サイケデリック・奇譚

永遠の日常は非日常。

タグ:人形

人形の怖い話ありませんか?(ΦДΦ)<十巻目

546 : もしもし、わたし名無しよ:2007/11/01(木) 12:45:41
突然なんですが……私の出身地区にまつわる話でも。
その地域では、火葬の時に棺に人形を入れて一緒に焼く。
人形は故人の持ち物でも(人形持ってなかったのなら)新品でも、とにかく「何かの人形」を入れている。

もう20年近く前だけど、その地域に残る親戚のお爺さんが亡くなった。
直系の子はおらず、奥さんにもだいぶ前に死別しているので、当然人形なぞ持っていない。
仕方がないから…と私の家族が帰郷する際に新品のバービー
(急に言われて、それしか用意できなかった)を持参した。
私の子供心にも、見慣れたリカとは毛色の違うバービーは、とても素敵に見えたものでした…。

お葬式の後、亡くなったお爺さんの家に集まった親戚達が精進落としとして食事をしていた。
子供たちは別室で「遊んでいなさい」と軟禁状態。
はじめの内は初対面の親戚だらけで緊張していた子供たちも次第にうちとけ、
持ち寄った玩具で遊び始めた…
その時。一人が棺に入れたはずのバービーで遊んでいるのを目撃!

私「いけないんだ、それお爺さんのだよ!」
子「お爺さんには私のお人形あげたから、いいんだもん!」
私「ダメだよ、お爺さんの取り替えるって言わなかったでしょ!」
(当たり前ですが)

ここまで来ると、その子は黙ってしまいました。
どうやら、棺の中にある人形を隙を見て交換した模様。
私は、「故人が胸元に抱いていた人形」であるバービーも、据わった目で「とりかえっこした」と呟く
その子も怖くなって、大人たちのいる部屋へと逃げてしまった。

随分後になって父親にその話をしたら、父真っ青。
私は知らなかったけれど、あの葬式の後から「あの子」は精神に変調をきたして入院。
数年後、病院から抜け出して徘徊し…なぜか廃材置き場に捨ててあった産業用冷蔵庫で……
以下、ご想像におまかせします。

お爺さんが何かしたのか、役目を奪われた人形が何かしたのか。
おかげでバービーが見るのもダメなほど怖いです。



http://hobby11.2ch.net/test/read.cgi/occult/1220670255/

198 :1/4:2008/09/20(土) 21:35:00 ID:Xc6djnlE0
開かずの間スレと迷ったけど、開かずの間もそれほど出てこないし
自分としては恐いというよりすごく嫌な気持ちと言った方がいい感じなんですが
どこかに吐き出したいのでのでここに書き込みさせて下さい。

学生の時のバイト先の2階にあったのは多分開かずの間だったんだと思う。
弁当屋だったんだけど2階は休憩室と資材とか置いてた。

けど誰も2階で休憩しない。
デカイ窓あるのに昼間でも薄暗くてしめっぽい感じで、資材取り行く時も
絶対みんな一人で行きたがらない。
俺のだいぶ後に入った美大生の自称霊感持ちの
かわいいけどちょっと変な女だけよく2階でタバコ吸ってた。

だから重くない資材とかはその女に頼むようになって、
かわりに休憩時間外の一服黙認みたいな感じにしてた。




店の資材在庫チェックのときも、当然その女面子にいれて
あと社員さんA、B二人とシフトだった俺とバイトのチーフの先輩五人でやる事になった。
社員さんBと先輩が電車の事故で遅れて三人で始めた。

おれがチェック表とか下でコピーしてたら、上から悲鳴が聞こえたので
あわてて階段をのぼってったら突然頭がびしょびしょに濡れた。
触ったら全然痛くないのに大量の血が出てた。 


199 : 2/4:2008/09/20(土) 21:35:29 ID:Xc6djnlE0
驚いたけど女がぎゃあぎゃあいってるが聞こえるので
とりあえず2階に上がったら、
女は壁の方向いて分けの判らない事を叫んでいて社員さんAは座りこんで漏らしてた。

女の指差してる方を見たら、これまで壁だと思ってたとこが引戸だった。
中は畳横に二枚並べたくらいの部屋で、小さな虫の死骸が2cmくらい積もっていた。
1カ所の角だけ三十センチくらい丸くなにもない。
壁はパッと見普通の和室っぽい壁に見えたけど、
土に長い黒い髪の毛みたいなのを混ぜて塗り込めてあった。
引戸の裏もおなじ感じになっていた。

訳わかんなくてぼーっとしてたら、遅れてた先輩が来て、
血まみれだったおれは即救急車呼ばれて病院連れてかれた。
病院ついたらもう一人の社員さんBがそっちに来ていて、
有給と見舞金出すから棚から物が落ちて怪我した事にしろと言われた。
正直金が欲しかったのと、恐くてもうバイト先に行きたくなかったのでいう通りにした。

傷はそんなに深くなかったから縫うだけですんだ。
バイトは2週間くらい休んでいい事になってたけど、どうしても気になったから
10日目くらいにのぞきに行った。 


200 : 3/4:2008/09/20(土) 21:36:01 ID:Xc6djnlE0
そしたら先輩は居たけど社員さんAは体調崩して長期休養、
女の方は学校も辞めて実家に帰るからって親と挨拶に来たっていってた。
女は店に一歩も入って来なくて全然しゃべらなくて、
薬が効いてぼーっとしてるみたいな感じだったらしい。
 
先輩が社員さんBを問いつめて聞いた話を聞かせてくれたんだけど、
店はもともと普通の古い民家だったのを、
人が居着かなくて困った所有者から格安で借りていた場所らしい。
社員さんBも詳しい事は知らなかったけど、
『絶対いつか何か起こると思ってた』と言っていたらしい。

引戸見つけて開けたのは女の方で、
中から頭がぐるぐる回る人形?が出てきたと繰り返してたらしい。
社員さんAは何も話さなかったけど、
ショックを受けた状態になっていて内臓が弱っているのでまだ入院していて、
家族の希望で多分近々退社するという事だった。

2階を見せてもらったら、その部屋は綺麗に掃除されて
引戸も外されて、壁も塗り直されてた。

けど2階の雰囲気は全く変わってなかった。
ものすごく嫌な気分になって、その日でバイトを辞めた。
大学のある駅近くの店だったがその日から卒業まで一度もそこを通らなかった。


201 : 4/4:2008/09/20(土) 21:36:34 ID:Xc6djnlE0
しばらくして仕事でその駅に降りたとき、なんか思い出して店を見に行った。
そしたら弁当屋は無くなって今風のカフェになっていて、
驚いた事に先輩が店長をしてた。

弁当屋はおれが辞めたすぐ後ボヤを出して潰れて、同じ系列チェーンのカフェになった。
社員さんBが最初そこの店長をしていて、違う会社に転職する事になった時に
先輩が店の権利を買い取ったということだった。
 
どうしても気になってた2階の事を聞くと、先輩はちょっと困ったような
嫌そうな顔をしてやっぱり嫌な雰囲気があるので改装とお祓いをして倉庫にした、といってから
『これ多分あの子が見たって言ってたやつだよね』といいながら、
おれに葉書を見せてくれた。

あの女からの絵画展の招待状だった。宛先が昔の弁当屋の名前になっていて、
表側に、頭が変な風に横に潰れたでかくてのっぺらぼうで口だけが裂けて、
手足が異様に細い白いぬいぐるみが踊ってるみたいな絵が書いてあった。

はがきは二年くらい前に来たもので、場所が遠いので行けないし、と思いながらも
記載してあった画廊に問い合わせたところ、そんな展示の予定は無いと言われたそうだ。
『なんか捨てるに捨てられなくてさあ』
と言いながら先輩はそれを引き出しにしまい込んだ。

その後先輩とはしばらく連絡し合ったりしてたけど、
今年の春、店が老朽化で立て替えになるので、この機会に両親の面倒を見るためいなかに帰る、
という電話が来た。

その後何度か連絡しようとしたけど携帯変えたらしくて通じない。
暑中見舞い出したけど宛先不明で戻ってきた。
結局なんだったのかわからないままだけど、おれはもうあそこには行かない。




713 :本当にあった怖い名無し:2006/10/30(月) 13:48:44 ID:TMKKEpeo0
お久しぶりです、前スレの160です。
例の日本人形のような女の子は現れまして、また怪我をしました...。
今回はそのことをご報告しようかと思います。

 
先週の土曜日の未明の出来事です。
起きているか、寝ているか分からない状態。
ただ目は閉じているのに、部屋の様子が見えました。
「きた...」という感覚と、足元に女の子が。
起きねばと考えましたが時既に遅く体動かず。 
 首をポンポンと叩かれると、私の目の前に女の子が。
その時の女の子の表情はいつもと事なり「冷たい目」でした。




既にバイクは乗っておらず、土曜日なので電車にも乗らない。
家でじっとしていれば、問題は無いだろうと考えていました。
しかし事は起こるもの。
急な用事で地元の駅まで行くことに。
 
歩いていける距離なので、車などに細心の注意を払い、
用事を済ませ、帰途につく頃、雨が降っていました。
歩道橋を降りるとき、それは起こりました。
 
歩道橋の踊場にて、背中をドン!と押されたのです。
当然のごとく階段から落ちましたごろごろと。
階段方向を見ようと首が痛くて動きませんし体中痛くて動けません、
でもなんとか目だけで見ると歩道橋には誰もいません。
 
「大丈夫ですか!?」と駆け寄ってきた女性に
「なんとか...」と答えるも立ち上がれず、救急車で病院へ。
 
頚椎捻挫、全身打撲。
入院する必要は無く助かりました。

しかし問診を受けている時にギョッとしました。
脱いだシャツを着ようとした時上に来ていたシャツには何の跡もないのですが、
下に来ていたTシャツに手の跡が左右1組、影のようについていました。

いま首にコルセットはまってます...。
いつになったら開放されるやら。



715 :本当にあった怖い名無し:2006/10/30(月) 15:13:21 ID:Gk3LlN+70
>>713
もうバイクにのらなくても怪我させられるってことか…
お払いしてもらったほうがいいって
最後には殺されちゃうかもよ



関連記事
日本人形のような女の子 1
日本人形のような女の子 2
日本人形のような女の子 3

http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156415718/l50


159 :1/2:2006/08/31(木) 11:55:54 ID:Pud31u5m0
ここって実体験カキコしていいんだよね。
ちょっと私の経験した出来事を。かれこれ4年前の話だけど。
長いから2つに分けます


私はバイク乗りだ。
いや、だった。事故る前までは...。 



 
以前SEをしていたころ、場所的に
公共の移動手段では行き難い場所での作業が発生していた(電車80分徒歩30分)
のでバイクで行っていた。(50分)でつく。
毎日0:00近辺に終了するのでバイクを使っていた部分もあるのだが。

その日もバイクで通勤し深夜1:00に帰宅。
風呂に入り即就寝した。
朝方なのだが、妙な感覚で目が覚めた。いや目は覚めていないが周囲が見えた。
ちゃんと自分の視点で周囲が見えた。
いつもの自分の部屋である事が確認できていた。

その時は寝ぼけているのかそれを不思議とも思わず、
何の気なしに受け入れていたが、
ふと足元を見ると日本人形位の女の子が立っていた。
顔は覚えていないのだが、 
髪の長さは胸くらいまであって、赤い花柄の和服を着ていた。

その女の子が「トコトコッ」って感じで私の体の上を歩き右肩をポンポンとたたいた。
その瞬間私はガバッと起きた。
夢?妙にリアルであったが、
夢ということで肩付け、支度をし、バイクにまたがり仕事へ。

その日は妙にすんなり仕事が終わり、
19:00くらいには仕事が終りすぐに帰宅する事にした。
いつものようにバイクで帰宅したのだが、
その途中で事故にあった。
右車線にいた車が左のわき道に入ろうと急に右車線から左折してきたのだ。
先の交差点が赤だったため、減速途中で
速度はそれほど出ていなかったが私は見事に巻き込まれ、バイクは大破。
私は右肩亜脱臼、腱断絶の重症を負った。
入院決定。



160 :2/2:2006/08/31(木) 11:57:32 ID:Pud31u5m0
事故自体は受け入れるしかなく、
既に朝方の夢など忘れていたため、自己嫌悪に陥る程度の事だったのだが、
友人が見舞いに来てくれたときにふとその事を思い出し話をした。

その友人は俗にいう見える人だったのだが、
普段そんなそぶりは見せず、滅多に人にも言わない人間だ。
その友人が「お前が電車通勤してなくてよかったよ。
電車に乗ってたら他の人も巻き込んでたしな。」と言った。

どういう事??と聞いてみると、
私はその日必ず事故によって右肩を怪我をさせられた。
それもあの日本人形の様な女の子によって...。
バイクだったから一人で済んだと。

つまりはそういうレベルのモノに憑かれたらしい。
どんなに気をつけても無駄な事があると思い知った。

そしてこの話は後日談だあるのだが、



163 :本当にあった怖い名無し:2006/08/31(木) 12:09:36 ID:wzYpKBkO0
>>159-160
怖ぇぇえ、洒落になってないよ。
何でそんなのに取り憑かれたんだよ、
日本人形コワス(((((( ;゚ Д ゚ )))))ガクガクブルブル



165 :160:2006/08/31(木) 12:54:15 ID:Pud31u5m0
>>163
何でそんなのが憑いたかはわからんっす。
友人もなんでかね?って言ってた。
ただ今回書き込んだ事よりも、
その1年後 現在より3年前に起こった出来事が強烈すぎて...。
それからいろいろ経験するようになってしまいました...。



176 :160:2006/08/31(木) 17:06:26 ID:Pud31u5m0
さて続きを書きますかね。ちなみにネタじゃないっす。
ネタだったらどんなによいか...


1/3
あの事故から1年後の5月。やはり客先での作業が入っていた。
今回も電車では不便なところだったので懲りもせずバイク通勤をしていた。
やはり朝方(というよりは未明に近い)に事は起こった。
 
前回と同じように見えているのだ。
そのときは横向きになって寝ていた(左手上)私の足元あたりに
日本人形のような女の子が立っていた。
前回と同じくトコトコと歩き、まずは左足の膝。
そして私の後ろに回り腰の辺りをポンポンとたたく。
 
既に左膝をたたかれた時点で、「やばい!起きねば」と思ったのだが、
体は言うことを利かない。
金縛り??夢だから???と思っているうちに
腰をたたかれた(実感あり)。 
気配がスッと消えて「がばっ」と起きた。
 
前回の記憶が一気に思い出され、そして友人の言葉を反芻していた。
「お前が電車通勤してなくてよかったよ。
電車に乗ってたら他の人も巻き込んでたしな。」
バイクで行くかどうか悩んだが、
時間的余裕と他人を巻き込むのもな~...という思いからバイクにまたがった。

その日は自分でも相当安全運転に勤めたと思う。
が...やっぱり事故った。
交差点の右直事故である。
ちなみに当方は直進。信号青。 
何故??という思いと「やっぱり」と瞬時に思った。
かなりぶっ飛んだらしく。
交差点中央で事故ったにもかかわらず。
私は交差点の先の横断歩道の上でのたうちまわっていた。



177 :160:2006/08/31(木) 17:07:46 ID:Pud31u5m02/3
バイクは大破。
おまけに事故相手の自動車も全損。
私は左膝前十字靭帯断絶、半月版損傷、第3腰椎圧迫骨折。
ただ事故の割には軽症?だったのが幸いだった。

 
入院中、例の友人が見舞いに来た。
友人は私の顔を見るなりすぐ「お払いいけ。女の子そこにいるぞ」
どこ?って感じだったが、友人に指差された場所をみて分かった。

部屋の角なのだが、姿が見えるわけではないのだが、
異様に辛気臭いというかそこだけ暗い。
影が出来ているとかではない、
その場所が光を吸い込んでいるといった印象だった。
ただ他者はみえないらしい。


存在を知ってしまった恐怖はとても大きく、
自分ひとりでは全く対処ができない存在に怯えつつ、入院生活をすごし(その間無害)
退院の日が翌日という日の夜、

暗い病室、私は目を閉じている...。
やっぱり外の景色が見えている。
目の前に女の子が ふと 現れた。
驚きはなかった、どこかで心の準備が出来ていたんだと思う。もしくは慣れ。 
一言「痛かった?」と。
それも楽しそうに興味深々といった感じで聞いてきた。 

「当たり前じゃ!」
と本来なら言っているところだが、「うん」としかいえなかった。
「また今度あそぼうね」と言って女の子は消えた。
そこで目が覚め言葉の意味を考えた。
彼女の遊びは過激すぎる。
今度少女が現れたときはもっていかれるなと。



178 :160:2006/08/31(木) 17:08:33 ID:Pud31u5m03/3
そして退院し即お払い(護摩行)にいったのだが、
お払いも終わり帰る間際住職?に呼び止められた。
私は「はい?」といって振り返り 
以下やり取り。
 
住職「あなた最近不思議な出来事がありましたか?」
私「(内心:でなきゃこんなとこ来んわ!)はあ」
住職「ちょっと見ていただきたいものがあるのですが」
私「はあ」
住職「どうぞこちらへ」
私「・・・」
 
住職についていくと祭壇?といっていいのか分からんが、
その部屋には人形がずら~っと並んでいた。
心底恐怖したが、そこにあの日本人形のような少女をみつけた。
というよりも目線を持っていかれた。
 
住職「何故だか分かりませんが あなたをここへ連れてきたくなったんです」
さらに心底恐怖した。

その人形はいつからあるか分からないという。
供養はこれから(決められた日にちがあるらしい)。
手を合わせたら憑いてきそうなのでやめた。
もうこりごりだと思ったが、
どうやら目覚めたらしく(友人のお墨付き)いろいろ見るようになってしまった。



179 :本当にあった怖い名無し:2006/08/31(木) 17:15:45 ID:TUNeJpwi0
乙!
だがほんのりじゃないYO(((((((∩;TдT))))))



180 :本当にあった怖い名無し:2006/08/31(木) 17:18:50 ID:heeCkEYF0
乙!だが既にスレ違いの領域!ほんのりどころではないっす!

・・・ところで事故の責任はどちらに?



181 :160:2006/08/31(木) 17:32:21 ID:Pud31u5m0
両方とも過失割合 9:1 私が 1 の過失。
だから医療費とかの出費は無しです。


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師匠シリーズ

183 :風の行方 前編◆oJUBn2VTGE :2012/05/11(金) 21:09:55.96 ID:wBpB+Oun0
師匠から聞いた話だ。


大学二回生の夏。
風の強い日のことだった。

家にいる時から
窓ガラスがしきりにガタガタと揺れていて、
嵐にでもなるのかと何度も外を見たが、空は晴れていた。
変な天気だな。
そう思いながら過ごしていると、
加奈子さんという大学の先輩に電話で呼び出された。




家の外に出たときも顔に強い風が吹き付けてきて、
自転車に乗って街を走っている間中、ビュウビュウという音が耳をなぶった。
街を歩く女性たちのスカートがめくれそうになり、
それをきゃあきゃあ言いながら
両手で押さえている様子は眼福であったが、
地面の上の埃だかなんだかが舞い上がり
顔に吹き付けてくるのには閉口した。
うっぷ、と息が詰まる。
風向きも、あっちから吹いたり、こっちから吹いたりと、全く定まらない。
台風でも近づいてきているのだろうか。
しかし新聞では見た覚えがない。
天気予報でもそんなことは言っていなかったように思うが……

そんなことを考えていると、
いつの間にか目的の場所にたどり着いていた。
住宅街の中の小さな公園に古びたベンチが据えられていて、
そこにツバの長いキャップを目深に被った女性が片膝を立てて腰掛けていた。
手にした文庫本を読んでいる。
その広げたページが風に煽られて、舌打ちをしながら指で押さえている。

「お、来たな」
僕に気がついて加奈子さんは顔を上げた。
Tシャツに、薄手のジャケット。
そしてホットパンツという涼しげないでたちだった。
「じゃあ、行こうか」
薄い文庫本をホットパンツのお尻のポケットにねじ込んで立ち上がる。

彼女は僕のオカルト道の師匠だった。
そして小川調査事務所という興信所で、『オバケ』専門の依頼を受けるバイトをしている。
今日はその依頼主の所へ行って話を聞いてくるのだという。
僕もその下請けの下請けのような仕事ばかりしている零細興信所の、
アルバイト調査員である師匠の、さらにその下についた
助手という、素晴らしい肩書きを持っている。
あまり役に立った覚えはないが、
それでもスズメの涙ほどのバイト代は貰っている。
具体的な額は聞いたことがないが、
師匠の方は鷹だかフクロウだかの涙くらいは貰っているのだろうか。



184 :風の行方 前編◆oJUBn2VTGE :2012/05/11(金) 21:12:15.96 ID:wBpB+Oun0
「こっち」
地図を手書きで書き写したような半紙を手に住宅街を進み、
ほどなく小洒落た名前のついた二階建てのアパートにたどり着いた。
一階のフロアの中ほどの部屋のドアをノックすると、
中から俯き加減の女性がこわごわという様子で顔を覗かせる。
「どうもっ」
師匠の営業スマイルを見て、
少しホッとしたような表情をしてチェーンロックを外す。
そしておずおずと部屋の中に通された。

浮田さんという名前のその彼女は、市内の大学に通う学生だった。
三回生ということなので、僕と師匠の中間の年齢か。

実は浮田さんは以前にも小川調査事務所を通して、
不思議な落し物にまつわる事件のことを師匠に相談したことがあったそうで、
その縁で今回も名指しで依頼があったらしい。
道理で気を抜いた格好をしているはずだ。

ただでさえ胡散臭い『自称霊能力者』のような真似事をしているのに、
お金をもらってする仕事としての依頼に、
いかにもバイトでやってますとでも言いたげな
カジュアル過ぎる服装をしていくのは、相手の心象を損ねるものだ。
少なくとも初対面であれば。
師匠はなにも考えてないようで、わりとそのあたりのTPOはわきまえている。

「で、今度はなにがあったんですか」
リビングの絨毯の上に置かれた丸テーブルを囲んで、浮田さんをうながす。
学生向きの1LDKだったが、家具が多いわりに
部屋自体は良く片付けられていて、随分と広く感じた。
師匠のボロアパートとは真逆の価値観に溢れた部屋だった。
「それが……」
浮田さんがポツポツと話したところをまとめると、こういうことのようだ。


彼女は三年前、大学入学と同時に演劇部に入部した。
高校時代から見るだけではなく自分で演じる芝居が好きで、
地元の大学に入ったのも演劇部があったからだった。
定期公演をしているような実績のあるサークルだったので
部員の数も多く、一回生のころはなかなか役をもらえなかったが、
くさらずに真面目に練習に通っていたおかげで、
二回生の夏ごろからわりと良い役どころをやらせてもらえるようになった。



185 :風の行方 前編◆oJUBn2VTGE :2012/05/11(金) 21:15:08.37 ID:wBpB+Oun0
三回生になった今年は、
就職活動のために望まずとも半ば引退状態になってしまう秋を控え、
言わば最後の挑戦の年だったのだが、
下級生に実力のある子が増えたせいで、
思うように主役級の役を張れない日々が続いていた。

下級生だけのためではなく、
本来引退しているはずの四回生の中にも、
就職そっちのけで演劇に命を賭けている先輩が数人いたせいでもあった。
都会でやっているような大手の劇団に誘われるような凄い人はいなかったのだが、
バイトをしながらでもどこかの小劇団に所属して、
まだまだ自分の可能性を見極めたい、という人たちだった。
真似はできないが、それはそれで羨ましい人生のように思えた。

そしてつい三週間前、
文化ホールを借りて行った三日間にわたる演劇部の夏公演が終わった。
同級生の中には自分と同じように秋に向けて
まだまだやる気の人もいたが、これで完全引退という人もいた。
年々早くなっていく就職活動のために、
三回生とってはこの夏公演が卒業公演という空気が生まれつつあった。


だが、彼女にとって一番の問題は、
就職先も決まらないまま、
まだズルズルと続けていた四回生の中の、ある一人の男の先輩のことだった。
普段からあまり目立たない人で、
その夏公演でも脇役の一人に過ぎず、台詞も数えるくらいしかなかったのだが、
卒業後は市内のある劇団に入団すると言って周囲を驚かせていた。
誰も彼が演劇を続けるとは思っていなかったのだ。
同時に、区切りとしてこれで演劇部からは引退する、とも。

その人が、夏公演の後で彼女に告白をしてきたのだ。ずっと好きだったと。
なんとなくだが、普段の練習中からも
粘りつくような視線を感じることがあり、それでいてそちらを向くと、
つい、と目線を逸らす。
そんなことがたびたびあった。
いつも不快だった。気持ちが悪かった。
その男が今さら好きだったなんて言ってきても、返事は決まっていた。

はっきりと断られてショックを受けたようだったが、
しばらく俯いていたかと思うと、
蛇が鎌首をもたげるようにゆっくりと顔を上げ、ゾッとすることを言ったのだ。

「髪をください」
口の動きとともに、首が頷きを繰り返すように上下した。



186 :風の行方 前編◆oJUBn2VTGE :2012/05/11(金) 21:17:21.65 ID:wBpB+Oun0
「せめて、思い出に」
そう言うのだ。
大げさではなく震え上がった。

「いやですよ。髪は女の命ですから」と、
最初は冗談めかしてごまかそうとしたが、
それで乗り切れそうな気がしないことに気づき、やがて叫ぶように言った。
「やめてください」
男は怯んだ様子も見せず、同じ言葉を繰り返した。
そして、「一本でもいいんです」と、懇願するような仕草を見せた。

彼女は「本当にやめてください」と言い捨てて、
その場を逃げるように去ったが、追いすがってはこなかった。
しかしホッとする間もなく、それから大学で会うたびに髪の毛を求められた。
「髪をください」と、ねとつくような声で。

彼と同じ四回生の先輩に相談したが、
男の先輩は「いいじゃないか、髪の毛の一本くらい」と言って、
さもどうでもよさそうな様子で取り合ってくれず、
女の先輩は、
「無駄無駄。あいつ、思い込んだらホントにしつこいから。
まあでも髪くらいならマシじゃない?
変態的なキャラだけど、そこからエスカレートするような度胸もないし」
と言った。

以前にも演劇部の女の同級生に言い寄ったことがあったらしいのだが、
その時も相手にされず、
それでもめげないでひたすらネチネチと言い寄り続けて、
とうとうその同級生は退部してしまったのだそうだ。
ただその際も、家にまで行くストーカーのような真似や、
乱暴な振る舞いに出るようなことはなかったらしい。

そんな話を複数の人から聞かされ、
今回はその男の方が演劇部から引退するのだし、
髪の毛だけで済むのならそれですべて終わりにしたい。
そう思うようになった。
それで済むうちに……


そしてある夜、寝る前にテレビを消した時、その静けさに
ふいに心細さが込み上げてきて、
「よし、明日髪の毛を渡そう」と決めたのだった。

しかし、いざハサミを手に持って、
もう片方の手で髪の毛の一本を選んで掴み取ると、
これからなにか大事なものを、文字通り切り捨ててしまうような感覚に襲われた。
一方的な被害者の自分が、どうしてこんなことまでしなければならないのか。
そう思うとムカムカと怒りがこみ上げてきた。



187 :風の行方 前編◆oJUBn2VTGE :2012/05/11(金) 21:18:48.09 ID:wBpB+Oun0
そうだ。なにも自分の髪の毛でなくとも良いのだ。
同じくらいの長さだったら、誰のだろうがどうせ分かりっこない。

そう思ったとき目に入ったのが、
部屋の衣装箪笥の上に飾っていた日本人形だった。
子どものころに親に買ってもらったその人形は、
今でもお気に入りで、この下宿先まで持ち込んでいたのだった。
状態も良く、いつか自分が着ることを夢見た綺麗な着物を清楚にまとっていた。

そっとその髪に手を触れると、滑らかな感触が指の腹を撫でた。
確か本物の人毛を一本一本植え込んでいると、親に聞かされたことがあった。
これなら……
そう思って、摘んだ指先に力を込めると、一本の長い艶やかな髪の毛が抜けた。
根元を見ると、さすがに毛根はついていなかったが、
あの男も『抜いたものを欲しい』なんて言わなかったはずだ。

少し考えて、毛根のないその根元をハサミで少しカットした。
これで生えていた毛を切ったものと同じになったし、
長さも彼女のものより少し長めだったのでちょうど良い。
黒の微妙な色合いも、自分のものとほとんど同じように見えた。
それも当然だった。
両親は彼女の髪の色艶と良く似た人形を選んで買ってくれたのだから。


次の日、男にその髪の毛を渡した。ハンカチに包んで。
「そのハンカチも差し上げますから、もう関わらないでください」と言うと、
思いのほか素直に頷いて、「ありがとう」と嬉しそうに笑った。

最後のその笑顔も気持ちが悪かった。
カエルか爬虫類を前にしているような気がした。
袈裟まで憎い、という心理なのかも知れなかったが、
もう後ろを振り返ることもなく足早にその場を去った。
すべて忘れてしまいたかった。


それから数日が経ち、その男も全く彼女の周囲に現れなくなっていた。
本人の顔が目の前にないと現金なもので、
たいした実害もなかったことだし、
だんだんとそれほど悪い人ではなかったような気がしはじめていた。
そして、メインメンバーの一部が抜けた後の最初の公演である
秋公演のことを思うと、
自然と気持ちが切り替わっていった。


そんなある日、夜にいつものように
部屋でテレビを見ている時に、それは起こった。
バラエティ番組が終わり、
十一時のニュースを眺めていると、ふいに部屋の中に物凄い音が響いた。
なにか硬い家具が破壊されたような衝撃音。



188 :風の行方 前編◆oJUBn2VTGE :2012/05/11(金) 21:20:52.18 ID:wBpB+Oun0
心臓が飛び上がりそうになった。
うろたえながらも部屋の中の異常を探そうと、息を飲んで周囲に目をやる。
箪笥や棚からなにか落ちたのだろうかと思ったが、
それらしいものが床に落ちている痕跡はない。

そしてなにより、そんなたかが二メートル程度の高さから物が落ちたような
生易しい音ではなかった。
もっと暴力的な、ゾッとする破壊音。

それきり部屋はまた静かになり、
テレビからニュースキャスターの声だけが漏れ出てくる。
得体の知れない恐怖に包まれながら、
さっきの音の正体を探して部屋の中を見回していると、ついにそれが目に入った。

人形だ。箪笥の上の日本人形。
艶やかな柄の着物を着て、長い黒髪をおかっぱに伸ばし、……
その瞬間、体中を針で刺されるような悪寒に襲われた。

悲鳴を上げた、と思う。
人形は顔がなかった。
いや、顔のあった場所は粉々にくだかれていて、原型をとどめていなかった。
巨大なハンマーで力任せに打ちつけたような跡だった。
まるで自分がそうされたような錯覚に陥って、
ひたすら叫び続けた。


浮田さんは語り終え、自分の肩を両手で抱いた。
見ているのが可哀そうなくらい震えている。
「髪か」
師匠がぽつりと言った。
ゾッとする話だ。
もし、彼女が自分の髪を渡していたら……
そう思うと、ますます恐ろしくなってくる。
なぜ彼女がそんな目に遭わなくてはいけないのか。
その理不尽さに僕は軽い混乱を覚えた。

その時、頭に浮かんだのは『丑の刻参り』だった。
憎い相手の髪の毛を藁人形に埋め込んで、
夜中に五寸釘で神社の神木に打ち付ける、呪いの儀式だ。
藁人形を相手の身体に見立て、
髪の毛という人体の一部を埋め込むことで、
その人形と相手自身との間に空間を越えたつながりを持たせるという、
類感呪術と感染呪術を融合させたジャパニーズ・トラディショナル・カース。
しかしその最初の一撃が、
顔が原型を留めなくなるような
寒気のする一撃であったことに、異様なおぞましさを感じる。



189 :風の行方 前編◆oJUBn2VTGE :2012/05/11(金) 21:22:43.12 ID:wBpB+Oun0
「その後は?」
師匠にうながされ、浮田さんはゆっくりと口を開く。
「なにも」
その夜は、それ以上のことは起こらなかったそうだ。

壊された人形はそのままにしておく気になれず、親しい女友だちに捨ててきてもらった。
怖くて一歩も家を出ることができなかったが、
その友人を通してあの男が大学にも姿を現していないことを聞いた。

もしあいつが、渡したのが人形の髪の毛だったことに気づたら、
と思うと気が狂いそうになった。
もう私は死んだことにしたい、と思った。
実際に、友人に対してそんなことを口走りもした。
私が死んだと伝え聞けば、あいつも満足してすべてが終わるんじゃないかと、そう思ったのだ。
喋りながら浮田さんは目に涙を浮かべていた。

「わたしにどうして欲しい?」
師匠は冷淡とも言える口調で問い掛ける。
締め切った部屋には、クーラーの生み出す微かな気流だけが床を這っていた。
「助けて」
震える声が沈黙を破る。
師匠は「分かった」とだけ言った。


僕と師匠はその足で、近所に住んでいた浮田さんの友人の家を訪ねた。
頼まれて人形を捨てに行った女性だ。
彼女の話では、人形は本当に顔のあたりが砕けていて、
巨大なハンマーで力任せに殴ったようにひしゃげていたのだそうだ。
彼女はその人形を、彼氏の車で運んでもらって、遠くの山に捨ててきたと言う。

「燃やさなかったのか?」
師匠は、燃やした方が良かったと言った。
友人は浮田さんと同じ演劇部で、以前合宿をした時に幹事をしたことがあり、
その時に作った名簿をまだ持っていた。
男の名前もその中にあり、住所まで載っていた。
「曽我タケヒロか」
師匠はその住所をメモして友人の家を出た。
曽我の住んでいるアパートは市内の外れにあり、
僕は師匠を自転車の後ろに乗せてすぐにそこへ向かった。


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風の行方 前編 1
風の行方 前編 2
風の行方 後編 1
風の行方 後編 2

http://toro.2ch.sc/test/read.cgi/occult/1424959780/


530 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2015/03/27(金) 21:06:40.60 ID:5LZzaPLLO.net
中学の入学時、入学祝いで祖母からアンティークドールを貰ったんだ。
古いドールだったけど、しっかり手入れされていて
汚いという印象は受けなかった。
それどころか、銀色の髪と白を基調としたゴシックドレスが特徴的なとても美人なドール。
「この子は○○(俺)の事がとても気に入ったみたいだから、大事にしなさい」
と祖母に言われたのと、
とても高価そうなドールだったこと、
なにより俺自身が何故かそのドールを非常に気に入った事もあって、
俺はそのドールの事をとても大切に扱ったんだ


それから1年ぐらいたったある日、変な夢を見た。
夢の中で例のドールをそのまま15~18歳ぐらいにしたような見た目の少女が出てきて、
俺に1回お辞儀をして去っていった。
俺は悲しくて何度も行かないでと叫ぶんだけど、その子はそのまま行ってしまう。
その子の姿が見えなくなった時、目が覚めた。
時刻は朝の5時半ぐらい。
不安になってドールを飾っている棚の方を見たけれど、ドールに特に変わった所は無かった。
ただ、やっぱり夢の事が気になったので、
二度寝はせずにいつも以上に丁寧にドールの手入れをして、
箱に入れてから学校に出かけた。



531 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2015/03/27(金) 21:07:37.52 ID:5LZzaPLLO.net
その日一日普通に学校で過ごした帰り道、
歩いているといきなり何かに背中を押されて、前につんのめって転んでしまったんだ。
その直後に、さっきまで自分がいたところに木が倒れてきた。
前日に雨がかなり降っていたので、地面が柔くなっていたんだと思う。

危なかった~、と思いながらもそのまま帰宅。
手を洗ってから箱の中のドールを取り出そうとしたんだけど、中のドールをみて固まってしまった。

壊れてた、それもかなり酷く。
訳がわかんなくて、
母親が帰ってきたらとりあえず母親に相談した。

母親から祖母に話が行って、
祖母の知人の修復が出来る人に見て貰ったんだけど、
損傷が激しいのと古いドール故に、修復は無理だと言われた。

悲しくて泣く俺に祖母は「この子は○○の事が大好きだったからね、
○○を守れてきっと安心しているよ」と言って慰めてくれ、
その後に祖母の薦めで土日の休みに人形供養寺にドールを持っていく事にした。
そのとき住職も祖母と同じようなことを言っていた。


そして人形供養寺にドールを持っていって供養してもらった日の夜、
また例の女の子の夢を見たんだ。
彼女は悲しむ俺を抱きしめて、何かを渡してきた。
ソレがなんだったのかはわからない、
渡された直後に目が覚めてしまったから。
ただ何となく、
彼女は俺の守護霊になって今も俺の事を守ってくれてるのかな、と思う。



死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?

247 :人形◆oJUBn2VTGE :2008/02/12(火) 00:56:09 ID:FukvotX90
礼子さんが怯えたような顔で頭を抱える。
みかっちさんも目の焦点が合っていない。

「先日の温泉旅行。その人形がバッグから出てくるところを見たのは、彼女の他にキミだけだ。
それは本当にあの人形だったのか?」
師匠の詰問にみかっちさんはうろたえて、
「え、だって」と口ごもった。
そして「あれ?あれ?」と、両手で自分の頭を挟むように繰り返す。
「人形を絵に描いたと言ったが、具体的にどこでどうやって描いたか、今説明できるか」
「え?うそ?あれ?」
みかっちさんは今にも崩れ落ちそうに小刻みに震えながら、
なにも答えられなかった。
「あの写真持ってきて」との師匠の耳打ちにすかさず従い、ほどなく俺は3人の前に写真を掲げた。

「僕はその人形を描いたという絵の、着物の襟元を見ておかしいと思った。
それは合せ方が、通常と逆の左前になっていたからだ」
師匠は「洋服とは違い、和服は男女ともに右前で合せるのが伝統だ」と語った。
「これに対し、死んだ者の死装束は左前で整えられえる。
北枕などと同じく、葬儀の際の振る舞いを“ハレ”と逆にすることで、
死の忌みを日常から遠ざけていたんだ。
だから子どもの遊び道具であり、裁縫の練習台であった、
いわば日常に属する市松人形が、左前であってはおかしい」
こんなことは説明するまでもなかったか、と呟いてから
師匠は、みかっちさんの方を向いた。

「モデルを見て描いたのであれば、こんな間違いは犯さないはずだ。
絵の技法上の意図的なものでない限り、彼女はその人形を見ていないんじゃないかと、
その時少し不審に思った」
そして写真を指さす。


248 :人形◆oJUBn2VTGE :2008/02/12(火) 00:59:14 ID:FukvotX90
「そこで出てきたのが、この銀板写真だ。
銀板写真は、明治の志士の写真などで知られる湿板写真や、
その後の乾板写真と大きく異なる性格を持っている。
それは、被写体を左右逆に写し込むという、技術的性質だ」
え?と俺は驚いて写真を見た。
文字の類は写真に写っていないので、左右が逆であるかどうかは咄嗟に判断がつかない。
そうだ。
着物の襟だ。と気づいてから、もう一度3人の女性の襟元をよく見た。
本人から見て、左側の襟が上になっている。

「ホントだ。左前になってます」と言うと、師匠に話の腰を折るなと言わんばかりに、
「バカ、左前ってのは、本人から見て右側の襟が上に来ることだ」と溜め息をつかれた。
あれ?じゃあ写真の女性は右前なわけで、正しい着方をしていることになる。
左右逆に写っていないじゃないか。
師匠は人さし指を左右に振ってから続けた。

「これが日本人の迷信深いところだ。
銀板写真が撮られた当時、被写体は武家や公家などの、支配階級の子弟たちだったわけだが、
出来上がった己の写真が、死装束である左前となっていては縁起が悪いために、
わざわざ衣服を逆に着て撮影していたんだ。
もっとも、単に見栄えの問題もあったのだろう。
武士など刀まで右の腰に挿し直して撮っている。
当時の銀板写真を良く見ると、
襟元や腰の大小が変に納まり悪く写っているから、
彼らの微笑ましい努力の跡が垣間見えるってものだ」
ということは、
つまりこの着物姿の3人の女性も、撮影時にわざわざ左前にしてカメラの前に座ったのか。
俺は感心し、言われなかったら気づかなかったであろう、
100年の秘密に触れたことに、ある種の快感を覚えた。


249 :人形◆oJUBn2VTGE :2008/02/12(火) 01:01:21 ID:FukvotX90
「そこでもう一度、この真ん中の女性が抱える人形を見て欲しい」
師匠の言葉に視線をそこに集中させる。
人形の襟元が他の女性たちと逆に合せられている。
左前だ。
銀板写真は左右を逆に写すので、つまり撮影時には右前だったことになる。

「市松人形としてはこれで正しい。
ただ、撮り終わったあとの写真が間違っていただけだ。だから……」
と言って、師匠はみかっちさんに視線を向け、笑い掛けた。
「キミのあの絵は、この写真の一見左前に見える人形を描いたものなんだ。
キミは人形を絵に描いたと言いながら、人形を見ていない。
奇妙な記憶の混濁があるようだ。
なぜなら、そんな人形はもう存在していないんだから」

キャアァー!!
という甲高い金属的な悲鳴が家中に響き渡った。
俺は背筋を凍らせるような衝撃に体を硬直させる。
頭を抱えて俯いている礼子さんの口から出たものにしてはおかしい。
まるで、家中の壁から反響してきたような声だった。

「その人形がどうしてなくなったのかは知らない。
あなたの口からそれが聞けるとも思わなけど。
戦争で焼けたのか。処分されたのか……
ただ、あなたの中に棲みついて、
そこにいる友だちの中にも感染するように侵入したそれは、この世に異様な執着を持っているみたいだ。
自分の存在を再び世界と交わらせようとする、意思のようなものを感じる。
実際に絵という形で、一度滅びたものが現実に現れたんだから」

ミシミシという嫌な圧迫感が体に迫ってくるようだ。
これは、髪が伸びるだとか涙を流すだとかいう、人形にまつわる怪談と同質のものなのか?
いや、絶対に違う。
俺は底知れない嫌悪感に、体の震えを止めることが出来なかった。


252 :人形◆oJUBn2VTGE :2008/02/12(火) 01:04:31 ID:FukvotX90
「その人形。あなたの先祖の家業だった写真屋の、商売道具のはずだ。
だから実のところ、一見して左前に見えてはおかしいんだ。
衣服だけでなく、刀などの道具立ても左右逆にしつらえて撮るように、
膝に抱く人形だって持ち主に合せるべきだ。
市松人形はもともと、女性や子どもの着せ替え人形なんだ。
合せ方を逆にして着せるなんて容易いはず。
同じ目的でずっと使う人形ならば、なおさらそうすべきだ。
しかし、この写真に残されている姿はそうではない。
何故だかわかるかい。それは」
師匠は憂いを帯びたような声で、
しかし、俺にだけわかる歓喜の音程をその底に隠して続けた。

「真ん中に写ったものが早死にするという噂のために、
この人形を真ん中に据えるってことと、同じ目的のためだ。
写真にまつわる穢れをすべて人形に集中させるため、徹底した忌み被せが行われている。
つまり、わざわざ死者の服である左前で写真に写るように、この人形だけは右前のままにされているのさ」

吐き気がした。
師匠につれまわされて、今まで見聞きしてきた様々なオカルト的なモノ。
それらに接する時、しばしば腹の底から滲み出すような吐き気を覚えることがあった。
しかしそれは大抵の場合、
霊的なものというよりも、人間の悪意に触れた時だったことを思い出す。

「付喪神っていう思想が日本の風土にはあるけど、
古くから、人間の身代わりとなるような人形の扱いには、特に注意が払われていた。
しかしこいつは酷いね。
その人形に蓄積された穢れの行き着く先を誤っていれば、どういうことになるのか想像もつかない」
柱時計の音だけが聞こえる。
静かになった部屋に畳を擦る音をさせて、師匠が俯いたままの礼子さんに近づいた。


253 :人形◆oJUBn2VTGE :2008/02/12(火) 01:06:24 ID:FukvotX90
「あなたが魅入られた原因は、実にはっきりしている。
なくなったはずの人形が、この世に影響を及ぼす依り代としたもの。
それは、真ん中で写ったものの寿命が縮まるという噂と同じくらいポピュラーで、
江戸末期から明治にかけて、日本人の潜在意識に棲み続けた言葉。
“写真に写し撮られたものは、魂を抜かれる”という例のあれだ」
師匠は俺の手からもぎ取った写真の人形のあたりを、手のひらで覆い隠すようにして続けた。

「あなたがおばあちゃんから貰ったという、この写真こそが元凶だよ。
人形の形骸は滅んでも、魂は抜かれてここに写し込まれている」
そう言いながら、礼子さんの顔を上げさせた。
目は涙で濡れているが、その光に狂気の色はないように思えた。

「これは僕が貰う。いいね」
礼子さんは震えながら何度も頷いた。
師匠は呆然とするみかっちさんにも同じように声を掛け、
「あの絵は置かない方がいい。あれも僕が貰う」と宣告する。
そうして最後に俺に笑い掛け、
「おまえからは特に貰うものはないな」と言って、俺の背中を思い切りバンと叩いた。
いきなりだったのでむせ込んだが、
その背中の痛みが、俺の体を硬直させていた“嫌な感じ”を一瞬忘れさせた。
「引き上げよう」と師匠は静かに告げた。

その後、礼子さんは糸が切れたようにぐったりと客間のソファーに横たわった。
その顔はしかし、気力と共に憑き物が取れた様に穏やかに見えた。
俺たちは礼子さんに心を残しつつも、その大きな家を辞去した。


254 :人形◆oJUBn2VTGE :2008/02/12(火) 01:07:29 ID:FukvotX90
みかっちさんが青ざめた顔で、それでも殊勝にハンドルを握り、元来た道を逆に辿っていった。

「あんた何者なのよ」
小さな交差点で一時停止しながら、掠れたような声でそう言って横の師匠を覗き見る。
彼女の中で、『gekoちゃんの彼氏』以外の位置づけが生まれたのは間違いないようだ。
その位置づけがどうあるべきか迷っているのだ。
それは俺にしても、出会った頃からの課題だった。
「さあ」
と気の無い返事だけして、師匠は窓の外に目をやった。

車は街なかの駐車場に着いて、
俺たちはグループ展の行われているギャラリーに舞い戻った。
「ちょっと待ってて」と言って、みかっちさんは店内に消えていった。
と、1分も経たない内に、「絵がない」と喚きながら飛び出して来た。
俺たちも慌てて中に入る。
「どこにもないのよ」
そう言って、閑散としたギャラリーの壁に両手を広げて見せた。
確かにない。
奥の照明が少し暗い所に飾ってあったはずの人形の絵が、どこにも見当たらない。

「ねえ、私の人形の絵は?どこかに置いた?」と、
みかっちさんは受付にいた二人の同年齢と思しき女性に声を掛ける。

「人形の絵?知らない」と二人とも顔を見合わせた。
「あったでしょ、4号の」
畳み掛けるみかっちさんの必死さが相手には伝わらず、二人とも戸惑っているばかりだ。
俺と師匠も、絵があったはずのあたりに立って周囲を見回す。

人形の絵の隣はなんの絵だったか。
瓶とリンゴの絵だったか、2足の靴の絵だったか……どうしても思い出せない。
しかし、壁に飾られた作品が並んでいる様子を見ると、他の絵が入り込む隙間など無いように思える。


255 :人形 ラスト◆oJUBn2VTGE :2008/02/12(火) 01:08:41 ID:FukvotX90
薄ら寒くなって来た。
やがてみかっちさんが傍に来て、
「搬入の時のリストにもないって、どうなってんの」と、打ちひしがれたように肩を落とす。

「なんかダメ、あたし。あの人形がらみだと、全然記憶があいまい。
何がホントなのか全然わかんなくなってきた」
それは俺も同じだ。
つい数時間前にこの目で見たはずの絵が、その存在が忽然と消えてしまっている。

「ねえ、このへんから変な声がしたり、黒い髪の毛がいっぱい落ちてたりしたよね」
と、みかっちさんは、再び仲間の方へ声を掛けるが、
「えー、なにそれ知らない。あんたなに変ことばっかり言ってんの」と返された。

「その髪の毛は一人で掃除したのか」
納得いかない様子ながらも、師匠の言葉に頷く。
そんなみかっちさんは兎も角、俺たちまで幻を見ていたというのか。

師匠にその存在を否定されてから、あの人形の痕跡が消えていく。
俺は目の前の空間が歪んで行く様な違和感に包まれていた。
まるでこの世を侵食しようとした異物が、
己に関わるすべてを絡めとりながら闇に消えていくようだった。
「まさか」と、俺は師匠が脇に抱える布を見た。
木枠に納められたあの写真をグルグルに巻いている布だ。
これまでどうにかなっているようだと、それこそ頭がどうにかなりそうだった。

「これは、見ない方がいいな」
師匠は強張った表情で、しっかりとそれを抱え込んだ。
そのあと、師匠がそれを処分したのかどうかは知らない。


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死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?

232 :人形◆oJUBn2VTGE :2008/02/12(火) 00:37:01 ID:FukvotX90
みかっちさんはホットサンドを注文してから、さっそく本題に入る。

「あの絵の人形って、高校時代の友だちの持ち物なんだけど、
なんか、死んだおばあちゃんがくれた、凄い古いヤツなんだって」
その友だちは礼子ちゃんといって、
今でも良く一緒に遊ぶ仲なのだそうだが、最近少し様子がおかしかったと言う。

ある時、彼女の家に遊びに行くと、
「なんかわかんないけど、江戸時代くらいの和服の女の人が何人かいて、
真ん中の人が、その人形を抱いて座ってる写真」
を見せられたそうで、
自分はその人形を抱いている女性の生まれ変わりなのだ、と言い出したらしい。
聞き流していると怒り出し、
その人形が家にあると言って、どこからか引っ張り出してきて、
それを抱きしめながら「ねっ?」と言うのだ。
写真の女性と似てるとも思えなかったし、どう言っていいのかわからなかったが、
そんな話自体は嫌いではないので、そういうことにしてあげた。
それに、そんな古い写真と人形が、
共にまだ現存していたことに妙な感動を覚えて、「絵に描きたい」と頼んだのだそうだ。

「その絵があれか」
師匠がなにごとか気づいたように、片方の眉を上げる。
なにかわかったのかと次の言葉を待ったが、なにもなかった。
みかっちさんはコーヒーにシュガースティックを流し込みながら、珍しく強張った表情を浮かべた。
「でね、それから何日か経って、あ、今から3週間くらい前なんだけど、
その礼子ちゃんとか、高校時代の友だち4人で、温泉旅行したんだけど」
少し言葉を切る。
その口元が微かに震えている。


235 :人形◆oJUBn2VTGE :2008/02/12(火) 00:39:01 ID:FukvotX90
「電車に乗ってさ、最初四人掛けの席が空いてなくて、
二人席にわたしと礼子ちゃんとで座ってたんだ。
ずっとおしゃべりしてたんだけど、1時間くらいしてからなんか、持ってくるって言ってた本の話になってさ。
礼子ちゃんがバッグをゴソゴソやってて、『あっ間違えた』って言うのよ。
なに~?別の本持って来ちゃったの?って聞いたらさ」
唾を飲み込んでから続ける。
「ズルッてバッグからあの人形が出てきて、『本と間違えちゃった』って……」
俺はそれを聞いて、さっきのギャラリーでは感じられなかった、
鳥肌が立つような感覚を覚えた。

「別に頭がおかしい子じゃないのよ。
その旅行でも、それ以外は普通だったし。
ただ、なんなんだろ、あれ。人形って魂が宿るとかいうけど」
それに憑りつかれたような……
みかっちさんが続けなかった言葉の先を頭の中で補完しながら、俺は師匠を見た。
腕組みをして真剣に聞いているように見える。
やがておもむろに口を開く。

「その人形を描いた絵が、さっきのグループ展での、不思議な出来事の元凶ということか」
「だよね、どうかんがえても」
みかっちさんは「どうしよ」と呟いた。
「絵を処分しても解決したことにはならないな。
勘だけど、その人形自体をなんとかしないと、まずいことになりそうな気がする」
師匠は身を乗り出して続けた。
「その子の家にはお邪魔できる?」
「うん。電話してみる」
みかっちさんは席を立った。

やがて戻って来ると、「今からでも来ていいって」と告げた。


238 :人形◆oJUBn2VTGE :2008/02/12(火) 00:43:43 ID:FukvotX90
そうして俺たちは3人でその女性、礼子さんの家に向かうことになったのだった。
喫茶店から出るとき、師匠は俺に耳打ちをした。
「面白くなってきたな」
俺は少し胃が痛くなってきた。

みかっちさんの車に乗って、走ること15分あまり。
街の中心からさほど離れていない住宅地に、礼子さんの家はあった。
2階建てで、広い庭のある結構大きな家だった。

チャイムを鳴らすと、ほどなくして黒い髪の女性が出てきて、
「あ、いらっしゃい」と言った。
案内された客間に腰を据えると、用意されていたのか、紅茶がすぐに出てきた。
スコーンとかいうお菓子も添えられている。

「いま家族はみんな出てるから、くつろいでくださいね」
言葉遣いも上品だ。
こういうのはあまり落ち着かない。
「大学のお友だちですって?ミカちゃんが男の人をつれてくるのは珍しいね」
俺たちはなにをしに来たことになっているのか、少し不安だったが、
「ああ、写真ね。今持ってくる」と言って、スカートを翻しながら部屋から出て行った様子に安堵する。
みかっちさんが小声で、
「とりあえず、古い写真マニアっぽい設定になってるから」。
やっぱり胃が痛くなった。

戻ってきた礼子さんは、「死んだ祖母の形見なんです」と言いながら、
木枠に納められた写真をテーブルに置いた。
色あせた白黒の古い写真をイメージしていた俺は首を傾げる。
ガラスカバーの下にあるそれは妙に金属的で、紙のようには見えなかったからだ。
しかしそこには、着物姿の3人の女性が並んで映っている。
モノクロームの写りのせいか年齢は良く分からないが、若いようにも見えた。
椅子に腰掛け、何故かみんな一様に目を正面から逸らしている。
そして真ん中の女性が膝元に抱く人形には、確かに見覚えがあった。
あの絵の人形だ。


241 :人形◆oJUBn2VTGE :2008/02/12(火) 00:46:33 ID:FukvotX90
「私の祖母の家は、明治から続く写真屋だったそうです。
この写真は、そのころの家族を撮ったもので
たぶんこの中に、私のひいひいおばあちゃんがいるそうです」
礼子さんは、うっとりとした表情で装飾された木の枠を撫でながら、
「真ん中の人かな」と言った。
師匠は食い入るような目つきで、顔を近づけて見ている。
おお、マニアっぽくていいぞと思っていると、彼は急に目を閉じ、深いため息をついた。

「これは銀板写真だね」
目をゆっくりと開いた師匠の言葉に、礼子さんは軽く首を傾げた。
わからないようだ。
俺もなんのことかわからない。

「写真のもっとも古い技術で、日本には江戸時代の末期に入ってきている。
銀メッキを施した銅板の上に、露光して撮影するんだ。
露光には長くて20分も時間がかかるから、
像がぶれないように長時間同じ姿勢でいるために、こうして椅子に座り……」
と言いながら師匠は、着物の女性の髷を結った頭部を指さす。
頭の上になにか棒のような器具が出ている。
「こういう、首押さえという道具で固定して撮る。
ただこの銀板写真も、次世代の技術である湿板写真の発明によって、あっという間に廃れてしまう。
長崎の上野彦馬とか、下田の下岡蓮杖なんかは、その湿板写真を広めた職業写真家の草分けだね。
明治に入ると乾板写真がそれにとって代わり、日本中に写真ブームが広がる。
その中で出てきたのが、写真に撮られると魂を抜かれるだとか、
真ん中に写った人間は早死にするだとかいう噂。
それから、そこにいないはずの人影が写った“幽霊写真”。
今の心霊写真の元祖は、明治初期にはすでに生まれていて、
そのころからその真偽が論争の的になっている」

「ほー」という感心したような吐息が、女性陣から漏れる。


243 :人形◆oJUBn2VTGE :2008/02/12(火) 00:49:37 ID:FukvotX90
本当に古い写真マニアだったのか、この人は。
いや、というよりは、やはり心霊写真好きが高じて、というのが本当のところだろう。

「というわけで銀板写真は、明治の写真屋の技術ではないんだ。
だからこれは、商売道具で撮影したものではなく、回顧的、もしくは技術的興味で撮られた写真だろう。
像も鮮明だから、露光時間が短縮された、改良銀板写真技術のようだね」

やはり感じたとおり、材質は紙ではなかった。
銅版なのか。
俺はしげしげと3人の女性を見つめる。
100年も前の写真かと思うと不思議な気持ちだ。
本当に写真は時間を閉じ込めるんだな、と良くわからない感傷を抱いた。

「魂を抜かれるって、聞いたことがありますね。真ん中で写っちゃいけないとかも」
礼子さんの言葉に師匠は頷きかける。
「うん。それは当時の日本人にとっては、切実な問題だったんだ。
鏡ではなく、まるで己から切り離されたように自分を平面に写し込むこの未知の技法を、
どこか忌まわしいもののように感じていたんだろう。
この写真の女の人たちが目を背けているのも、その頃の俗習だね。
視線を写されるのは不吉だとされていたらしい」
本来の目的を忘れて師匠の話に耳を傾けていると、そこから少し口調が変わった。

「この、真ん中の女性が抱いている人形もそうだ」
みかっちさんの肩も緊張したように、わずかに反応する。
「真ん中の人間の寿命が縮むというのは、明治時代、日本中に広がっていた噂でね。
今で言うミーム、いや都市伝説かな。
そんな噂を真に受けて不安がる女性客に、写真屋が手渡すのがこれだよ」
師匠は女性の膝の人形を指さす。
「人形を入れれば、全部で4人。真ん中はなくなる。
それに椅子に斜めに腰掛けることで、
人間ではなく膝の上の人形が、正確に写真の中心にくるような配置になっている。
つまり、寿命が縮む役の身代わりということだ。
そうした写真の持つ不吉さを、人形に全部被せていたんだ」


244 :人形◆oJUBn2VTGE :2008/02/12(火) 00:52:39 ID:FukvotX90
ゾクゾクしはじめた。
身代わり人形だったのだ。“穢れ”の被り役としての。
恐らく写真屋は、同じ人形を使い続けただろう。
その頃、写真を撮るような客は、上流階級に属している者ばかりのはずだ。
そんな客に、使い捨ての安っぽい人形を持たせる訳にもいくまい。
つまり、こういう上質な市松人形のようなものが、ずっとその役目を負い続けるのだ。

意思を持たないものに、悪意を被せ続ける……
そのイメージに俺はぞっとした。
何年何十年という時間の中で穢れは、悪意は集積し、この人形の内に汚濁のように溜まっていく。
そして……
シーンと静まる家の中が、やけに寒く感じられた。

「ちょっと、なんでそういうこと言うのよ」
礼子さんの口から鋭く尖った言葉が迸った。
「この子は、私のひいひいおばあちゃんの大切な人形よ。そんな道具なんかじゃない。
だってずっと大事にされて、今の私にまで受け継がれたんだから。見ればわかるわ」
そう捲くし立てて礼子さんは、凄い勢いで部屋の出口へ向かった。

唖然として見送るしかない俺の横で、師匠は叫んだ。
「そんなものが実在すればね」
一瞬、礼子さんの頭がガクンと揺れた気がしたが、彼女はそのまま部屋を飛び出していった。
「どういうこと?」と、みかっちさんが訝しそうに眉を寄せる。
「まあ見てな」


246 :人形◆oJUBn2VTGE :2008/02/12(火) 00:54:52 ID:FukvotX90
師匠は余裕の表情で、革張りのソファに深く体を沈めた。
俺は写真にもう一度目を落とし、人形を良く観察する。
色こそついていないが、やはりあの絵と全く同じ人形のようだ。
髪型や表情、帯や着物の柄も同じに見える。
師匠はこの写真からなにかわかったのだろうか。

やがて静まり返っていた家の中に、女性の悲鳴が響き渡った。
全員腰を上げ客間を出る。
スリッパの音がバラバラと床を叩いた。
みかっちさんが先導して、
1階の奥の部屋へ足を踏み入れると、広々とした和室に礼子さんの後姿が見えた。

「いないのよ。あの子が」
屈み込み、取り乱した声で畳を爪で引っ掻いている。
和箪笥など古い調度品が並ぶ中、奥に床脇棚があり、その上に空のガラスケースが置かれていた。
ガラスケースの中には、薄紫色の座布団のような台座だけがぽつんと残されていて、
丁度あの人形が納まる大きさのように思えた。

「誰なの。どこへやったの」と呻く様に繰り返している礼子さんに、
みかっちさんが駆け寄り、「落ち着いて」と背中をさする。
次の瞬間、バン、という大きな音がして横を見ると、
師匠が後ろ手で壁を叩いた格好のまま、険しい顔つきで女性二人を睨んでいる。

「落ち着くのは、キミもだ」
そう言いながら床脇棚に近づき、ガラスケースを持ち上げる。
台座を触り、その指を二人に見せ付けた。
「この埃は、少なくとも何年か、ここに人形なんか置かれていなかったことの証だ。
あの絵を見た時からおかしいと思っていたが、写真を見て確信した。
人形なんか、この家にはないじゃないかと」


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209 :人形◆oJUBn2VTGE :2008/02/12(火) 00:13:49 ID:FukvotX90
人形にまつわる話をしよう。

大学2回生の春だった。
当時出入りしていた地元のオカルト系フォーラムの常連に、みかっちさんという女性がいた。
楽しいというか騒がしい人で、
オフ会ではいつも中心になってはしゃいでいたのであるが、その彼女がある時こう言うのである。

「今さ、友だちとグループ展やってるんだけど、見に来ない?」
大学の先輩でもある彼女は、
(キャンパスで会ったことはほとんどないが)
美術コースだということで絵を描くのは知っていたが、まだ作品を見せてもらったことはない。
「いいですねえ」と言いながら、ふと周囲のざわめきが気になった。

居酒屋オフ会の真っ只中に、どうして俺だけを誘ってきたのか。
確かによくオフでも会うが、それほど彼女自身と親しいわけでもない。
フォーラムの常連グループの末席に加えてもらっているので、
自然に会う機会が増えるという程度だ。
なにか裏があるに違いないと嗅ぎつける。
追求するとあっさりゲロった。
「gekoちゃんの彼氏を連れてきて」と言うのだ。

gekoちゃんとは、その常連グループの中でも大ボス的存在であり、
その異様な勘の良さで一目置かれている女性だった。
その彼氏というのは、俺のオカルト道の師匠でもある変人で、
そのフォーラムには『レベルが違う』とばかりに、鼻で笑うのみで参加をしたことはなかった。
もっとも彼は、パソコンなど持っていなかったのであるが。
その師匠を連れてきてとは、一体どういう魂胆なのか。

「いやあ、そのグループ展さあ、5日間の契約で場所借りてて、今日で3日目だったんだけど……
なんか変なんだよね」


210 :人形◆oJUBn2VTGE :2008/02/12(火) 00:15:41 ID:FukvotX90
聞くところによると、絵画作品を並べているギャラリーで、
誰もいないはずの場所から誰かのうめき声が聞こえたり、
見物客の気分が急に悪くなったりするのだそうだ。

「昨日なんてさ、終わって片付けして掃除してたらさ、
床に長くて黒い髪の毛がやたら落ちてんの。
お客さんっていっても、わたしの友だちとかばっかだし、たいていみんな髪染めてんのよ。
先生とかオッサン連中は、そんな髪長くないしね。気味悪くてさあ」
みかっちさんは演技過剰な怖がり方で肩を抱えてみせた。
「こういう時頼りになるgekoちゃん。
この間からなんか実家に帰ってていないし。キョースケは東京に出て行っちゃったし」
肘をついてブツブツと言う。

「というワケで、噂のgekoちゃんの彼氏しかいないワケよ」
みかっちさんは師匠と直接会ったことはないようだが、やはり噂は漏れ聞いているみたいだ。
どんな噂かはさだかではないが。
「とにかくコレ、案内状。明日来てよね。私、明日は朝から昼まで当番だから、昼前に来て」
ずいぶん強引だ。
「明日は平日なんですけど」と言うと、
「めったに講義出ないんでしょ」と小突かれた。

翌日、一応師匠を誘うと、
「面白そうだ」とノコノコついて来た。
二人で案内状を見ながら街を歩きたどり着いた先は、
老舗デパートのそばにある半地下の、こじんまりとしたギャラリーだった。
少し外に出ればアーケード街があり、平日の昼でも人通りが絶えないのであるが、
ここはやけに静かで、落ち着いた雰囲気が漂っていた。


216 :人形◆oJUBn2VTGE :2008/02/12(火) 00:22:35 ID:FukvotX90
中に入ると、学生らしきショートボブの女性が、「いらっしゃいませ」と笑顔をこちらに向けてくれた。
みかっちさんと同じ美術コースの人だろうか。
暗めの照明に、壁中に大小様々な絵が飾られた店内が照らし出されている。

「あ、ホントに来たんだ」
呼んでおいてホントもなにもないと思うが、みかっちさんがギャラリーの奥から出てきた。
そして師匠を見るなり目を見開いて呟く。
「ちょっと、gekoちゃん。見せないワケだわ……」
師匠はそれを無視して、視線をギャラリー内に走らせる。
ここに来るまで冷やかし気味だった雰囲気が少し変化していた。

「ここって何人ぐらいで借りてるの」
師匠の問いかけに、みかっちさんは「6人」と答える。
「コースの仲間と、後輩。学割が効くんですよ、ココ」
「で、自分たちで描いた絵を期間中、置いてもらうわけか」
「そうです。で、6人で順番に当番決めてお客様対応」
「ふうん」
師匠はもう一度、視線を一回りさせる。

「あ、そうそう。わたし犯人っぽいのわかっちゃったかも。こっちこっち」
みかっちさんは俺たちを、ギャラリーの奥まった一角に案内した。
それまでバスケットのフルーツなど静物画を中心に並んでいたのに、
一つ明らかに異質な絵が出現した。

それは人形の絵だった。
全体的に青く暗い背景の中、オカッパ頭の人形の絵が、
まるでヒトの肖像画のように描かれている。
明らかに人間をデフォルメしたものではなく、
写実的な表現で、一目見て人形と分かるように出来ている。
黒髪の頭に赤い着物。
それらが妙に煤けた感じで、小さな額に納まっていた。


219 :人形◆oJUBn2VTGE :2008/02/12(火) 00:23:43 ID:FukvotX90
「ね」とみかっちさんは小さな声で言った。
確かに不気味な絵だ。
市松人形というのだろうか。可愛らしい人形を描いた絵とは少し言い難い。
何故かは自分でもよくわからないが、
人間ではないものが人間を擬してそこにいるような嫌悪感があった。
「これは誰の絵?」
「わたし」
みかっちさんは後ろ頭をわざとらしく掻く。
困ったような表情も浮かべている。
「モデルがあるね」
「……友だちの持ってる人形。すっごく古いの。
ちょっと興味があって、描かせてもらったんだけど」
伏目がちな童女のふっくらした顔が、不気味な翳を帯びている。
胸元を締める浅葱色の帯が所々剥げてしまって、どこか哀れな風情だった。
師匠は真剣な表情で絵に顔を近づけ、何事かぶつぶつ言っている。

「やっぱこれかなあ。どうしよう。結構気に入ってるんだけど」
「なにか曰くがある人形なんですか」
「あるよ。すっごいの。
でもこれは、タカガわたしが描いた絵だし、全然気にしてなかったんだよね」
「その曰くって、どんなのですか」
俺がそう口にしたところで師匠が顔を離し、
難しい顔で「逆だ」と呟いた。
「え?」と訊くと、
絵から目を逸らさないまま「いや」と言い淀み、首を振ってから、
「やっぱり、よくわからないな。これが原因だとしても、ただの媒体にすぎない。
本体の方を見たいな」と言う。
みかっちさんは「う~ん」と言ったあと、
ニッと唇の端をあげた。
「込み入った話だと、ここじゃちょっとね。近くの喫茶店で話さない?」


224 :人形◆oJUBn2VTGE :2008/02/12(火) 00:28:59 ID:FukvotX90
師匠と俺は頷く。
みかっちさん、最初は敬語気味だったのに、いつの間にか師匠にもタメ口だ。
「あ、でも交替要員が来るまでまだ結構時間あるから、絵でも見てて」
来た時は俺たちしか居なかったのに、
いつの間にかもう一人初老の男性がやって来て、ショートボブの女性が応対している。
俺はギャラリーの真ん中に立って、目を閉じてみた。
精神を集中し、違和感を探る。
するとやはり、人形の絵がある方向になにか嫌な感じがする。
照明があたり難いせいなのかも知れないが、あの辺は妙に暗い気がする。

「ねえミカ、友だち?なに熱心に見てたの」
ショートボブの女性が声をかける。
「うん。人形の絵をちょっとね」
「人形の絵?」
首をかしげる女性に、みかっちさんはなんでもないと手を振った。

俺と師匠は一通り絵の説明を受けながらギャラリーを見ていったが、
素人目には上手いのか下手なのかもよくわからない。
ただモダンな感じの難解な絵はなく、わりとシンプルで写実的な作品が多かった。
「見て見てこれ、あたしがモデル」などと言って裸婦の絵を指さしなど、
テンションの高いみかっちさんとは裏腹に、俺たちは絵画鑑賞などすぐに飽きてきてしまった。

特に師匠など露骨で、ショートボブの女性が熱心に紹介してくれているのに、
気乗りしない生返事ばかり。
そして少しイライラしてきたらしい女性が、
「絵はあまりお好きじゃないみたいですね」と言うと、
それに応えて思いもかけないことを口にした。
「絵なんてようするに、すごく汚れた紙だ」
絶句する女性に畳み掛けるように続ける。
「見るくらいにしか役に立たない」


227 :人形◆oJUBn2VTGE :2008/02/12(火) 00:31:59 ID:FukvotX90
平然と言ってのけた師匠をさすがにまずいと思った俺が、むりやり引きずって外に出した。
みかっちさんには、「近くの喫茶店にいますから」と言い置いて。

ザワザワと耳障りな雑踏の音が飛び込んでくる。
やはりああした所は、鑑賞中に気が紛れない様に防音が効いているのだろう。

俺は師匠を問い詰めた。
「なんであんなこと言うんです。人がせっかく描いた作品に」
「別に貶したつもりはなかったんだけどな」
「自分が好きなものをバカにされたら、誰だって怒りますよ」
師匠は「う~ん」と言って顎を掻く。
「オカルトの方がよっぽど役に立たないでしょ」
俺は自分自身への自虐も込めて師匠を非難した。
すると師匠は、急に遠くを見るように目の焦点をさ迷わせ、
横を向いてじっとしていたかと思うと、こちらへゆっくりと向き直って言った。
「役に立たないものは、愛するしかないじゃないか」

二人の間の足元に、駐車禁止の標識の影が落ちていた。
俺は一瞬なんと返していいかわからず、ただ彼の目を見ていた。
その言葉は今では、師匠の好きだったある劇作家の言葉だと知っている。
あるいは、戯れに口にしたのかも知れない。
それとも、彼の深層意識から零れ落ちたのかも知れない。
けれどその時の俺は、怒ると言うより呆れていて、
そんな言葉をくだらないと思い、なんだそれと思い、そしてそれからずっと忘れなかった。

喫茶店で軽食をとりながら30分ほど待ったところで、みかっちさんがやってきた。
「ごめーん、遅くなったあ」などと軽い調子で席に着き、
さっきの師匠の失言などまるで気にしてない様子だった。


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http://toro.2ch.sc/test/read.cgi/occult/1424959780/

493 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2015/03/25(水) 19:33:38.87 ID:fxhF7edp0.net
大学時代、当時同棲していた彼女とボロ市に行った
ボロ市とは大きな蚤の市が開かれるお祭りだ

ある露店で、彼女は何かを見つけた

「かわいい~」
見てみると、それは木彫りの人形だ
頭が大きいサルみたいな形で、変な人形だった
お世辞にもかわいいと言える代物ではなかった


ごちゃごちゃと雑貨が置かれている露店の中から
彼女は一目で人形を見つけ出し、手に取って眺め始めた
「ねえ!これ絶対買う!」
目を輝かせ人形を眺めながら、彼女はそう言った
俺は妙な買物だと思ったが……彼女は人形を買って持ち帰った



494 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2015/03/25(水) 19:35:54.48 ID:fxhF7edp0.net
彼女は人形を家に持ち帰ると、空いている棚に飾った

最初のうちは毎日眺めているだけだったが
 しばらくすると、人形に語りかけるようになった
そんなにその人形が気に入っているのか?
俺は不思議そうに眺めていた


バイト先から帰ったとき
ひとりでアパートにいた彼女が人形と話をしていた
流石に少し気味が悪くなった

「何で人形と話をしているんだ?」
「この子、よく夢に出てくるんだよ」

彼女が言うには、最近、人形が夢に出てくるそうだ
人形の前に15歳位の女の子が現れて、夢の中で友達になったという
女の子は何も言わないが、いつも寂しそうにしていた
そういうわけで、何気なく人形と話し始めたそうだ
不思議なことに、彼女が人形に話しかけると
その女の子は夢の中でニコニコしているのだという

「へえ、不思議な人形だな」
「でしょ?」
「ちょっと俺にも見せてくれよ」
そう言いながら人形を手に取ろうとしたとき

「さわるな!」 
彼女は劣化のごとく怒り大声で怒鳴った
そのときの表情は、俺が見たことのない怒りに満ちた顔だった
それ以来、俺は人形について干渉しなくなった



495 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2015/03/25(水) 19:37:00.23 ID:fxhF7edp0.net
彼女の行動は段々エスカレートしていった
ひとりで居るときは、TVも音楽もつけずに人形と話しているようだった
人形に御供え物を置くようになり、人形の前に果物や菓子が置かれた
人形の置いてある棚は祭壇みたいになっていた
傍からみていると、かなりおかしい状況だ


そんな状況が続く中、大学のサークルの友人達がうちに遊びに来た
やはり人形が目立ったようで、友人達は人形について聞いてきた
「何なのこの人形?」
「何でこんなブサイクな人形を可愛がるんだろうね?」
 口々に疑問を言ってくる友人達
そんなことは俺が聞きたいくらいだと思った


「あー、たぶんだけど、これはボルネオのダヤクの人形ですね」
サークルにいた後輩の女子が口を開いた

その子は、専攻の関係で海外の民俗学とか伝承に詳しい
個人的にもアジア雑貨とかエスニック物が好きな子で
 ヒッピーみたいな格好をしていた風変わりな女子だ

「へえ、流石にこういうのに詳しいね」
「これは何に使う人形なんだい?」
 俺はその子に聞いてみた



496 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2015/03/25(水) 19:41:09.57 ID:fxhF7edp0.net
「これはですね、死霊を込めて御守りに使う人形ですよ」
「人が死んだとき、木彫りの人形に魂を込めて安置するのですね」
その話を聞いて俺は寒気がした


一緒に住んでる間中、彼女と人形の交流は続いた
祭壇は玩具やロウソクまで置かれるようになり
人形の周りは御供え物で埋まってしまった
人形を食い入る様に眺めながら話しかける彼女はかなり気味が悪かった
まるで人形に魅入られてしまっているようだった


大学を卒業した後
就職の関係で彼女とは離れ離れになってしまった
遠距離恋愛は続かない物で、関係は自然消滅してしまった
だから、今は彼女がどうしているか分からない
ただ、引っ越しの際は人形を持って行ったようだ…

彼女と人形の関係は、おそらく今も続いているだろう


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