サイケデリック・奇譚

永遠の日常は非日常。

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百物語2015


270 : わらび餅◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:06:40.87 ID:AgCPeYID0.net
【78話】Big ◆iq3nGde8rU 様 
 

このような濃霧の中では、何かがくるとも言われます。
何か・・・とは、前の話のようにキツネやタヌキなのかもしれませんし、あるいは
人や獣どころか、この世のものではないかもしれません。

やはり猟をしていた5人組が、山中で濃霧に遭遇し、前の者の腰をつかんで、
そろそろとムカデ歩きをしていたときのことです。
最後尾の男が、「おやあ、何か来た」と声を出しました。

こういう場合、前に立つリーダーは、「何も来ねえ、気をしっかり持て」と声をかけます。
仮に他の登山者が後ろにいるのだとしても、何もしてやることはできませんし。
お話したように、来たのがこの世のものとはかぎらないからです。
 
「うんだな」
最後の男はつぶやきましたが、またしばらくして、

「何か来た、何か来た」と叫びました。「何かが俺の腰に取りついとる!」と。

リーダーが「何も来てねえ」とまた言い、残りの者も「んだ。何も来てねえぞ」と復唱します。
最後尾の男は黙りましたが、
またしばらくして、
「来たぞ、来てるぞ。女の手だあ。こらあ俺の女房の手だろう」

これを聞いて皆はぞっと背筋が寒くなりました。
男の女房は去年の冬に肺炎で死んだのを知っていたからです。
それもちょうど今頃の時期に。

「〇〇さぁ」
最後尾の男はリーダーの名前を呼びました。




 271 : わらび餅◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:07:24.61 ID:AgCPeYID0.net
「俺、ここに残ってもいいかあ。女房が来てるようだども」
「ダメだあ!」
リーダーが叫び、残りの者も復唱します。

「おめえの女房はもう鬼籍に入っとるだろうに。そら、おおかたメス狐だろうて」
リーダーはそう言うと4人目の男の名を呼び、
「□□が離れねえようにおめえ、手首を引いてやれ」こう指示したのです。

しばらく進むとまた、最後尾の男の声が聞こえて、
「今よう、俺の女房が隣について歩いておる」こんな内容です。

リーダーは
「この霧じゃあ見えるわけがなかろう。そら、この世のもんではねえから」
そしてひときわ声を張り上げて、
「オン アビラウンケンソワカ」と唱えました。
そのあたりの山はいわゆる霊山でもあり、修験者の姿を見かけることも多く、
猟師連中も真言(マントラ)を知っていたのです。

一行はそのまま、
「阿 毘 羅 吽 欠 蘇 婆 訶 」と地水火風空の真言を唱和しながら、ムカデ姿のまま、
ゆっくりとゆっくりと山を下ったのです。

もしもはたから見ることができれば、さぞや異様な光景だったことでしょう。
ともかく、そうしているうちに霧は晴れ、一人の脱落者も出さず戻ることができたそうです。



百物語2015


291 : わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:37:01.92 ID:AgCPeYID0.net
【86話】柚子 ◆jQbx36WU5o1j 様 
 
姉が小学生の時に体験した話です
小5の頃、姉のクラスメイトにYちゃんという子がいました
しかしYちゃんは事故で亡くなってしまったんです

小6になったある時、仲良しグループのMちゃんがこんな事を提案しました

「かごめかごめってあるでしょ?
あれでね鬼がいないままやると霊が出るんだって。
その時に亡くなった人が鬼としていることにしてやると、その亡くなった人が現れるんだって」

「もしYちゃんがいるとしてやったらYちゃんが来るのかな? 」
姉が何気なくそんな事を呟くと
「Yちゃんに会えるのかな?」
「やってみる?」
姉たちはそのかごめかごめをやることになりました

 
その日の昼休み、姉たちは音楽室に行きました
ここなら昼休み中でもあまり人が来ないいため選んだようです
集まった5人は手を繋いで輪になりかごめかごめを始めました

「最初の鬼はYちゃんね」
「誰が後ろにいるかちゃんと当ててね」
5人はあたかもそこにYちゃんがいるかのように声を掛けました

「かーごめかーごめ、かごのなーかのとーりーはーいーついーつでーやーる、
よーあけのばーんに、つるとかめとすべったー
うしろのしょうめんだぁれ?」

 
「ア…ア…ア…」


聞こえてきたうめき声に5人はとっさにそこから駆け出しました

「今の何!?今の何!?」
「さっきのMちゃんでしょ!」
「違う違う」
「ねぇもしさっきの声がYちゃんだったら逃げたのはまずくない。
怖がったりしたらYちゃんが可哀想だよ!」

姉も確かにYちゃんなら逃げるのは酷い行為なのではないかと思ったそうです
音楽室に戻ることになりましたが
そこで昼休み終了のチャイムが鳴ってしまい放課後また来ることにしました




292 : わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:38:06.24 ID:AgCPeYID0.net
放課後姉たちはまたかごめかごめをしました
しかし今度は何も声はしません

「Yちゃんさっきは逃げてごめんね」
「もしYちゃんなら出て来て。もうYちゃんのこと怖がったりしないよ」

みんな謝りましたが何も起こりませんでした

昼休みに聞こえた声はYちゃんだったのか
もしかしたら気づかなかっただけで音楽室に誰かいたのかもしれません
姉たちは帰ることにしました

校門を出て少し離れたところでふと姉は立ち止まり音楽室を見ました
三階の一番端の窓
そこに誰が立っていました
距離があるので顔までは分かりません 
なんとなくYちゃんに似てる気がする

姉は「ねぇあそこ見て」
他のみんなも姉が指す音楽室を見ました
Yちゃんに似てる女の子はこちらに向かって手を振っている
「もしかしたらYちゃんじゃない?」
「本当に会いに来てくれたのかも」

『Yちゃーん』
5人は音楽室に向かって手を振り返しました 
すると突然女の子は真っ黒な影になったかと思うとドロリと溶けるように形をなくし
黒い塊はべちゃりと窓に貼り付いて煙のように消え失せました

姉たちは悲鳴をあげそこから急いで逃げ去りました

果たしてあの黒い影はYちゃんだったのか
それとも別の何かだったのか

姉たちは後日Yちゃんのお墓参りに行き謝ったそうです


百物語2015


166 : わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 00:47:11.00 ID:AgCPeYID0.net
【45話】suu_o◆QfeyGUP37WSw


私の祖父は、私が小学二年に上がる直前に病気で亡くなりました。
突然の変調で入院してしまい、一年近く会わないままの他界でした。

それから半年以上経ったある日。
不意に祖父が思い出されて懐かしくなり、
お墓が近かったこともあって一人でお寺に行ってみることにしました。 
当時両親は忙しく、親しい友達もいなかったので暇だったのだと思います。

しかしお寺には着いたもののお墓の場所が分からず、
途中で生えていた草で遊んだりしたため帰りが遅くなってしまいました。


やっとお寺の敷地から道路に出た頃には日が傾き、見渡す限り人ひとりいません。
そんな時、路側帯の白線の上に綺麗なビー玉が落ちているのが見えたのです。
夕陽に照らされてキラキラと光を反射させる様子は、
子供心を惹き付けるのには十分でした。 
一応左右を見て安全なことを確認し、ビー玉に近づきます。 

拾おうと屈んだ時でした。
いきなりスカートが引っ張られ、私は数歩前に出ていました。
よろよろと進めば、そこは車道です。
あわてて戻ろうとしましたが、スカートにかかる力は強くてびくともしません。
何が起きているのか理解できず、ただただ
「車が来たらはねられちゃう!
はねられたら死んじゃう!」と怯え、涙ぐみました。




167 : わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 00:48:20.98 ID:AgCPeYID0.net
……しかし、いつまで経っても道の奥から車が現れる気配はありません。
(それもそのはず、いま調べてみると曲がり角の先は行き止まりでした)
静寂のなか立ち尽していると、
その何かは痺れを切らしたのか再び強い力で引っ張りだし、私はフラフラと
道の端まで引きずられていきます。
ついには歩道に乗りあげ、助かったのかと思いきや……
目の前には石の階段があり、下方に続いているのです。 

(えっ、やだ落ちる!)
そう直感し、脇の柵にしがみつきましたが7歳の筋力で自重が支えられるわけもなく。
あっさり手は離れ、坂の下へと転落しました。
しかし抵抗したことで、軌道が石段から横の草むらの上に逸れ、
幸運にも肘を擦り剥いたくらいで済みました。

 腰を抜かし、呆然としたのも束の間。いきなり右足首を掴まれる感覚に飛び上がりました。
そればかりか足は勝手に宙に浮き、ずるずると私の体を持っていくのです。
その諦めの悪さから執念じみた殺意が伝わり、言葉を失っていると。 

今度は、左の手首を掴まれました。
見れば空中からガリガリに細くて骨と皮だけの腕が現れ、食い込むほどの力で手首を握ってきたのです。
冷えた指先と骨の固い感触が生々しく、度重なる異常事態に
私はパニックになりました。
正体不明の二つの存在が協力して、自分に危害を加えるとしか考えられなかったからです。

ところが腕は予想とは裏腹に、私をもと来た方向へと引っ張りだしました。
すると足を持つ側も異変に気付いたのでしょう、連れていこうとする力が急に増しました。 
 
両者のあいだで私の体は限界まで伸び切り、膝の関節が捻られ、
手首は圧迫痛に悲鳴をあげ……
ちぎれてしまうのではないかと不安になるほど痛かったです。
 
辛くて苦しい引っ張り合いの末、ふと足元の気配が消えました。
勢い余って地面に投げ出された後は無我夢中で、どうやって帰ったかは覚えていません。
でも、家に着くまで腕の存在感は残っていたように思います。


168 : わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 00:49:17.28 ID:AgCPeYID0.net 
私を助けてくれた手の正体が判明したのは、その十一年後。
祖母の葬儀が終わり、遺品を整理していた時です。
沢山の写真のなかに一枚だけ、入院中の祖父の姿を写したものがありました。 
闘病生活に痩せ細り、顔も別人のようにやつれていましたが、優しい目は思い出と全く同じ。
そして袖口から伸びた腕は非常に細く骨ばっていたものの、
拳はあの日見たように頼もしいものでした。


実はこの話には続きがありまして、
今回百物語を投稿するにあたり地形を確認しに歩いてみたのですが……。 
当時階段の少し先に用水路があり、子供が二人亡くなっているそうです。
一人目の事故が起きたあと、対策として厚い鉄板を被せたのですが、
二人目はそれを外しての溺死と聞きました。
大人でも重くて容易には動かせない板を、小学生がどうやって取ったのかは、
分からずじまいだったとか。

なお、周辺には古くから
「乳飲み子を亡くして狂い死にした母親の幽霊が、健やかに育っている子供を妬んで悪さをする」
という恐怖話がありましたが、
用水路が埋められて以降不幸な出来事は起きていないので関連性は不明です。


百物語2015


281 : わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:22:39.38 ID:AgCPeYID0.net
【82話】雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM
『消された刺青』


知り合いの話。

彼は結婚する以前、風俗に嵌まっていたのだという。
よく利用したのがデリバリー・ヘルスというやつで、彼が言うには
「今思うと、素人っぽい女の子が来るのが良かったんだろうな。 
性的にスレていないっていうか、ちと初心っぽく恥ずかしがるのが」ということだった。
実際にそうなのかは私は知らない。残念ながら知らない。


ある晩に呼んだ女の子が、正にそんな女の子だったらしい。
行為自体に抵抗感はないけれど、マジマジと見られるのは恥ずかしい。
そんな反応に興奮しながらシャワーを浴び、ベッドインした。


イチャイチャしている内、彼女の手首に古傷があることに気がついた。
一瞬、手首を切った痕かとも思ったが、それにしては範囲が広い。
切ったと言うより、手首野辺り一面を引っ掻いて毟ったような傷。

傷痕を凝視していると、彼女の方も見られていることに気がついた様子で、こんなことを説明してきた。

 
「あぁこの傷、別に自殺しようとしたとか、そんなのではないですよ。 
前に若気の至りで、当時付き合ってた彼氏の名前を彫り込んでいたんです。 
彫るっていっても本格的な刺青でなく、自分たちでやったんですけどね。 
彼氏もあたしの名前を自分の腕に刻んでました」


「”若気の至り”って、きみ、まだまだ全然若いんだけど……」
数年前に不惑を越えてしまっている彼は、聞いて少し複雑だったらしい。




282 : わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:24:33.30 ID:AgCPeYID0.net
彼の心中には気がつかず、彼女は喋り続けた。

「この元彼ってヤツが本当に浮気者で。 
何度も何度も泣かされて、結局喧嘩別れしちゃったんですよ。 
もう哀しいやら情けないやらで、別れた夜に思わず、手首の名前をバリバリ毟り上げたんです。 
もう血塗れになっちゃって、やってる時は夢中で感じなかったけど、 
落ち着いてきたら痛くて痛くて……泣いちゃいました」

「皮を毟れば、そりゃ痛いだろうさ」
想像してどうしようもなく顔を顰める彼を気にせず、彼女は更に続ける。
 
「で、夜中に病院行ったりバタバタしてたら、
ヤツのことで悩んでるのが何か急に馬鹿らしくなって。一気に冷めたんです。 
 あー、もうこれで気にせずに済むわ、なんて考えたんですが……」

 
「私が刺青を毟ったその翌日にですね。元彼、死んでたんですよ。ポックリと。 
詳しくは聞いてないんけど、心臓発作か何かだったらしくて。 
思わず、自分の手首を見つめちゃいました。 
……私が彼の名前を消しちゃったから、彼が死んじゃった……? 
落ち着いて考えると、すごく馬鹿馬鹿しい考えだと思うんですけど、 
どうしても連想しちゃうんですよね」


283 : わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:25:46.92 ID:AgCPeYID0.net
話の意外な展開に、彼が口をパクパクしていると、
これまた気にせず彼女はアッケラカンと宣った。

「だから、ちゃんとした整形外科で、この傷消すことに決めたんです。 
死んでからもあたしに気に掛けさせるなんて、本当むかつきますよね! 
もう綺麗さっぱりと消してしまいます」

「……えっと、ひょっとしてこの仕事を始めたのは……」
「勿論、手術代を稼ぐためです!」

頑張ります、と手を握り混む彼女の姿は、それはそれで可愛かったという。

この後、彼は風俗遊びを控えるようになり、
そのまま知己に紹介された女性と結婚をしたそうだ。


百物語2015


300 : 猫虫 ◆5G/PPtnDVU :2015/08/30(日) 04:48:01.58 ID:slHZZ5U50.net

これは高校時代に俺が体験した話だ。

俺の通っていた学校には、1階と2階をつなぐ階段の踊り場に巨大な鏡が設置されていた。
端っこに『昭和○○年度卒業生寄贈』みたいな事が書かれている物だ。
中央昇降口の手前なので、その鏡で身づくろいをしてから下校する生徒が多かった。
かく言う俺も日々利用していたのだが、まさかあんな目に遭うとは思ってもみなかった。


その日、俺は文化祭の仕事で遅くなった上、
「雨ひどくなりそうだし、後は俺がやっとくから帰っていいよ」なんてかっこつけたもんだから、
帰る頃には辺りはもう真っ暗になっていた。
荷物をまとめて階段を下り、いつものように鏡の前で髪を整えていた時の事。
突然、轟音と共に昇降口の方から青白い光が放たれた。
 
落雷だ、と思った瞬間、頼りなげに踊り場を照らしていた蛍光灯の明かりが消え、
辺りは一瞬で暗闇に包まれた。

突然の停電で暗闇に目がついていけず、
夜目がきくようになるまでの間、右も左も上も下も分からないような真の『真っ暗』を体験した。

目が見えない時は不安になるもので、とにかく何か固定されたものに触れたくなり、
俺は鏡に手をついた。
その瞬間、急にめまいを覚えた。
あ、なんかやばい、と思って咄嗟にしゃがみこんだのだが、
まるでそのまま前転するかのようなめまいの感覚に、俺は吐きそうになった。
 
両手と頭を鏡に押しつけてしばらく吐き気をこらえていると、
急にチカチカッと蛍光灯が瞬いて明かりが戻った。
安堵したのと同時にめまいも治まり、吐き気も急激に退いていった。




301 : 猫虫 ◆5G/PPtnDVU :2015/08/30(日) 04:48:52.63 ID:rrgQ+nhr0.net
昇降口を振り返ると、外ではまだ雷が激しく光っており、俺は帰るべきか留まるべきか迷った。
とりあえず親に電話して、あわよくば迎えに来てもらえないかと考え、
俺は公衆電話のある職員用の玄関へ向かう事にした。

が、鏡に背を向けて階段を降りようとした瞬間、妙な違和感を覚えた。
(あれ…下りの階段って、こっち側だったっけ…?) 
上の階から降りてくる時、自分の感覚としては半時計回りに螺旋を描くように降りてくるはずだった。
だが階段を見ると、下りは時計回りだ。

奇妙な感覚のズレ。
だが目の前の階段が紛れもなく時計回りなのだから、違和感は気のせいなのだろう。
 
俺は深く考えない事に決め、階段を降りようと手すりに手を伸ばした…のだが。
俺は何故か利き手ではない左手で無意識に手すりを掴んだ。
(え、なんで左手?)
慌てて手すりから手を離し、自分の左手をまじまじと見つめる。

その時、いつも嵌めているはずの腕時計がない事に気が付いた。
(あっ、やべ!時計なくした!)
思わず右手で左手首を掴んだ、その時。明らかな異変がそこにあった。
時計が、右手の手首に付いている。
混乱する頭が、さらに混乱を招くものに気付く。
文字盤のデジタル表示が、反対向きの鏡文字になっているではないか!


302 : 猫虫 ◆5G/PPtnDVU :2015/08/30(日) 04:49:47.42 ID:rrgQ+nhr0.net
ありえない、と思いながら鏡を振り返ると、左手首に時計を付けた自分と目が合った。
鏡に駆け寄り、バンッと音を立てて両手を叩きつけると、鏡の向こうの自分も全く同じ動きを返した。
ガラス一枚隔てて、正しいはずの俺の姿と真反対になった俺の姿が向かい合う。
「何だよ、これ…戻れ、戻れ戻れ戻れ戻れ、戻ってくれって!!!」
鏡面に頭をこすりつけるようにしながら、俺は叫んだ。


「んぁー?そこにいんの、Iかぁー?」
突如、能天気な声が背後から掛けられ、俺は慌てて振り返った。
階段の下から、去年担任だった先生が訝しげにこちらを見上げていた。
「お前、何やってんだ?もう校舎閉めるぞー?」
「あああ、先生!あの、俺、その、ちょっともうなんかアレなんスよおぉー!」と、
俺は意味不明な事を喚きながら半泣きで先生のもとへと駆け下りた。
「おうおう、どーした、何だ、なんかあったか?フラれたか?」
先生は勢い余ってぶつかってきた俺を受け止めると、幼児にするように背中をぽんぽんと叩いた。 
混乱と安堵と訳の分からない苛立ちがごちゃまぜになり、
俺はただ号泣するしかなかった。

 
泣きじゃくる俺を職員室の応接スペースに連れていくと、
先生は校舎を閉めるために校内の見回りへと出かけた。
ひっくひっくとしゃくりあげながらも、俺の頭は少しずつ冷静さを取り戻していった。
先生は後で話を聞いてやると言ってくれたが、こんな事を話しても気がふれたとしか思われないだろう。
鏡の世界にいる事など証明のしようもないし、
もしかしたら本当に俺の頭がおかしいのかもしれないと自分で思い始めてもいた。


303 :猫虫 ◆5G/PPtnDVU :2015/08/30(日) 04:51:22.53 ID:rrgQ+nhr0.net
全部気のせいなんじゃないかと辺りを見回すが、
壁に貼られたプリントもマグカップの英文も全て違和感だらけの鏡文字。
だが、何故か視線は自然に文頭から文末へと動き、普通に内容は読めた。
その上、ノートとペンを出して試しに自分でも字を書いてみると、
利き手ではない左手でスラスラと自然に鏡文字が書けた。
逆に、もともとの正しい文字を書こうとすると、
脳内で形や向きをひとつひとつ意識しないと書けず、
書き上がった文字を見ると「この字ほんとにこれで合ってるのか?」と
ゲシュタルト崩壊に近い感覚を覚えた。 
左右の手で書き比べたりもしたのだが、今の利き手はどうやら左手のようだった。

 
見回りから戻ってきた先生はノートにひらがなを必死で並べている俺の姿を憐みの目で見つめると、
左ハンドルの日本車で自宅まで送ってくれた。
泣いた理由を車内で尋ねられたが、今は話したくないですと言うと
「まぁ若い頃にはいろいろあるもんだしな」と言って話を終わらせてくれた。


それからしばらくの間、俺は左右反対の世界で過ごした。 
初めのうちは違和感に苛まれ続けたし、なんとか戻れないかと試行錯誤していたのだが、
恐ろしい事にだんだんとこちらの方が正しい世界なんじゃないかと思い始めた。
厳密に言えば、俺がおかしくなっただけで世界は何も変わってはいないんじゃないかという感覚だ。
 
左右反対に道を辿って学校へ行き、左手を使って鏡文字でノートを取る。
そんな生活に慣れ始めたあたりで、「いやいや、やっぱヤバイだろ」と思い直した。


304 : 猫虫 ◆5G/PPtnDVU :2015/08/30(日) 05:01:40.49 ID:slHZZ5U50.net
再び試行錯誤の日々が始まった。
例の鏡と暗闇で向かい合って何かする、といったオーソドックスな事は初期の頃すでに試していたので、
今度は別の方法を考える事にした。
街中で鏡を見かけたら、ひとまず触れてみるのが俺の癖になった。
理由を知らない友達から嘲笑の目を向けられる事も度々だったが、俺は必死だった。

 
鏡に映る自分を見て「ああ、向こうの俺も戻ろうと必死だな…」とか妙な事を思ったり、
「ここにいる俺と鏡に映る俺は今同じ事を考えているのだろうか」などと哲学的な事を考えたりもした。
なんだか本当に頭がおかしくなりそうな日々だった。


そんなある日、俺は風呂の中であれこれ考え事をしているうちにうっかり眠ってしまった。
鼻から水を吸い込んで盛大にむせながら目を覚ますと、頭痛と吐き気に襲われた。
長風呂のせいでのぼせてしまったのだ。
とにかく体を冷まそうと冷水のシャワーを浴び始めたのだが、
立ちくらみが襲ってきて立っていられなくなった。
倒れる!と思って咄嗟に手をついた先は、
運悪く鏡だった。
ビシメキバリッと嫌な音がして、左手の手のひらに激痛が走る。
続いてガチャンパリーンと床でガラスが砕け散る音が続いた。
あ、割っちまった…と焦ったが、今は立ちくらみの方が問題だ。
ずるずる座り込むと壁にもたれてぎゅっと目を瞑り、立ちくらみが治まるのを待った。


305 : 猫虫 ◆5G/PPtnDVU :2015/08/30(日) 05:03:09.37 ID:rrgQ+nhr0.net
そうこうしているうちに浴室のドアが乱暴に開けられ、
「あんた何やってんの!今なんか割ったでしょ!」と母親が押し入ってきた。
年頃の息子の風呂場に入ってくんな!と言いたくて、声のする方へ顔を向けた瞬間、あれっと思った。
さっきまで左側にあったドアが、右側になっている。
手を見ると、血まみれになっているのは右手。
 
「やだ、怪我したの?ちょっとほら、見せて!」と
乱暴に俺の手を掴んだ母親が、俺の手のひらに刺さったままのガラス片を、
母親の本来の正しい利き手である右手でつまみ取っていく。
それを見た瞬間、俺は「かあちゃーん!」と情けない雄叫びを上げて泣き崩れた。
なんだかよく分からないが、とにかく戻ってこれたのだ。

 
帰還の代償として、俺は右手を4針と右ヒザを2針縫った上、
浴室の鏡の交換費用を小遣いから天引きされる羽目になった。
いろんな意味で痛い代償だったが、違和感のない生活を取り戻せた事は素直に嬉しかった。
 
結局、体調が悪い状態で鏡に触れたのが良かったのか、
はたまた割った事が良かったのか、あるいは何か別の条件が揃っていたのか、戻れた理由は分からない。
向こうに行ってしまった理由もまた然りだ。
以来、俺は鏡には不用意に手をつかないよう気を付けている。




百物語2015


312 : わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 05:11:55.22 ID:AgCPeYID0.net
【92話】チッチママ ◆pLru64DMbo

何か怖い体験なーい?と友人に連絡してみたところ
田舎だからくるわくるわで夏だなって感じです 
その中の一つを紹介
 
親が漁師のその子の家は今でも近場の他府県がこっそり禁止されてるのに泳ぎに来ます
でも地元民は近づきません、
だってそこは遺体があがる場所だからです
潮の加減か、海で不明者が出た時はよくそこにあがるんです
近くに極楽とついた供養の寺まである始末
(あ、地元バレたかな?)

友人の実家は漁師の集落で子の名前は霊感のある婆さんにつけて貰います
なんでも守ってもらう為と見逃して貰う為だそうです(何に?)
幼い時から言われていたのは、浜で石を拾うなと、人が亡くなった一週間は魚を食べてはいけない

目の前が浜辺だからよく遊んでいたそうで、
友人の幼い弟はうっかり石を持って帰宅してしまったそうです
両親がそれを見つけ大騒ぎ、同居していた祖母さんが友人と弟を連れて
暗いのに浜辺に戻り、石を返しに行ったそうです

祖母さんがお経をとなえて最後に「
見逃して下さい見逃して下さい」と友人と弟に土下座させて
そして帰宅するなり玄関前で
塩を山ほどかけられたあげくに次の日に近くの寺にお祓いに行ったそうです

友人いわく石を返す時に、石の模様が人の顔に見えたと、
そして石の顔の目がずっと弟を見ていたそうです
兄弟二人は漁師になるのを拒絶して今は他府県で会社員をやっています
 
いまだに、その水泳禁止で何も知らない人が亡くなるのが多いです


百物語2015


333 : わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ:2015/08/30(日) 05:44:37.49 ID:AgCPeYID0.net
【99話】りほ ◆aZ4fR7hJwM


まだ小学生前半だった頃、当時は年に数回程
家族ぐるみで付き合いのあった幼馴染達とよくキャンプをしに行ったものだった。
いつの時かどこの場所だったかは忘れてしまったが、
とある山中でキャンプをした時の事だ。
 
大人達が夜へ向けバーベキューの準備をしている間、子供達だけで近くの山へ探検をしに行った。
薄暗くも手入れの行き届いた雑木林を進んでいると、ふと藪の中に
矢印のついた看板があるのに気がついた。
そこに書いてあった内容までは覚えていないのだが、一見目につかない様な場所にあった
それを見つけた時はまるで隠しダンジョンを見つけたかのごとく
皆が興奮し、さっそく探検しようということになった。

矢印の先にあったその道は今までの手入れされた林道とは違い、
藪だらけで子供の背丈ギリギリの獣道のようなものであった。
多少不気味ではあるものの、
それがまた冒険心を刺激するのと同時に、
周りから弱虫と思われたくないという見栄か、誰も異を唱える事無くその獣道へと突き進んだ。
やはり手入れがされてないからか、その獣道を進みはじめるといっそう辺りが暗くなった覚えがある。

しばらく進んでいると、突然先頭の奴が悲鳴を上げうずくまった。
いったいどうしたのか、ケガでもしたのか、獣でもいたのか?
慌ててそいつの元へと駆け寄ると何やら手で顔を必死に拭っている。
どうしたの?と尋ねると
「蜘蛛の巣。顔に引っかかっちゃた」と恥ずかしそうに答えた。
なるほど、どうやら道を挟んで藪の端から端にかかっていた蜘蛛の巣に顔から突っ込んでしまい、
雰囲気も合わさって驚き叫んでしまったらしい。

なんだ驚かすなよと、皆安堵し、そいつもバツが悪そうに
ごめんと謝りつつもやはり気持ちが悪かったのか、隊の先頭から後ろの方へと移動していった。
気を取り直して進むも、
想像以上に蜘蛛の巣は多く、たびたび「うわっ!」という声が先頭から聞こえてきた。




334 : わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 05:45:38.16 ID:AgCPeYID0.net
あまりの多さと皆の叫び声を聞くうちに、逆に気持ち悪そうという考えから
楽しそうだという気持ちに変わってくる。
メンバーの中でもお調子者な自分はさっそく先頭を代わり、
蜘蛛の巣がかかるのを今か今かと待ちながら進んでいった。

するとさっそく顔から突っ込んでしまったのだが、
肌に纏わりつく粘着性、細くも抵抗力のある強靭性、加えて薄暗くまったく見えない中で
いきなりぶつかる唐突性と不快感。
思わず驚き声を上げてしまったのだが、その様を見て笑う皆を見てると
こちらも楽しくなってしまい、それから先も先頭で進んでは蜘蛛の巣をかぶり、
さらに見えてるものには自分から突っ込だりと巫山戯ながら進んでいった。

しかし、最初は皆面白がっていたものの、飽きてしまったのか
だんだんと口数も盛り上がりも極端に減ってきた。
さすがに悪巫山戯に嫌気がさしたのか、はたまた蜘蛛の巣まみれの自分が気持ち悪がられているのか、
だんだんと距離もあけられてるような気さえした。

すると一人の女の子が「もうこわい。帰ろうよ」と言い始める。
確かに巫山戯てて気づかなかったが、辺りは相当暗くなっており、
だいぶ進んだにもかかわらず目的地には未だ着く気配すらない。 
遅くなって大人達に怒られる、もしかしたら迷っているのではないか?という不安から
探検は諦めて帰ろうということになった。

そこでまた自分が先頭に立とうとしたのだが、
「◯◯はもうこれ以上蜘蛛の巣にさわっちゃダメ!」と先の女の子に止められる。
皆が不安がっている中、また巫山戯ると思われたのだろうか?
さすがにそんなことはしないと思いつつも、
ヒステリックに叫ぶその子に圧倒され、大人しく皆の後ろからついていくことにした。
 
帰りは皆無言でただひたすらに歩き続けた。
辺りはほぼ真っ暗で、さすがの自分も怒られるのではないかと不安になっていた。
長い道のりではあったが、特に迷ったりせずに最初の雑木林に辿り着くことができた。
驚くことに雑木林へ出ると先の暗さが嘘のように明るく、
これなら怒られまいと安堵したのを覚えている。


335 : わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 05:46:20.23 ID:AgCPeYID0.net
だが、そんな自分とは違い
皆は比較的明るい雑木林に出てからも終始無言のままであった。
その時はきっと皆歩き疲れているんだろうと、特に考える事なく元のキャンプ場へと戻ったのだが、
大人達に会うといきなり何人かが泣き始め、一人がしきりに自分の方へと指をさしてくる。

そんな状況に思わず呆然と立ち尽くしていると、
自分が何か皆を怖がらせるような悪さをしたのではないかと思った親がこちらへと向かって来る。
が、近くに来たとたん
「おまえ、その顔どうした!?」と言うやいなや
洗面場へと連れて行かれた。 
鏡に写った自分の顔には…
まるで細い針金で引っ掻かれたかのような傷が無数についていた。

 
大人達の中では自分が巫山戯て藪の中で転び、ケガをしたのを見て
皆心配したのだろうという解釈になったようだ。


だが、一緒にいた子に話を聞いたところ、
最初は面白かった。
でもだんだんと蜘蛛の巣に突っ込んでいくたびに顔に傷ができていくのがわかって、
もしかしたら巫山戯て蜘蛛の巣を壊したから蜘蛛が怒ったんじゃないかと思って怖かった。
だから帰りは壊させないように後ろに歩いてもらった。
と教えてもらった。

あの当時はその話を聞かされ怖くなったものだが、後々から肌の弱い子供時代、
おそらくは蜘蛛の巣に付着していた花粉、樹液、アレルギー物質に反応して
偶然あのようなことになったのではないだろうかと解釈した。

ただ、成長し丈夫になったからかはわからないが、
結局あれ以来肌が炎症を起こすなんて体験をすることはない。

そして、成人した今でも雑木林や林道を歩く際には
先ず手頃な枝を拾い、顔の前で振りながら歩くようにしている
なぜなら、やはり顔に着くと気持ち悪いというのもあるし、、、

腕や服に絡まる蜘蛛の糸が年々と太く強靭になっていくような気がするからである。


おーぷん2ちゃんねる百物語2015 


159 : 宵待草@代理投稿◆zGmkUMDv/mqt:2015/02/20(金)18:20:50 ID:qVe
第53話  葛◆5fF4aBHyEs
おまじない


仕事を終えて会社を出ると、
大手企業に転職し、東京に引っ越したハズの元同僚、カイト(仮名)が立っていた
カイトは同期ということもあって、よく愚痴を語り合ったりしていたのだが、
その時のカイトはやつれて弱々しい笑みを浮かべていた
とにもかくにも、居酒屋に入って話を聞いてみる


東京に引っ越すことが決まったカイトは、なるべく家賃の安い物件を探しているうち、
その事故物件に行き当たったそうだ
不動産屋からきちんと事故物件である旨の説明を受けたが、
『霊なんているわけない』と思っていたカイトは、
『むしろ安くてラッキー』とばかりに、早々に契約したのだという


「……初めに違和感を覚えたのは、荷物を運び込もうとした時だったんだ」
「部屋に入った瞬間、全身が総毛立って。
貧血起こしたみたいに頭からスゥッと血の気が引いて。カチカチ奥歯が鳴って」
「その瞬間、自分でも知らないうちに、呟いてたんだ。……『タダイマ』って
……なんかまるで、自分の身体が自分のものじゃないみたいだった」


それから後は、部屋に居ると妙な出来事ばかりが起こったそうだ
部屋の何処に居ても、何をしていても視線を感じる。
置いたハズの無い場所に家具や食器が移動している。
何度変えても電気がチラつく

そのうちカイトは、特に視線を感じる場所に気が付いた
ベッドに座っている時が、一番視線が強い
ちょうどベッドの向かいに、押し入れがある
カイトは意を決して、押し入れをほんの少しだけ開けて、中を覗き込もうとし

目が、合った


押し入れの中で、ギラギラとこちらを見ている女の視線に気が付いて、
カイトは悲鳴を上げた




160 : 宵待草@代理投稿◆zGmkUMDv/mqt:2015/02/20(金)18:22:16 ID:qVe 

気を失いそうになるが、何とか耐えて、
カイトは部屋を飛び出した


「何日かはホテルで過ごしながら、不動産屋に別の部屋を探してもらって。
……でも、そうしているうちに、段々、『何でオレがこんな目に』と思ったらイライラしてきて」
「押し入れに居るってんなら、押し入れに何かあるんじゃないかと思って」


夜行くのは怖いから、と日曜日になるのを待って、昼間に部屋を訪れた
押し入れを開けてみるが、何もない
でも絶対何かあるに違いない、とカイトは天袋を覗いてみたのだそうだ

天袋の天井を触ると、案の定板が動く
慎重に板を持ち上げ、用意してあった懐中電灯を差し込む

暗闇の中、懐中電灯の明かりに照らされた先に、女が体育座りをしていた

「『うわっ』と声を上げた次の瞬間には、女の姿はなくなってた」

カイトはそれを見間違いだと思うことにして、
天井裏を探してみたのだそうだが、ざっと四方を照らしてみても何も見当たらない

「でもさ、押し上げた天井の板がやけに重いなと思って。照らしてみたら、あったよ」
透明なガムテープで固定されたそれは、透明なゴミ袋に包まれた5冊のノートだった
「袋は埃まみれだったけど、中はそうでもなかった。
ノートはディズニーとか、キティちゃんとかの可愛いやつで」

勇気を出してノートを開いた瞬間、カイトは悲鳴を上げたそうだ
中には赤いボールペンで、余白が無いほどびっしりと、こう書かれていたらしい

『カイトが帰って来ますように』『カイトが帰って来ますように』『カイトが帰って来ますように』………


「でもさ、本当にビビッたのは、その後なんだよ……」
カイトは泣きそうに、顔をくしゃりと歪めた
「思わずノートを放り投げたら、表紙に『カイト かえってきてくれて ありがとう』って書いてあったんだよ
……ボールペンじゃなくて血みたいな字で……さっきまでそんなの無かったのに!」


頭を抱えてうなだれるカイトが落ち着くのを待ってから、
「……でもさ、もうその部屋からは引っ越したんでしょ?」
こちらの言葉に、カイトは弱々しい笑みを浮かべて首を横に振った
「俺もそう思ったんだ……でも……」
カイトが新しい部屋に荷物を運び込んだ瞬間、声がしたのだという

『お 帰 り な さ い』……


百物語2015


180 : わらび餅(代理投稿) :2015/08/30(日) 01:14:47.54 ID:AgCPeYID0.net
【49話】suu_o◆QfeyGUP37WSw
 『ごく普通の家が心霊スポットになるまで』


私の母が、高校の途中まで過ごした家の話です。
祖母の趣味は庭いじり。
自然の樹木を活かしつつ、四季折々に花が咲くよう
工夫を凝らした庭は、とても美しく見応えがあったそうです。
門扉は通りすがりの人にも見えるよう開放し、
ご近所さん達が気軽に寛げるようオープンな場所にしていたと聞きました。


ある日のこと、高齢の男性が長いあいだ庭の椅子に腰掛けていたそうです。
体調を心配した祖父が様子を見に行ったところ……
男性は庭木を褒め、手入れに感心し、和やかに歓談したのち長居を詫びて帰っていきました。
しかしその方は駅へと向かう道の途中で倒れ、
病院に搬送されましたが亡くなってしまったそうです。

──しばらくして、庭に不可解な現象が起こるようになりました。 

植え込みの中に白いモヤのようなものが見える、何か呟いてると言う方が何人も出てきたのです。

祖父母と母には霊感がなく、モヤの気配すら察知出来なかったのですが、
分かる方はハッキリと老人の影に見えるらしく……。
そのため霊の噂は先日亡くなられた男性の件と一緒になって、瞬く間に周囲に広まりました。


やがて、庭が面した通りは昼間でも閑散とする一方、
夜になると車やバイクで肝試しに人々が訪れるように。
 
無断の写真撮影に始まり、霊が出た出ないで大騒ぎ。
心ないイタズラや、庭木を踏み荒らされることに一家で悩まされました。
もちろん門を閉ざして貼り紙をし、
不審な人物を見つけては注意したそうですが、無断で立ち入る人は絶えなかったとのこと。




181 : わらび餅(代理投稿) :2015/08/30(日) 01:16:30.86 ID:AgCPeYID0.net
そんな日々が、一ヶ月ほど続いたでしょうか。
昼間祖母が庭にいると、五十代くらいの上品で身なりの良い女性が
「お庭を拝見してもいいですか?」と声を掛けてきました。 
久々に、霊ではなく庭をと言われて嬉しくなった祖母は、丁寧に説明して回りました。
 
話を聞き終えた女性は、ここが幼い頃過ごした家に似ていること、
植えてある木が同じなことを懐かしそうに語ったそうです。
そして「父が、最後の日をこの場所で過ごせて良かった」と、涙ながらにお礼を言われたと……。
 
女性が帰るとき入れ違いにに帰宅した母が、
彼女と一緒にうっすら白いものがついていくのが見えたと話してくれました。

それ以来モヤの目撃もピタリと途絶え、
ようやく心穏やかに暮らせる日が戻ってくるかと思いきや。
 
心霊現象は収まったにもかかわらず、
恐怖体験を期待して集まる人の数はほとんど減りませんでした。
何も起きないと分かれば次第に飽きられるだろう、と一家で考えていたらしいのですが、
数人の若者が予想もしなかった行動に出たのです。
 
今聞くとそれは、『曰く付きの場所で降霊術を行う』という試みでした。
しかし、オカルトとは縁の無い人生を歩んできた祖父に、
降霊の儀式が理解出来るはずもなく。
集団で呪文を唱えているさなかに割って入り、中断させてしまったのです。 
彼らは術を中途半端にしては霊を怒らせてしまう、
きちんと除霊しなければ場に留まって悪影響を及ぼすと粘ったらしいのですが、
無理やり追い返したとのこと。
 
「困ったことが起きるかもしれませんよ」という声に、
母だけは強く不安を掻き立てられましたが、祖母の疲れのほうが気になり黙っていたそうです。


182 : わらび餅(代理投稿):2015/08/30(日) 01:17:52.02 ID:AgCPeYID0.net
異変は、すぐに始まりました。
昼間でも日の光を入れていても家の空気は淀み、絶えず吐き気をもよおす臭いがするようになりました。
物は前触れもなく落ち、家電の誤作動が頻繁に起き、無言電話からはうめき声が。 
戸棚や壁の内側からカリカリと爪の音がし、
ドアの下方には子供の手形。
 
夜も、夢のなかで家族を刺したり自殺をしたり。
悪夢に目を覚ますと、暗闇のどこかから貫くような視線を感じ、一家を震えあがらせました。
そのうえ肝試しの人たちが、遠慮なしに庭へ入っては恐怖を求めて歩き回るのです。
 
結局耐えきれなくなって引っ越した……と、
当時を思い出したらしい母は、ひどく怯えた顔で私に話してくれました。


なお、誰も住めなくなった家は、今や傷んで半壊状態。
取り壊そうにも霊障がひどく、お祓いしても効果がないとかで、
名の知れた心霊スポットになっているそうです。


おーぷん2ちゃんねる百物語2015 


14 : 代理投稿立候補◆YtFiiqjbeo:2015/02/14(土)17:38:12 ID:Vve
耳◆bBolJZZGWwさんの作品


百物語が開催されるときいて
当方も何か寄稿しようとノートパソコン(以下PC)の前に座った瞬間、
背筋が凍った。

真っ黒なディスプレイに映りこんだ部屋の隅っこの方に
何やら人影が見えたのだ。

こういうのは気にしたら敗けだ、さっさとPC立ち上げちゃえと電源を入れる。
PCが起動し画面が明るくなった。
これで部屋も映らないし安心だ。

しかし、起動後すぐに画面が真っ暗になりうんともすんとも言わなくなった。
充電が切れたのだろうと思い、充電用のコードをコンセントに挿すため
机の下を覗きこんだ瞬間絶句した。

真っ白な手が一本、コンセント周辺をうねうねと蠢いていたのだ。

恐怖のあまり声をあげることもできなかったが、
即座に家族のいるリビングへ逃げ込んだ。

それ以来人影も白い手も見ていない。
まあ2度と見たくないが。


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