊べるだけの道具はたくさんあった
最初は大人しく落書きして遊んでいたのだが、それも次第に飽きてしまった


『……遊ンデアゲヨウカ……?』
不意に、そんな声が聞こえてきた
不思議に思って見回すと、人形と目が合った
『一緒ニ遊ボウ……?』
退屈していた自分に、その誘いはとても甘美だった
不思議と、怖いとは全く思わなかった。
遊んで貰えることが楽しみで、ガラスケースを持ち上げると、
確かにケースの中に居たハズの人形の姿が、ふっ……と消えた

『コッチ、コッチ』
きょろきょろ見回しながら声の方を向くと、クレヨンの散らばった卓袱台の上に人形が立っていた
ワクワクしながら、そぉっと人形に歩み寄り、掴もうと手を伸ばす。
と、またふっと人形の姿が消えた



101 :代理投稿立候補◆YtFiiqjbeo :2015/02/15(日)00:49:30 ID:mJS ×
『コッチ、コッチ』
今度は天井の梁に腰掛けていた
当然手が届くわけはないので、何か無いか探し回り、箒を手に人形の元へ戻る

『コッチ、コッチ』
折角箒を持ってきたのに、人形はいつの間にか座敷の真ん中に移動していた
今度は逃がさないように、と鼻息も荒く飛びかかる自分の前で、また人形が消える

『コッチダヨ』
からかうように楽しげな人形の声。今度は、箪笥の上に立っている

『コッチ、コッチ』
捕まえようとすると、人形が姿を消す。
欄間から姿を消した人形を探しながら、いつしか追い掛けっこに夢中になっていた


『コッチダヨ』
廊下に居たはずの人形が、いつの間にか縁側の窓の向こう、庭に出ていた
自分もすぐに鍵を開け、庭に出ると、人形が数メートル先のツツジの上に現れる

『コッチコッチー』
ツツジに駆け寄った時には既に、人形は玄関の前の石畳の上に居た
その動きの速さに翻弄されながらも、自分も玄関の前に向かう

『コッチ、コッチ』
玄関前から数メートル先に移動した人形を見据え、
今度こそ、と息巻いて、人形から目を離さないようにしながら慎重に歩を進める



102 :代理投稿立候補◆YtFiiqjbeo :2015/02/15(日)00:50:19 ID:mJS ×
一歩、二歩……飛びかかれるくらいの距離で足を止め、一気に飛びかかる

その瞬間、ぐいっと力強く後ろから襟を引かれた
びっくりする自分の鼻先を、トラックが掠めていく
……いつの間にか、人形は道路に出ていたのだ
気づかないまま飛びかかっていたら、今のトラックに引かれていたハズだ

「コラッ!!何してんの、危ないやろ!!」
自分の襟首を掴んでいたのは、そこの隣に住んでいるおばさんだった
もしかしたら死んでいたかもしれないことに気が付いて、自分は泣き始めた
人形はトラックに引かれ、バラバラになっていた


それから後は、よく覚えていない
人形とのやりとりをおばさんに話したら、
大慌てで親戚が帰ってきて、その日のうちに自分は家に帰された

人形は、既に供養されたらしいと聞いたが、自分は今でもあの人形との出来事を夢に見る

『コッチ、コッチ。コッチダヨ……』



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97 :林檎小娘◆vCMeD/yt12 :2015/02/15(日)00:24:36 ID:jTi ×
第34話目 林檎◆vCMeD/yt1


去年、近くの神社で夏祭りがあった日のこと。
男女数名で近くの神社(夏祭りの場所とは別)に肝試しに行ったときのことです。
そこは曰く付きの、そんなに有名ではない小さな…少し寂れた神社でした。

暗くなってきた7時ごろに残った四人で神社の奥まで行こうという話になり、
一人ずつ行くのは気が引けたので「みんなで行こう」、と提案しました。

神社のお賽銭箱の前まで来て、みんなでお祈り?をして、いざ! と奥に入ろうと向きを変えたとき――。

どこからか、微かにお経が響き始めました。
どこから聞こえているのか、それは一瞬にして理解出来ました。
お賽銭箱のあった社の近く…
奥へと続く道の横に建てられていた小さな小屋。
そこから、微かに人の声のような、
初詣などでよく聞くお経のような声が聞こえていました。



98 :林檎小娘◆vCMeD/yt12 :2015/02/15(日)00:25:03 ID:jTi ×
「ここって、今、誰も居らんのちゃうん・・・?」
隣に居た友人が口を開きました。
その顔は真っ青だったのを、今でも覚えています。
で、臆病な私がその言葉に本気で怖がって、私を筆頭に、入口付近まで急いで戻っていきました。


あとから聞いた話ですが、その神社で昔
同じように肝試しをしに来た男性の一人が行方不明になっていたことを知りました。

お経が聞こえていた場所なんですが、なぜか紙切れが貼ってあったのを妙によく覚えていました。

あれは一体、なんだったのでしょうか。

もしかして、と、私たちが彼の二の舞にならないようになにかが引き止めてくれたのかもしれません。
そうだったら、嬉しいのですが。
もし、私達が奥まで行っていたら……と考えると、今度はカメラとか持って奥に挑戦したいところです。
まあ、一人じゃ絶対行きませんが。




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95 :代理投稿立候補◆YtFiiqjbeo :2015/02/15(日)00:03:29 ID:mJS ×
第33話 代理投稿立候補◆YtFiiqjbeo

友人の話です。
友人が高校生の頃、同級生の女の子が自殺したそうです。
原因は結局不明のまま。受験ストレスで片付けられてしまいました。
するとその子が亡くなった直後から、その子のクラスメート全員に、不幸な出来事が続くようになりました。
重い内容で言うとある者は突然母を亡くし、
またある者は兄弟が「子供同士のおふざけ」の最中に後遺症の残る怪我を負う。
そんな具合でした。

実は自殺した子、クラスメート全員から空気のように扱われ、それを苦にして自殺したそうです。

なぜそんなことが分かるのかというと、彼女の遺書が友人の靴箱に入れられていたから。
彼女、友人に片想いしていたようなんです。
クラスメートへの恨みが込められた遺書の裏側には、
友人への淡い恋心とそれを成就させずに去らなければならないことへの無念、
遺書は絶対に公開せず友人に持っておいてほしい旨が綴られていたそうです。

友人は遺書を公開しようと思ったそうですが、彼女の遺志を尊重しその存在を隠しました。

彼女のクラスメートに起こった出来事は遺書の呪詛や恨み言にそう形であったため、
怖い話と言えば怖い話なのですが、この話を聞くとどこか切ない気持ちになります。


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90 :宵待草@代理投稿◆zGmkUMDv/mqt :2015/02/14(土)23:05:57 ID:nGv(主) ×
第32話  葛◆5fF4aBHyEs


春。
学年が3年に上がった時、同じクラスになった同級生の中に、
1年の時も同じクラスだったエリちゃん(仮名)が居た
といっても自分は最初、それが『エリちゃん』だとは気が付かなかったのだけれど

1年の時のエリちゃんは、黒髪を二つに束ね、泣きぼくろが印象的な眼鏡を掛けた大人しい女の子で
人見知りが激しいのか、話しかけるとドギマギする小動物系の子だった
2年はクラスが別だったからよく知らない
3年になったエリちゃんは、髪は緩くウェーブのかかった濃いめのブラウンになり、
眼鏡はコンタクトに代わり、化粧もバッチリの社交的で明るい女の子に変わっていた

実を言えば1年の時、どこのグループにも属さない余り者同士、
ペアを組む際には必ずお世話になっていたので、
同じクラスと知って密かに「やった!」と思っていたのだけど……
エリちゃんは、2年の時に同じクラスだったという
カナミさん(仮名)たちのグループと親しくなっているらしかった
それにしても、雰囲気が一変したからかな?
エリちゃんを見てると、何か違和感がある
毎回、本当に微かな違和感で、言葉には表現できないのだけれど、
その違和感は砂のように自分の中に積もっていった


エリちゃんとペアを組むことになったのは、文化祭の時だ
各クラスから2名ずつ、文化祭の実行委員を選出するのだけど、
立候補したエリちゃんが、何故か自分を指名してきたのだ


「1年の時は、よくこうして二人でお弁当食べたよね」
打ち合わせをしながら、エリちゃんがお弁当を取り出す
「そうだね」
自分も購買で買ったパンを取り出しながら、拭えない違和感を抱いたままエリちゃんを見る
見た目も性格も変わったけれど、右目のところの泣きぼくろは変わらない。
ちょっと照れ臭そうに笑う仕草も、昔のままだ



91 :宵待草@代理投稿◆zGmkUMDv/mqt :2015/02/14(土)23:06:49 ID:nGv(主) ×

自分でも、何に違和感を覚えているのか解らない
でも、「何かが違う。何かが可笑しい」と確信に近い思いを抱いている
「エリ、ジュース買ってきたよ」
カナミさんが、エリさんにジュースを手渡す
……可笑しいと言えば、カナミさんも様子が可笑しい
3年になるまで同じクラスになったことは無かったが、それでも、同じ学校なのだから、見かけたことはある
もっと派手派手しく、気が強そうな瑞々しい雰囲気だった彼女が、エリちゃんに畏縮してる……?
「ありがとう」
エリちゃんがジュースを受け取ると、カナミさんは妙な笑いを浮かべて
「じゃ、じゃあ……」とそそくさと去っていった
エリちゃんがお弁当を開け、箸を右手で持つ
その瞬間、違和感の正体を理解した
「エリちゃん……右利きだったっけ……?」

そうだ。確かにエリちゃんは左利きだった。
「左利きって天才が多いらしいよ」……そんな会話をしたはずだ
そうだ。そういえば、エリちゃんの泣きぼくろは左目の方にあったはずだ。
「利き手の側なんだね」というやり取りを思い出す
口の中が急速に乾上がるのを感じた
目の前で、こちらの様子など意に介さず、エリちゃんがお弁当を食べている
「……あ……なた、誰……?」
漸くそれだけ言葉を絞り出すと、『エリちゃん』はニヤリと笑った
……それは、かつてのエリちゃんの頃には見なかった笑みだ
「……私は、『なりたい自分』になっただけよ。『自分じゃない、自分』に」
その声は、エリちゃんとは似ても似付かなかった


後で知ったことだが、2年の時、エリちゃんはカナミさんたちのグループに、いじめられていたのだそうだ
その後、何があったのかは知らない
ただハッキリしていることが一つだけある

1年の時、一緒にお弁当を食べたエリちゃんは、もういない



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83 :宵待草@代理投稿◆zGmkUMDv/mqt :2015/02/14(土)22:40:25 ID:nGv(主) ×
第29話  葛◆5fF4aBHyEs


駅前で偶然、顔見知りと出会った
別段親しいわけでもない、『知り合いの知り合い』といった感じなのだけれど、
何かとよく顔を合わせる彼女
たまたま彼女も自分と同じように、待ち合わせまでかなり時間があるということで、
どちらが言い出すともなく駅前の喫茶店で時間を潰すことになった

コーヒーを飲みながら他愛もない話をしていると、ぽつぽつと雨が降り始めた
喫茶店に入る頃から今にも降り出しそうな曇り空だったので、すぐにザアァ……と本降りになる
雨はしばらく止みそうにない
次々と落ちてくる雨粒を見るともなしに見ていると、やがて時間になり、
「そろそろ時間だから……」と席を立ち、会計を済ませる
二人、連れ立って店を出ると、彼女はひょいと店の前に置かれた傘立てから一本の黒い傘を抜いた

驚いたのはこっちだ。
いやいや、アナタ店に入る時傘持ってなかったやん
それを指摘すると、彼女はあっけらかんと言い放つ
「だって、雨降ってるし。濡れるの嫌じゃん。」
「いやいやいや、アナタがその傘取っちゃったら、
傘の本来の持ち主が濡れて歩かなきゃならなくなるじゃない」
彼女の返答に言い様の無い徒労感を覚えるが、彼女もこちらの言い分にムッとしたようだ
「いいじゃん、この傘埃ついてるし。しばらく誰も使ってないみたいだから、私が使って上げるのよ」
いやいやいやいや、そういう問題じゃないだろう
……そう言い掛けたが、ふと気付く
傘は確かに彼女の言う通り、埃っぽかった
この雨の中さしてきたとはとても思えない。
というより、2~3ヶ月と言わず、2~3年放置されたと言われても可笑しくない



84 :宵待草@代理投稿◆zGmkUMDv/mqt :2015/02/14(土)22:41:05 ID:nGv(主) ×

(これってもしかして、『誰も使ってない』んじゃなくて、『誰もが避けて通る一品』なんじゃ……)
それに思い至った時には
既に彼女は「じゃ、私、待ち合わせあるから」
『これ以上の話は不要』とばかりにさっさと身を翻していた
手にはしっかりとあの黒い傘をさして


次に彼女を見かけたのは、2ヶ月後だった
……この2ヶ月間で何があったのだろうか
痩せこけ、目元には『化粧でもこうはいくまい』と思えるほど濃いクマが出来、
目は落ち窪んでいるにも関わらず目だけはギラギラと光っていた
そして、手にはしっかりとあの黒い傘を抱いていた
彼女はこちらに気付くと、ニヤリと笑う
「……アンタも私のこと『可笑しい』って言うの……でもダメよ、この傘はあげないわぁ……」
彼女はそれだけ言うと、雑踏の中をフラフラよたつきながら去っていった

最後に彼女を見たのは、黒い縁取りの白黒の写真の中でだった
奇行を繰り返し、誰も近づかなくなった彼女は、浴室で倒れていたのだという
シャワーを出しっぱなしにし、黒い傘を広げた下で


だがそれ以降、黒い傘を見た者は誰も居ない
晴れているにも関わらず室内でさす程彼女が気に入っていた傘なら、一緒に棺に入れてやろうとしたのに、
ほんの少し目を離したうちに、傘は見当たらなくなったのだという

今でもあの傘は、どこかで引き抜かれるのをひっそりと待っているのかもしれない……

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74 :代理投稿立候補◆YtFiiqjbeo :2015/02/14(土)22:08:33 ID:Vve ×
第26話 葛◆5fF4aBHyEs

久しぶりに幼なじみと再会した
彼とはお互いに「隣家まで1kmとか普通」「遊びに行ける距離に同い年の子が居ない」という
限界集落で育ったので、小学校の頃はよく遊んでいた
中学の時はお互いそこまで親しいわけでなく、
別々の高校に進んでからはぱったりと顔を合わさなくなった
通学に不便だからと高校近くのアパートで一人暮らしを始め、
風の噂に「悪い仲間に入って高校を中退した」と聞いていたのだが……
久しぶりに会った彼は、見違えるほど爽やかな好青年になっていた

立ち話も何だし、自分もちょうど時間があったので、二人して喫茶店に入る
「変わんねーな、お前」
「あんたは変わったねー。てか、暴走族に入って高校中退したって聞いてたんだけど」
単刀直入に話題を振ると、彼は困ったような顔で頷いた
「でも、もうやめたんだけどね」
「何かあったの?」
水を向けると、彼は言いにくそうに口を開いた
「DQN話になるから、不快になったらごめんな。
……オレ、高校やめてから仲間と一緒に毎日のように暴走行為を繰り返してたんだ」
ちょっと口には出せないくらい荒い運転で、他の人の迷惑なんて一切考えなかったらしい



75 :代理投稿立候補◆YtFiiqjbeo :2015/02/14(土)22:09:21 ID:Vve ×

「……で、ある日事故った」
スリップしてガードレールと接触し、倒れ込んだそうだ
幸いにも無傷だったが、無傷だからこそ余計に恥ずかしかったらしい
「仲間は笑ってるし、むしゃくしゃしてガードレールの支柱を蹴飛ばしたんだ」
そうしたら、支柱の向こうに置かれていた、花束を挿した瓶が倒れたそうだ
最初は「悪いことをしてしまった」と後悔した彼だったが、
仲間たちに笑われてついカッとなってしまったらしい
「その花束をグシャグシャに踏み潰したんだ」
「うわぁ……」
正直に引いてしまう自分に、彼も申し訳なさそうな表情を浮かべていた
「……その時は『悪いことするオレカッケー!』ってくらいの気持ちだったんだけど、
その夜から妙な夢を見始めて……」
それは、ランドセルをかるった小学校中学年くらいの女の子の夢
「自分は交差点の近くに居て。女の子がこっちに駆けて来て。
『おはようございます!』って言って手を振りながら通り過ぎていって……」
そこまで言ってから一旦言葉を切り、大きく息を吐いた



76 :代理投稿立候補◆YtFiiqjbeo :2015/02/14(土)22:10:09 ID:Vve ×

「オレは何でか、『そっちに行っちゃ危ない』って知ってるんだよ。
でも、そう言ってあげたいのに声が出なくて動けなくて……」
ほんの数分間の出来事。
それを繰り返し繰り返し、何度も夢に見たのだという
「寝付けなくなってかなり参って、そうなってからやっと反省して、花束を持ってお参りに行った」
その日から、夢は見なくなったそうだ
「……それ、女の子が化けて出てたってこと?」
「うーん、どうなんだろ。どっちかというと女の子の親とか、『通学見守り隊』のシニアの人とかだと思う。
見ていたのに助けられなかった後悔が強かったから」
「……そっか」
仲間とは離れてしばらく経つが、今でも女の子の月命日にはお参りを欠かさないらしい
そして今は土建屋に就職し、元請けに引き抜かれた、と彼は話してくれた

「それにしても、良かった。お前と久しぶりに会えて。オレ、今度から東北行くんだ」
現場主任が復興の応援に行くことになったのだが、その時に彼も誘ってくれたのだと言う
「しばらく帰ってこないと思うけどさ、親からは勘当されてるし、
学は無いけど体力だけなら無駄に有り余ってるし、出来ることを頑張ってくるよ」
そのために、女の子のところにお参りして
「しばらく来れません」と手を合わせて来た帰りに、自分とバッタリ出会ったらしい
「良かったらさ、花束代は送るから、代わりにお参りしてくれないか。
毎月じゃなくて、行ける時で構わないから」

そう言って、彼は発って行った。
あれから2年が経つが、どうやら元気でやっているようだ



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68 :代理投稿立候補◆YtFiiqjbeo :2015/02/14(土)21:47:25 ID:Vve ×
第24話 代理投稿立候補◆YtFiiqjbeo

幼い頃、白くぼんやりと光る球体をよく見ていた。
球体は大抵、私が1人で夕暮れ時の町を眺める時現れた。
目撃する頻度はまちまちで、1週間に1度見える時期もあれば、数ヶ月間姿を見せない時期もあった。
球体は、どこかの家の窓から飛び出し、暮れつつある空のどこかに消えていくのが常であった。
その光景はとても幻想的で、夕暮れ時の町を眺めることは幼い私にとって楽しみな時間だった。


ある時、祖父の家の庭で遊んでいると、
出掛けており留守だった祖父の部屋から、球体が飛び出すのを目撃した。
私は非常に興奮し、急いで家に入ると祖母の元へ走りよって
球体が祖父の部屋から飛び出したことを報告した。
すると祖母は悲しそうな顔をして、
球体のことは祖父に絶対話さないよう私を諭した。
私には何故球体のことを祖父に話してはいけないのか全く検討がつかなかったが、
祖母の言いつけを守り祖父には一切この話をしなかった。


球体をみた数日後、祖父が亡くなった。
就寝中に心臓が止まり、そのまま息を引き取ったらしい。
そして祖父の死以降、私は光る球体を見なくなった。
あの球体は何だったのか、今となっては分からない。
祖母は10年前に亡くなった。
結局球体のことは聞けずしまいのままである。



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