サイケデリック・奇譚

永遠の日常は非日常。

カテゴリ:非日常への扉 > 百物語

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65 :もふ太郎◆YAOzh1h34wV4 :2015/02/14(土)21:37:38 ID:ngi ×
第23話『だるまさんがころんだ』

とある地方都市でのことだ。
K町にかなり勾配のある坂があるのだけれども、そこでちょっとした噂話が広がったことがある。
夕暮れ時になるとその坂の下に、たまに達磨が置かれていることがあるんだそうな。
それに気が付くのは、必ずその道を登ろうとしていて、たった一人でいる時。
ぽつんと道の真ん中に置かれている真っ赤な達磨はどこか寂し気で、
ついつい振り返って見てしまう。

しかし、決して振り返ってはならない。
登りきるまでに3回振り返ると呪われる。


そんな、子供だましの他愛もない噂話だった。
ある事が起きるまでは。


その日、ある青年が夕方に坂の下で達磨が置いてあるのを見つけたそうだ。
青年は地元の人間で、最近流行り始めたその噂を知っていた。
なので、本当に置いてあるのかと驚いたがすぐに馬鹿馬鹿しい気持ちになった。
だもんで、無視してそのまま坂を登っていったのだけれど、
なぜか無性に後ろが気になって仕方がない。

視線。背後から見られている感じがする。
つい、振り返る。
誰も居ない。達磨があるだけ。
再び前を向いて歩きだすとやはり視線を感じるが、振り返ると達磨しかない。
そういえば、もう一回振り返ると呪われるんだっけ。
そこで青年はちょっとした悪戯を思いついた。

このまま後ろ向きで登ったらどうなるんだろう。
青年は達磨を見つめながら、後ろ向きでそろそろと坂を登りだした。
しばらくして坂の途中辺りに差し掛かったころ。
何も起きなくて退屈になった青年が普通に歩こうかと思い始めた時、あることに気が付いた。
距離が、縮まっていない?
坂を登りだして十数メートルは登っている。
なのに、目線に入る達磨の大きさは、最初に振り返った時のままだ。
これだけ離れれば十円玉くらいの大きさに見えていいはずだ。


……違う。
大きくなっている?
3メートル程の道幅の、半分くらいを達磨が占領していた。


66 :もふ太郎◆YAOzh1h34wV4 :2015/02/14(土)21:37:53 ID:ngi ×
まさか、まさか。
速足で、でも視線を外すことが出来ずに後ろ向きのまま登る。
登る。
変わらない。
登る。
変わらない。
いつのまにか達磨の幅は道幅いっぱいに広がり、高さも角にあった電信柱と同じくらいになっていた。
そして。
達磨が動いた。

ずうぅぅぅん。
達磨がジャンプして坂を登って来るのである。
地面に落ちる度鈍く地響きがする。
青年はそれから逃れようと必死で坂を登ったが、
後ろ向きというハンディのままではそうそう早くは進めない。
すぐに追いつかれてしまった。
気が付けば。
達磨は青年の目と鼻の先まで追いついていた。
既に巨大、といっても差支えない程の大きさにまで膨れ上がっている。
そして。
達磨が青年の目の前でジャンプしたかと思うと、そのまま青年の頭上へと落ちて来た。
「ああああああああぁぁぁァァァァアアアアアアアアア!!!!」

巨大な達磨に押しつぶされながら、青年は悲鳴とうめき声の混じり合った声を上げ、気を失った。

青年が再び目を覚ました時には夜になっていた。
辺りは暗く、電燈と周りの家々の明かりだけがぽつぽつと点っている。
しかし、それにしては目の前が暗いことに青年は気が付いた。
やがて思い知る。
辺りが暗いのではなく、自分の目がおかしいのだと。
青年の左目は視力を失っていたのだ。ちょうど、達磨の目が片目しかないように。

その達磨がなんなのかは、誰にもわからない。
もしもあなたが坂道で達磨がぽつんと置かれているところを目にしたときは、決して振り返ってはならない。
青年のように、大事な片目を失いたくなければ。
でも、あなたがそれでも構わないというのであれば、ぜひ振り返ってみて教えてほしい。
三度振り返ったら、一体何が起きるのかを……。



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59 :代理投稿立候補◆YtFiiqjbeo :2015/02/14(土)21:28:02 ID:Vve ×
第20話 水藤◆IO8bwLPiQ6


父に聞いた話。
当時高校生だった父は下校中、急に後ろから肩を掴まれた。
父がびびりながら振り向くと、血走った目をした30歳前後の女が
「何で私の前を歩くのよ!」と叫んで、唖然とする父を超早足で追い抜いていった。
父は女を見送ったあと、その後ろに着いていくのも怖かったため、
脇道入って少し遠回りをして帰ることにしたらしい。


脇道に入ってしばらくすると、背後から足音がし始めたそうだ。
人通りの少ない道なのに珍しい。
そう思ってちらりと振り返った父は思わず小さな叫び声をあげていた。
父の背中ににピタリとくっつくように、先程の女が立っていたのだ。
女は何かブツブツと呟いていて、とても常人とは思えない様子だったそうだ。
恐怖がピークに達した父は振り向いて女を突き飛ばすと
すぐさま踵を返し、全速力で家まで逃げ帰った。


この話でも十分怖いけれど、一番怖いのは俺がこの話と全く同じ体験をしたってこと。
俺の場合は流石に女を突き飛ばす勇気が出ず
コンビニに逃げ込み振り向くと、いつの間にか女はいなくなっていたのだが。

背後に張り付いた女は終始
「何故前を歩く、お前も突き飛ばすんだろう」って延々と呟いていた。
この発言から考えると、恐らく父の遭遇した女と俺の遭遇した女は同一人物である。


だが、もし同一人物であれば、あの女は40年近く姿形を変えずに存在していることになる。
彼女は一体何者だったのだろうか。


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55 宵待草@代理投稿◆zGmkUMDv/mqt :2015/02/14(土)21:11:23 ID:nGv(主) ×  
第19話 葛◆5fF4aBHyE


「私、呪われてるんですよぉ」
突然こんなことを言われたら、普通は「はあ?」と思うだろう
現に自分も「はあ?」と聞き返した
いくら会社の忘年会の席での無礼講とはいえ、彼女の突拍子もない発言に耳を疑った
他の社員は銘々出来上がっているので、下戸の自分に話し掛けたのだろう。
他に彼女の話を聞いている者はいない
……というか彼女自身、既に出来上がっている気がする。
聞いてもいないのにそんなことを話し始めるあたり、特に

彼女は頬を上気させて、こちらの返答など気にすることなく続けた
「私の家系ね、『地元を離れられない呪い』がかかってるの」
「……はあ。左様(さい)で」
「小学校の修学旅行は、季節外れのインフルエンザに罹って行けなかったの。
中学の時は直前で事故に合って……その時に、おばあちゃんが教えてくれたの」
『うちの家系の女は、地元を離れられない』と言われた彼女は、ひどく反発したのだという

「だって、そんなの納得いかないじゃない?
だから高校は遠方の、全寮制のトコに行こうと思って、すごい勉強したの。
……でも、受験直前にO-157に罹ってさ」
 結局地元の高校に進学した彼女だったが、それでも諦めきれず、
「大学こそはと思って勉強頑張ったわ。あ、ちなみに修学旅行は台風で行けなかったんだけどね。
で、あちこち受験したんだけど……」
結局、入試に行くことさえ出来なかった、と彼女は言う




 56 :宵待草@代理投稿◆zGmkUMDv/mqt :2015/02/14(土)21:12:08 ID:nGv(主) ×

かたや人身事故で電車が止まる。
かと思えば雪が降る。ひったくりにあって切符と受験票の入った鞄ごと紛失する。
受験し直そうとしたら渋滞にはまる
タイミングよく不幸がある。
実家に落雷があって、それどころじゃなくなる
台風と言えば、小学校の時のキャンプも台風で流れたっけ。
思い出しながら、彼女はそうつけ加えた

……一通り話してスッキリしたのか、やっと言葉の止まった彼女に、
「……でも、今は地元を離れてこっちに来てるんですよね?」
そう問うと、彼女は満面の笑みで頷いた

「だって、『娘を生んだら娘に呪いが移る』って解ったから!今、私は自由なの!」

嬉しそうに心底楽しそうに答える彼女に絶句する

「……それはつまり、そのために娘さんを生んで、捨てて来たと……?」
「ヤだ、失礼なこと言わないでよ。
そりゃ娘は可哀相かもしれないけど、ちゃんとお母さんとおばあちゃんが見てくれてるし。
私だって被害者なのよ?」
そうは言いながらも、彼女の表情は『嬉しくて仕方がない』と物語っていた
悪びれず、にこにこと答える彼女に、罪悪感は微塵も見えなかった


あれから数年が経ち、自分はとっくにその会社を辞めていたが、
彼女は今でもその会社で働いているらしい

「今、私は自由なの!」……満面の笑みでそう言った彼女を思い出すたび、つくづく実感する
『生きている人間の方がよっぽど怖い』、と





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50 :宵待草◆zGmkUMDv/mqt :2015/02/14(土)20:51:50 ID:nGv(主) ×
Sから聞いた話。

Sの友人が亡くなった(以下友人Aとする)。病気がわかってからあっという間だったらしい。
同級生であるSに知らせが届いた時にはもう葬儀は終わっていたそうだ。
Aは家族葬だったので、Sや他の同級生たちは弔辞を送ることもできなかった。


そんなことでもやもやしつつ、Sは大学時代の友人たちと連絡を取り合った。
とくにAと仲が良かったBはショックを受けているようだった。
とりあえずSはBを酒の席で慰めることにした。


するとBが、ぽつりぽつりと、こんなことを話し始めた。

ある夜、寝ていると廊下で絶叫のような大きな声がして目が覚めた。
ドアを開けてみると見知らぬ女が座り込んで手で顔を覆って泣いている。
その日は眠れなかった。


「その後すぐだよ。Aが亡くなったと知ったのは…」
でもそれが初めてのことじゃないんだ、と彼は続けた。

以前も夜中に女の泣き声で目が覚めたことがあった。
「その時はしばらくして、事故で多くの人が亡くなったんだ…」


「今度その女の泣き声が聞こえたら、次に死ぬのは俺かもしれない…」


【了】



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 44 :代理投稿立候補◆YtFiiqjbeo :2015/02/14(土)20:33:02 ID:Vve ×
第15話 葛◆5fF4aBHyEsさん


その女性が店内に入って来たのは、私がちょうど応援でレジに入って居た時だった
「いらっしゃいませー」
レジに並んだお客さんの商品をポスレジで読み取りながら
声を掛けながらふと顔を上げた瞬間、何故か私は手を止め、ぼんやりと彼女を目で追ってしまった
年齢は30代くらいだろうか。
明るめの茶髪に動きやすそうな服装。
肩から淡いピンクのショルダーバッグを提げている

「あ、あの……?」
「あっ、す、すみません」
レジに並んだお客さんから声を掛けられ、慌てて我に返る

急いでレジを通しながら、
心は「何であんなに気になったんだろう」という気持ちでいっぱいだった
気になったというより「惹かれる」感じか。
訳もなくつい目で追ってしまう、あの感じ

しばらくしてお客さんが途切れたので、レジから離れて商品棚の整頓に向かうと、
さっきの女性が買い物カゴを手に店内を回っていた
見れば見るほど「何故気になるのか解らない」。
にも関わらず、気付けば視線はそちらを向いてしまう
彼女はこちらの様子に気付くことなく、棚を移動していった
(うーん……)

「……どうかした?」
首を傾げる私に、店長が声を掛けてくる
他の店員たちも私の様子が気になっていたようで、「万引きとか?」と聞いてくる
「万引きではないんだけど……」
聞かれたところで、自分自身でもよく解っていないのだから、答えられるわけがない

その女性は一通り店内を回ってレジへ向かい、精算する
そして女性が店外へ出ようとした瞬間、けたたましく警報器が鳴り始めた。
未精算の商品が通過すると鳴るアラームだ
女性は一瞬顔を引きつらせたが、次の瞬間には身を翻して駆け出していた



 45 :代理投稿立候補◆YtFiiqjbeo :2015/02/14(土)20:34:31 ID:Vve × 2/2

「すみません、お待ちくださいお客様!」
店員に腕を掴まれた女性は、顔を真っ赤にして声を張り上げる
「私は盗ってない!」
「それを確認致しますので奥に……」
押し問答の末、女性は渋々奥へ向かった

……器械の誤検知の場合、
お客さんは戸惑ったり、きょとんとされていることが多い
逃げようとしたということは「そういうことなのかな」と誰しも思っていたのだが……


レジ袋の中の商品に、未精算のものは見当たらない。
ショルダーバッグの中にも未精算の商品は無かった
どうやら「盗っていない」というのは本当だったようだ。……が、ショルダーバッグから
女性のものとは違う免許証や保険証が入った財布が出て来て、別の意味で問題になった

結局彼女は警察に引き渡されて一件落着したのだが、
後日談が一つある


財布から、女性のものとは違う身分証が出てきた時、
何気なくそれを見た私は、
(I原……これ、小学校の時に転校していったI原ちゃんと同じ名前だなあ……)
一番仲良しで、転校で離れ離れになることが我慢できずに
「秘密基地に住んで二人暮らししてやる!」とプチ家出をし、
大騒ぎになった友達だが、時が経つに連れて疎遠になった
免許証の写真を見ても、
昔の面影があるような無いようなといった感じで、
勿論同姓同名の別人だろうと思っていたら
後日、財布を見つけてくれたお礼を述べに、と現れた彼女は、やっぱり幼なじみのI原だった


未だにあの女性が気になったことや、警報器が誤検知で鳴った理由は不明だが、
あれはきっとI原の財布が発したSOSだったんじゃないかと思っている




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41 :代理投稿立候補◆YtFiiqjbeo :2015/02/14(土)20:26:12 ID:Vve ×

箱 ◆1VqmHx3hiI

実体験だから怖いかどうか微妙で、特にオチもないけどせっかくの機会だから投稿する。


僕の実家の天井裏には絶対に開けてはいけない箱がある。
開けてはいけない箱の形状はいたってシンプルだ。
10㎝四方の漆箱、埃をかぶり装飾は何もない。
蓋を固定するために十字に絞められた紐はほぼ朽ちかけていてぼろぼろ。

実はこの間、双子の兄と箱を開けてみたのだが怖いことは何も起こらなかった。
なんだ何もないのかよと思い祖父に箱を開けたことを報告すると、
天井裏を勝手にいじるなと叱られたあとで昔話をされた。
長くなると思うからここらで一旦切る。





42 :代理投稿立候補◆YtFiiqjbeo :2015/02/14(土)20:26:49 ID:Vve ×
祖父の話によれば、
僕らがまだ幼い頃3つ上の従兄弟が箱を開けた後、
「黒くて怖い地を這う女」の幻覚幻聴に苦しめられながらじわじわと弱っていき、亡くなった。
死因はよく分からず、乳幼児によくある突然死的な扱いだったらしい。

箱はすぐ神社に持っていきお焚きあげしてもらおうとしたが、
どうしたわけか燃えずに焼け残り、
なおかつ箱を燃やそうとした神社で不審火が多発したことから我が家に戻された。
それ以降、何度か誤って箱を開けてしまうことがあったが、特に何も起こらない。

だから、とりあえず大事をとり「開けてはいけない」ことにして天井裏に保管しているのだそうだ。

正直この昔話は怖くなかったのだが、
そういえば小さい頃に男の子が真っ黒な女の人につれられて
我が家の廊下を歩いている夢を見て泣いてたな~って思い出して、ちょっと怖くなった。

ちなみにこの夢は兄貴も見ていたらしい。



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34 :代理投稿立候補◆YtFiiqjbeo :2015/02/14(土)20:08:09 ID:Vve ×
葛◆5fF4aBHyEsさん


冬にしては珍しく、篠つくような雨が降りしきる夜更けだった
自分は、国道とは名ばかりの、『酷い道』と書いて酷道と読むような山道を走っていた
深夜0時。
車はエアコンをガンガン入れているのに妙に肌寒い。
外が雪でないのが不思議なくらいだ


片側一車線あるか無いかというような道を走っていると、やがて工事現場の信号が見えた
どうやら、片側交互通行になっているらしい。
前に1台、黒い軽自動車が信号で停止している
リアガラスは黒いフルスモーク。車高低+見るからに威嚇しているようなリアウィング。
あまりお近づきになりたいタイプではない

【落石防止のための、防護柵を設置しています】

見るともなしに看板を見ていると、やがて信号が青に変わる。
……が、前の車はぴくりとも動かない

(おーい、信号変わってますよー)
心の中で呟くが、やっぱり前の車は待てど暮らせど動かない
(クラクション鳴らした方がいいのかなあ……もし、運転中に倒れてるとかだったらどうしよう……)
悩んだ末に車を発進させ、横を通り過ぎながら運転席を覗き込む……
が、暗いせいか人の姿が見えづらい
(やっぱり、倒れてるとかなんだろうか?)
戻って中を見た方がいいのだろうか。
でも、女一人でこんな深夜に車外に出るのは抵抗がある
と、後ろの車が動き始めた
(良かった。ちょっと居眠りしてたとかだけなのかな。……それはそれで危ないけど)
と安堵したのも束の間、
(……近すぎ……)
追い越したから怒ったのだろうか。
後ろの車は見る間に距離を詰めてくる
バックミラーを覗くと、
近過ぎてリアガラスのすぐ向こうにフロントガラスがぴったりくっついているかのようだ



35 :代理投稿立候補◆YtFiiqjbeo :2015/02/14(土)20:09:02 ID:Vve ×

自慢ではないが、こちとらスピード出すのが苦手な超ヘタレゴールド免許だ
幅寄せされても40km出すのがせいぜいで、
一瞬、離合用のスペースが目に止まるが、
(追い越させたいけど……こんな行動する人なら、何するか解らないな……)
警察に電話しようか。
そう思ってちらりと携帯を見る……が、圏外
とにかく人里まで。
山道を抜けてからなら後は何とでもなる。
そう考えながら、山道を下る

やがて道が急に広くなった。峠を降りて、人里が近くなったからだ
100mほどの直線の後、急カーブになる。
何度か通ったことがあるので、道は覚えている
これだけ車間距離を詰められたらブレーキを踏んだ弾みに追突されそうで怖かったが、
かといってスピードを出したままで曲がれるとは思えない
カーブの手前で減速した瞬間、
「!?」
ふっ……と後ろの車がかき消えた。
というより、何かが追い抜いていったような感触。車の中の空気がふわりと揺れる
追い抜きざま、小さく「チッ」と男の声で舌打ちが聞こえた気がした
次の瞬間には、車の姿は消えていた
(事故って視界から消えた?……ってわけでも無いな。ガードレールにぶつかった音がしなかった)

一応警察に通報すべきだろうか。
でももし万が一、本当に事故だったら…?
恐る恐る窓を開けた自分の目の前には、一部だけ不自然に新しいガードレールと、
枯れた花束が雨に打たれていた




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28 :宵待草@代理投稿◆zGmkUMDv/mqt :2015/02/14(土)19:54:58 ID:nGv(主) ×
「お久しぶり」 葛◆5fF4aBHyEs


「お久しぶりです!」
唐突に掛けられた声に振り向いたが、後ろに立っていたのは全く知らない男性だった
……ああ、自分が呼び止められたわけじゃなかったのか。
勘違いして恥ずかしいな
そう思って足早にその場を立ち去ろうとすると、
「ちょ、ちょっと!××さん!」
……慌てた声で、呼ばれた名前は自分の名前だった

えぇ?確かに自分は人の顔覚えるのは苦手だけど……
訝しげな自分に、その男性も首を傾げ、
「もしかして、オレのこと忘れてます?○○って言うんですけど……」
聞き覚えの無い名前。
顔を覚えるのは苦手でも、一度聞いた名前はそうそう忘れないハズなんだけどなあ

「えっ、えっ、だって3ヶ月前に会ったじゃないですか。
仕事の席で……△△って場所で……オレは上司の□□さんと一緒で、そちらは◇◇さんと一緒だったでしょ」
◇◇は確かに自分の上司だけど、そもそも一緒に仕事したことは無かったような……?

でもやけにリアルな説明だった。
時間は何時で、天気はこんな感じだったとまで言い募る様子は、嘘に見えない
記憶になくても容易に想像がつく説明に、次第に自分でも
「そんなことがあったのかな」と言う気になってくる
でも、どうしても思い出せない
「うーん……すみません……」
知ったかぶって話を合わせようかとも思ったが、
結局頭を下げた自分に、男性はうなだれながら去っていった


その男性と再会したのは3ヶ月後
仕事の件で、向こうは□□さんという上司と一緒で、
自分は上司の◇◇と一緒で、△△という場所での話だった




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26宵待草@◆zGmkUMDv/mqt :2015/02/14(土)19:40:14 ID:nGv(主) ×
大学の先輩の話。

夜の実験室にこもるのってあまり良い気分じゃないんだよね。
その日はどうやら私だけが来ていたようで、朝から夕方まで誰にも会わなかった。
窓の外が薄暗くなった頃だったかな。
後ろの方でドアが開く気配がしたの。

コツ、コツ、コツ…

と靴音がして、
私と同じように実験しに誰か来たんだなーと思った。
「お疲れさまです」と振り返らずに声をかけたんだけど、返事がない。
その時はまだ変だとは思ってなかったんだけど。
しばらくしてまた

コツ、コツ、コツ…

と靴音がしたので、さっき来た人が帰るんだなと思った。
振り返ったら、白衣の後ろ姿が見えて、ちょうどドアからその人が出ていく所だった。
それで、一緒に帰ろうと声をかけるためにドアを開けたら、もう誰もいなかったんだよね…。

とにかくびっくりして急いで家に帰ったわ。

結局、あの日私以外に実験室を使った人はいなかったみたい。
後でよくよく考えてみたら、あの靴音もおかしかったんだよね。
実験室に入るのには靴を履きかえないといけないからあんなに響く訳ないし。
あの時間に外部から人が来たとも思えないし…。

今は実験する時はカセットテープを大音量でかけることにしたの。

一人で実験するのはまだ怖いんだけどね…。



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21 :代理投稿立候補◆YtFiiqjbeo :2015/02/14(土)18:18:33 ID:Vve
葛◆5fF4aBHyEsさん

祖母は編み物が好きだった。
勿論それは趣味の領域を出ないものだったけれど、私は祖母の作ってくれた服が大好きだった。
祖母が亡くなる前年、私に手袋をくれた。
それはリボン柄が編み込まれたとても可愛らしい手袋で、私は何年もその手袋を使っていた。
何年も使っていると手袋はボロボロになった。
加えて成長期なこともあって、「この手袋は今年で最後かなあ」なんて思っていた。
新しい手袋を買いに出掛けてみるけれど、どれも祖母のものほどしっくり来ない。

そんなある日、その日も手袋をして、私は友達と高台にある公園に遊びに行った。
お城の跡に作られた公園なので、石垣とお堀が未だに残っている。
皆でボール遊びをしていると、ボールがお堀の方へ飛んでいってしまった。
慌てて追いかけると……あった。
良かった、ギリギリお堀に落ちてないみたい。手すりに引っかかってる。
そんなことを思いながら鉄棒の横を通ると、突然ぐいっと右腕が引っ張られた。
「えっ」
驚いて振り向いた私は、もう一度驚いた。

引っ張られたと思ったのは間違いで、私の手がしっかりと鉄棒を握っていたのだ。
「えっ、えっ??」
私は鉄棒を握ろうなんて思っていない。
むしろ握った手を離したいのに、指一本動かせない。自分の手が自分のものじゃなくなったみたい。
半泣きになりながら左手で指を引き剥がそうとしたその時だった、
グラッ……と地面が揺れて、私はその場にへたり込んだ。

今思えば震度4くらいだったと思うのだが、
滅多に揺れたことが無い地域だっただけに、辺りがにわかに騒がしくなった。
いつの間にか、右手は鉄棒から離れていた。
ボールは揺れたからかお堀の方に落ちていったようだ。
もし、ボールを拾いに行っていたら、弾みで落ちていたかもしれない。

「きっとばあちゃんが守ってくれたんだよ」
帰って両親に話すと、父がそう言ってくれた。

その手袋はもう小さくなって手は入らないけれど、今も私の机の上に飾ってある。



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