サイケデリック・奇譚

永遠の日常は非日常。

タグ:メンヘラ

706 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/13(土) 16:09:33 ID:kgXMFP4hO
『全く!』
看護婦はそう吐き捨て、再び見回りに行った。

いや、それどころでは無い!『中年女』に見つかってしまった!
どうすればいい?逃げるべきか?先程の看護婦に助けを求めるべきか?

俺の頭はグルグル回転し始め、心臓は勢いを増しながら鼓動した。

俺は『中年女』から目を離せずにいると、
『中年女』は俺から視線を外し、何事も無かったように、再びゴミの分別作業をし始めた。
『え!?』
俺は躊躇した。その想定外の行動に。

俺の頭には、
『襲い掛かってくる』
『俺を見続ける』
『俺を見てニヤける』 と、相手が俺に関わる動向を見せると思っていたからである。

俺はしばらく突っ立ったまま、『中年女』を見ていたが、
黙々とゴミの分別をしていて、俺のことなど気にしていないようだった。
『何かの作戦か?』と疑ったが、俺の脳裏にもう一つの思考が浮かんだ。
『中年女』≠『掃除オバさん』? やはり、似ているだけで別人・・・?!




708 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/13(土) 16:11:46 ID:kgXMFP4hO
俺と淳が疑心暗鬼になりすぎていたのか?!
やはり『中年女』とは赤の他人の別人なのか?
そう一人で俺が考えている間も、その女は黙々と仕事をしている。
俺は意を決して、出入口に歩き出した。
すなわち、『その女』の近くに・・・


少しずつ近づいてくるが、相手は一向にこちらを見る気配が無い。
しかし、俺はその女から目を離さず歩いた。
あっという間に何事も無く、俺はその女の背後まで到達した。
女は一生懸命ゴミの分別をしている。
手にはゴム手袋をハメて、大量のゴミを『燃える』『燃えない』『ペットボトル』に分けていた。
 
その姿を見て俺は、やはり別人か・・・と思っていると、
その女はバッ!っとこちらを見て、『大きくなったねぇ~』と俺に話し掛けてきた。
俺は頭が真っ白になった。
大きくなったねぇ?
オオキクナッタネェ?この人は俺の過去を知っている??
この人、誰?
この人、『中年女』? こいつ、やっぱり『中年女』!!



709 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/13(土) 16:14:23 ID:kgXMFP4hO
その女は作業を中断し、ゴム手袋を外しながら俺に近寄ってくる。
その表情はニコニコしていた。
俺はどんな表情をすればいい???
きっと、とてつもなく恐怖に引きつった顔をしていただろう。

女は俺の目前まで歩み寄って来て、
『立派になって・・・もう幾つになった?高校生か?』と尋ねてきた。
俺はこの女の発言の意味が判らなかった。


何なんだ?
俺をコケにしているのか?
恐怖に引きつる俺を馬鹿にしているのか?
何なんだ?
俺の反応を楽しんでいるのか?


俺が黙っていると、
『お友達も大きくなったねぇ・・・淳くん。可哀相に骨折してるけど。お兄ちゃんも気付けなあかんよ!』
と言ってきた。

もう、意味が全く解らなかった。
数年前、俺達に何をしたのか忘れているのか?
俺達に恐怖のトラウマを植え付けた本人の言葉とは思えない。
女は尚もニヤニヤしながら、『もう一人いた・・・あの子、元気か?色黒の子いたやん?』
『!!』
慎の事だ!
何なんだコイツは!まるで久しぶりに出会った旧友のように。
普通じゃない。わざとなのか?
何か目的があって、こんな態度を取っているのか?



898 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/16(火) 05:10:19 ID:RGbZkkkIO
俺は『中年女』から目を逸らさず、その動向に注意を払った。
こいつ、何言ってるのか分かってるのか?
『あの時はごめんね・・・許してくれる?』と中年女は言いながら、俺に近づいてくる。
俺は返す言葉が見つからず、ただ無言で少し後退りした。
『ほんまやったら、もっと早くあやまらなあかんかってんけど・・・』
俺は耳を疑った。
こいつ、本気で謝罪しているのか?それとも何か企んでいるのか?

ついに『中年女』は、手を伸ばせば届く範囲にまで近づいてきた。
『三人にキチンと謝るつもりやったんやで・・・ほんまやで・・・』と言いながら、ますます近づいてくる!
もう息がかかる程の距離にまで近づいた。

あの時とは違い、俺の方が身長は20㌢程高く、体格的にも勿論勝っている。
俺は『中年女』に指一本でも触れられたら、ブッ飛ばしてやる!と考えていた。



902 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/16(火) 05:54:02 ID:RGbZkkkIO
『中年女』は俺を見上げるような形で、俺の目を凝視してくる。
しかし、その目からは『怨み』『憎しみ』『怒り』など感じられない。真っ直ぐに俺の目だけを見てくる。
『あの時はどうかしててねぇ、酷い事したねぇー・・・』と、『中年女』は謝罪の言葉を並べる。
俺はもう、 その場の『緊張感』に耐えれず、ついに走りだし、その場を去った。


走ってる途中、もし追い掛けられたら・・・と後ろを振り向いたが、
『中年女』の姿は無く、ある意味拍子抜けた。

走るのを止め、立ち止まり考えた。
さっきのは、本当に本心から謝っていたのか?
俺は『中年女』を信じることが出来なかった。疑う事しか出来なかった。
まぁ、あの事件の事があるから当たり前だが。


俺は小走りで、先程の場所近くに戻ってみた。
そこには再びゴム手袋をはめ、大量のゴミの分別をする『中年女』の姿があった。
こいつ、本当に改心したのか?
必死に作業をする姿を見ると、昔の『中年女』とは思えない。
とりあえず、その日はそのまま帰宅した。



186 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/25(木) 09:13:15 ID:JIG/s1vbO
俺は自室のベットに横になり、一人考えた。
人間は、あそこまで変わることが出来るのか?
昔、鬼の形相でハッピー・タッチを殺し、俺を、慎を、淳を追い詰め、放火までしようとした奴が。
『ごめんね』など、心から償いの言葉を発することが出来るのか。


いや、ひょっとしてあの事件をきっかけに、俺が変わってしまったのか?
疑心暗鬼になり、他人を信じる事が出来ない、『冷たい人間』になってしまったのか?
『中年女』の謝罪の言葉を信じることで、あの事件の精神的な呪縛から解放されるのか?

もう一度『中年女』に会い、直接話すべきだ。
俺は『中年女』にもう一度会うこと、今度は逃げないこと!と決意を固め、その日は就寝した。



187 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/25(木) 09:15:28 ID:JIG/s1vbO
次の日、俺はバイトを休み病院に行った。
まずは淳の病室に入り、昨日の出来事を説明した。
そして、今日は『中年女』に会い、直接話してみるつもりだ。と言う事を伝えた。

淳は最初、「『中年女』は変わっていない!」と俺の意見に反対だったが、
『このまま一生、中年女の存在に怯え、トラウマを抱えたまま生きていくのか?』と俺が言うと、
『・・・『中年女』に会って話すんだったら、俺も付き合う・・・』と言ってくれた。



218 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/29(月) 02:59:44 ID:/lsJmPn1O
しばらく沈黙が続いた。
刻々と時間は過ぎ、面会時間終了のチャイムが鳴ると同時に、
ガラガラガラ・・・
廊下の奥の方から、ゴミ運搬台車の音が聞こえてきた。
『来たな・・・』
淳がボソッと呟いた。

俺は固唾を飲んで、部屋の扉へ視線を送った。
ガラガラガラ
台車の音が部屋の前で止まった。

部屋の扉が開いた。
作業服の『中年女』、が会釈しながら入室してきた。
俺と淳はその姿を目で追った。
『中年女』は、奥のベットから順にゴミ箱のゴミを回収し始めた。
『ごくろうさん』と患者から声を掛けられ、笑顔で会釈をする中年女。
とても昔の『中年女』と同一人物とは思えない。

そしてついに、淳のベットのゴミ回収に『中年女』がやってきた。


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215 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/09(火) 00:11:08 ID:nBGSDY0VO
『・・・んぢゃ、そろそろ帰るわ!あんま変な事考えてねーで、さっさと退院しろよ!』
と俺が言うと淳は、
『そだな・・・あの女が病院にいるわけねーよな。お前が違うって言うの聞いて安心したよ。
また来てくれよ!暇だし!』
と元気よく言った。

俺は病室を出ると、足早に階段を駆け降りた。

頭の中から、さっきのオバさんの顔が離れない。
『中年女』の顔は鮮明に覚えている。
しかし、中年女の一番の特徴といえば、イッちゃってる感だ。


さっきのオバさんは穏やかな表情だった。 もし、さっきのオバさんが『中年女』なら、
俺の顔を見た瞬間にでも奇声をあげ、襲い掛かって来てもおかしくない。
そうだ。やっぱり他人の空似なんだ。
と考えつつ、なぜが病院にいるのが怖く、早々に家路についた。





522 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/10(水) 05:08:36 ID:r7yve5IpO
家に帰ってからも『中年女』=『掃除オバさん』の考えは払拭しきれなかった。
やはり気になる・・・
その日は眠りに落ちるまで、その事ばかり考えていた。


次の日、『掃除オバさん』の事が気になり、俺はバイトを早めに切り上げ、病院に行くことにした。
俺のバイト先からチャリで30分。
病院に着いたときには20時を回っていて、面会時間も過ぎていた。
もう、『掃除オバさん』も帰っている事は明白だったが、臨時入口から病院に入り、
とりあえず淳の病室に向かった。


こっそり淳の病室に入ると、淳のベットはカーテンを閉めきってあった。
寝たのか?と思い、そーっとカーテンを開けて、隙間から中を覗いた。
『うわっ!』
淳が慌てて飛び起き、『ビックリさせんなよ!』と言いながら、何かを枕の下に隠した。
淳は●本を熟読していたようだ。



523 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/10(水) 05:11:16 ID:r7yve5IpO
俺は敢えて●本の事には触れずに、
『暇だろーと思って来てやったんだよ!』と淳の肩を叩いた。
淳は少し気まずそうに、
『おぅ!この時間暇なんだよ!ロビーでも行って茶でもしよか?』と言った。
俺は車椅子をベットの横に持って来て、淳の両脇を抱え、淳を車椅子に乗せてやった。
淳が『ロビー一階だから、ナースに見つからんよーに行かんとな!』と小声で言った。

俺達はコソコソと、まるで泥棒の様に一階ロビーに向かった。
途中、何人かのナースに見つかりそうになる度、気配を消し、物陰に隠れ、
やっとの思いでロビーに着いた。


昼間と違いロビーは真っ暗で、明かりといえば自販機と非常灯の明かりしかなく、
淳が『何か暗闇の中をお前とコソコソするの、あの夜を思い出すよなぁ』と言った。
『そだな。何であの時、アイツの事を尾行しちまったんだろーな・・・』
と俺が言うと、淳は黙り込んだ。


525 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/10(水) 05:18:19 ID:r7yve5IpO
俺は今日病院に来た理由、すなわち、
『掃除オバさん』の事について淳に言おうと思ったが、躊躇していた。
淳はこの先、1ヵ月近く此処に入院するのに、そのような事を言うのは・・・と。
またあの時のように、原因不明のジンマシンが出るかもしれない。


すると淳が、『お前、あのおばさんの事で来たんじゃないのか?』と。
俺はとっさに『え?何が?』ととぼけたが、
淳は『そーなんだろ?やっぱり似てる・・・いや、『中年女』かもしれないんだろ?』
と、真顔で詰め寄って来た。

俺はその淳の迫力におされ、『たしかに似てた・・・雰囲気は全然違うけど・・・似てる』
淳はうつむき、『やっぱり。前にも電話で言ったけど・・・』と語り始めた。



653 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/12(金) 18:32:27 ID:ywb0WCOQO
淳は少し声のトーンを下げ、
『俺が入院して二日目の夜、足と腰が痛くて痛くてなかなか眠れなかったんだ。
寝返りもうてないし、消灯時間だったし、仕方ないから、目つむって寝る努力をしていたんだ。
そして少し睡魔が襲ってきて、ウトウトし始めたとき、視線を感じたんだ。
見回りの看護婦だろうと思って無視してたんだけど、
なんか、ハァ・・・ハァ・・・って息遣いが聞こえてきて、何だろう?隣の患者の寝息かなぁ?って思って、
薄目を開けてみたんだよ。

そしたら、俺のベットカーテンが3㌢程開いてて、その隙間から誰かが俺を見ていたんだ。
その目は明らかに、俺を見てニヤついてる目だったんだ。
俺、恐くて恐くて、寝たふりしてたんだけど・・・
そして、そのまま寝てたらしく、気付いたら朝だったんだ。
後から考えたんだ。あのニヤついた目、どこかで見覚えが・・・
そーなんだよ。『掃除オバさん』の目にそっくりだったんだよ!』



656 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/12(金) 18:38:25 ID:ywb0WCOQO
ニヤついた目。俺はその目を知っている!
『中年女』に、そのニヤついた目つきで見つめられた事のある俺には、すぐに淳の言う光景が浮かんだ。
更に淳は話を続けた。
『それにあの『掃除オバさん』、ゴミ回収に来た時、ふと見ると、何かやたら目が合うんだ。
俺がパッと見ると、俺の事をやたら見ているんだ。半ニヤけで・・・』
それを聞き、俺が抱いていた疑問、『中年女』=『掃除オバさん』は確信に変わった。

やっぱりそうなんだ。社会復帰していたんだ!
缶コーヒーを握る手が少し震えた。
決して寒いからでは無い。体が反応しているんだ。
あの恐怖を体が覚えているんだ・・・。



701 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/13(土) 16:00:57 ID:kgXMFP4hO
その時、俺の後方から突如、光が照らされた。
『コラ!』
振り向くと、そこには見回りをしている看護婦が立っていた。
『ちょっと淳君!どこにもいないと思ったらこんなとこに!
消灯時間過ぎてから、勝手に出歩いちゃダメって言ってるでしょ!
それに、お友達も面会時間はとっくに過ぎてるでしょ!』と、かなり怒っていた。

淳は『はいはい・・・んぢゃ、また近いうちに来てくれよな!』と、
看護婦に車椅子を押され病室に戻って行った。
『おぅ!とりあえず、気つけろよ!』と言った。

俺もとりあえず帰るかと思い、入って来た急患用出入口に向かった。

それにしても、夜の病院は気味が悪い。
さっきまであの女の話をしていたからか?と思って歩いていると、
ん?廊下の先に誰かがいる。
あれは・・・『掃除オバさん』・・・?
いや、『中年女』か?
『中年女』らしき女が何かしている。



704 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/13(土) 16:07:18 ID:kgXMFP4hO
間違いない!『中年女』だ!この先の出入口付近で何かしている!
俺はとっさに身を隠し、『中年女』の様子を伺った。
うやら俺には気付かず、何かをしているようだ。
中腰の態勢で何かをしている。
俺は目を凝らし、しばらく観察を続けた。


何か大きな袋をゴソゴソし、もう一方に小分けしている?
尚も『中年女』はこちらに気付く様子も無く、必死で何かしている。
ひょっとして、病院内の収拾したゴミの分別をしているのか?
(俺達の地元は、ゴミの分別がルールとなっている)


その時に後ろから、
ちょっと、まだいたの?私も遊びじゃないんだから、いい加減にして!』と、さっきの看護婦が。
俺はドキッとし、『あ、いや、帰ります!どーも・・・』と言い、出入口に目をやると、
『中年女』はこちらに気付き、ジィーっとこちらを見ていた。



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802 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 05:27:36 ID:UOWDTjZwO
警官『自宅前をパトロールしてると、玄関に人影が見えまして、
あの女なんですけど・・・しゃがみ込んで、ライターで火を付けていたんですよ。
玄関先に古新聞置いてますよね?』
母『いえ、置いてないですけど・・・?』
警官『じゃあ、これもあの女が用意したんですかねー?』と指差した。
そこには新聞紙の束があった。
確かに、うちがとっている新聞社の物では無かった。

警官が『ん?』と何かに気付き、新聞紙の束の中から何かを取り出した。

木の板。
それには『○○○焼死祈願』と、俺のフルネームが彫られていた。
俺は全身に鳥肌が立った。
やはり俺の名前を調べ上げていたんだ。
もし警察がパトロールしていなかったら・・・ と、少し気が遠くなった。

母は泣きだし、俺を抱き締めて頭を撫で回してきた。
警官はしばらく黙っていたが、
『実はあの女・・・少し精神的に病んでまして・・・○○町にすんでいるんですけど、
結構苦情・・・まぁ、同情の声というのもあるんですがねぇ・・・』と、中年女の事を語りだした。





810 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 05:55:14 ID:UOWDTjZwO
『あの女、1年前に交通事故で、主人と息子を亡くしてまして・・・
それ以来、情緒不安定と精神分裂症というか・・・まぁ近所との揉め事なども出てきだしましてね。
山で発見された少女の写真で、あの女の特定は出来ていたんですよ。
二年前の交通事故・・・
あの少女が道路に飛び出してきて、ハンドルをきって壁に衝突。
それで主人と息子が亡くなったんですよ・・・
飛び出した少女は無傷で助かったんですが・・・
以来、あの少女の家にも散々嫌がらせをしているんですよ。
ただ事故が事故なだけに、少女の家からは被害届けはでてないんですが・・・
あの少女を相当怨んでいるんでしょうね・・・』


俺はその話を聞き、同情などは一切出来なかった。
むしろ『中年女』の執念深さがヒシヒシと伝わってきた。
何よりも、警官も認める情緒不安定・精神分裂症。これでは、すぐに釈放になるのではないか?
釈放後、また『中年女』の存在に怯え生きていかなければならないのか?
警官の話を聞き、安堵感よりも絶望感が心に広がった。



813 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 06:10:00 ID:UOWDTjZwO
それから5年。
俺、慎、淳は、それぞれ違う高校に進んでいた。
俺達はすっかり会うことも無くなり、それぞれ別の人生を歩んでいた。
もちろん、『中年女』事件は忘れることが出来ずにいたが、恐怖心はかなり薄れていた。


そんな高一の冬休み、ひさしぶりに淳から電話が掛かってきた。
『おう!ひさしぶり!』
そんな挨拶も程ほどに、
『実は単車で事故ってさぁ・・・足と腰骨折って入院してんだよ』
『え?!だっせーな!どこの病院よ?寂しいから見舞いに来いってか?』
『まぁ、それもあるんだけどさぁ・・・お前、『中年女』の事って覚えてる?
事件の事じゃなくってさぁ・・・顔、覚えてる?』
『何で?何だよ急に!』
『毎晩、面会時間終わってから・・・変なババァが、俺の事を覗きに来るんだよ・・・ニヤつきながら』



889 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/08(月) 04:07:08 ID:PxVIZDoHO
淳の発した言葉を聞いたとたんに、『中年女』の顔を鮮明に思い出した。
始めて出会った、あの夜の歯を食いしばった顔。
下校時に出会った、いやらしいニヤついた顔。
自宅玄関で見た、狂ったような叫び顔。
あれから忘れる努力をしていたが、決して忘れることの出来ないトラウマだった。

俺は淳に、『何言ってんだよ?!もう忘れろ!ほんっとオメーって気が小せぇーなぁ?!』と答えた。

自分自身にも言い聞かせるように。
『そーだよな・・・いや、こーゆーとこって、妙に気が小さくなるんだよ!』
『そーゆーとこ、変わってねーな!』と余裕を見せた。
俺自身も、あの日のまま成長していないが。

そして入院している病院を聞き、『近いうちに●本持って見舞いに行くよ!』と言い電話を切った。

電話を切った瞬間、何故か胸騒ぎがした。
『中年女』
淳の言葉が、妙に気に掛かりだした。



890 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/08(月) 04:12:16 ID:PxVIZDoHO
電話を切った後、しばらく考えた。
まさか、今更『中年女』が現れるはずが無い・・・ それにあいつは捕まったはず・・・
いや、釈放されたのか??

というか、今思えば俺達三人は、『中年女』に何をしたわけでも無い。
ただ、『中年女』の呪いの儀式を見てしまっただけなのに、こちらの払った代償はあまりにも大きい。
偶然、夜の山で出会い、いきなり襲われた。

俺達は何一つ『中年女』から奪っていない。それどころか、傷付けてもいない。
『中年女』は俺達からハッピーとタッチを奪い、秘密基地を壊し、何より俺達三人に恐怖を植え付けた。
『中年女』がいくら執念深いといっても、さすがにもう俺達に関わってくるとは思えない。
こんなことを思うのも何だが、怨むなら写真の少女にベクトルが向くはず!
俺は強引に、俺自身を納得させた。



892 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/08(月) 04:33:09 ID:PxVIZDoHO
2日後、俺はバイトを休み、本屋で●本を3冊買ってから、淳の入院している病院に向かった。
久しぶりに淳に会うというドキドキ感と、
淳が電話で言っていた事に対するドキドキ感で、複雑な心境だった。


病院に着いたのは昼過ぎだった。
淳の病室は三階。俺は淳のネームプレートを探し出した。
303号室の六人部屋に淳の名前があった。

一番奥、窓側の向かって左手に淳の姿が見えた。
『よう!淳、久しぶり!』
『おう!まぢひさしぶりやなぁ!』
思ったより全然元気な淳を見て少し安心した。

約束のエロ本を渡すと、淳は新しい玩具を与えられた子供の如く喜んだ。
そして他愛も無い話を色々した。
淳といると、小学生の頃に戻ったようでとても楽しかった。無邪気に笑えた。

あっという間に時間は経ち、面会終了時間が近づいてきた。

『んぢゃ、もうそろそろ帰・・・』と俺が言いかけると、
『実はさぁ、電話でも言ったんだけど』と淳が、真顔で何かを言いかけた。



893 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/08(月) 04:44:17 ID:PxVIZDoHO
『中年女の事だろ?』と俺は言った。
すると淳は、『気のせいだとは思うんだけど・・・
いつもこの時間に来るオバさんがいてさぁ・・・何かこう・・・引っ掛かるっつーか・・・』

俺は『だから気のせいだって!ビクビクすんなよ!』と強気な発言をした。
すると淳は少しカチンと来たのか、
『だから、勘違いかもしんねーっつってんぢゃん!ビビりで悪かったな!』
空気が重くなった。 俺は空気を読み、淳に謝ろうとした。


そのとき、
ガラガラガラ・・・
廊下に、台車のタイヤ音が響いた。
淳が『来た・・・』とつぶやく。 俺は視線を部屋の入口に向けた。
ガラガラガラ
台車は扉の前に止まったようだ。
そして、扉が開いた。

そこには、上下紺色の作業着を着たオバさんが居た。
俺は『何だよ!脅かすなよ!ゴミ回収のオバさんじゃねーか』と、少し胸を撫で降ろした。
そのオバさんは、患者個人個人のごみ箱のゴミを回収しだし、最後に淳のベットに近づいてきた。
淳が小声で『見てくれよ!』
俺はそのオバさんの顔をチラッと見た。



894 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/08(月) 04:49:40 ID:PxVIZDoHO
『・・・!』
俺は息を飲んだ。
似ている・・・いや、『中年女』なのか?
俺は目が点になり、しばらくその人を眺めていると、そのオバさんはこちらを向き、
ペコリと頭を下げて部屋を出て行った。

淳が『どう?やっぱ違うか?!俺ってビビりすぎ?』と聞いてきた。
俺は『全然ちげーよ!ただの掃除オバさんぢゃん!』と答えた。
いや、しかし似ていた。
他人の空似なのか・・・?



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679 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/06(土) 02:25:17 ID:BiI+Rh5RO
10分程してから警察が来た。
警察には父が事情を説明していた。
俺は母親と居間にいたが、少ししてから警官が居間に来て、あの夜の事を聞いてきた。
ハッピーとタッチの事、木に釘で刺された少女の写真の事、
淳の名前が秘密基地に彫られていたこと・・・

その後、放課後に出会った事など、『中年女』に係わる全ての事を話した。
そして、さっきの出来事も。

鑑識らしき人も来ていて、俺が話している間に窓の指紋を採取していた。
俺が話した内容で、警官がもっとも詳しく聞いてきたことが、少女の写真の事だった。
その少女の容姿や面識の有無等聞かれたが、それについては『よく分からない』と答えるしかなかった。
そして裏山の地図を書かされ、
翌日、警察が調べに行くと言う事になり、自宅周辺の夜間パトロール強化を約束して、
警察官は帰っていった。

結局、指紋は出なかった。

しばらくして、慎と淳の親から電話がかかってきた。
親同士で何やら話していたが、
『中年女』に関する話というより、学校にどのように説明するかを話していたようだ。





686 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/06(土) 02:56:49 ID:BiI+Rh5RO
その夜、俺は何年かぶりに両親と共に寝た。
恥ずかしさなど微塵も無く、純粋に『中年女』が怖く、なかなか寝付け無かった。


次の日の朝、母親に起こされた時には、すでに午前8時を回っていた。
『遅刻する!』と慌てると、母が『今日は家で寝てなさい』と言う。
どうやら既に学校に事情を話したらしい。
父はすでに出社していたが、母はパートを休んでいた。

慎や淳も今日は学校を休んでいるだろう・・・と思ったが、あえて電話はしなかった。
慎は恐らく、厳格な両親に怒られている。
淳の両親は、不登校になった淳の真実を知りショックを受けている。と思うと、電話するのが恐かったから。

俺は自室に篭り、『中年女』が早く警察に捕まることだけを願っていた。
一時も早く、追い詰められる恐怖から解放されたかった。

母親は何故か、『中年女』の事を口にしてこなかった。
俺への気配り?と思い、俺も何も言わなかった。

昼飯を食べ、ふたたび自室に篭っていると、ドスっと家の外壁に鈍い音が響いた。
俺はとっさに、慎だ!と思った。
あいつは俺を呼び出す時、玄関の呼鈴を鳴らさず、窓に小石を投げてくる事がしばしばあったからだ。



688 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/06(土) 03:14:45 ID:BiI+Rh5RO
俺は窓から外を眺めた。
家の前の路地にある電柱に慎がいるはず!と思ったが、慎の姿は無かった。
どこかに隠れているのかと思い、見える範囲で捜したが何処にもいない。

その時、俺の部屋の下にあたる庭先から、『キャ!』と母親の声がした。
びっくりして窓を開け、身を乗り出して下を見た。
そこには母親が、地面を見つめながら口元に手を当てがい、何かを見て驚いていた。

俺は何が起こっているのか分からず、『どーしたの!』と聞いた。
母は俺の声にギクッと反応し、こちらを見上げ、驚いた表情で無言のまま家の外壁を指差した。
俺は良からぬ感じを察したが、母の指差す方向を見た。
そこには何やら、ドロっとした紫色した液体と、ゼリー状の物が付いていた。
先程のドスっの音の正体であろう。
視線を母の足元に落とし、その何かを捜した。

そこには、内蔵が飛び出た大きな牛蛙の死体が落ちていた。
母はしばらく呆然と立ち尽くしていた。

俺はすぐに『中年女』が頭に浮かんだ。
すぐに目で『中年女』の姿を捜したが、何処にも姿は見えなかった。
母はふと思い出したように居間に駆け込み、警察に電話をした。



690 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/06(土) 04:34:37 ID:BiI+Rh5RO
母は青い顔をしていた。
恐らくこの時始めて、『中年女』の異常性を知ったのだろう。
そうだ、あの女は異常なんだ。
きっと今も蛙を投げ込んできた後、俺や母の驚く姿を見てニヤついているはず・・・
きっと近くから俺を見ているはず・・・
鳥肌が立った。


警察早く来てくれ!心の中で叫んだ。
もうこの家は家では無い。
『中年女』からすれば鳥籠のように、俺達の動きが丸見えなんだ。
常に見られているんだと感じ出した。


しばらくしてパトカーがやってきた。
昨日とは違う警官二人だった。
警官一人は、外壁や投げ込んで来たであろう道路を何やら調べ、
もう一人は俺と母に、『何か見なかったか?』『その時の状況は?』などなど、
漠然とした事を何度も聞いて来た。

最後に警官が、不安を煽るような事を言って来た。
『たしか、昨日もいやがらせを受けているんですよね?
おそらく犯人は、すぐにでも同じような事をしてくる可能性が高いです』と。

俺はたまらず、
『あの呪いの女なんです!コートを着てる40歳ぐらいの女なんです!早く捕まえてください!』
と半泣きになって懇願した。



774 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 04:31:16 ID:UOWDTjZwO
すると警察官は、
『さっきね、山を見てきたんだよ・・・
犬の死体も、板に彫られたお友達の名前も、あと女の子の写真もあったよ。
今からそれを調べて、必ず犯人捕まえるから!』と言い、俺の肩をポンと叩くと、
母の元へ行き何やら話していた。
『主人に連絡を・・・』みたいな事を言われていたようだ。
壁に付いた蛙の染み、及びその死体の写真を撮り、1時間程で警官達は帰って行った。


しばらくして父親が帰宅した。
まだ5時前だった。昨日の今日だから心配になったのだろう。
夕食の準備をしている母も、夕刊を読んでいる父も無言だったが、
どことなくソワソワしているのが分かった。
もちろん俺自身も、次にいつ『中年女』が来るのか不安で仕方なかった。

その日の晩飯は家族皆が無口で、只テレビの音だけが部屋に響いていた。

そして夜11時過ぎ、皆で床に就いた。
用心の為、一階の居間は電気を点けっぱなしにしておくことになった。



775 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 04:40:45 ID:UOWDTjZwO
その夜も家族揃って同じ部屋で寝た。
もちろんなかなか寝付けなかった。
どれぐらい時間が過ぎただろう。
突然玄関先で、『オラァー!!』とドスの効いた男の声とともに、
『ア゛ー!ア゛ー!』と聞き覚えのある奇声、『中年女』の叫び声が聞こえた。

俺達家族は皆飛び起き、父が慌てて玄関先に向かった。
俺は母にギュッと抱き締められ、二人して寝室にいた。
カチャカチャ・・・ガラガラガラガラ!
父が玄関の鍵を開け、戸を開ける音がした。



782 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 04:55:14 ID:UOWDTjZwO
戸を開ける音と共に、
『ア゛ー!!チキショー!ア゛ァー!!ア゛ァァァァ!』
再び『中年女』の叫びが聞こえて来た。
『大人しくしろ!』『オラ!暴れるな!』と、男の声もした。
この時、俺は『警官だ!警官に捕まったんだ!』と事態を把握した。


中年女は奇声を上げ続けていた。
俺はガクガク震え、母の腕の中から抜けれなかったが、父親が戻って来て、
『犯人が捕まったんだ。お前が山で見た人かどうかを確認したいそうだが・・・大丈夫か?』
と 尋ねてきた。
もちろん大丈夫ではなかったが、これで本当に全てが終わる。
終わらせることが出来る!と自分に言い聞かせ、『・・・うん』と返事し、
階段をゆっくりと降り、玄関先に向かった。


玄関先から、
『オマエーっ!チクショー!オマエまで私を苦しめるのかー!』と、凄い叫び声が聞こえ、
足がすくんだが、父が俺の肩を抱き、
二人の警官に取り押さえられた『中年女』の前に俺は立った。



791 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 05:10:12 ID:UOWDTjZwO
俺は最初、恐怖の余り、自分の足元しか見れなかったが、父に肩を軽く叩かれ、
ゆっくりと視線を『中年女』に送った。

両肩を二人の警官に固められ、地面に顎を擦りつけながら、『中年女』は俺を睨んでいた。
相当暴れたらしく、髪は乱れ、目は血走り、野犬の様によだれを垂れていた。

『オマエー!オマエー!どこまで私を苦しめるー!』

訳のわからない事を『中年女』は叫び、ジタバタしていた。
それを取り押さえていた警官が、『間違いない?山にいたのはコイツだね?』と聞いてきた。
俺は中年女の迫力に押され、声を出すことが出来ず、無言で頷いた。

警官はすぐに手錠をはめ、『貴様!放火未遂現行犯だ!』と言った。

手錠をはめられた後も、ずっと奇声を発し暴れていたが、
警官が二人掛かりでパトカーに連行した。
そして一人だけ警官がこちらに戻って来て、『事情を説明します』と話し出した。



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365 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/01(月) 14:06:24 ID:jZMGGFeIO
俺はもう一度立ち止まり、目を凝らして後ろを眺めた。
・・・やっぱり誰もいない。
確かに俺の足音にマジって、後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえたのだが?
俺も淳のように、自分でも気付かないうちに、精神的に『中年女』追い詰められているのか?
ビビり過ぎているのか?
しばらく立ち止まり、ずーっと後ろを眺めた。


ドックンドックン鼓動を打っていた心臓が、一瞬止まりかけた。
15M程後方、民家の玄関先に停めてある原付きバイクの陰に、誰かがしゃがんでいる。
いや、隠れている。
月明かりでハッキリ黙視できないが、一つだけハッキリと見えたものがある。
コートを着ている!

しばらく俺は固まった。

隠れている奴は、俺に見つかっていないと思っているようだが、シルエットがハッキリ見える!

俺は一瞬混乱した。
中年女だ!中年女だ!中年女だ!中年女!中年女!
腰が抜けそうになったが、本能だろうか、
次の瞬間、
逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ逃げなきゃ!
と、もう一人の俺が俺に命令する。

俺は思いッキリ走った!運動会の時より必死に走った。
風を切る音以外聞こえない程、無呼吸で走った。





413 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/02(火) 17:47:42 ID:VN7lh4fvO
無我夢中で家に向かって走った。
家まであと10M。よし!逃げ切れる!

『!』

一瞬、頭にあることがよぎった。
このまま家に逃げ込めば、間違いなく家がバレる!

俺はとっさに自宅前を通過し、そのまま住宅街の細い路地を走り続けた。
当てもなく、ただ俺の後方を着いて来ているであろう『中年女』を巻く為に・・・

5分ほど、でたらめな道を走り続けた。

さすがに息がキレて来て歩きだし、後ろを振り向いた。
もう、『中年女』らしき人影も足音も聞こえて来ない。
俺は周囲を警戒しつつ、自宅方面へ歩き始めた。


再び自宅の10M程手前に差し掛かり、俺はもう一度周囲を警戒し、玄関にダッシュした。
両親が共働きで鍵っ子だった俺は、すばやく玄関の鍵を開け 中に入り、すばやく施錠した。
『フぅー・・・』
安堵感で自然とため息が出た。
とりあえず慎に報告しなければと思い、部屋に上がろうと靴を脱ごうとした時、玄関先で物音がした。

『!?』

俺は靴を脱ぐ体制のまま固まり、玄関扉を凝視した。
俺の家の玄関は、曇りガラスにアルミ冊子がしてある引き戸タイプなのだが、
曇りガラスの向こう側に・・・
玄関先に誰かが立っている影が映っていた。



451 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/03(水) 08:46:27 ID:FVrpBt6MO
玄関扉を挟んで1M程の距離に『中年女』がいる!
俺は息を止め、動きを止め、気配を消した。
いや、むしろ身動き出来なかった。
まるで金縛り状態・・・蛇に睨まれた蛙とは、このような状態の事を言うのだろう。
曇り硝子越しに見える『中年女』の影を、ただ見つめるしか出来なかった。


しばらく『中年女』は、じっと玄関越しに立っていた。微動すらせず。
ここに俺がいることがわかっているのだろうか?
その時、硝子越しに、『中年女』の左腕がゆっくりと動き出した。
そして、ゆっくりと扉の取手部分に伸びていき、
キシッ!と扉が軋んだ。
俺の鼓動は、生まれて始めてといっていいほどスピードを上げた。

『中年女』は扉が施錠されている事を確認すると、ゆっくりと左腕を戻し、再びその場に留まっていた。
俺は依然、硬直状態。

すると『中年女』は、玄関扉に更に近づき、その場にしゃがみ込んだ。
そして、硝子に左耳をピッタリと付けた。
室内の様子を伺っている!

目の前の曇り硝子に、『中年女』の耳が鮮明に映った。
もう俺は緊張のあまり吐きそうだった。鼓動はピークに達し、心臓が破裂しそうになった。
『中年女』に鼓動音がバレる!と思う程だった。



457 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/03(水) 09:18:17 ID:FVrpBt6MO
『中年女』は二、三分間、扉に耳を当てがうと再び立ち上がり、こちら側を向いたまま、
ゆっくりと一歩ずつ後ろにさがって行った。
少しづつ硝子に映る『中年女』の影が薄れ、やがて消えた。

『行ったのか・・・?』
俺は全く安堵出来なかった。

何故なら、『中年女』は去ったのか? 俺がここ(玄関)にいることを知っていたのか?
まだ家の周りをうろついているのか?
もし、『中年女』に俺がこの家に入る姿を見られていて、
俺の存在を確信した上で、さっきの行動を取っていたのだとしたら、
間違いなく『中年女』は、家の周囲にいるだろう。

俺はゆっくりと、細心の注意を払いながら靴を脱ぎ、居間に移動した。

一切、部屋の明かりは点けない。
明かりを燈せば、俺の存在を知らせることになりかねない。
俺は居間に入ると真っ直ぐに電話の受話器を持ち、手探りで暗記している慎の家に電話をかけた。

3コールで慎本人が出た。
『慎か?!やばい!来た!中年女が来た!バレた!バレたんだ!』
俺は小声で焦りながら慎に伝えた。
『え?どーした?何があった?』と慎。
『家に中年女が来た!早く何とかして!』
俺は慎にすがった。



546 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/05(金) 05:04:28 ID:8b48b6KiO
『落ち着け!家に誰もいないのか?』
『いない!早く助けて』
『とりあえず、戸締まり確認しろ!中年女は今どこにいる?』
『わからない!でも家の前までさっきいたんだ!』
『パニクるな!とりあえず戸締まり確認だ!いいな!』
『わかった!戸締まり見てくるから早く来てくれ!』


俺は電話を切ると、戸締りを確認しにまずは便所に向かった。
もちろん家の電気は一切つけず、五感を研ぎ澄まし、暗い家内を壁づたいに便所に向かった。
まずは便所の窓を、そっと音を立てず閉めた。
次は隣の風呂。
風呂の窓もゆっくり閉め、鍵をかけた。
そして風呂を出て、縁側の窓を確認に向かった。
廊下を壁づたいに歩き、縁側のある和室に入った。


縁側の窓を見て違和感を覚えた。
いや、いつもと変わらず窓は閉まって、レースのカーテンをしてあるのだが、
左端・・・人影が映っている。
誰かが外から窓に顔を付け、双眼鏡を覗くように両手を目の周辺に付け、室内を覗いている。
家の中は電気をつけていない為、外の方が明るく、こちらからはその姿が丸見えだった。
窓に『中年女』が、ヤモリの如く張り付いている。
俺は腰が抜けそうになった。



548 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/05(金) 05:31:11 ID:8b48b6KiO
これは動物の本能なのだろうか?
肉食獣を見つけた草食動物のように、俺はとっさにしゃがみ込んだ。
全身が無意識に震えていた。

『中年女』からこちらは見えているのか?
『中年女』はしばらく室内を覗き、そのままの体勢で、ゆっくりと窓の中心まで移動して来た。

そしてキュルキュルキュルと、嫌な音が窓からしてきた。
『中年女』の右手が窓を擦っている。左手は依然、目元にあり、室内を覗きながら。
キュルキュルキュル
嫌な音は続く。
俺の恐怖心はピークに達した。
何かわからないが、『中年女』の奇行に恐怖し、その恐怖のあまり、声を出す事すら出来なかった。


すると『中年女』は後ろを振り返り、凄い勢いで走り去って行った。
俺は何が起きたかわからず、身動きも出来ずに、ただ窓を見ていた。
すると窓の向こうの道路に、赤い光がチカチカしているのが見えた。
「警察が来たんだ!」
俺は状況が飲み込めた。
偶然通りかかったパトカーに気付き、『中年女』は逃げて行ったんだと。

しばらく俺はしゃがみ込んだまま震えていた。
プルルルルル!
その時、電話が突然鳴った。
もう心臓が止まりかけた。
ディスプレイを見ると、慎の自宅からの電話だった。



551 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/05(金) 05:47:22 ID:8b48b6KiO
俺は慌てて電話に出た。
『どう?』
『なんか部屋覗いとったけど、どっか行った・・・』
『そっか、親帰って来たんか?』
『いや、たまたまパトカー通って、それにビビって中年女逃げたんや思う』
『そーなんや!良かった。俺、お前んちの近くに不審者がいるって、通報しといてん。
でも、あいつに家バレたんやったら、そろそろ親にも相談しなあかんかもな・・・』
『・・・』
『俺も今日、親に言うから・・・お前も言えよ!もうヤバイよ!』
『・・・うん・・・』
そして電話を切った。


その30分後、母親がパートから帰って来た。
俺は部屋の電気を消したまま玄関に走り、母の顔を見た瞬間、安堵感からか泣き出した。
母親はキョトンとしていたが、俺はしばらく泣き続けた後、
『ごめんなさい』と冒頭に謝罪をし、『あの夜』の出来事から、さっきの出来事まで説明した。
説明の途中に父親も帰宅し、父には母が説明した。


その後、父が無言で和室の窓硝子を見に行った。
窓硝子は、鋭利な何かで凄い傷が付けられていた。
鋭利な何かが五寸釘だと、直感でわかった。
両親は俺を叱らず、母親は俺を抱きしめてくれ、父は警察に電話をかけていた。


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290 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/30(日) 02:31:44 ID:Ey4nh9XjO
この警官は、俺達の話を信じてくれてないのでは?と俺は思い始めた。
俺や慎が必死に助けを求めているのに、『親』『先生』ばかり言ってくる。
俺達は『中年女』の存在を裏付ける、証拠写真まで持参しているのに・・・
俺はもう一度警官に写真を見せつけ、『犬をこんな殺し方する奴なんだよ!』と言った。

すると警官はしばらく黙り込み、写真を手に取り、意外な一言を言った。
『ん~・・・これって犬?なの?』

『は?』と俺と慎は驚いた。
この人は何を言っているんだろう!と。
続けて警官は、『いや、君達を信じていない訳じゃないよ。じゃあもう少し詳しく教えて。ここが頭?』
警官は冗談を言っている訳では無く、本当に分からないようだ。

俺はハッピーの写真を取上げ、『だから・・・』と説明しかけて言葉が詰まった。

確かにこの写真を客観的に見ると、犬の死骸には見えないかも・・・と思った。
薄茶色に変色した骨に、所々わずかに残っている毛。

俺と慎は、ハッピーが死体になった翌日にも見ているので、
腐食が進んでいても元の形(倒れていた角度、姿)を知っているが、
知らない奴が見ると、ただの汚れた石に
汚い雑巾の様なものが、絡んでいるようにしか見えないかも知れない。





291 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/30(日) 02:56:37 ID:Ey4nh9XjO
俺は冷静に他の写真も見てみた。
板に刻まれた『淳呪殺』、少女の写真に無数の『釘』。
たしかに、『中年女』の存在に直接結び付けるのは難しいのか?
ひょっとして警官は、小学生の悪戯と思っていて、先程から『親』『担任』などと言っているのか?
俺はこのまま此処にいては危険だと感じ出した。

『絶対、親を呼び出すつもりだ!』
俺は慎に小さな声で耳打ちした。

慎は無言で頷き、アゴをクイッと動かし、外に出る合図を送ってきた。

すると次の瞬間、慎は勢いよく振り向き走りだした。
俺もすぐさま後を追い、交番から抜け出した。
後ろから『おいっ!』と警官が呼び止める声がしたが、俺達は振り向かずに走り続けた。


警官が追い掛けてくる気配は無かった。
警官はおそらく、悪戯しにきた小学生が、嘘を見破られそうになり逃げ出した。とでも思っているのだろう。



352 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/01(月) 09:22:18 ID:jZMGGFeIO
俺と慎は、警官が追って来ていないことを充分に確認し、
道端に座り込み、緊急ミーティングを開催した。
『これからどーする?』
『どーしよ・・・』

俺達は途方に暮れていた。
最後の切り札の警察にも信じてもらえず、『中年女』から身を守る術を失った。

これで全てが解決すると俺達は思い込んでいただけに、ショックはデカかった。
『このままだったら中年女に住所バレて・・・』
俺は恐かった。
すると慎が、『しばらくあの女には出くわさないように注意して・・・』と言いかけたが、
俺はすぐに、
『もう無理だよ!淳の学年とクラスがバレてる時点で,すぐに俺らもバレるに決まってる!』
と少し声を荒げた。


『でも、あの女・・・俺達に何かする気あるのかな?』
『?』
慎が言いだした。
『だってこの前俺ら、学校帰りにあの女に出会ったじゃん。もし何かするつもりなら、
あの時でも良かった訳じゃん』
『・・・』
慎が続けて、
『それに山・・・もし俺らのことを許してないなら、山に何らかの呪い彫りとかあってもいーはずじゃん』
『・・・』

たしかに。
山に行った時、新しい俺達に対する呪い的な物は無かった。
秘密基地は壊されていたが・・・
新しい女の子の釘刺し写真はあったが、
俺達・・・まして、フルネームがバレている淳の呪い彫りも無かった。



355 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/01(月) 09:38:55 ID:jZMGGFeIO
俺は内心、そーなのかな?と反論したかったが、しなかった。
慎の言う通り、実は俺達が思っている程『中年女』は俺達の事を怨んでいない、忘れかけている。
と思いたかった。
慎はもう一度、『俺らを本気で怨んでいるなら、何らかのアクションを起こすはずだろ?』
と、まるで俺を安心さすかのように言った。


そして、『学校の近くをウロついてるのも、
俺らを捜してるんぢゃなく、写真の女の子を捜してる可能性もあるだろ?』と言葉を続けた。

『そーか・・・』
俺はその慎の言葉を聞いて、少し気持ちが楽になった感じがした。
と言うか、慎の言った言葉を自分自身に言い聞かせ、自分自身を無理矢理納得させようとした。

それは現実逃避に近いかもしれない。
慎自身もそうだったのかも知れない。
もう『中年女』から逃げる術が見つからず、言ったのかも知れない。


しかし俺は、俺達は、
『そーだよな!そのうち俺らのことなんて忘れよる!』
『もう忘れとるって!』
『なんだよチクショー!ビビって損した!』
『ほんま、あの女、泣かしたろか!』
とお互い強がって見せた。
ある意味、やけくそに近いかもしれない。



363 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/01(月) 13:47:06 ID:jZMGGFeIO
しばらくその場で、慎と『中年女』の悪口などを談笑していた。
辺りは薄暗くなり始め、俺達は帰宅することにした。

慎と別れる道に差し掛かって、
『明日の帰り、淳の様子見に行こっか!』
『おう!そやな!』
とお互い明るく振る舞って、手を振り別れた。


俺の心は少し晴れやかになっていた。
そーだよな・・・慎の言う通り、中年女はもう俺達の事なんて忘れてるよな・・・と。
まるで自己暗示のように、繰り返し言い聞かせた。

足取りも軽く、石を蹴りながら家に向かった。
空を見上げると雲も無く、無数の星がキラキラ輝き、とても清々しい夜空だった。
今まで『中年女』の事でウジウジ悩んでいたのが、馬鹿らしく思えた。

自宅に近づき、その日は見たいアニメがあるのに気付き、俺は小走りで家に向かった。
『タッタッタッタッ・・・』
夜の町内に俺の足跡が響く。
『タッタッタッタ・・・』
静かな夜だった。

『タッタッタッタッ・・・』

ん?
『タッタッタッタ・・・』

俺の足音以外に違う足音が聞こえる。
後ろを振り向いた。 暗くて見えないが誰もいない。
気のせいか。
ナンダカンダ言って俺は小心者だな、と思いながら再び走った。

『タッタッタッタッ・・・』
『タッタッタッタ・・・』
ん?誰かいる。



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161 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 05:39:52 ID:2G2sPLliO
慎はカメラを再び構え、あの木を撮ろうとしていた。
『ん?!おい!ちょっと来てーや!』
何かを発見し、俺を呼ぶ慎。
俺は恐る恐る慎の元に歩み寄った。
慎が『これ、この前無かったよな?』と、何かを指差す。
その先に視線をやると、無数に釘の刺さった写真が・・・

ん?たしか前もあったはずじゃ・・・

いや!写真が違う!
厳密に言うと、この前見た4・5歳ぐらいの女の子の写真はその横にある。
つまり、写真が増えている!

写真の状態からして、ここ2・3日ぐらいに打ち込まれているであろう。
この前に見た写真は、既に女の子かどうかもわからないぐらいに、雨風で表面がボロボロになっている。

新しい写真も、4、5歳ぐらいの女の子のようだ。

この時は慎に言わなかったが、
俺は一瞬、新しい写真が俺だったらどうしよう!!とドキドキしていた。
慎はカメラに、その打ち込まれた写真を撮った。

そして、『後は秘密基地の彫り込みを撮ろう』と言い、又走りだした。
俺は近くに中年女がいるような錯覚がし、一人になるのが怖く、慌てて慎を追った。





163 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 06:07:52 ID:2G2sPLliO
秘密基地に近いてきて、俺は違和感を感じ、『慎!』と呼び止めた。
違和感。いつもなら、秘密基地の屋根が見える位置にいるはずなのだが、屋根が見えない。
慎もすぐに気付いたようだ。

このとき、脳裏に『中年女』がよぎった。
胸騒ぎがする。鼓動が激しくなる。

慎が『裏道から行こう』と言った。俺は無言で頷いた。

裏道とは、獣道を通って秘密基地に行く、従来のルートとは別に、茂みの中をくぐりながら、
秘密基地の裏側に到達するルートの事である。
この道は、万が一秘密基地に敵が襲って来た時の為に造っておいた道。

もちろん、遊びで造っていたのだが、まさかこんな形で役に立つとは・・・

この道なら万が一基地に『中年女』がいても、見つかる可能性は極めて低い。
俺と慎は四つん這いになり、茂みの中のトンネルを少しずつ進んだ。

そして秘密基地の裏側約5M程の位置にさしかかった時、基地の異変の理由が分かった。

バラバラに壊されている。
俺達が造り上げた秘密基地は、ただの材木になっていた。
しばらく様子を伺ったが、
中年女の気配もないので俺達は茂みから抜けだし、秘密基地の跡地に到達した。



181 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 16:32:42 ID:2G2sPLliO
俺達はバラバラに崩壊された秘密基地を見て、少し泣きそうになった。
秘密基地は言わば、俺達三人と2匹のもう一つの家。
バラバラになった材木の片隅に、大きな石が落ちていた。
恐らく誰かが、これをぶつけて壊したのだろう。
誰かが?・・いや、多分『中年女』が・・・。


慎が無言で写真を撮りだした。
そして数枚の材木をめくり、『淳呪殺』と彫られた板を表にし、写真を撮った。
その時、わずかな板の隙間からハエが飛び出し、その隙間からタッチの遺体が見えた。

ハッピーとタッチ。
秘密基地よりもかけがえの無い2匹を、俺達は失った事を痛感した。


慎は立ち上がり、『よし、このカメラを早く現像して、警察に持って行こう』と言った。
俺達は山を駆け降りた。
山を降り、俺達は駅前の交番へ急いだ。
このカメラに納められた写真を見せれば、中年女は捕まる。俺らは助かる。
その一心だけで走った。


途中でカメラ屋に寄り、現像を依頼。
出来上がりは30分後と言われたので、俺達は店内で待たせてもらった。
その間、慎との会話はほとんど無かった。ただただ 写真の出来上がりが待ち遠しかった。

そして30分が過ぎた。



190 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 22:54:20 ID:2G2sPLliO
『お待たせしましたー』
バイトらしき女店員に声をかけられた。
俺と慎は待ってましたとばかりにレジに向かった。

女店員は少し不可解な顔をしながら、
『現像出来ましたので、中の確認をよろしくお願いします』といいながら、写真の入った封筒を差し出した。
まぁ現像後の写真が、犬の死骸や釘に刺された少女の写真のみだから、
不可解な顔をするのも当然だが・・・

慎はその場で封筒から写真を取り出し、
すべての写真を確認し、『大丈夫です。ありがとうございました』と言い、代金を支払った。

店を出て、すぐさま交番へ向かった。

これで全てが終わる。
駅前の交番へ二人して飛び込んだ。
『ん?!どうしたの?』
中にいた若い警官が、笑顔で俺達を迎えてくれた。
俺達はその警官の元に歩み寄り、『助けてください!』と言った。


俺と慎は、あの夜の出来事を話した。
裏付ける写真も一枚一枚見せながら話した。そして、今も『中年女』に狙われている事を。

一通り話し終わると、その警官は穏やかな表情で『お父さんやお母さんに言ったの?』
俺たちは親には伝えてないと言うと、
『ん~んぢゃ、家の電話番号教えてくれるかな?』と警官は言い出した。



286 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/30(日) 01:58:44 ID:Ey4nh9XjO
慎が『なんで親が関係あるの?狙われているのは俺達だよ?!』とキレ気味に言い放った。
ちなみに慎の両親は医者と看護婦。高校生の兄貴は某有名私立高校生。
俺達3人の中で一番裕福な家庭だが、一番厳しい家庭でもある。

あの夜は親に嘘をついて秘密基地に行き、このような事に巻き込まれたとバレれば、
俺や淳もだが、慎が一番洒落にならないのである。

『助けてよ!警察官でしょ!!』と慎が詰め寄る。

警官は少し苦笑いして、
『君達小学生だよね?やっぱり、こーゆー事はキチンと親に言わなきゃダメだよ』
と、しばらくイタチゴッコが続いた。


あげくに警官は、『じゃあ君達の担任の先生は何て名前?』など、
俺達にとっては脅しに取れる言葉を投げ掛けてきた。

まぁ警官にとっては、俺達の保護者及び責任者から話を聞かないと・・・って感じだったのだろうが、
俺達にとって、こういう時の親や先生は、怒られる対象にしか考えられなかった。

そうこうしているうちに、俺達の心の中に、
目の前にいる警官に対して不信感が芽生えてきた。
このまま此処にいれば、無理矢理住所を言わされ、親にチクられる!と。



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295 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/24(月) 03:21:39 ID:5CaStqefO
その日は、学校で噂の『トレンチコート女』(推定・中年女)には会わなかった。
次の日も、その次の日も会わなかった。
しかし、学校では相変わらず『トレンチコートの女』の噂は囁かれていた。


慎と一緒に下校することになって五日目、俺達は久しぶりに淳の見舞いに行くことにした。
お土産に、給食のデザートのオレンジゼリーを持って行った。

淳の家に着き、チャイムを押した。
いつもの様に叔母さんが明るく出て来て、俺達を中に入れてくれた。
淳は相変わらず元気が無かった。
ジンマシンは大分消えていたが、淳本人は『横腹の顔の部分が日に日に大きくなっている』と言い、
俺と慎には全く分からなかった。
むしろ、前回見たときよりはマシになっているように見えた。

精神的に淳はショックを受けているのだろう。
俺達は学校で流れている『トレンチコートの女』の噂は、淳には言わなかった。

帰り間際に、淳の叔母さんが俺達の後を追い掛けて来て、
『淳、クラスでイジメにでも会っているの?』と不安げな顔で聞いて来た。
俺達は否定したが、本当の理由を言えないことに、少し罪悪感を感じた。





301 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/24(月) 03:40:18 ID:5CaStqefO
それから三日後、
その日は珍しく、内藤と佐々木と俺と慎の四人で一緒に下校した。
内藤は体がデカく、佐々木はチビ。実写版のジャイアンとスネオみたいな奴ら。
もう俺と慎の中で、『中年女』の事は風化しつつあった。
学校で噂の『トレンチコート女』も実在したとしても、全くの別人と思えて来ていた。

その日は、四人で駅前にガチャガチャをしに行こう、と言う話になり、いつもと違う道を歩いていた。

楽しく四人で話しながら歩いていると、
佐々木が『あ、あれ、トレンチコート女ぢゃね?』
内藤『うわっ!ホンマや!きもっ!』と言い出した。
俺はトレンチコート女を見てみた。
心の中で別人であってくれ!と願った。

トレンチコート女はスーパーの袋を片手に持ち、
まだ残暑の残るアスファルトの道で、ただ突っ立っていた。

うつむいて表情は全く分からない。

慎は警戒しているのか、小声で俺達に『目、合わせるなよ!』と言ってきた。
少しずつ、女との距離が縮まっていく。緊張が走った。
女は微動たりせず、ただうつむいていた。

女との距離が5M程になったとき、女は突然顔を上げ、俺達四人の顔を見つめてきた。
そしてその次に、俺達の胸元に目線を送って来ているのが分かった。
!名札を確認している。



306 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/24(月) 03:56:07 ID:5CaStqefO
俺は焦った。
平常心を保つのに必死だった。
一瞬見た顔で、あの日の出来事がフラッシュバックし、心臓が口から出そうになった。
間違いない。『中年女』だ!

俺はうつむきながら歩き過ぎた。
俺はいつ襲い掛かられるかとビクビクした。

どれくらい時が過ぎただろう。いや、ほんの数秒が永遠に感じた。
内藤が『あの目見たけ?あれ完全にイッテるぜ!』と笑った。
佐々木も『この糞暑いのにあの格好!ぷっ!』と馬鹿にしていた。
俺と慎は笑えなかった。

佐々木が続けて言った。
『やべ!聞こえたかな?まだ見てやがる!』
俺はとっさに振り返った。

『中年女』と目が合った・・・
まるで蝋人形のような無表情な『中年女』の顔が、ニヤっと、凄くイヤらしい微笑みに変わった。

背筋が凍るとはこの事か・・・

俺は生まれて始めて、恐怖によって少し小便が出た。
バレたのか?俺の顔を思い出したのか?バレたなら何故襲って来ないのか?
俺の頭は、ひたすらその事だけがグルグル巡っていた。

内藤が『うわーっ、まだこっち見てるぜ!
佐々木!お前の言った悪口聞かれたぜ!俺知らねーっ!』っとおどけていた。



311 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/24(月) 04:13:03 ID:5CaStqefO
もうガチャガチャどころではない。
曲がり角を曲がり、女が見えなくなった所で、俺は慎の腕を掴み『帰ろう!』と言った。
慎は俺の目をしばらく見つめて、
『あ、今日塾だっけ?帰らなやばいな!』と俺に合わせ、俺達は走った。


家とは逆の方向に走り、しばらくして俺は慎に
『アイツや!あの目、間違いない!俺らを探しに来たんや!』
慎は意外と冷静に、
『マジマジと名札見てたもんな・・・学年とクラス、淳の巾着でバレてるし・・・』
俺はそんな落ち着いた慎に腹がたち、
『どーすんだよ!もう逃げ切れネーよ!家とかそのうちバレっぞ!!』
慎『やっぱ警察に言おう。このままはアカン。助けてもらお』
俺『・・・』

俺はしばらく黙っていた。
たしかに、他に助かる手は無いかもしれないと思った。

『でも、警察に何て言う?』と俺が問うと慎は、
『山だよ。あの山に打ち付けられた写真とか、ハッピー、タッチの死体。あれを写真に撮って、
あの女が変質者って言う証拠を見せれば、警察があの女を捕まえてくれるはずや!』
俺は納得した。
もうあの山に行くのは嫌だったが、仕方が無かった。
さっそく明日の放課後、裏山に二人で行く事になった。



315 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/24(月) 04:27:46 ID:5CaStqefO
明日の放課後、裏山に行く。
その話がまとまり、俺達は家に帰ろうとしたが、
『中年女』が何処に潜伏しているか分からない為、俺達は恐ろしく遠回りした。
通常なら20分で帰れるところを、二時間かけて帰った。


家に着いて、俺はすぐに慎に電話した。
『家とかバレてないかな?今夜きたらどーしよ!』などなど。
俺は自分がこれほどチキンとは思わなかった。
名前がバレ、小屋に『淳呪殺』と彫られた淳が、精神的に病んでいるのが理解できた。
慎は『大丈夫、そんなすぐにバレないよ!』と俺に言ってくれた。
この時俺は思った。
普段対等に話しているつもりだったが、慎はまるで俺の兄のような存在だと。

もちろん、その日の夜は眠れなかった。
わずかな物音に脅え、目を閉じればあのニヤッと笑う中年女の顔が、まぶたの裏に焼き付いていた。


朝が来て学校に行き、授業を受け、放課後の午後3時半。
俺と慎は、裏山の入口まで来た。



156 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 04:50:46 ID:2G2sPLliO
俺は山に入るのを躊躇した。
『中年女』
『変わり果てたハッピーとタッチ』
『無数の釘』
頭の中をグルグルと、鮮やかに『あの夜の出来事』が甦ってくる。

俺は慎の様子を伺った。
慎は黙って山を見つめていた。慎も恐いのだろう。
やっぱ、入るの恐いな・・・と言ってくれ!と俺は内心願っていた。

慎はズボンのポケットからインスタントカメラを取り出し、右手に握ると、
俺の期待を裏切り、『よし』と小さく呟き、山へ入るとすぐさま走りだした。
俺はその後ろ姿に引っ張られるように走りだした。

慎は振り返らずに走り続ける。
俺は必死に慎を追った。
一人になるのが恐かったから必死で追った。
今思えば慎も恐かったのだろう。恐いからこそ、周りを見ずに走ったのだろう。


あの場所が徐々に近づいてくる。
思い出したくもないのに、あの夜の出来事を鮮明に思いだし、心に恐怖が広がりだした。
恐怖で足がすくみだした時、あの場所に着いた。
そう、『中年女が釘を打っていた場所』
『中年女がハッピー、タッチを殺した場所』
『中年女に引きずり倒された場所』
『中年女と出会ってしまった場所』



160 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 05:19:27 ID:2G2sPLliO
俺は急に誰かに見られているような気がして、周りを見渡した。
いや、誰かにでは無い。中年女に見られているような気がした。
山特有の静寂と、自分自身の心に広がった恐怖がシンクロし、足が震えだす。
立ち止まる俺を気にかける様子無く、慎はあの木に近づきだした。

何かに気付き、慎はしゃがみ込んだ。
『ハッピー・・・』
その言葉に俺は足の震えを忘れ、慎の元に歩み寄った。

ハッピーは既に土の一部になりつつあった。
頭蓋骨をあらわにし、その中心に少し錆びた釘が刺さったままだった。

俺は釘を抜いてやろうとすると、慎が『待って!』と言い、写真を一枚撮った。
慎の冷静さに少し驚いたが、何も言わず俺は再び釘を抜こうとした。
頭蓋骨に突き刺さった釘をつまんだ瞬間、
頭蓋骨の中から見たことの無い、多数の虫がザザッと一斉に出てきた。

『うわっ!』

俺は慌てて手を引っ込め、立ち上がった。

ウジャウジャと湧いている小さな虫が怖く、ハッピーの死体に近づく事が出来なくなった。
それどころか、吐き気が襲って来てえずいた。
慎は何も言わずに背中を摩ってくれた。
俺はあの夜ハッピーを見殺しにし、またハッピーを見殺しにした。
俺は最高に弱く、最低な人間だ。



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814 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 05:34:10 ID:moTdWLP+O
少し迂回して、俺達はその女の、斜め後方8M程の木の陰に身を隠した。
その女は肩に少し掛かるぐらいの髪の長さで、痩せ型、足元に背負って来たリュックと電灯を置き、
写真?のような物に次々と釘を打ち込んでいた。
すでに6~7本打ち込まれていた。


その時、『ワン!』 俺達はドキッとして振り返った、
そこにはハッピーとタッチが、尻尾を振ってハァハァいいながら、なにしてるの?と言わんような顔で居た。

次の瞬間、慎が『わ゛ぁー!!』と変な大声を出しながら走り出した。
振り返ると、鬼の形相をした女が、片手に金づちを持ち、
『ア゛ーッ!!』みたいな奇声を上げ、こちらに走って来ていた。





819 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 05:49:00 ID:moTdWLP+O
俺と淳もすぐさま立ち上がり、慎の後を追い走った。
が、俺の左肩を後ろから鷲づかみされ、すごい力で後ろに引っ張られ、俺は転んだ。
仰向きに転がった俺の胸に、『ドスっ』と衝撃が走り、俺はゲロを吐きかけた。
何が起きたか一瞬分からなかったが、
転んだ俺の胸を女が足で踏み付け、俺は下から女を見上げる形になっていた。


女は歯を食いしばり、見せ付けるように歯軋りをしながら、
『ンッ~ッ』と何とも形容しがたい声を出しながら、俺の胸を踏んでいる足を、左右にグリグリと動かした。
痛みは無かった。
もう恐怖で痛みは感じなかった。
女は小刻みに震えているのが分かった。恐らく興奮の絶頂なんだろう。
俺は女から目が離せなかった。
離した瞬間、頭を金づちで殴られると思った。



826 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 06:10:53 ID:moTdWLP+O
そんな状況でも、いや、そんな状況だったからだろうか、女の顔はハッキリと覚えている。
年齢は40ぐらいだろうか、少し痩せた顔立ち、目を剥き、
少し受け口気味に歯を食いしばり、小刻みに震えながら俺を見下す。
俺にとってはその状況が、10分?20分?全く覚えてない。


女が俺の事を踏み付けながら背を曲げ、顔を少しずつ近づけて来た、その時、
タッチが女の背中に乗り掛かった。
女は一瞬焦り、俺を押さえていた足を踏み外しよろめいた。
そこにハッピーも走って来て、女にジャレついた。
恐らく、2匹は俺達が普段遊んでいるから、人間に警戒心が無いのだろう。


俺はそのすきに慌てて起きて走りだした。
『早く!早く!』と、離れたところから慎と淳が、こちらを懐中電灯で照らしていた。
俺は明かりに向かい走った。

『ドスっ』
後ろで鈍い音がした。
俺には振り返る余裕も無く走り続けた。


慎と淳と俺が山を抜けた時には0時を回っていた。
足音は聞こえなかったが、あの女が追い掛けてきそうで、俺達は慎の家まで走って帰った。
慎の家に着き、俺は何故か笑いが込み上げて来た。
極度の緊張から解き放たれたからだろうか?
しかし、淳は泣き出した。



831 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 06:27:53 ID:moTdWLP+O
俺は『もう、あの秘密基地二度と行けへんな。あの女が俺らを探してるかもしれんし』と言うと、
淳は泣きながら『アホ!朝になって明るくなったら行かなアカンやろ!』と言い出した。
俺がハァ?と思っていると、慎が俺に、
『お前があの女から逃げれたの、ハッピーとタッチのおかげやぞ!
お前があの女に後から殴られそうなとこ、ハッピーが飛び付いて、代わりに殴られよったんや!』
すると淳も泣きながら、『あの女、タッチの事も、タッチも・・うっ・・・』と号泣しだした。


後から慎に聞くと、
走り出した俺を後から殴ろうとしたとき、ハッピーが女に飛び付き、頭を金づちで殴られた。
女は尚も俺を追い掛けようとしたが、
足元にタッチがジャレついてきて、タッチの頭を金づちで殴った。

そして女は一度俺らの方を見たが、追い掛けてこず、ひたすら2匹を殴り続けていた。

俺達はひたすら逃げた。
慎も朝になれば山に入ろうといった。
もちろん、俺も同意した。



852 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 13:45:51 ID:moTdWLP+O
興奮の為に明け方まで眠れず、朝から昼前まで仮眠を取り、俺達は山に向かった。
皆、あの『中年女』に備え、バット、エアーガンを持参した。

山の入口に着いたが、慎が『まだアイツがいるかも知れん』と言うので、
いつもとは違うルートで山に入った。

昼間は山の中も明るく、蝉の泣き声が響き渡り、昨夜の出来事など嘘のような雰囲気だ。
が、『中年女』に出くわした地点に近づくにつれ緊張が走り、俺達は無言になり、
又、足取りも重くなった。
少しずつ昨日の出来事を思い出し、例の地点に差し掛かった。
バットを握る手は緊張で汗まみれだ。


例の木が見えた。女が何かを打ち付けていた木。
少し近づいて、俺達は言葉を失った。
木には小さな子供(四・五歳ぐらいの女のコ?)の写真に、無数の釘が打ち付けられていた。
いや、驚いたのはそれでは無い。
その木の根元に、ハッピーの変わり果てた姿が。

舌を垂らし、体中血まみれで、眉間に一本釘が刺されていた。
俺達は絶句し、近づいて凝視することが出来なかった。
蝿や見たことの無い虫がたかっており、生物の死の意味を、俺達は始めて知った。



950 :本当にあった怖い名無し:2006/04/23(日) 02:32:23 ID:0yX4mhCZO
俺はハッピーの変わり果てた姿を見て、
今度中年女に会えば、次は俺がハッピーのように・・・と思い、すぐにでも家に帰りたくなった。
その時、淳が『タッチ・・・、タッチの死体が無い!タッチは生きてるかも!』と言い出した。
すると慎も、『きっとタッチは逃げのびたんだ!きっと基地にいるはず!』と言い出した。
俺もタッチだけは生きていて欲しいと思い、三人で秘密基地へと走り出した。


秘密基地が見える場所まで走ってきたが、慎が急に立ち止まった。
俺と淳は『!中年女?!』と思い、慌てて身を伏せた。
黙って慎の顔を見上げると、慎は『・・・なんだあれ?』と基地を指差した。
俺と淳はゆっくり立ち上がり、基地を眺めた。

何か基地に違和感があった。
何か・・・基地の屋根に何か付いている・・・。


少しずつ近づいていくと、
基地の中に昨夜忘れていた淳の巾着袋が(淳は菓子をいつもこれに入れて持ち歩いている)
基地の屋根に、無数の釘で打ち付けてあるではないか!
俺達は驚愕した。
この秘密基地、あの中年女にバレたんだ!
慎が恐る恐る、バットを握り締めながら基地に近づいた。



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801 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 03:48:18 ID:moTdWLP+O
小学生の頃、学校の裏山の奥地に、俺達は秘密基地を造っていた。
秘密基地っつっても結構本格的で、複数の板を釘で打ち付けて、雨風を防げる3畳ほどの広さの小屋。
放課後にそこでオヤツ食べたり、●本読んだり、まるで俺達だけの家のように使っていた。
俺と慎と淳と犬2匹(野良)でそこを使っていた。


小5の夏休み、秘密基地に泊まって遊ぼうと言うことになった。
各自、親には「○○の家に泊まる」と嘘をつき、小遣いをかき集めてオヤツ、花火、ジュースを買った。
修学旅行よりワクワクしていた。


夕方の5時頃に学校で集合し、裏山に向かった。
山に入ってから一時間ほど登ると、俺達の秘密基地がある。
基地の周辺は、2匹の野良犬(ハッピー♂タッチ♂)の縄張りでもある為、
基地に近くなると、どこからともなく2匹が、尻尾を振りながら迎えに来てくれる。
俺達は2匹に「出迎えご苦労!」と頭を撫でてやり、うまい棒を1本ずつあげた。 

 



803 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 04:11:40 ID:moTdWLP+O
基地に着くと荷物を小屋に入れ、
まだ空が明るかったので、すぐそばにある大きな池で釣りをした。
まぁ釣れるのはウシガエルばかりだが。(ちなみに釣ったカエル、は犬の餌)

釣りをしていると、徐々辺りが暗くなりだしたので、俺達は花火をやりだした。
俺達よりも2匹の野良の方がハシャいでいたが。

結構買い込んだつもりだったが、30分もしないうちに花火も尽きて、俺達は一旦小屋に入った。

夜の秘密基地というのは皆始めてで、山の奥地ということで、街灯もなく、月明りのみ。
聞こえるのは虫の鳴き声だけ。
簡易ライト一本の薄明るい小屋に三人。

最初は皆で菓子を食べながら好きな子の話、先生の悪口など喋っていたが、
静まり返った小屋の周囲から時折聞こえてくる、
『ドボン!』(池に何かが落ちてる音)や、『ザザッ!』(何かの動物?の足音?)に、
俺達は段々と恐くなって来た。

しだいに、『『今、なんか音したよな?』『熊いたらどーしよ?!』など、
冗談ではなく、本気で恐くなりだしてきた。

時間は9時。
小屋の中は蒸し暑く、蚊もいて、眠れるような状況では無かった。
それよりも、山の持つ独特の雰囲気に俺達は飲まれてしまい、皆、来た事を後悔していた。



806 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 04:35:31 ID:moTdWLP+O
明日の朝までどう乗り切るか、俺達は話し合った。
結果、小屋の中は蒸し暑く、周囲の状況も見えない(熊の接近等)為、山を下りる事になった。
もう内心、一時も早く家に帰りたい!と俺は思っていた。

懐中電灯の明かりを頼りに足元を照らし、少し早歩きで俺達は下山し始めた。

5分ほどはハッピーとタッチが、俺達の周りを走り回っていたので心強かったが、
少しすると2匹は小屋の方に戻っていった。

普段何度も通っている道でも、夜は全く別の空間にいるみたいだった。
幅30cm程度の獣道を足を滑らさぬよう、皆無言で黙々と歩いていた。


そのとき、慎が俺の肩を後ろから掴み、『誰かいるぞ!』と小さな声で言ってきた。
俺達は瞬間的にその場に伏せ、電灯を消した。
耳を澄ますと、確かに足音が聞こえる。
『ザッ、ザッ』
二本足で茂みを進む音。

その音の方を目を凝らして、その何者かを捜した。

俺達から2、30M程離れた所の茂みに、その何者かは居た。
懐中電灯片手に、もう一方の手には長い棒のようなものを持ち、
その棒でしげみを掻き分け、山を登っているようだった。



808 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 04:44:54 ID:moTdWLP+O
俺たちは始め恐怖したが、その何かが人間であること。
また、相手が一人であることから、それまでの恐怖心はなくなり、
俺たちの心は幼い好奇心で満たされていた。

俺が『あいつ、何者だろ?尾行する?』と呟くと、二人は『もちろん』と言わんばかりの笑顔を見せた。
微かに見える何者かの懐中電灯の明かりと、草を書き分ける音を頼りに、
俺達は慎重に慎重に後をつけだした。



809 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 04:57:38 ID:moTdWLP+O
その何者かは、その後20分程山を登り続けて立ち止まった。
俺達はその後方30M程の所に居たので、そいつの性別はもちろん、様子等は全くわからない。
かすかな人影を捕らえる程度。

ソイツは立ち止まってから、背中に背負っていた荷物を下ろし、何かゴソゴソしていた。

『アイツ一人で何してるんだろ?クワガタでも獲りに来たんかなぁ・・・』と俺は言った。
『もっと近づこうぜ!』と慎が言う。
俺達は枯れ葉や枝を踏まぬよう、擦り足で身を屈ませながら、 ゆーっくりと近づいた。



810 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 05:19:30 ID:moTdWLP+O
俺達はニヤニヤしながら近づいていった。
頭の中で、その何者かにどんな悪戯をしてやろうかと考えていた。
その時、
『コン!』
甲高い音が鳴り響いた。心臓が止まるかと。
『コン!』
また鳴った。
一瞬何が起きたか分からず、淳と慎の方を振り返った。

すると淳が指をさし、『アイツや!アイツ、なんかしとる!』と。
俺はその何者かの様子を見た。
『コン!コン!コン!』
何かを木に打ち付けていた。
いや、手元は見えなかったが、それが呪いの儀式というのはすぐにわかった。

と言うのも、この山は昔から藁人形に纏わる話がある。
あくまで都市伝説的な噂だと、その時までは思っていたが。


俺は恐くなり、『逃げよ』と言ったが、
慎が『あれ、やっとるの女や。よー見てみ』と小声で言い出し、
淳が『どんな顔か見たいやろ?もっと近くで見たいやろ?』と悪ノリしだし、
慎と淳はドンドンと先に進み出した。
俺はイヤだったが、ヘタレ扱いされるのも嫌なんで、渋々二人の後を追った。


その女との距離が縮まるたびに、『コン!コン!』以外に聞こえてくる音があった。
いや、音と言うか、女はお経?のような事を呟いていた。


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