サイケデリック・奇譚

永遠の日常は非日常。

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1372
おいら ◆9rnB.qT3rc:2011/09/10(土) 17:10:39 ID:gbXjIMrY0

【霊視】
1/2

以前、変なことが多くなってきたと思って、そこら辺の情報を仕入れられればと、
怪しい話題を扱う掲示板(非2ch)のコミュに参加した。
いくつか投下していると、おいらのカキコによくレスしてくれる人物が現れた。
彼のハンドルは"居崩"。
自分のことを「俺」と呼ぶので、多分男性だろうと思う。

最初に相談したのは、自転車事故で肋骨を折った時。
広島弁のジイさんに、上野で女の子の霊を抜いて貰った直後のことだ。
そのジイさんは、あれからその飲み屋にはちょくちょく顔を出すようになっていて、
何度か話したことがあるが、困ったことに自分の名前を教えてくれない。
おいらも、彼をどう呼んでいいか困り果てていた。
ま、一応、恩人でもある訳だし…。
名前も知らない常連など考えられない。話し難いこと、この上ない。

そこで、居崩さんに彼のことについて、相談のメッセを送ってみた。
『とりあえず、相手のことが知りたいのです』
『どうやって接すればいいでしょうか?』

しばらくしてレスが返って来た。
ただ、返答の方法が一風変わっていた。

『皺が見える。年齢は七〇過ぎ』   …ジジイの歳のことか?アタリ
『西の方の生まれ』         …広島弁なので、たぶんアタリ
『奥さんは居ない』         …不明
『その人物の頭が白い。多分白髪』  …アタリ
『光って見える。霊感はあるほう』  …アタリ
『左利き?』            …ハズレ
『優しい感じ』           …ハズレw
『トイレが近い』          …アタリww

奥さんの件を除けば、的中率七割超えだ。
この人、霊視もできるのか?
妙に霊感存在感のあるジジイなので、オーラみたいなものを過剰に発散しているのだろうか?
それにしても、この的中率の高さに舌を巻いた。凄い。

試しに、もう一回霊視してもらおうか。
次で名前が判るとラッキーかも。


1373おいら ◆9rnB.qT3rc:2011/09/10(土) 17:11:43 ID:gbXjIMrY0

2/2
次の日、もう一度居崩さんにメッセを送った。
できれば名前を視て欲しい旨で。
それに対するレスは…

『重要;本件詳細はメールで送ります。捨アドよろしく』 と来た。

掲示板上ではレスできないということか?
おいらは捨アドを送り、待った。
数日後、送られてきた「差出人・居崩」のメールには、こう書かれていた。

いつもは霊視などしないのですが、「おいら」さんのしつこさに負けて
前回はふざけて視てしまいました。
ごめんなさい。

改めて新しく霊視してみました。
毎度イメージばかりですみません。
今回も八つほど視えました。どれくらい当たるか楽しみですw

『名前は、タン…なんとか…かな』  …ここまでか、残念
『中国近畿方面に居たことがある』  …なんか具体的になってきたな
『何か、小さい古いものを持ってる』 …多分、あの血染めのブローチのことだ
『大谷』              …ここから全くワケがわからない
『コ』
『生き残り。秘密がばれる…?よくわからない』
『憎んでいる』
『何かを掘っている。それはあなたにとっては良くないもののようだ』


-終-


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1344
おいら ◆9rnB.qT3rc:2011/08/24(水) 20:43:49 ID:jFI.Ff4w0

【祟り社】
1/5
上野の飲み屋で知り合ったメグは、西の方の生まれだ。
今は常磐線沿いに住んでいるそうで、飲むと笑い上戸になる彼女は、文字通りチャキチャキだ。
どこの飲み屋でも、常連になると自分の生まれのお国自慢大会になることがよくあるが、
彼女はあまり自分の田舎のことを話したがらなかった。
その彼女が先日、実家のことをしんみりと話し出したことがある。

「ねえ、知ってる?祟り社って」声を潜めて言われた。
「知らない…聞いたことない」
「あのな…うちには弟が居たんよ」
関西弁はよく知らない。過去形に聞こえたのが気になったが、おいらは先を促した。

彼女、実は「訳アリ」だった。




1345おいら ◆9rnB.qT3rc:2011/08/24(水) 20:44:52 ID:jFI.Ff4w0

2/5
メグの実家は写真屋を営んでいた。
明治から続いた写真館で、戦中戦後の古い写真も残っていたそうだ。
写真館の隣には、一風変わった神社があり、メグと弟はその境内でよく遊んでいたという。

その神社に、ちゃんとした神主さんがいたかどうかは、わからない。
写真館よりも後、終戦直前くらいに慌ただしく建立されたため、
それ程伝統がある訳でもなし、何の神様を祭っているのかすら、宗派もよく解らなかった。
ただ、浮浪者のような格好をした、住み込みだかのおじさんが、ときどき境内を掃き掃除していたという。
メグの両親や祖父は、あまりその神社のことを良く言わなかったといい、
行事やお参りには、敢えて別の神社に行っていたそうだ。

ある年の正月明け、その神社の神殿が開けられ、大掃除というか、虫干しがあった。
手伝う人もおらず、そのおじさんが一人で掃き出しをしていたそうだ。
それをメグとその弟が見ていた。
冬の寒空に野積にされた、宝物というには余りに貧相な、一見ガラクタの山。
そのうち、ちょっとした隙に、弟がそのガラクタの山の横から妙なモノを物色して、
さっと持ってきて、自慢げにメグに見せた。

朱塗りの円筒だったという。
丁度、ちょっと大きめの茶筒のような。
それほど古い感じはしなかったが、蓋は白く粉を吹いた蝋のようなもので、
どろどろに、がっちりと封がしてあった。
重さもそれほどではなく、むしろ軽い。
振ってみると、紙か乾いた布か、枯草のようなモノなのか、
中でカサカサ・ワサワサ、時折コトッ・コツッと音がしたそうだ。


1346おいら ◆9rnB.qT3rc:2011/08/24(水) 20:47:12 ID:jFI.Ff4w0

3/5
それを聞いたおいらは、取り敢えず口を噤んでいた。
箱の中の様子は、おいらなりの妄想で容易に想像できた。
いわゆる、「コトリバコ」系の逸品だ。
だが、カサカサ、ワサワサという音というのがよく判らなかった。
あの箱、そんな音するって言われてたっけ?

「オ○○サマに、何しとるんか!」
(○○の部分は良く聞き取れなかったらしい。あるいはツノと言っていたかも…とメグは言っている)
顔を真赤にしたおじさんが、すごい剣幕で追いかけてきた。
メグと弟は逃げ回ったあげく、その茶筒を賽銭箱の横に放り出し、アカンベしたそうだ。
「このばかもんがー!何が起こっても知らんぞ!」
参道を走って逃げ、鳥居の下をくぐったとき、その柱がピシィッ!と音を発てたような気がしたという。

偶然と思いたいが、その翌日の早朝。メグが住んでいた町一帯は大きく揺れた。
早朝だった。


1347おいら ◆9rnB.qT3rc:2011/08/24(水) 20:48:08 ID:jFI.Ff4w0

4/5
「アレでうちの家も燃えてん」
火災で写真館が焼けてしまったため、写真屋はその後廃業してしまったそうだ。

…それと…

「あのとき、その隣の神社の鳥居が、うちの家の方に倒れてきたんよ」
「鳥居の笠木が、一階の屋根をぶち破って、うちらの子供部屋の半分を潰してん」
「そして一緒に寝ていた弟が、その下敷きになって死んだ」
「青い縞々のパジャマを着た足だけが瓦礫の中から見えてた」
「うちのオトンが、うぉーって叫びながら、瓦礫を避けようとしたんやけど、
弟の上に乗っかった笠木がすごく重くて、全然動かへんかった…」

周りの隣家もみんな同じ状況で混乱し、手伝ってもらえるような状況ではなかった。
そうこうしているうちに、辺りで失火した火災の勢いに押され、一家は泣く泣くそこから避難した。
逃げるとき、隣の神社も火に包まれているのが見えた。
社守りのおじさんは、凄い奇声を上げながら、燃え上がる社殿に飛び込み、
それっきり行方は判らなかったという。

おいらは言葉が継げなかった。
メグが続ける。
「今までこの話はしたことないんやけど…うちら、弟の遺骨、上げられへんかったんよ」


1348おいら ◆9rnB.qT3rc:2011/08/24(水) 20:48:51 ID:jFI.Ff4w0

5/5
余震と火災が収まって戻ってみると、実家の写真館は見事に焼け落ちていた。
信じられないことに、瓦礫の何処を探しても、弟の遺体が見つからなかったという。
消防も来てくれて、一緒に捜索したが、結局、骨の欠片すら見つけられなかった。
潰れた弟の上に覆いかぶさっていた、鳥居の朱い笠木も無くなっていた。跡形もなく。

メグの家族は、仕方なく空の棺で弟の葬式を出した。
いまでも弟がここに居るからと、写真館の跡地を整地して、もう一度家を新築した。

一方、神社のあった隣の土地は、そのまま更地になった。
当の神社は別の場所に移されたらしい。
移転した先の場所は解らなかった。
メグの家族は、神社のその後を知ろうとはしなかった。

しかしメグは一時期、弟を殺した鳥居の朱い笠木を捜そうとして、復興中の街を自転車で走り回ったそうだ。
「焦げた朱い笠木を戴いた鳥居が、きっと何処かにあると思ってた」
「それで、見つけたの?焦げた笠木の鳥居?」
「いや、うちのオトンに言われた。止めろって。知り合いのおじさんから忠告されたって」
「あの神社は普通じゃないって。これ以上追っかけるとヤバい。祟り社だって」
「あの頃はまだ厨房だったから、怖くなって…それで…諦めた」

ただ、メグは今でも忘れられないという。
妙な隣の神社。祟り社。弟を潰した朱い鳥居。弟が見せた朱塗りの円筒。

神社のおじさんが、それのことを多分、「オツノサマ」と呼んでいたこと。

-終-


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763
おいら ◆9rnB.qT3rc:2010/05/02(日) 16:42:56 ID:EgsXsJKE0

【出土品】
1/3

「お兄ちゃんの知り合いのあの子なあ、アレとはイマイチ合わん」
上野の飲み屋で、味噌鍋を二人でつつきながらヒレ酒を呑んでいたとき、
急に広島弁のジイさんに言われた。
最初、何を言っているのか判らなかった。
どうやら、最近ここに飲みに来るミカドさんのことを言ってるらしい。

この広島弁のジイさんは三船敏郎声のヒッピー崩れ。
「ごめんねバアさん」の時、空襲で死んだ女の子の憑き物を抜いて貰った恩人だ。
だが、ふざけているのかヒネくれているのか、自分の名前を絶対に明かさない。
店の大将も教えてもらえてないそうだ。
そのくせ、お爺さんと呼ぶと怒る。
始末に悪い。

一方ミカドさんは、変な踏切で助けた訳アリ女子大生だ。
ここを彼女に紹介してから、このジイさんとも何回か顔を合わせていたが、
当の店の大将がそういった話をあまり好まないので、
お互いにオカルトな話題は振らせない様にしている。
彼女の『スタンド』と呼ばれる、大きな黒い口のワニの化け物の話題にも、今ひとつ振り切れていない。
そこのところは残念だ。

「あの子って、ミカドさんの事ですか?」
「帝?大仰な名前じゃのう」
「違いますよ。三門と書いてミカド。大仰でも何でもないでしょ」
「変わらん。空門、無相門、無願門で三門。三解脱門じゃ。知らんのか?」
…このジジイ、こういったことは変に詳しい。
実際、何をしていた人だろう?
というか、その前にいい加減あんたの名前を教えろよ。
話し難くて仕方ない。


764おいら ◆9rnB.qT3rc:2010/05/02(日) 16:43:45 ID:EgsXsJKE0

2/3

「何か理由でも?彼女、気に障るようなコト言ってましたっけ?」
「いんや。よう解らんが、コレが妙にイガイガしよる。それと爪先が痛い」
「それも、決まってあの子が来ているときだけよ。気味が悪い」
あの…その爪先が痛いってのは、痛風です。きっと。
オカルトとは関係ありませんから。
と思っていると、ジジイがGジャンの上着のポケットから、何か取り出すのが見えた

ポケットから出されたソレ。
ヒッピー崩れのジジイが持つには、不釣り合いなアクセサリだった。
おい、いつも言ってる割には、ピースマークじゃないのかよ。
ガッカリだ。
ブローチくらいの大きさか、象牙で出来ている様にも見えたソレは、
何と言うか…何かの爪が2つ、三日月のように連なって「C」の字を成していた。
ブーメラン?
いや、何かの刃物を模している様にも見えるが…
多分日本のものではない。
どことなくアジア系の意匠の浮き彫りには、全面に赤黒くスミ入れが成されている。
結構古いものかもしれない。

で、ミカドさんが近くにいるとイガイガ反応するわけですか、これが?
彼女の『スタンド』と関係があるのか?
判らない。
取り敢えず今は話題を戻そう。

どこで見つけたのかしつこく尋ねても
「それは話したくない」と言って、ジジイはどこか苦しそうに笑った。
これはジイさんの個人的なお守りなのだという。
詳しい入手の経緯を聞きたかったが、上手くはぐらかされる。

「ほんなら、少しだけ教えたる。コレは越南の土産じゃ」
「骨と一緒に出て来た。大勢の人の骨だ。その中にあった。ワシが掘った」
「この黒いのは人の血だ。洗っても取れん」
「…」
店の大将が、露骨に嫌な顔をしたのが横目に入ってきた。


765おいら ◆9rnB.qT3rc:2010/05/02(日) 16:44:21 ID:EgsXsJKE0

3/3

かの国で大勢の人が一時に死んだとなると、その原因はだいたい察しがつく。
ヒッピージジイでPieceと言えば…、
「ベトナム戦争ですね?その時の遺骨と一緒に出た…?」
ジイさんは眉を片方上げて、少しニヤリとした。
ビンゴだ。
でも当時、その戦争に反対していたヒッピーが、何故現地に行っているのだろう?

その後、ジジイから引き出せたネタは、結局一つだけだった。
それもくだらないクイズ付き。
しかもおいらが正解した訳ではない。

「教えてくださいよ。ベトナムの何処で出たんです?」
「ワシの口からは言えん。呪われとる、嫌な場所じゃ」
「その変わり、クイズを出しちゃる。当ててみい」
そう言って、横に置いていた店の味噌の容器を逆さにして、ドンとカウンターの上に置いた。
「ほれ、読んでみ」
「はぁ…味噌の反対…醤油じゃなくて、塩でもなくて…、トンコツでもないよな」
「ばかもん。そのまんま読まんかい」
「味噌、噌味、ソミねぇ…ソミ…ソミ…うーむ」

ジイさんはマジにイラついていたのだろう。
そこまで言っておいて、思わずその呪われているという、嫌な場所の名前を、自ら言ってしまった。

あの有名な、虐殺のあった村の名前だった。                    




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586
おいら ◆9rnB.qT3rc:2010/02/08(月) 17:18:26 ID:hdrgXARs0
1/3
仕事に就いたころ、彼女と一軒家に賃貸で住んだことがある。
三角屋根の一棟を左右に半分にした二世帯住宅だ。隣には別の夫婦が住んでいた。
丁度子供さんが大学に入って、子育てに一段落ついたくらいのお年のようだ。
二人でお暮らしだった。
半年くらい経って、夏の休日の昼間に二階の机に向かっていたところ、
隣の下のベランダから、隣の奥さんが誰かと口論しているのが聞こえてきた。
結構な大声だ。

喧嘩でもしているのだろうか?…だが、相手の声は聞こえなかった。
「お父さんの体だけ狙ってる泥棒猫!」
「子供すら作れない癖に!」
「お父さんに何て言ったのよ!」
「嗚呼、イヤラシイ」
「殺してやりたい!きっと殺す!私は負けない!」
聞くに耐えない。
普通なら大声で叫ぶなんて、いくら何でも憚られる内容だった。

誰と話をしているんだろうか?こんな際どい内容だし、たぶん身内だろう。
おいらは首を延ばして、開いた窓から声の聞こえる方を覗き込んだ。
ベランダに出ている彼女が見えた。
彼女はこちらには気づいていない様だ。
「また来てる!このウチは私のものよ!何で来てるのよ!」
家の中に誰かいるのか。親戚でも来ているのか?

だが違っていた。彼女は物干し台の横に仁王立ちになって、
ベランダの向こうの木立の方を睨みつけ、空に向かって叫んでいた。
「イヤラシイ!あんたのせいだ!」
あーぁ。と思った。
いわゆる統合失調症、略して「統失」というヤツだ。


587おいら ◆9rnB.qT3rc:2010/02/08(月) 17:19:16 ID:hdrgXARs0

2/3
おいらはこの日が初めてだったのだが、
彼女に言わせると、旦那さんが居ない昼間、決まった時間にあれが始まるのだという。
会話の内容は、ほぼ決まってあんな感じ。
何か、不倫の恋仇相手に戦いを挑んでいるようだ。
これが始まると、流石においらの彼女も外で干し物が出来なくなる。
外に出られないのだ。

その年の年末、お隣り宛にお歳暮が届いたらしい。
そしてその日の午後、また始まった。
「こんなお歳暮で騙されると思ってるの?」
「何とか言ったらどうなのよ!」
「こんなものお返しするわ。イヤラシイ。もう二度と送って来ないで!」
今度は部屋に置かれたお歳暮の包み相手に戦っているらしい。いつものパターンだ。
しかし、いつ聞いても猥雑で一方的な叫び。
気分が悪くなる。

ビビったのは、その夜、そのお歳暮がおいらたちの家の玄関先に置かれていたことだ。
手紙が添えてあった。
『今度、こんな事をしたら、本当に殺します』と赤いボールペンで殴り書きがしてあった。
再度、隣に返す訳にもいかないので、まんま捨てた。
包丁でメッタ刺しにしたのか、包みがズタズタに切り裂かれていた。
詰め折のハムにまで達する程だった。
よほど力任せに刺したのだろう。ぞっとした。

これは彼女の頭の中で、隣の住人であるおいらたちが、視界に入って来たということを意味する。
しかも、彼女にとって友好的なキャラでは決してなさそうだ。
流石に、おいら達も身の危険を感じて、この件は大屋に相談した。
だが、直接被害を受けていない状況ではどうすることも出来ない。いつもは普通に会話出来るのだ。
暴力沙汰を起こしているわけでもないので、警察にも相談出来ない。

しかし、一旦スイッチが入ってしまうと、何をするか皆目検討がつかない。
大屋さんから、旦那さんにそれとなく言ってくれないかとも頼んだが、
家庭内の事情だし、そもそも旦那の居るところでは発症しないので、旦那には実感が伴わないのだという。
故に病院で診察を受けさせることも叶わない。


588
おいら ◆9rnB.qT3rc:2010/02/08(月) 17:20:19 ID:hdrgXARs0

3/3
「だって、旦那の不倫も原因の一つではないの?」と喉まで出かかったが、その証拠もない。
おいらも意を決して、一回隣の旦那に会いに行ったことがある。
「まあ、ウチの問題ですからね。済みませんが、おひきとり下さい」
面倒臭そうに旦那に言われ、ここで成す術が無くなった。
完全に八方塞がりだ。
その時には、こっちの彼女のストレスも、もう限界に来ていた。

…潮時だ。おいらたちがこの家を出る事にした。
これ以上ここには居られない。
引っ越しのトラックに積み込みが終わったところで、当人夫婦が出てきて見送りに来た。
今日はまともだ。
旦那が横に居るからか。

「まあ、折角お隣りになったのに、もう越されてしまうの?淋しいわ」よくもヌケヌケと。
しかし、今の状態の彼女には全く悪気は無い。これが始末に悪い。
誰のせいでこうなったか、今この場で言ってやろうか!とも思ったが、
横に居た彼女の一言に毒気を抜かれてしまった。
「奥さん、…死ぬまでずっとあのままなのかな…」

彼女にとって何が敵なのか?多分全てだ。
彼女を気遣いもせず、治療させようともしない旦那、ことなかれで傍観する大屋、
今こうやって逃げ出すおいら達、そして彼女自身の頭。
…彼女の身近を取り巻く全てと、彼女自身が、彼女の敵なのだ。

車に乗り、運転しながらそう考えていると、少しばかり奥さんが気の毒になった。

終わり




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574
おいら ◆9rnB.qT3rc:2010/01/17(日) 18:27:05 ID:fJ3UDovY0

【勧誘】
1/5
S大学前駅でO急線の電車を降りた。
駅名にもなっている大学へと足を向ける。今日はそこの学園祭。
露店からウィンナーを焼く匂いがしてきた。
どこの大学も学園祭と言えば、それほど変わらないものだ。

別棟の三階に登る。
右手の廊下の奥、暗がりにエスニック風な手書きの看板が見えてきた。
「民俗学研究室」。お目当ての場所だ。
部屋に入ると、アジアっぽいお香の匂いが立ち込めている。
微かにガムランの音色。
ゼミの研究展示と、その時のお土産だろうか、ちょっとした喫茶と雑貨の販売をしているようだ。
まだ午前中のためか、客はあまり入っていないように見えた。
民俗学というと、柳田國男に代表される日本ぽいイメージだが、ここは少し様子が違う。
どちらかというと世界各地を回って、エスニカルな見識を集めているのだろう。
全体に色彩豊かな工芸品の展示で固められている。

こう見ていると、やっぱり東南アジア方面は人気があるなぁ。
教授に付いていくとは言え、学生身分で毎度海外へ渡航するとなると、結構金がかかるだろうに。
逆に、家が金持ちでなければ無理かもしれない。
高いかもな…ここの学費。

案内の学生に声をかけられた。
髪はサラリとしたショートに薄い眼鏡。朱いサリーを着ている。
彼女はインド系がお好みか。
見回すとスタッフは殆どが女性で、しかも思い思いの民族衣装を着ている。
なるほど、室内を見るとタイかバリ風のヒーリングサロンのような雰囲気だ。
ここまで固められてしまうと、一見の男性は逆に気恥ずかしくて入り難いだろう。


575おいら ◆9rnB.qT3rc:2010/01/17(日) 18:28:03 ID:fJ3UDovY0

2/5
…と、そんなことは言ってられない。
名刺入れから一枚の名刺を出した。
「民俗学フィールドワークゼミのミカドさんて、いらっしゃいますか?」
自分の名前を名乗りながら、ミカドさんを訪ねた。
「今日、エリって来てるっけ?知り合いの方だって」
彼女は笑顔で取り次いでくれた。

「あのー、ミカドですけど…あ!どうも、この前はありがとうございました」
最初、聞き慣れない名前に不審そうな顔をして、控えから出てきた女性。ミカドさんだ。
おいらの顔は忘れてなかったようだ。感激した。

彼女は先日、N部線の怪しい踏切で、大きな黒い口に喰われそうになった女子大生。
偶然にも、おいらが助けた格好になってしまった。
あの夜、携帯の番号を交換し損なって、ずっと気になっていた。
彼女の美貌もそうだが、あの大きな黒い口のことが、気に掛かっていた。
あれから同じような目に遭っていないだろうか。
あの赤いチェックのスカートと白い脚が、アンなことやコンなことになってやしないか。
他人ごとながら心配していた。

それから一回だけ、おいらの勤務先に彼女からメールが来たことがある。
今度、学園祭で研究室の展示をするので、良かったら一回見にきて欲しいと。
当然、小躍りして喜んだ。
その日以来、楽しみにしてきたのが、本日この学園祭だという訳だ。


576
おいら ◆9rnB.qT3rc:2010/01/17(日) 18:28:39 ID:fJ3UDovY0

3/5
「どうも。ご招待頂いたので、来てみました。いい雰囲気の展示ですね」
「わざわざお越し頂いちゃって、すみません。とりあえず座ってください」
ミカドさん、今日は白いスカートに薄いサーモンのジャケット。
今日は非番なのか、他の学生と違って私服だった。

しつらえられた喫茶席に通される。
学園祭らしく普通のパイプ椅子にアフガンストールを掛けただけの簡素なものだ。
先程のショート髪のサリーの子が、注文を聞いてきた。しっかりしてる。
実のところコーヒーが欲しかったが、
ここは場に合わせてチャイを二つ頼んだ。

「どうです?あれからまた変な目に遭ったりしてませんか?こっちも気になって…」
「あれからは…特に変わったことはないです」
そこに、チャイを持ってきたショートのサリーちゃんが、横から口を挟んだ。
「うそ…また遭ったの?エリの『スタンド』、黒くて大きいもんね」
「トモちゃん、ダメだって…」
「だって大丈夫じゃん。あんたの彼氏、霊能力者だし。エリも怪我なんてしないし」
「ね、彼も実は『スタンド』持ってるんでしょ。羨ましーわー」

黒くて大きい『スタンド』?
霊能力者?何言ってるんだ、このメガネっ子?
…って今、この子『彼氏』って言ったか?言ったよな?
…まー、そういうもんだよな…普通。
これだけの美人だし、そら居るわな、彼氏くらい。

心底ガックリきたのも束の間で、おいらは『黒くて大きなスタンド』という言葉に、見事釣り上げられた。
どういうことだ?あの時の、大きいワニの口のことか?
熱いチャイを少しすすった。
シナモンは香り高いが、ちょっと甘すぎる。


577おいら ◆9rnB.qT3rc:2010/01/17(日) 18:29:10 ID:fJ3UDovY0

4/5
『スタンド』か…。
確かに上手い喩えだと思った。おいらもジョジョは好きだ。
ということは、ミカドさんがあのワニの化け物を「出す」ということなのか?
もしそうだとして、なぜ彼女がそれに襲われる?
「その『スタンド』って、この前、踏切で遭ったのと同じものですか?」
「…」
「いや、いいです。すみません、込み入ったこと聞いて」
「いえ、…あの夜と同じものだと思います。みんなは『スタンド』って呼んでますが」

ちょっと待て。
みんなって…そんなに有名なの?
そんなに頻繁に出てくるものなの?

「中学校の時に海外旅行に行ってから、時々出てくるようになりました。
一緒に居たみんなも同時に見ることがあります。
このトモちゃんも、去年の夏に伊豆の合宿で-」
「そうそう!あの時もエリの彼氏がすっぱり鎮めちゃったんだよね。カッコ良かったー」

はぁ…そうですか。開いた口が塞がらない。
気付くと、他のスタッフの学生も会話の輪に入ってきていた。
みんな口々にミカドさんのスタンドとやらの凄さと、その彼氏の能力を誉めそやしている。
あの…ここは、ああいうのが当たり前のゼミなのでしょうか?

彼氏の職業は各地の「地脈」を鎮めるため、
日本中を飛び回る「ナントカ心霊研究所」の行動員(アクティベート・スタッフ)なのだという。
終いには、おいらの体験談をいろいろ根掘り葉掘り聞かれ、
それに適当な解釈を付けられ、その「ナントカ心霊研究所」の連絡先メモを握らされ、
挙句には紹介されるところだった。

大学の頃、しつこく折伏し勧誘してきた、学会の学生構成員の連中のことを思い出した。
あの時、幾重にもおいらを囲んで、執拗に説得してきたやつらの目とそっくりだった。
おいらはぞっとして何回も頭を下げ、丁重に辞退した。

そして逃げるようにS大学を後にした。


578おいら ◆9rnB.qT3rc:2010/01/17(日) 18:29:40 ID:fJ3UDovY0

5/5
あちゃー。あいつらはモノホンかも。
おいらも個人的な霊体験はあるが、霊媒や祈祷師、その類だけは願い下げだ。
今まで相談しに行ったことは無いし、これから行くことも無いだろう。
正直そういった連中は、どこかイカれていると、今でも思ってる。

あのS大民俗学フィールドワークゼミの連中も、基本的には同じなのだろうか?
世界各国の風俗に伝わる神秘とロマンと伝説に、現地を回ってどっぷり浸かっているうちに、
向こう側の仄暗い深みに、ズブズブと嵌り込んでいくのだ。
そして最後、もうこちら側には戻れない。

折角の気品と美貌を兼ね備えたミカドさん。ああミカドさん…。
周りがあんな真性オカルトだらけでは心配だ。
このままでは後戻りできなくなってしまう。
きっと、愛する人をカルトに持っていかれる焦燥感と似たような感覚なのかもしれない。
これはかなりハードでタフな問題だと実感した。

一つ名案が閃いた。
彼女の『スタンド』とやらについても、別な解釈が与えられるかもしれない。
きっと面白いことになるに違いない。いつか彼女を連れて行ってやろう。
おいらの恩人、広島弁三船敏郎声のヒッピージジイが良く来る、上野の飲み屋に。
「ナントカ心霊研究所」とかと違って、あのジジイは知る限り、きっとロンリーだ。
法外な金を取られることもないだろう。
一二杯おごってやればいいしな。       




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544 :おいら ◆9rnB.qT3rc:2009/12/09(水) 01:36:47 ID:iYJ4qfoc0

知人の友達の「スズキさん」に直接会ったときの話。
宜しければ。

【推理】
1/4
「…彼、アシに入ったのは久しぶりですね」
大学時代にアシスタントのバイトをしていた漫画家先生の家で、同じアシ仲間のモリヤマくんの話題になった。
彼は今、資料のコピーを撮りにコンビニに行っている。もうすぐ戻るだろう。
「なんか、別の仕事で忙しくなっちゃったみたいよ。色々飛び回っているみたい」
先生が、原稿とにらめっこしたままの格好で答えた。
「またしばらく来れなくなるって言ってたな」と
別のアシさんが言う。

モリヤマくんが帰ってきた。
あれ以来、彼は心霊写真を持って来ていない。
それ故かその週の原稿も無事完成し、
その帰り際モリヤマくんはおいらにだけ、そっと耳打ちをした。

「今度、スズキに会わせてやるよ」


545おいら ◆9rnB.qT3rc:2009/12/09(水) 01:37:26 ID:iYJ4qfoc0

2/4
「どうも。スズキです」
この人物がそうか。先日のモリヤマくんの心霊写真に写っていた、スズキさんだ。

心霊スポットで撮ったという彼の写真。
その影は、まさに悪魔そのものだった。それを先生が不用意に口走ったために、
白いものが部屋に飛び込んで来て大騒ぎになったのだ。
ちょっと小太りの、失礼ながらサエない風体の、おじさんタイプのこの人。
年はいくつだろう?モリヤマくんと中学で同級だったということは、まだ大学生だ。
悪いが、これがまた信じられない。
こんな疲れた大学生がこの世に居るのか?
モリヤマくんが以前言っていた「魂が半分」という表現。
確かにそんな感じだ。
彼の肩から、何かが出たり引っ込んだりしているのが見えた。何だあれ?

その後、二人がよく使うという喫茶店に入り、奥の席に陣取った。
定位置らしい。店のウエイトレスさんとも知り合いのようだ。
先日とは違う大量の心霊写真を見せて貰いながら、
どこら辺のスポットがいいか、どのポイントを狙えばいいか…
そんな話をしているのを横で聞いていた。
面白い。

彼らはいつも二人連れだって、心霊スポットを巡っている。
スズキさんとは必ず二人だけで出掛けるらしい。
率先してスケジュールを立て、機材の準備をし、精力的に現地に行こうとするのは、
決まってモリヤマくんの方なのだという。
それもかなり頻繁に。
そして、現地で暫く写真など撮ったあと、こういってモリヤマくんが帰宅を促す。
「なかなか会えないな…。今日はこれで終わり」といった感じ。
スズキさんは彼に只々、付いていくだけだそうだ。

そのうち、ウエイトレスのお姉さんが近付いてきて、モリヤマくん宛てに電話がかかってきたことを告げた。
仕事が追っかけて来ているのだろうか?
「ごめん、電話だって。ちょっと行ってくる。適当にやってて。この写真もあるからさ」
モリヤマくんは別の写真の束を取り出し、テーブルに置いて行ってしまった。
スズキさんとおいらは二人きり、向い合わせに残された。


546おいら ◆9rnB.qT3rc:2009/12/09(水) 01:38:20 ID:iYJ4qfoc0

3/4
適当にやってろと言われても、いま一つ場が持たない。気まずい。
モリヤマくんが置いていった束の中に、
以前見た「例の写真」もあることに気付いた。
仕方がない。
それを指さしながら、あの夜の話をする。

「いやー、実はこの前、バイト先でこの写真を見てたとき、凄い目に逢いましたよ」
「彼に禁止されていたのに、これを見た先生がまるで悪魔だ!って言いそうにーー」

はっとした。
今、おいら自分で何て言った?
…ヤバい!この写真の話をしてしまった。ウッカリしていた…。
あいつがまた来る…。白く冷たいやつが…。
身を硬くして待った。
…だがあいつは来なかった。

スズキさんが、ははと笑った。
「…はは、そうですよね~。よくこの写真を見た人に言われてしまいます」
「それも僕が一人の時に、直接言ってくるんですよ。僕だって怖いし、ひどいですよね~」
え…?いま、この人なんて言った?
言われる?スズキさんが、直接?

「あの…ちょっと聞いていいですか?」
「はあ…」
「そういう風にあなたに言った人に、何か起こったりしてます?」
「いえ」
「その時…なにも起こらない?本当に?」
「後からよく言われるんですよ。あの写真は凄かった。まるで悪魔だったって」
「でもその後、その人に何かあったとかいう話は聞かないです」
スズキさんはキョトンとした顔だ。

おかしい。何か変だ。


547
おいら ◆9rnB.qT3rc:2009/12/09(水) 01:39:46 ID:iYJ4qfoc0

4/4
おいら達はあの夜、「悪魔」と言いかけただけで、あいつに襲われた。
一方で、この写真をどうのこうの言っても、あいつには遭わない人がいる。
この二つの違いは何だ?頭の中で整理してみた。

状況は3パターンある。
1・先生の家では、居たのは先生とおいらとモリヤマ。居なかったのはスズキ。襲われた。
2・スズキさんが直接言われたときは、居たのはスズキとそれを言った人。
居なかったのはモリヤマとおいら。その人は襲われていない。
3・今さっきおいらが口走ってしまったとき、居たのは言ってしまったおいらとスズキ。
居なかったのはモリヤマ。
今、彼は電話のために外にいる。で、これも襲われなかった。

スズキさんが原因とは考えられない。
「2」と「3」の通り、彼に直接それを言っても、あいつは来ないのだから。
つまり、スズキさんが怒って呼び出している訳ではない。
…ということは、あいつはスズキさんに憑いているモノではない。ということか。
…。
あいつが来るとき、そこにいる人物が一人居る。
その人物が居ないとき、あいつは現れない。

モリヤマくんだ。
彼はあいつが来るのを止められないんじゃない。

彼があいつを呼んだのだ。                         

  




531
おいら ◆9rnB.qT3rc:2009/12/03(木) 21:46:55 ID:3RdLatZk0

先日、コトリバコ系の話を聞きました。
蠱毒にも近いかも。呪いの酒のお話。
宜しければ。

【カクシュ】

友人が以前、日本酒の酒蔵に見学に行ったとき、そこの杜氏さんが教えてくれたという話。
見学の後、旅館で宴会をし、そのまま二次会に入って、部屋で呑み続けるのが普通の流れだという。
いつもは杜氏さんは一次会でお帰りになってしまうのが常だった。
あの仕事は朝早いから。
だが、今回出席された、そのかなりお歳を召した杜氏さんは帰られない。
聞くと、今年の仕込みも終わり、これで引退を考えているので、明日は休みを取ったとのこと。
杜氏さんと夜更けまで酒が飲めるなんて中々出来ることではない。
仲間は皆めちゃくちゃ喜んだという。
酔った勢いか、「ココにゃー、恐ろしい酒がある」と、杜氏さんが口を滑らせた。
皆即座に食いついた。

その酒蔵はT県にあり、純米吟醸としては、結構な石高を出しているところだが、
そこの蔵の奥の古蔵には、見るのも呑むのも禁止された、禁断の酒があると言うのだ。
「カクシュ」と杜氏さんは呼んでいた。
杜氏さんいわく、自分も飲んだ事はない。
しかし若い頃、箱の封印を解いてその酒瓶を見た事があるという。
杜氏さんの言ったことを要約すると以下の如し。

口の広い、白い陶器製のカメに入り、同じ陶器製の蓋がはまっていた。
それは大きな骨壷の様にも見えて、気味が悪かった。
凡字のようなものが書かれた細い帯で、何重にも厳重に封印されていた。
かなり古いもののようだった
振るとジャボジャボンと音がした。
ゴツっという音も時折する。
蓋を開けると、何か骨のようなものが漬けられていた。
原酒のような、かなり高いアルコール濃度の酒のようだった。
匂いを少し嗅いでみると、気が遠くなった。
何かヤバい気がして、口をつけることが、どうしても出来なかった。

「そこまでしながら、どうして呑まなかったのですか?」と聞くと、畏れ多くて呑めたものでは無かったという。
杜氏さんはその後、当時の杜氏長に、めちゃくちゃ怒られたそうだ。
もう少し匂いを嗅いでいたら、呪いと毒で本当に死んでいたぞと怒鳴られた。
長は、若い杜氏さんに泣きながら説教したそうだ。


532おいら ◆9rnB.qT3rc:2009/12/03(木) 21:47:47 ID:3RdLatZk0

「なんだったんですか?結局?」皆は興味深深。
「変な動物の骨と角を漬けてあった」と、杜氏さんは答えた。
以下はその杜氏さんが杜氏長から内々で教えて貰った、その骨と角の話。
聞いた後、全て忘れろと言われたという。

1800年代。
当時T県の山奥の村では飢饉に喘いでいた。
時は天保の大飢饉の頃。
平地では食えるものは全て採り尽くしたあと、
食用になるものを求めて、ある樵が山中をさ迷っていたとき、
山道の向こうから、牛と猿の合いの子のような動物がこちらにトコトコ歩いてきているのを見た。
樵は思った。
丸々と太ったその動物を仕留めて持って帰れば、村全体が暫くは凌げる。
それともウチの家族だけで独り占めしようか。
肉を塩漬けにすれば数ヶ月は持つだろう。
どうやって連れて帰ろうか?ここで殺すか?俺に卸せるのか?
樵の思案を読んだように、その動物は言葉を喋ったという。

「俺を喰っても美味くはないぞ」
「おまえの村に残っている小豆を、少し喰わせてくれたら、おまえの村を救ってやる」と。

樵は考えあぐねた挙句、取り敢えず村まで連れて行くことにした。
自分独りでは、この言葉を話す動物は、手に負えないと思ったから。
そいつは、お気楽な感じで素直にトコトコついて来たそうだ。
既に小豆など、とうの昔に食い尽くし、
もう何人も食いぶちを間引いていた村人は、
樵の話などに耳を貸さず、早速にこの動物を殺して卸そうと殺到した。
十数人がかりで打ち据えた。
でも、その動物は鎚や鍬で頭を何回叩かれても死ななかったという。
腹を裂かれ、体をバラバラにされながら、
その動物はずっと静かに呪いの言葉を唱えていたそうだ。

結局、その動物の肉を喰った村人は、じきにその全員が血と自分の臓物を吐いて死んだ。
その肉にありつけなかった女子供や、力の弱い村人だけが逆に生き残ったのだと。

その後、その動物の屍骸はどうなったか?
杜氏長の話はここまでだったという。
何故、忘れなければならない話を俺にしたのかと杜氏さんが問うと、
アレを見た者はその謂れを知る必要があるからだ。と杜氏長は言った。


533おいら ◆9rnB.qT3rc:2009/12/03(木) 21:51:09 ID:3RdLatZk0
酒蔵というものは、本来年貢として徴収されてしまうはずの米の、
少しずつの上澄みを小作から集め、酒にして売り、
その金を小作に還元することが出来た数少ない庄屋さんが前身の場合が多い。
村人にとっては当時の現金収入は、何物にも変え難い。
それが本当の意味での「庄屋さま」だ。
故に、そういった酒蔵や醤油蔵は、今でもその地域の盟主であることがが多いのだと。
この酒蔵も例に洩れず、現在は政界財界に口が聞く、
その道では知られた存在だという。

ワシはもう辞める。
もう、あのカクシュがあるこの蔵に来ることは無い。
アレがあの古蔵にあることは、今の若当主も知らないかも知れない。
この話もあんたたちには関係がない。忘れてくれ。
あんたたちが騒いだところで、何の影響も及ぼすことは無いし、出来ない。
まあ、そもそもあんたたちはアレを見ていないからな。
及ぼされる事は無い。
そう杜氏は哄ったという。

酒には呑む以外にも、幾つか用途がある。
ひとつは消毒、ひとつは漬けた状態にしての保存だ。
昔は首級も実見に持って行く際には酒樽に漬けていた。

杜氏さんは杜氏長にこう言われたそうだ。
あのカクシュは呑むモノじゃない。
あの骨と角を末永く保存するために、清く酒漬けにしてあるのだと。
いつか誰かが、何かの目的のために、それを使うことがあるかもしれないから。  




http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/study/9405/1209619007/-100

539
おいら ◆9rnB.qT3rc:2009/12/06(日) 21:26:03 ID:2oTupN9A0

おいらが何人か知っている、「訳アリ」な女の子の話を。
宜しければ。


【踏切】
1/5

遮断機が降りている。
赤い点滅が辺りの闇を染め、のんのんのんのんと渇いた電鐘の音が鳴り響いている。
列車進行方向指示器の矢印が、「←」で光っている。
K崎行きの上り電車が来る。
横に女性が並んだ。見たところ学生?大学の帰りか。急いでいるようだ。
チラ見すると、チェックのスカートから伸びる脚が、暗がりに赤く点滅して、眩しい。
独り身になってしばらく経つよな…。
ああ、彼女がホスィ。

催眠効果でぼーっとした車が入り込まないように、
点滅と鐘の音のタイミングは微妙にずらしてあると聞いたことがあったな。

…まあいいか。
おいらとその女子大生は、そのまま待ち続けた。
その時から、少しぼーっとしていたのかも知れない。
…。
…。
おかしい。一向に電車の来る気配が無い。
何分待たせるんだこの踏切?

右手にヘッドライトの明かりが二つ見えた。やっと来たか。
轟音をあげて、目前を通り過ぎるN武線上り電車。
乗客の数は多くない。
夜の電車は車輌の照明で中の様子が良く解るが、
妙だったのは、乗っていた客がみんな、こちらを向いていたことだ。


540おいら ◆9rnB.qT3rc:2009/12/06(日) 21:27:08 ID:2oTupN9A0

2/5

おいら達を見ていた。
全ての車輌の全員が、こっちを見つめていた。
その何人かと、はっきりと目が合った。
口を開け、何か言いたそうな顔をしていた。
ただ一人、最後尾の車掌さんだけ、後ろの方を指差していた。
「あれを見ろ」とでも、言いたげな顔をしていた。
赤い点滅と電鐘の音、電車通過の轟音の中、ぼーっとそれを見送った。

…何だったんだ今のは?
…だめだ、イマイチ解釈出来ない。
点滅と鐘の音はまだ止まらない。
また「←」の矢印が赤く光っている。
また上り電車かよ。
この赤い点滅と音で思考に蓋をされた中、いい加減イライラしてきた。

横の女子大生が何かブツブツ言っているのに気付いた。
彼女も結構イラついているらしい。
そりゃそうかも。

右手を見ると、今度は赤い光が二つ、近づいてきていた。
この時一瞬、思考が回った。
おかしい。
赤は尾燈の色だろ?遠ざかるはずだぞ?
しかし、その赤い光は確かにこちらに向かって来ている。
…あの光は電車じゃない。別の何かだと直感した。
耳がキーンとしてきた。

すると突然、横の女子大生が遮断機を押し上げて、踏切の中に入り始めた。
「あ…危ないっすよ!」
流石においらも危険を感じて、腕を掴んで引き戻そうとした。
だが、できなかった。
彼女はブツブツ言いながら、無理やり中に入ろうとしている。
引き寄せられない。
女性とは思えない、すごい力だ。

右を見ると、二つの赤い光はもうそこまで来ていた。
それは電車ではなかった。


541おいら ◆9rnB.qT3rc:2009/12/06(日) 21:28:34 ID:2oTupN9A0

3/5

大きな、黒い口だった。
赤く光る双眸が、おいら達を見下ろしていた。何だコイツは?
なんだかワニの口のように見えた。
確かに爬虫類の感覚があった。
何故かは判らないが。

ヤバい。彼女の腕を掴んだ両手に、渾身の力をこめて、こっちに引き戻す。
ビリリと彼女のブラウスが肩口から裂ける音がした。
ブラウスの袖が抜けた。
彼女の腕はおいらの両手からすっぽりと抜けて…そのまま彼女は線路の上に踊り出た。

風を切り裂く音が耳をつんざく。
バキバキグモバキ!
骨肉が砕ける音がした。
その黒い口は、目の前で彼女を頭から飲み込み、そのまま走り抜けていく。
チェックのスカートと、そこから伸びた白い脚が、瞬間目に焼き付いた。
おいらはちぎれたブラウスの袖をもったまま、
そいつが闇に消えて行くのを、茫然と見送るだけだった。

訳がわからない。
ただ目の前で女性が一人、線路をやって来た大きな黒い口に喰われた。
くそ、こんな事があったのに、まだ頭がぼーっとしている。動け頭。

電鐘の音が止む。遮断機が上がり始めた。
線路を越えた向こうに誰か居る。暗がりに目を凝らすと、ブラウスの片袖が無い。
さっき喰われた彼女だった。
ポカーンとしている。
よかった…無事だった。
思わず駆け寄った。

「大丈夫ですか?怪我とかしてませんか?」
「あ…あの、すみません、私…どうかしましたか?」と彼女。
自分が何をしようとしていたか、どうなったか覚えてないらしい。
こっちもまだ心臓がまだバクバクしていたが、
息を整えながら、鈍くなった頭で経緯を思い出せる限り説明してやった。


542おいら ◆9rnB.qT3rc:2009/12/06(日) 21:29:33 ID:2oTupN9A0

4/5

説明している間じゅう、不思議な気分だった。
ばあちゃんや女の子の霊、
ワケの判らないモノは見たこともあるが、
あんな怪獣のような具体的な化け物はこれまで見たことが無い。
それも、結果的に見ず知らずの女子大生を助けてしまうとは…。
一種、運命的なものを…感じちゃっていいのかしら?おいらw

「またやっちゃった…気をつけていたのに…」
彼女は胸の真ん中をギューっと握りしめた。…お守りか何かなのか?
またやっちゃったって?
何なんだこの女子大生?

今の独り言を聞く限り…この子は「訳アリ」の部類に入る。曰く付きの…という意味だ。
「ブラウス、破いてしまってすみません」というと、
「あ…」
今更、引き裂かれたブラウスに気付いて、恥ずかしそうに肩口を引き合わす。色っぽい。

取り敢えず近くの交番まで送り、名刺だけ交換して別れた。
思った通り女子大生だった。
ミカドさんていうのか。大学のゼミの名刺だった。
「S大学民俗学フィールドワーク」
もしかすると、ここも色々と訳アリなゼミなのかも知れない。
大変興味深い。

ただ、おいらはここで致命的な間違いを犯した。
何と言うことをしてしまったのか…。
いまさら、どうしようもない。あの時、頭が冴えてさえいれば…と後悔した。
ヘコんだ。流石にその後、何日間か寝込んだ。


543おいら ◆9rnB.qT3rc:2009/12/06(日) 21:30:35 ID:2oTupN9A0

5/5

彼女の携帯の番号とメアドを交換するのを忘れた。

悔やんでも悔やみきれない。 


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