サイケデリック・奇譚

永遠の日常は非日常。

タグ:呪い

219 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/29(月) 03:20:27 ID:/lsJmPn1O
『中年女』はこちらに一切目を合わせず、軽く会釈をし、ゴミを回収し始めた。
俺は何と声を掛けていいのかわからず、しばらく中年女の様子を伺っていたが、
淳が『おばさん!どーゆーつもりだよ?』と 切り出した。
中年女はピタッと作業の手を止め、俯いたまま静止した。


淳は続けて、『あんた、俺の事覚えてたんだろ?俺には謝罪の言葉一つも無いの?』
俺はドキドキした。
まさか淳が急にキレ口調で話すなんて、予想外だった。
中年女は俯いたまま、『ごめんねぇ・・・』と、か細い声を出した。
淳はその素直な返答に驚いたのか、キョトンとした目で俺を見て来た。

俺は『おばさん・・・本当に反省してるんだよね?』と聞いてみた。

すると中年女はこちらを向き、
『本当にごめんなさい。私があんな事したから淳君、こんな事故に遭っちゃって・・・
私があんな事したから・・・ほんとゴメンね!』と。
俺と淳は更にキョトンとした。何か話がズレてないか?
俺は『いや、昔あんた、犬に酷い事したり、俺ん家にきたり、すべてひっくるめて!』と言った。





221 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/29(月) 03:44:26 ID:/lsJmPn1O
中年女は、『本当にごめんなさい!私が、私があんな事さえしなければ・・・
こんな事故・・・ごめんね!本当にごめんね!』
と、泣きそうな声で言った。

その態度、会話を聞いていた病室内の患者の視線が、一斉にこちらに注目していた。
静まり返った病室に、『ゴメンね!ごめんなさい!ゴメンなさぃ!』と、中年女の声だけが響いた。
淳は少し恥ずかしそうに、
『もういいよ!だいたい、俺が事故ったの、アンタとは一切関係ねーよ!』と吐き捨てた。

中年女はペコペコ頭を下げながら、淳のベットのゴミを回収し、
最後に『ごめんなさい・・・』と言い、そそくさと病室から出て行った。

その光景を周りの患者が見ていたので、しばらく病室は変な空気が流れた。

淳は『何なんだよ!あのオバハン!俺は普通に事故っただけだっつーの。何勘違いしてやがんだよ!』
と言いながら枕をドツイた。
俺は『中年女』の行動、言動を聞いていてハッキリと思った。 やはり『中年女』は少しおかしい。
いや、謝罪は心からしているのだろうが、アイツは呪いの儀式を行った事を謝っていた。
呪いを本気で信じているようだった。



222 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/29(月) 03:58:35 ID:/lsJmPn1O
淳は、『あの頃は無茶苦茶怖い存在やって、今だにトラウマでビビってたけど、
さっき喋って思ったんは、単なるオカルト信者のオバはんやって事やな!』
と、何処かしら憑き物が取れたと言うか、清々しい表情で言った。

俺は『あぁ昔と違って、俺らの方が体もデカくなったしな!』と調子を合わせた。
『さて、とりあえず一件落着したし、俺帰るわ!』
『おぅ!また暇な時来てや!』
と言葉を交わし、俺は病室を出た。


家に帰る途中、俺は慎の事を思い出した。 アイツにもこの事を伝えてやろうと。
アイツも今回の話を聞かせてやれば、あの日のトラウマが無くなるのでは無いか、と。



250 :247の前:2006/06/02(金) 02:39:56 ID:6rqtwJH50
ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:06/06/01 02:47:31 ID:HcpydJoy
家に帰り早速、慎と同じサッカー部だった奴に電話をかけ、慎の携帯番号を聞いた。
そして慎の携帯に電話を掛けた。
『おう!ひさしぶり!』
なつかしい慎の声。

俺はしばし慎と、最近どうよ?的な話をした後、
淳が事故って入院したこと、その病院に『中年女』が清掃員として働いていること、
『中年女』が昔と別人のように、心を入れ替えている事を話した。

慎は『中年女』が謝罪してきたことに対し、たいそう驚いていた。
そして最後に慎は、『淳が退院したら三人で快気祝いをしよう』と言った。
もちろん俺は賛成し、『淳の退院のメドがつき次第連絡する』と伝えた。


その翌日、俺は病院に行き、
淳に『慎がおまえの退院が決まり次第、こっちに帰って来て快気祝いしようってよ!』と伝えた。
淳はたいそう喜んでいた。



247 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/06/02(金) 00:51:34 ID:Cc3LUK3SO
それから一週間程、病院に見舞いには行っていなかった。
別に理由は無いが、新学期も始まり、なかなか行く時間が無かったというのもある。
それに『中年女』が更正(?)しているようだったので、心配も以前ほどはしていなかった。
何かあれば、淳から電話があるだろうと思っていた。


そんなある日、淳から電話が掛かってきた。 内容は、『来週退院する!』との事だった。
俺は『良かったな!』と祝福の言葉と共に、『中年女』の動向を聞いたが、
『普通にゴミ回収の仕事をしている。特に何もない』との事だった。


そして、さらに一週間が経ち、淳は退院した。
俺は学校帰りに、淳の家に立ち寄った。チャイムを押すと、松葉杖をつきながら淳が出てきた。
『おぅ!上がれよ!』
足にはギブスをはめたままだったが、すっかり元気そうだった。
淳の部屋でしばし雑談をした。

夕方になり俺は帰宅。夕飯を喰った後、慎に電話をした。
『淳、退院したぜ!』
『まぢ!そっか、じゃあ快気祝いしなくちゃな!
すぐにでも行きたいけど、部活が忙しいから、月末頃にそっち行くよ!』との事だった。



280 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/06/05(月) 01:40:06 ID:ZlsKc24yO
そして月末の土曜日。
俺、慎、淳。小学校以来、久しぶりの三人での再会だった。
昼に駅前のマクドで落ち合った。
久しぶりに会った慎は、冬なのに浅黒く日焼けし、少しギャル男気味だった。
まぁそれはさておき、夕方まで色々と語った。
それぞれの高校の話。
恋の話。
昔の思い出話・・・


もちろん、『中年女』の話題も出てきた。
あの時、それぞれが何よりも恐ろしく感じていた『中年女』も、今となればゴミ回収のおばさん。
病院での出来事を、俺と淳が慎に詳しく話してやると、
慎は『あの頃と違って、今ならアイツが襲って来てもブッ飛ばせるしな!』と笑いとばした。
もう俺達にとって『中年女』は過去の人物、遠い昔話で、トラウマでも無くなっていた。



282 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/06/05(月) 01:59:26 ID:ZlsKc24yO
夕方になり、俺達はカラオケBOXに行った。
久しぶりの三人での再会と言うこともあり、俺達は再会を祝して酒を注文した。
まぁ酒と言っても酎ハイだが・・・
当時の俺達は充分に酔えた。 各々、4、5杯ぐらい飲み、皆ほろ酔いだった。
いい気分で歌を歌い、かなりHIGHテンションだった。


そして二時間経ち、歌にも飽き出した時、慎がある提案をした。
『よーし、今から秘密基地に行くぞ!あの時、見捨てちまったハッピーとタッチの供養をしに行くぞ!』と。

一瞬、空気が凍った。
俺も淳も言葉を失った。 まさか、あの場所に行こうなんて、予想外の発言だったから。
慎はそんな俺達を挑発するように、
『オメーら変わってねーな!まぢでビビっんの?!ハハッ!』と、少し悪酔い?していた。
その言葉に酔っ払い淳が反応し、『あ?誰がビビるかよ!喧嘩売ってんのか慎?』とキレ出した。



283 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/06/05(月) 02:18:28 ID:ZlsKc24yO
俺は酔いながらも空気を読み、
『おいおい、やめとけって!第一、淳まだ杖突いてんだぜ?』と言うと
慎がすかさず、『あ、そっか。杖ツイてちゃ逃げれねーしな。ハハハ♪』と、かなりの悪酔いしていた。
淳は益々ムキになり、
『うるせーよ!行きてーんなら行ってやるよ!お前こそ途中でビビんぢゃねーぞ?』
と、まるで子供の喧嘩のようになり、
結局『ハッピーとタッチの冥福を祈りに』と言う名目で行くことになった。
慎、淳は二人とも結構酔っていたのと、引くに引けなかったんだと思う。

まぁ、ハッピーとタッチの供養はいずれしなければならないと思っていたので、いい機会かもと少し思った。
三人なら恐さも薄れるし。

カラオケBOXを出てコンビニに寄り、あの2匹が大好きだった『うまい棒』と『コーラ』を買い込み、
タクシーで一旦俺の家に寄り、照明道具を取って来てから、あの裏山へ向かった。



293 ::ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/06/06(火) 10:37:00 ID:UBma/3yTO
タクシー運転手に怪しげな目で見られつつ、山の入口でタクシーを降りた。
俺は三人でよく遊んだ裏山という懐かしさと共に、あの日の出来事を思い出した。
こんな夜更けに、また入ることになるとは・・・
そんな俺の気持ちも知らずに、
淳は意気揚々と『さぁ、入ろうぜ!』と、杖を突きながらズカズカと入っていく。
その後ろをニヤニヤしながら慎が、明かりを燈しながらついて行った。
俺は『淳、足元気つけろよ!』と言い、慎に続いた。


いざ山に入ると、昔と景色が変わっていることに驚いた。
いや、景色が変わったのでは無く、俺達がデカくなったから景色が変わって見えているのか?
登山途中、慎が淳をからかうように、
『中年女がいたらどーする?俺、お前置いて逃げるけど♪』等、冗談ばかり言っていた。
思いの外スムーズに進め、30分程であの場所に到達した。



295 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/06/06(火) 11:27:49 ID:UBma/3yTO
初めて『中年女』と会った場所。
俺達は黙り込み、ゆっくりと明かりを燈しながら、あの樹に近づいた。
あの日、中年女が呪いの儀式をしていた樹・・・
間近に寄り、明かりを燈した。

今は何も打ち込まれておらず、普通の大木になっていた。
しかし、古い釘痕は残っていた。所々、穴が開いていた。
恐らく、警察がすべて抜いたのだろう。

しばらく三人で釘痕を眺めていた。

そして慎が、『ここらへんでハッピーが死んでたんだよな・・・』と、地面を照らした。
さすがにもうハッピーの遺体は無かったが、ハッキリとその場所は覚えている。
俺はその場に『うまい棒』と『コーラ』を供えた。
そして三人で手を合わせ、次は『タッチ』の元へ。秘密基地跡へ向かった。



320 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/06/07(水) 09:30:31 ID:dXfc2GpkO
秘密基地に向かう途中、淳が『色々あったけど、やっぱ懐かしいよな』とポツリと言った。
すると慎が、『あぁ。あの夜、秘密基地に泊まりに来なければ、
嫌な思い出なんて無かっただろうな』と言った。
確かに。この山で『中年女』に会わなければ、ここは俺達にとっては聖地だったはずだ。


『ここらへんだったよな・・・』
慎が立ち止まった。
秘密基地跡地。もう跡形も無かった。
あの日バラバラにされていた材木すら、一枚も無かった。
淳が無言でしゃがみ込み、『うまい棒』『コーラ』を置き、手を合わせた。
俺と慎も手を合わせた。

しばらく黙祷したのち、慎が言った。
『ハッピーとタッチがいなけりゃ・・・今頃俺達いなかったかもな』
淳『あぁ・・・』
俺『そうだよな・・・結局、『中年女』も更正して、なんだか、やっと悪夢から解放された感じだな』
しばらく沈黙が続いた。


ふと慎が、周囲や目の前の池を電灯で照らし、
『この場所、あの頃は俺らだけの秘密の場所だったのに、結構来てる奴いるみたいだな』と。
慎が燈す場所を見ると、スナック菓子の袋や空き缶が、結構落ちていることに気付いた。



323 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/06/07(水) 09:53:04 ID:dXfc2GpkO
俺は『ほんとだな。あの頃はゴミなんて全然無かったもんな。
今の小学生、この場所しってんのかな?』と言った。
淳が続けて、『あの時は俺ら、まじめにゴミは持ち帰ってたもんな』と言った。
その時、慎が『うわっ!何だこれ!』と叫んだ。
俺と淳はその声に驚き、慎の照らす明かりの先に視線をやった。

一本の木に、何やらゴミが張り付いている。
よく見ると、無数の菓子袋や空き缶、雑誌が木に釘で打ち付けられていた。

『なんだこれ?!』

慎が明かりを照らしながら近づいていった。
俺と淳も後をついて行った。
『誰かのイタズラ??』
俺はマジマジと、打ち付けられたゴミを見た。

その時、『あぁぁぁ・・・これ・・・俺の、ゴミぃ・・・ぁぁぁぁあ・・・』 と、淳が震えた声で言いながら硬直した。
『は?!』
俺と慎は聞き直した。
淳は、『あ゛ぁぁぁ・・・俺が、病院で捨てた・・・あぁぁ・・・』と言いながら後ずさりした。



325 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/06/07(水) 10:06:39 ID:dXfc2GpkO
慎が『おい!淳!しっかりしろ!んなわけねーだろ!』と怒鳴りながら、
釘で打たれた一枚の菓子袋を引きちぎった。
それを見て淳は、『あー、ぁあぁ・・・』と奇妙な声を出し、尻餅を付いた。
その行動に俺と慎は呆気に取られたが、
次の瞬間『うわっ!』と、慎が手に持っていた袋を投げた。

『え?!』と俺がその袋に目をやると、袋の裏に『淳呪殺』とマジックで書かれていた。
俺はまさか?と思い、木に釘打たれたゴミを片っ端から引き剥がし、裏を見た。

『淳呪殺』
『淳呪殺』
『淳呪殺』
『淳呪殺』

すべてのゴミに書かれていた。
淳は口をパクパクさせながら、尻餅を付いた状態で固まっていた。
慎が何気に周囲に落ちていたゴミを拾い、『おい!これ!』と俺に見せてきた。

『淳呪殺』

なんと、周囲に落ちているゴミにも書かれていた。



328 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/06/07(水) 10:21:17 ID:dXfc2GpkO
俺はその時、初めて気付いた。
『中年女』は更正なんて、はじめからしていなかったんだ。ずっと俺達を怨んでいたんだ。
病院でゴム手袋をして必死で分別していたのも、淳のゴミだけを分けていたんだ!
俺達に『ごめんね』と言っていたのも全部嘘だったんだ。

俺は急にとてつもなく寒気を感じ、此処にいてはいけない!と本能的に思い、
淳に『おい!しっかりしろ!行くぞ!』と言ったが、
『俺の・・・ゴミ・・・俺のゴミ・・・』と、淳は壊れていた。発狂していた。
とりあえず慎と俺で淳を担ぎ、山を降りた。


あれから8年、あの日以来、もちろん山には行っていない。
『中年女』とも会っていない。
まだ俺達を怨んでいるんだろうか? どこかで見られているんだろうか?

しかし、俺達三人は生きている。
ただ、未だに淳は歩く事が出来ない。


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161 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 05:39:52 ID:2G2sPLliO
慎はカメラを再び構え、あの木を撮ろうとしていた。
『ん?!おい!ちょっと来てーや!』
何かを発見し、俺を呼ぶ慎。
俺は恐る恐る慎の元に歩み寄った。
慎が『これ、この前無かったよな?』と、何かを指差す。
その先に視線をやると、無数に釘の刺さった写真が・・・

ん?たしか前もあったはずじゃ・・・

いや!写真が違う!
厳密に言うと、この前見た4・5歳ぐらいの女の子の写真はその横にある。
つまり、写真が増えている!

写真の状態からして、ここ2・3日ぐらいに打ち込まれているであろう。
この前に見た写真は、既に女の子かどうかもわからないぐらいに、雨風で表面がボロボロになっている。

新しい写真も、4、5歳ぐらいの女の子のようだ。

この時は慎に言わなかったが、
俺は一瞬、新しい写真が俺だったらどうしよう!!とドキドキしていた。
慎はカメラに、その打ち込まれた写真を撮った。

そして、『後は秘密基地の彫り込みを撮ろう』と言い、又走りだした。
俺は近くに中年女がいるような錯覚がし、一人になるのが怖く、慌てて慎を追った。





163 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 06:07:52 ID:2G2sPLliO
秘密基地に近いてきて、俺は違和感を感じ、『慎!』と呼び止めた。
違和感。いつもなら、秘密基地の屋根が見える位置にいるはずなのだが、屋根が見えない。
慎もすぐに気付いたようだ。

このとき、脳裏に『中年女』がよぎった。
胸騒ぎがする。鼓動が激しくなる。

慎が『裏道から行こう』と言った。俺は無言で頷いた。

裏道とは、獣道を通って秘密基地に行く、従来のルートとは別に、茂みの中をくぐりながら、
秘密基地の裏側に到達するルートの事である。
この道は、万が一秘密基地に敵が襲って来た時の為に造っておいた道。

もちろん、遊びで造っていたのだが、まさかこんな形で役に立つとは・・・

この道なら万が一基地に『中年女』がいても、見つかる可能性は極めて低い。
俺と慎は四つん這いになり、茂みの中のトンネルを少しずつ進んだ。

そして秘密基地の裏側約5M程の位置にさしかかった時、基地の異変の理由が分かった。

バラバラに壊されている。
俺達が造り上げた秘密基地は、ただの材木になっていた。
しばらく様子を伺ったが、
中年女の気配もないので俺達は茂みから抜けだし、秘密基地の跡地に到達した。



181 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 16:32:42 ID:2G2sPLliO
俺達はバラバラに崩壊された秘密基地を見て、少し泣きそうになった。
秘密基地は言わば、俺達三人と2匹のもう一つの家。
バラバラになった材木の片隅に、大きな石が落ちていた。
恐らく誰かが、これをぶつけて壊したのだろう。
誰かが?・・いや、多分『中年女』が・・・。


慎が無言で写真を撮りだした。
そして数枚の材木をめくり、『淳呪殺』と彫られた板を表にし、写真を撮った。
その時、わずかな板の隙間からハエが飛び出し、その隙間からタッチの遺体が見えた。

ハッピーとタッチ。
秘密基地よりもかけがえの無い2匹を、俺達は失った事を痛感した。


慎は立ち上がり、『よし、このカメラを早く現像して、警察に持って行こう』と言った。
俺達は山を駆け降りた。
山を降り、俺達は駅前の交番へ急いだ。
このカメラに納められた写真を見せれば、中年女は捕まる。俺らは助かる。
その一心だけで走った。


途中でカメラ屋に寄り、現像を依頼。
出来上がりは30分後と言われたので、俺達は店内で待たせてもらった。
その間、慎との会話はほとんど無かった。ただただ 写真の出来上がりが待ち遠しかった。

そして30分が過ぎた。



190 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 22:54:20 ID:2G2sPLliO
『お待たせしましたー』
バイトらしき女店員に声をかけられた。
俺と慎は待ってましたとばかりにレジに向かった。

女店員は少し不可解な顔をしながら、
『現像出来ましたので、中の確認をよろしくお願いします』といいながら、写真の入った封筒を差し出した。
まぁ現像後の写真が、犬の死骸や釘に刺された少女の写真のみだから、
不可解な顔をするのも当然だが・・・

慎はその場で封筒から写真を取り出し、
すべての写真を確認し、『大丈夫です。ありがとうございました』と言い、代金を支払った。

店を出て、すぐさま交番へ向かった。

これで全てが終わる。
駅前の交番へ二人して飛び込んだ。
『ん?!どうしたの?』
中にいた若い警官が、笑顔で俺達を迎えてくれた。
俺達はその警官の元に歩み寄り、『助けてください!』と言った。


俺と慎は、あの夜の出来事を話した。
裏付ける写真も一枚一枚見せながら話した。そして、今も『中年女』に狙われている事を。

一通り話し終わると、その警官は穏やかな表情で『お父さんやお母さんに言ったの?』
俺たちは親には伝えてないと言うと、
『ん~んぢゃ、家の電話番号教えてくれるかな?』と警官は言い出した。



286 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/30(日) 01:58:44 ID:Ey4nh9XjO
慎が『なんで親が関係あるの?狙われているのは俺達だよ?!』とキレ気味に言い放った。
ちなみに慎の両親は医者と看護婦。高校生の兄貴は某有名私立高校生。
俺達3人の中で一番裕福な家庭だが、一番厳しい家庭でもある。

あの夜は親に嘘をついて秘密基地に行き、このような事に巻き込まれたとバレれば、
俺や淳もだが、慎が一番洒落にならないのである。

『助けてよ!警察官でしょ!!』と慎が詰め寄る。

警官は少し苦笑いして、
『君達小学生だよね?やっぱり、こーゆー事はキチンと親に言わなきゃダメだよ』
と、しばらくイタチゴッコが続いた。


あげくに警官は、『じゃあ君達の担任の先生は何て名前?』など、
俺達にとっては脅しに取れる言葉を投げ掛けてきた。

まぁ警官にとっては、俺達の保護者及び責任者から話を聞かないと・・・って感じだったのだろうが、
俺達にとって、こういう時の親や先生は、怒られる対象にしか考えられなかった。

そうこうしているうちに、俺達の心の中に、
目の前にいる警官に対して不信感が芽生えてきた。
このまま此処にいれば、無理矢理住所を言わされ、親にチクられる!と。



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814 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 05:34:10 ID:moTdWLP+O
少し迂回して、俺達はその女の、斜め後方8M程の木の陰に身を隠した。
その女は肩に少し掛かるぐらいの髪の長さで、痩せ型、足元に背負って来たリュックと電灯を置き、
写真?のような物に次々と釘を打ち込んでいた。
すでに6~7本打ち込まれていた。


その時、『ワン!』 俺達はドキッとして振り返った、
そこにはハッピーとタッチが、尻尾を振ってハァハァいいながら、なにしてるの?と言わんような顔で居た。

次の瞬間、慎が『わ゛ぁー!!』と変な大声を出しながら走り出した。
振り返ると、鬼の形相をした女が、片手に金づちを持ち、
『ア゛ーッ!!』みたいな奇声を上げ、こちらに走って来ていた。





819 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 05:49:00 ID:moTdWLP+O
俺と淳もすぐさま立ち上がり、慎の後を追い走った。
が、俺の左肩を後ろから鷲づかみされ、すごい力で後ろに引っ張られ、俺は転んだ。
仰向きに転がった俺の胸に、『ドスっ』と衝撃が走り、俺はゲロを吐きかけた。
何が起きたか一瞬分からなかったが、
転んだ俺の胸を女が足で踏み付け、俺は下から女を見上げる形になっていた。


女は歯を食いしばり、見せ付けるように歯軋りをしながら、
『ンッ~ッ』と何とも形容しがたい声を出しながら、俺の胸を踏んでいる足を、左右にグリグリと動かした。
痛みは無かった。
もう恐怖で痛みは感じなかった。
女は小刻みに震えているのが分かった。恐らく興奮の絶頂なんだろう。
俺は女から目が離せなかった。
離した瞬間、頭を金づちで殴られると思った。



826 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 06:10:53 ID:moTdWLP+O
そんな状況でも、いや、そんな状況だったからだろうか、女の顔はハッキリと覚えている。
年齢は40ぐらいだろうか、少し痩せた顔立ち、目を剥き、
少し受け口気味に歯を食いしばり、小刻みに震えながら俺を見下す。
俺にとってはその状況が、10分?20分?全く覚えてない。


女が俺の事を踏み付けながら背を曲げ、顔を少しずつ近づけて来た、その時、
タッチが女の背中に乗り掛かった。
女は一瞬焦り、俺を押さえていた足を踏み外しよろめいた。
そこにハッピーも走って来て、女にジャレついた。
恐らく、2匹は俺達が普段遊んでいるから、人間に警戒心が無いのだろう。


俺はそのすきに慌てて起きて走りだした。
『早く!早く!』と、離れたところから慎と淳が、こちらを懐中電灯で照らしていた。
俺は明かりに向かい走った。

『ドスっ』
後ろで鈍い音がした。
俺には振り返る余裕も無く走り続けた。


慎と淳と俺が山を抜けた時には0時を回っていた。
足音は聞こえなかったが、あの女が追い掛けてきそうで、俺達は慎の家まで走って帰った。
慎の家に着き、俺は何故か笑いが込み上げて来た。
極度の緊張から解き放たれたからだろうか?
しかし、淳は泣き出した。



831 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 06:27:53 ID:moTdWLP+O
俺は『もう、あの秘密基地二度と行けへんな。あの女が俺らを探してるかもしれんし』と言うと、
淳は泣きながら『アホ!朝になって明るくなったら行かなアカンやろ!』と言い出した。
俺がハァ?と思っていると、慎が俺に、
『お前があの女から逃げれたの、ハッピーとタッチのおかげやぞ!
お前があの女に後から殴られそうなとこ、ハッピーが飛び付いて、代わりに殴られよったんや!』
すると淳も泣きながら、『あの女、タッチの事も、タッチも・・うっ・・・』と号泣しだした。


後から慎に聞くと、
走り出した俺を後から殴ろうとしたとき、ハッピーが女に飛び付き、頭を金づちで殴られた。
女は尚も俺を追い掛けようとしたが、
足元にタッチがジャレついてきて、タッチの頭を金づちで殴った。

そして女は一度俺らの方を見たが、追い掛けてこず、ひたすら2匹を殴り続けていた。

俺達はひたすら逃げた。
慎も朝になれば山に入ろうといった。
もちろん、俺も同意した。



852 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 13:45:51 ID:moTdWLP+O
興奮の為に明け方まで眠れず、朝から昼前まで仮眠を取り、俺達は山に向かった。
皆、あの『中年女』に備え、バット、エアーガンを持参した。

山の入口に着いたが、慎が『まだアイツがいるかも知れん』と言うので、
いつもとは違うルートで山に入った。

昼間は山の中も明るく、蝉の泣き声が響き渡り、昨夜の出来事など嘘のような雰囲気だ。
が、『中年女』に出くわした地点に近づくにつれ緊張が走り、俺達は無言になり、
又、足取りも重くなった。
少しずつ昨日の出来事を思い出し、例の地点に差し掛かった。
バットを握る手は緊張で汗まみれだ。


例の木が見えた。女が何かを打ち付けていた木。
少し近づいて、俺達は言葉を失った。
木には小さな子供(四・五歳ぐらいの女のコ?)の写真に、無数の釘が打ち付けられていた。
いや、驚いたのはそれでは無い。
その木の根元に、ハッピーの変わり果てた姿が。

舌を垂らし、体中血まみれで、眉間に一本釘が刺されていた。
俺達は絶句し、近づいて凝視することが出来なかった。
蝿や見たことの無い虫がたかっており、生物の死の意味を、俺達は始めて知った。



950 :本当にあった怖い名無し:2006/04/23(日) 02:32:23 ID:0yX4mhCZO
俺はハッピーの変わり果てた姿を見て、
今度中年女に会えば、次は俺がハッピーのように・・・と思い、すぐにでも家に帰りたくなった。
その時、淳が『タッチ・・・、タッチの死体が無い!タッチは生きてるかも!』と言い出した。
すると慎も、『きっとタッチは逃げのびたんだ!きっと基地にいるはず!』と言い出した。
俺もタッチだけは生きていて欲しいと思い、三人で秘密基地へと走り出した。


秘密基地が見える場所まで走ってきたが、慎が急に立ち止まった。
俺と淳は『!中年女?!』と思い、慌てて身を伏せた。
黙って慎の顔を見上げると、慎は『・・・なんだあれ?』と基地を指差した。
俺と淳はゆっくり立ち上がり、基地を眺めた。

何か基地に違和感があった。
何か・・・基地の屋根に何か付いている・・・。


少しずつ近づいていくと、
基地の中に昨夜忘れていた淳の巾着袋が(淳は菓子をいつもこれに入れて持ち歩いている)
基地の屋根に、無数の釘で打ち付けてあるではないか!
俺達は驚愕した。
この秘密基地、あの中年女にバレたんだ!
慎が恐る恐る、バットを握り締めながら基地に近づいた。



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285 :本当にあった怖い名無し:2011/05/20(金) 22:04:37.89 ID:x83Y3WRH0
そして、呪物の類だとすると、と前置きし、
恐らく、祈祷で呪物と君たちの縁を切ってしまえば、なんとかなるのではないかと。
そして、できればその人形も供養してしまいたい、とのことだった。

とりあえずそういう話でまとまったという事で、
俺達もそれで解決できるなら早くしてほしいと、話がまとまった。

と、その前に、俺はずっと我慢していたのだがトイレに行きたくなった。
事情を話し、「でも一人じゃなぁ…」と思っていると、
他のやつも全員我慢していたらしく、結局6人で連れションすることになった。


トイレからの帰り道、本堂へ続く廊下を歩いていると、
どこからか「ホホホ…ホホホ…ホホホ…」という、例の抑揚の無い声が聞こえてきた。
場所は分からないが、あれがすぐ近くにいるようだ…
C広が「近くにいるよな…」というと、A也が「かなり近いぞ、やばくね?」と返した。
たしかにかなり近い。でも姿は見えない。
すると最後尾にいたE介とD幸が、
「やばい、早く本堂に逃げろ!」と、窓の上のほうを指差しながら叫んだ。





286 :本当にあった怖い名無し:2011/05/20(金) 22:06:20.82 ID:x83Y3WRH0
俺達が指差した方向へ振り向くと、それはいた…
前と同じように屋根から頭だけを突き出し、「ホホホ…ホホホ…ホホホ…」と笑いながら、
例の真っ黒な目と口の顔をこちらに向けながら、ニコニコと笑っている。
俺たちは全力で逃げ出した。


本堂に着くと、お坊さん2人とさっきのおじさんが待っていた。
今になって気付いたのだが、おじさんはどうもこの村の村長さんらしい。
俺達が事情を話すと、お坊さん達はすぐさま俺達を座らせ、お経を読み始めた。

暫らくお経を読んでいると、本堂の天井のほうから、
「ホホホ…ホホホ…ホホホ…」という例の笑い声と、コツ…コツ…という、
俺の部屋で聞いたあの音が聞こえてきた。
俺達はビビりまくって身を寄せ合っていた。
暫らくすると声が聞こえなくなった。
俺が「終ったか?」と言い切らないうちに、
今度は本堂の横の庭のほうから、「ホホホ…ホホホ…ホホホ…」という声が聞こえ始めた。



287 :本当にあった怖い名無し:2011/05/20(金) 22:07:05.17 ID:x83Y3WRH0
そして、薄暗くなり始めた本堂の障子に、夕日に照らされたあの人形のあたまが映し出された。
あたまはユラユラ揺れながら、相変わらず不気味な笑い声で笑っている。


その時、俺は恐怖心と不安感と連日の寝不足で、もう耐えられなくなって、
ちょっとおかしくなっていたんだとおもう。
人形の影を見て、恐怖心よりもその姿にイラつきはじめた。
ユラユラ揺れている姿を見ると、とにかくなんだか良く分からないがムカついてきて、
とうとう我慢できなくなった。


俺はお坊さん達がお経を読んでいる横の鉄の燭台を掴むと、
蝋燭もささったまま引き抜き、周りが制止するのも振りきり障子を開けた。
目の前にあの人形の顔があった。

一瞬俺は恐怖心に襲われたが、怒りとイラつきが勝って、
そのまま燭台をぶら下がっている人形の頭めがけ、
「ふざけんなーーーーーーーーーー!」と叫びながら振り下ろした。



289 :本当にあった怖い名無し:2011/05/20(金) 22:08:42.37 ID:x83Y3WRH0
バキッ!という音がして、燭台の先端が人形の顔にめり込み、
そのまま人形は地面に落下した。
俺は裸足のまま庭に下りると、更に燭台を振りかぶり人形に打ち下ろした。

すると、なにか頭の中に妙な感覚が芽生え始めた。
人形はそれでもなお、「ホホホ…ホホホ…ホホホ…」と無機質に笑っている。

俺はおかしくも無いのに笑いたくなり、なきたくも無いのに目からボロボロと涙が零れ落ちてくる。
明らかにE介たちと同じ状況になりつつあるのだが、
それでも俺は燭台を振りかぶり、人形に打ち下ろすのをやめなかった。
あとから話を聞くと、俺はゲラゲラと笑いながら、無表情でボロボロと涙を流していたらしい。


暫らくそんな状態が続いていると、
どうも燭台に残っていた蝋燭の火が人形の服に燃え移ったらしく、人形が煙を上げて燃え始めた。
友人たちによると、人形の「ホホホ…ホホホ…ホホホ…」という笑い声と、
俺の絶叫が交じり合い、薄暗くなり始めた周囲の雰囲気とあわさって、異様な状況だったという。



292 :本当にあった怖い名無し:2011/05/20(金) 22:09:26.15 ID:x83Y3WRH0
それでも俺は、笑い泣きしながら殴り続けていると、
どこを殴ったのかよくわからないが、メキッ!という鈍い音がした。
その途端、俺の中の妙な感情が消えた。
消えたというか、急にシラケてしまったといえば良いのだろうか、
とにかく人形に対するイラつきも、
笑いたいという気持ちも、泣きたいという気持ちも、急になくなってしまった。


俺はその場にヘタり込み、友人たちやおじさんが「…大丈夫か?」と心配そうに近付いてきた。
人形はもう笑ってもいないし動きもしないが、
燃えたままでは不味いので、友人たちとおじさんが砂を掛けて消していた。



294 :本当にあった怖い名無し:2011/05/20(金) 22:11:59.67 ID:x83Y3WRH0
理由は分からないが、俺は何故か全て解決したような、そんな良い気分になっていた。
この騒ぎの中、お坊さん2人はずっとお経を読み続けていたらしい。
人形(もう殆ど残骸に近かったが…)の事は明日詳しく調べる事になり、
箱に入れてお札を貼り、本堂に安置する事になった。
俺達はお坊さんの好意で、そのままお寺に泊まることにした。


翌朝。俺達は本堂に呼ばれた。
どうやら、お経のお陰なのか、俺がぶち切れたのが原因なのか、理由ははっきりしないが、
どうも一応解決はしたらしい。
そして、人形はこのままこのお寺で供養する事になったのだが、
結局この人形が何なのか、その辺りは謎のままだった。



296 :ラスト:2011/05/20(金) 22:14:30.18 ID:x83Y3WRH0
ただ、燃え残った人形の胴体に、焼け焦げ消えかかった文字で、
「寛保二年」という記述と、完全に燃えて文字数しかわからない作者の名前6文字、
それと、はっきりとは分からないので、残っている文字の痕跡からの推測だが、
「渦人形」という単語が読み取れた。

お坊さんが言うには、とにかく正体は不明だが、何らかの呪物である事はまちがいないらしい。
燃え残った残骸に、頭と動を繋ぐ棒の部分があったのだが、
そこにびっしりと、何か呪術的な模様が書かれていた痕跡があるのが、確認できたとの事だった。


その後、今に至るまで、俺も含め当時のメンバーには、知る限り何も起こっていない。
お寺のお坊さんからは、人形の正体がわかったら連絡をくれるという話だったが、
あれから数年経つが、未だその連絡も来ない。


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274 :本当にあった怖い名無し:2011/05/20(金) 21:05:45.22 ID:x83Y3WRH0
「ホホホ…ホホホ…ホホホ…」という、例の抑揚の無い笑い声のようなものも聞こえてきた。
音の正体はこれだった。
異様な光景だった。
そして、昨日は気付かなかったが、あれは子供と言うより、和服を来た人形のようだった。
頭が窓にぶつかる音も、人間の頭と言うより、中身が空洞の人形のような音だ。
C広が、「ひょうせって、今日もう一度封じ込めたんじゃねーのかよ…」と呟いた。

その時、俺の親父が騒ぎに気付いて、「お前ら何やってるんだ?」と階段を上がってきた。
その声にびっくりしたA也が、思わず腕を窓にぶつけて、ドン!と大きな音を立ててしまった。






278 :本当にあった怖い名無し:2011/05/20(金) 21:25:44.15 ID:x83Y3WRH0
"それ”の棒の先にある頭だけが、カクンッという感じでこっちを向いた。
俺達は顔をはっきりと見た。
"それ”はおかっぱ頭で、笑顔の人形だった。
ただし、ただの人形ではない。 顔は人形特有の真っ白な肌なのだが、
笑顔のはずの目は中身が真っ黒で、目玉らしきものが見えない。
口も同じで、唇らしきものもなく、そこにはやはりぽっかりと真っ暗な、三日月状の穴のようなものがある。

それでも、目や口の曲線で、「にっこり」と言う感じの笑顔だと分かるのが余計に不気味だった。

親父が、「だからお前ら何やってるんだ?」と、窓のところに来てカーテンを全開にすると、
それはサッ!と屋根の影に隠れて見えなくなった。
が、親父にも一瞬、何かがそこにいたのは分かったらしい。
親父は大慌てで1階に降りると、携帯でどこかに電話をし始めた。
どうやら、昼間祈祷をしてくれたおぼうさんや、おじさん達の連絡先を聞いていたらしく、
そこと顧問の先生のところに電話しているらしい。


その後、影に隠れたきり、"それ”は二度と姿を現さなかった。



279 :本当にあった怖い名無し:2011/05/20(金) 21:26:15.67 ID:x83Y3WRH0
朝になり、昨日のおじさんたちや顧問の先生などが俺の家に来た。
とりあえず異常事態ということで、全員を合宿所近くにあるお寺まで連れて行くという。

みんなの親たちも俺の家に来たのだが、おじさんが
「被害が更に拡大するといけないから、親御さんは来ないほうがいい」と言うことで、
行くのは俺達だけになった。
俺達は着の身着のまま車に乗せられ出発した。


昼前にお寺に到着した。
お寺に入ると、ジャージ姿でゲッソリとした感じのE介が、俺達を出迎えた。
E介によると、あれから色々あったが、なんとか今のところは助かっているらしい。

本堂に入ると、お坊さんと昨日のおじさんが、昨晩の出来事を詳しく教えてほしいと言ってきた。

俺達が順番に状況を話していると、
人形の姿の説明のところで、おじさんが
「ちょと待った、人形?首が長い?何の話をしているんだ?」と驚いた顔で言ってきた。
そして、俺達が昨日みた人形の姿を改めて説明すると、
お坊さんと、「いや、これはひょうせじゃないぞ、どうなってるんだ?」
「おかしいとおもったんだ。色々辻褄が合わない」 と、2人で話し合い始めた。



282 :本当にあった怖い名無し:2011/05/20(金) 22:02:49.91 ID:x83Y3WRH0
そして暫らく話し合った後、俺達に状況を説明してくれた。
結論から言えば、「ひょうせ」に憑りつかれていたというのは全くの勘違いで、
どうも俺達に付き纏っているものの正体は、全く別の何からしい。
俺は、今更それはねーだろ…と思った。


おじさんが続けた。最初状況を聞いたとき、
・子供のような姿
・笑い声
・生徒がおかしくなって笑いながら泣いている
・村の近く
と言う状況から、「ひょうせ」だと思ったらしいが、どうも今詳しく話を聞いてみると、
「ひょうせ」のしわざと症状は似ているが、姿形が、まるで伝承や過去の目撃証言と違うらしい。


そもそも「ひょうせ」というのは、子供くらいの姿をした毛むくじゃらの猿のような姿で、
服も着ていないしおかっぱ頭でもないし、当然、首ものびたりもしないようだ。
笑い声も、俺達の聞いたようようの無い機械的なものではなく、
笑い声といっても、猿の鳴き声に近いとの事だった。



283 :本当にあった怖い名無し:2011/05/20(金) 22:03:27.31 ID:x83Y3WRH0
俺達は途方にくれてしまった。
ぶっちゃけ、この寺に来れば全部解決すると思い込んでいたのに、
今更「なんだかわからない」では、どうしたらいいのか…


室内が重苦しい雰囲気になり、皆しばらく沈黙していると、お坊さんがこう言ってきた。
「とりあえず、何か良くないものがいるのは間違いない。
少し離れたところに、こういう事に詳しい住職がいるので、その人を応援に呼んでくる。
暫らく皆、座敷でまっていてほしい」
そういうと、車に乗りどこかへ行ってしまった。

俺達は座敷に通され呆然としていた。
おじさんはしきりにどこかへ電話をし、かなりもめているように見えた。

夕方になり、お坊さんが別のお坊さんを連れて戻ってきた。

お坊さんが戻ってくると同時に、
さっきのおじさんが携帯を片手に「えらい事になった!」と、お坊さんのところに走り寄って来た。
話を聞いていると、どうも村の子供が1人、E介と同じ症状でいるところを発見されたらしく、
これからこっちへつれてくるという。


この寺のお坊さんが俺達に、
「とりあえず後で話をするから、ひとまず君たちはさっきの座敷で待っていてくれ」
というと、大慌てで2人で本堂のほうへと歩いていった。



284 :本当にあった怖い名無し:2011/05/20(金) 22:03:57.88 ID:x83Y3WRH0
それから15分ほどすると、ワゴン車がやってきた。
車の中からは、E介のときと同じように、けたたましい笑い声がする。
車の扉が開き、中から数人の大人と、
笑い声を上げる以外身動き一つしない中学生くらいの子供が運び出され、本堂へと連れて行かれた。


暫く本堂の中から、
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」という、笑い声と
お経を読む音が聞こえていたが、それも10分くらいで収まり静かになった。


それから更に15分ほどすると、お坊さん2人が俺達のいる座敷に入ってきて、色々と説明し始めた。
さっきの子供のほうは消耗が激しいので、本堂に布団を敷いてそのまま寝かせているらしい。
応援でやって来たお坊さんによると、
どうも話を聞いた感じやさっきの子供の様子から見て、
幽霊や妖怪のようなものが原因ではなく、何かしらの呪物が原因ではないかという。
特に根拠があるわけではないけれど、感覚的にそう感じるらしい。



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216:リアル:2011/05/13(金) 13:37:20.60 ID:rKgs8JSd0
Tちゃんへ
ご無沙汰しています。Sです。あれから大分経ったわねぇ。 もう大丈夫?
怖い思いをしてなければいいのだけど…。
いけませんね、
年をとると回りくどくなっちゃって。

今日はね、Tちゃんに謝りたくてお手紙を書いたの。
でも悪い事をした訳じゃ無いのよ。あの時はしょうがなかったの。
でも…、ごめんなさいね。

あの日、Tちゃんがウチに来た時、先生本当は凄く怖かったの。
だってTちゃんが連れていたのはとてもじゃ無いけど先生の手に負えなかったから。
だけどTちゃん怯えてたでしょう?
だから先生が怖がっちゃいけないって、そう思ったの。


本当の事を言うとね、いくら手を差し伸べても見向きもされないって事もあるの。
あの時は、運が良かったのね。

Tちゃん、本山での生活はどうだった?
少しでも気が紛れたかしら?
Tちゃんと会う度に先生まだ駄目よって言ったでしょう? 覚えてる?

このまま帰ったら酷い事になるって思ったの。
だから、Tちゃんみたいな若い子には退屈だとは分かってたんだけど帰らせられなかったのね。
先生、毎日お祈りしたんだけど中々何処かへ行ってくれなくて。


でも、もう大丈夫なはずよ。近くにいなくなったみたいだから。
でもねTちゃん、もし…もしもまた辛い思いをしたらすぐに本山に行きなさい。
あそこなら多分Tちゃんの方が強くなれるから中々手を出せないはずよ。





218:リアル:2011/05/13(金) 14:02:03.21 ID:rKgs8JSd0
S先生の手紙の続き


最後にね、ちゃんと教えておかないといけない事があるの。
あまりにも辛かったら、仏様に身を委ねなさい。
もう辛い事しか無くなってしまった時には、心を決めなさい。

決してTちゃんを死なせたい訳じゃないのよ。
でもね、もしもまだ終っていないとしたらTちゃんにとっては辛い時間が終らないって事なの。


Tちゃんも本山で何人もお会いしたでしょう?

本当に悪いモノはね、ゆっくりと時間をかけて苦しめるの。決して終らせないの。
苦しんでる姿を見てニンマリとほくそ笑みたいのね。
悔しいけど、先生達の力が及ばなくて目の前で苦しんでいても何もしてあげられない事もあるの。
あの人達も助けてあげたいけど…、どうにも出来ない事が多くて…。

先生何とかTちゃんだけは助けたくて手を尽くしたんだけど、正直自信が持てないの。
気配は感じないし、いなくなったとも思うけど、まだ安心しちゃ駄目。
安心して気を弛めるのを待っているかも知れないから。


いい?Tちゃん。 決して安心しきっては駄目よ。
いつも気を付けて、怪しい場所には近付かず、 余計な事はしないでおきなさい。先生を信じて。ね?

嘘ばかりついてごめんなさい。
信じてって言う方が虫が良すぎるのは分かっています。
それでも、最後まで仏様にお願いしていた事は信じてね。
Tちゃんが健やかに毎日を過ごせるよう、いつも祈ってます。



219:リアル:2011/05/13(金) 14:04:20.50 ID:rKgs8JSd0
読みながら、手紙を持つ手が震えているのが分かる。
気持ちの悪い汗もかいている。
鼓動が早まる一方だ。

一体、どうすればいい?
まだ…、終っていないのか?

急にアイツが何処かから見ているような気がしてきた。
もう、逃れられないんじゃないか?
もしかしたら、隠れてただけでその気になればいつでも俺の目の前に現れる事が出来るんじゃないか?
一度疑い始めたら、もうどうしようもない。
全てが疑わしく思えてくる。


S先生は、ひょっとしたらアイツに苦しめられたんじゃないか?
だから、こんな手紙を遺してくれたんじゃないか?
結局…、何も変わっていないんじゃないか?

林は、ひょっとしたらアイツに付きまとわれてしまったんじゃないか?
一体アイツに何を囁かれたんだ。
俺とは違う、もっと直接的な事を言われて…、おかしくなったんじゃないか?


S先生は、俺を心配させないように嘘をついてくれたけど、
「嘘をつかなければならないほど」の事だったのか…。
結局、それが分かってるからS先生は最後まで心配してたんじゃないのか?

疑えば疑うほど混乱してくる。
どうしたらいいのかまるで分からない。



220:リアル:2011/05/13(金) 14:06:27.13 ID:rKgs8JSd0
ここまでしか…俺が知っている事はない。
二年半に渡り今でも終ったかどうか定かではない話の全てだ。

結局、理由も分からないし、
都合よく解決できたり何かを知ってる人がすぐそばにいるなんて事は無かった。
何処から得たか定かではない知識が招いたものなのか、
あるいはそれが何かしらの因果関係にあったのか…。
俺には全く理解できないし、偶々としか言えない。


でも、偶々にしてはあまりにも辛すぎる。
果たしてここまで苦しむような罪を犯したのだろうか?犯していないだろう?
だとしたら…何でなんだ?不公平過ぎるだろう。それが正直な気持ちだ。


俺に言える事があるとしたらこれだけだ。
「何かに取り憑かれたり狙われたり付きまとわれたりしたら、マジで洒落にならんことを改めて言っておく。
最後まで、誰かが終ったって言ったとしても気を抜いちゃ駄目だ」



222:リアル(最後):2011/05/13(金) 14:10:29.09 ID:rKgs8JSd0
そして…、最後の最後で申し訳ないが俺には謝らなければいけない事があるんだ。
この話の中には小さな嘘が幾つもある。
これは多少なりとも分かり易くするためだったり、
俺には分からない事もあっての事なので目をつぶって欲しい。
おかげで意味がよく分からない箇所も多かったと思う。合わせてお詫びとさせて欲しい。


ただ…、謝りたいのはそこじゃあない。
もっと、この話の成り立ちに関わる根本的な部分で俺は嘘をついている。
気付かなかったと思うし、気付かれないように気を付けた。
そうしなければ伝わらないと思ったから。
矛盾を感じる事もあるだろう。がっかりされてしまうかもしれない…。
でもこの話を誰かに知って欲しかった。


俺は○○だよ。

‥今更悔やんでも悔やみきれない。


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35:パンドラ[禁后]13:2011/12/16(金) 17:22:55.87 ID:s+XHJkPg0
数時間ほどして、やっと両親が出てくると
「二人はわしらで供養する。夫は探さなくていい。理由は今に分かる。」と住民達に告げ、
その日は強引に解散させました。

それから数日間、夫の行方はつかめないままだったのですが、程なくして
八千代の家の前で亡くなっているのが見つかりました。

 口に大量の長い髪の毛を含んで死んでいたそうです。

どういう事かと住民達が八千代の両親に尋ねると、
「今後八千代の家に入ったものはああなる。そういう呪いをかけたからな。
あの子らは悪習からやっと解き放たれた新しい時代の子達なんだ。
こうなってしまったのは残念だが、せめて静かに眠らせてやってくれ。」と説明し、
八千代の家をこのまま残していくように指示しました。

これ以来、二人への供養も兼ねて、八千代の家はそのまま残される事となったそうです。
 
家のなかに何があるのかは誰も知りませんでしたが、八千代の両親の言葉を守り、
誰も中を見ようとはしませんでした。
そうして、二人への供養の場所として長らく残されていたのです。


その後、老朽化などの理由でどうしても取り壊すことになった際、
初めて中に何があるかを住民達は知りました。
そこにあったのは私達が見たもの、あの鏡台と髪でした。
八千代の家は二階がなかったので、玄関を開けた目の前に並んで置かれていたそうです。
八千代の両親がどうやったのかはわかりませんが、やはり形を成したままの髪でした。

これが呪いであると悟った住民達は出来るかぎり慎重に運び出し、
新しく建てた空き家の中へと移しました。
この時、誤って引き出しの中身を見てしまったそうですが、何も起こらなかったそうです。
これに関しては、供養をしていた人達だったからでは?という事になっています。

 
空き家は町から少し離れた場所に建てられ、玄関がないのは出入りする家ではないから、
窓・ガラス戸は日当たりや風通しなど供養の気持ちからだという事でした。
こうして誰も入ってはいけない家として町全体で伝えられていき、大人達だけが知る秘密となったのです。

ここまでが、あの鏡台と髪の話です。

鏡台と髪は八千代と貴子という母娘のものであり、言葉は隠し名として付けられた名前でした。





36:パンドラ[禁后]14:2011/12/16(金) 17:24:53.23 ID:s+XHJkPg0
ここから最後の話になります。
 
空き家が建てられて以降、中に入ろうとする者は一人もいませんでした。
前述の通り、空き家へ移る際に引き出しの中を見てしまったため、
中に何があるかが一部の人達に伝わっていたからです。 
私達の時と同様、事実を知らない者に対して過剰に厳しくする事で、
何も起こらないようにしていました。


ところが、私達の親の間で一度だけ事が起こってしまったそうです。
前回の投稿で私と一緒に空き家へ行ったAの家族について、少しふれたのを覚えていらっしゃるでしょうか。
Aの祖母と母がもともと町の出身であり、結婚して他県に住んでいたという話です。
これは事実ではありませんでした。


子供の頃に、Aの母とBの両親、
そしてもう一人男の子(Eとします)を入れた四人であの空き家へ行ったのです。
私達とは違って夜中に家を抜け出し、わざわざハシゴを持参して二階の窓から入ったそうです。
窓から入った部屋には何もなく、やはり期待を裏切られたような感じでガクッとし、
隣にある部屋へ行きました。
そこであの鏡台と髪を見て、夜中という事もあり凄まじい恐怖を感じます。
 
ところが四人のうちA母はかなり肝が据わっていたようで、
怖がる三人を押し退けて近づいていき、引き出しを開けようとさえしたそうです。
さすがに三人も必死で止め、その場は治まりますが、
問題はその後に起こりました。
その部屋を出て恐る恐る階段を降りるとまたすぐに恐怖に包まれます。
 
廊下の先にある鏡台と髪。
この時点で三人はもう帰ろうとしますが、A母が問題を引き起こしてしまいました。

私達の時のD妹のように引き出しを開け中のものを出したのです。
A母が取り出したのは一階の鏡台の一段目の引き出しの中の「紫逅」と書かれた紙で、
何枚かの爪も入っていたそうです。
さすがにやばいものでは、と感じた三人は
A母を無理矢理引っ張り、
紙を元に戻して帰ろうとしますが、じたばたしてるうちに棒から髪が落ちてしまったそうです。

 
空き家の中で最も異様な雰囲気であるその髪にA母も触れる勇気はなく、
四人はそのままにして帰ってきてしまいました。
それから二、三日はそのまま放っておいたらしいですが、
親にバレたら…という気持ちがあったので、元に戻しに行く事になります。
B両親はどうしても都合があわなかったため、A母とE君の二人で行く事になりました。



37:パンドラ[禁后]15:2011/12/16(金) 17:25:46.32 ID:s+XHJkPg0
夜中に抜け出し、ハシゴを使って二階から入ります。
階段を降り、家から持ってきた箸で髪を掴んで何とか棒に戻しました。
さぁ早く帰ろうとE君は急かしましたが、
ホッとしたのかA母はE君を怖がらせようと思い、今度は二段目の引き出しを開けたのです。


「紫逅」と書かれた紙と何本かの歯が入っていました。
あまりの恐怖にE君は取り乱し泣きそうになっていたのですが、
A母はこれを面白がってしまい、
E君にだけ中が見えるような態勢で三段目の引き出しを開けたそうです。

E君が引き出しの中を見たのはほんの数秒ほどでした。

何があった??とA母が覗き込もうとした瞬間、
ガンッ!!と引き出しを閉め、ぼーっとしたまま動かなくなりました。

A母はE君が仕返しにふざけてるんだと思ったのですが、
何か異常な空気を感じ、突然怖くなって一人で帰ってしまったのです。


家に着いてすぐに母親に事情を話すと、母親の顔色が変わり異様な事態となりました。
E君の両親などに連絡し、親達がすぐに空き家へ向かいます。
数十分ぐらいして、家で待っていたA母は親達に抱えられて帰ってきたE君を少しだけ見ました。
何かを頬張っているようで、口元からは長い髪の毛が何本も見えていたそうです。

この後B両親も呼び出され、親も交えて話したそうですが、E君の両親は三人に何も言いませんでした。
ただ、言葉では表せないような表情でずっとA母を睨み付けていたそうです。

この後、三人はあの空き家にまつわる話を聞かされました。
E君の事に関しては、私達に言ったのと全く同じ事を言われたようでした。

そして、E君の家族がどこかへ引っ越していくまでの一ヵ月間ぐらいの間、
毎日A母の家にE君の両親が訪ねてきていたそうです。
この事でA母は精神的に苦しい状態になり、見かねた母親が他県の親戚のところへ預けたのでした。

その後A母やE君がどうしていたのかはわかりませんが、A母が町に戻ってきたのは
E君への償いからだそうです。



38:パンドラ[禁后]16:2011/12/16(金) 17:26:21.57 ID:s+XHJkPg0
以上で話は終わりです。
最後に鏡台の引き出しに入っているものについて。
 
空き家には一階に八千代の鏡台、二階に貴子の鏡台があります。 
八千代の鏡台には一段目は爪、二段目は歯が、隠し名を書いた紙と一緒に入っています。
貴子の鏡台は一、二段目とも隠し名を書いた紙だけです。
八千代が「紫逅」、貴子が「禁后」です。


そして問題の三段目の引き出しですが、中に入っているのは手首だそうです。
八千代の鏡台には八千代の右手と貴子の左手、
貴子の鏡台には貴子の右手と八千代の左手が、指を絡めあった状態で入っているそうです。
もちろん、今現在どんな状態になっているのかはわかりませんが。

D子とE君はそれを見てしまい、異常をきたしてしまいました。

厳密に言うと、隠し名と合わせて見てしまったのがいけなかったという事でした。
「紫逅」は八千代の母が、
「禁后」は八千代が実際に書いたものであり、
三段目の引き出しの内側にはそれぞれの読み方がびっしりと書かれているそうです。
 
空き家は今もありますが、今の子供達にはほとんど知られていないようです。
娯楽や誘惑が多い今ではあまり目につく存在ではないのかも知れません。
地域に関してはあまり明かせませんが、東日本ではないです。


それから、D子のお母さんの手紙についてですが、これは控えさせていただきます。
D子とお母さんはもう亡くなられていると知らされましたので、
私の口からは何もお話出来ません。



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31:パンドラ[禁后]9:2011/12/16(金) 17:17:57.19 ID:s+XHJkPg0
母親は二人または三人の女子を産み、その内の一人を「材料」に選びます。
(男子が生まれる可能性もあるはずですが、その場合どうしていたのかはわかりません)

選んだ娘には二つの名前を付け、一方は母親だけが知る本当の名として生涯隠し通されます。
万が一知られた時の事も考え、
本来その字が持つものとは全く違う読み方が当てられるため、字が分かったとしても
読み方は絶対に母親しか知り得ません。
母親と娘の二人きりだったとしても、決して隠し名で呼ぶ事はありませんでした。 
忌み名に似たものかも知れませんが、
「母の所有物」であることを強調・証明するためにしていたそうです。

また、隠し名を付けた日に必ず鏡台を用意し、
娘の10、13、16歳の誕生日以外には絶対にその鏡台を娘に見せないという決まりもありました。
これも、来たるべき日のための下準備でした。


本当の名を誰にも呼ばれることのないまま、
「材料」としての価値を上げるため、幼少時から母親の「教育」が始まります。
(選ばれなかった方の娘はごく普通に育てられていきます)
例えば…
・猫、もしくは犬の顔をバラバラに切り分けさせる
・しっぽだけ残した胴体を飼う
(娘の周囲の者が全員、
これを生きているものとして扱い、娘にそれが真実であると刷り込ませていったそうです)
・猫の耳と髭を使った呪術を教え、その呪術で鼠を殺す
・蜘蛛を細かく解体させ、元の形に組み直させる
・糞尿を食事に(自分や他人のもの)など。

 
全容はとても書けないのでほんの一部ですが、
どれもこれも聞いただけで吐き気をもよおしてしまうようなものばかりでした。 
中でも動物や虫、特に猫に関するものが全体の3分の1ぐらいだったのですが、これは理由があります。


この家系では男と関わりを持つのは子を産むためだけであり、
目的数の女子を産んだ時点で関係が断たれるのですが、
条件として事前に提示したにも関わらず、家系や呪術の秘密を探ろうとする男も中にはいました。

その対応として、ある代からは男と交わった際に呪術を使って憑きものを移すようになったのです。

それによって自分達が殺した猫などの怨念は全て男の元へ行き、
関わった男達の家で憑きもの筋のように災いが起こるようになっていたそうです。
そうする事で、家系の内情には立ち入らないという条件を守らせていました。





32:パンドラ[禁后]10:2011/12/16(金) 17:19:29.69 ID:s+XHJkPg0
こうした事情もあって、猫などの動物を「教育」によく使用していたのです。
「材料」として適した歪んだ常識、歪んだ価値観、
歪んだ嗜好などを形成させるための異常な「教育」は代々の母娘間で13年間も続けられます。

その間で三つの儀式の内の二つが行われます。
 
一つは10歳の時母親に鏡台の前に連れていかれ、爪を提供するように指示されます。
ここで初めて、娘は鏡台の存在を知ります。
両手両足からどの爪を何枚提供するかはそれぞれの代の母親によって違ったそうです。
提供するとはもちろん剥がすという意味です。


自分で自分の爪を剥がし母親に渡すと、
鏡台の三つある引き出しの内、一番上の引き出しに爪と娘の隠し名を書いた紙を一緒に入れます。
そしてその日は一日中、母親は鏡台の前に座って過ごすのです。
これが一つ目の儀式。


もう一つは13歳の時、同様に鏡台の前で歯を提供するように指示されます。
これも代によって数が違います。
自分で自分の歯を抜き、母親はそれを鏡台の二段目、やはり隠し名を書いた紙と一緒にしまいます。
そしてまた一日中、母親は鏡台の前で座って過ごします。
これが二つ目の儀式です

 
この二つの儀式を終えると、
その翌日から16歳までの三年間は「教育」が全く行われません。
突然、何の説明もなく自由が与えられるのです。
これは13歳までに全ての準備が整ったことを意味していました。

この頃には、すでに母親が望んだとおりの生き人形のようになってしまっているのがほとんどですが、
わずかに残されていた自分本来の感情からか、
ごく普通の女の子として過ごそうとする娘が多かったそうです。


そして三年後、娘が16歳になる日に最後の儀式が行われます。
最後の儀式、それは鏡台の前で母親が娘の髪を食べるというものでした。
食べるというよりも、体内に取り込むという事が重要だったそうです。
丸坊主になってしまうぐらいのほぼ全ての髪を切り、
鏡台を見つめながら無我夢中で口に入れ飲み込んでいきます。
娘はただ茫然と眺めるだけ。

やがて娘の髪を食べ終えると、母親は娘の本当の名を口にします。
娘が自分の本当の名を耳にするのはこの時が最初で最後でした。



33:パンドラ[禁后]11:2011/12/16(金) 17:20:10.06 ID:s+XHJkPg0
これでこの儀式は完成され、目的が達成されます。
この翌日から母親は四六時中自分の髪をしゃぶり続ける廃人のようになり、
亡くなるまで隔離され続けるのです。
 
廃人となったのは文字通り母親の脱け殻で、母親とは全く別のものです。

そこにいる母親はただの人型の風船のようなものであり、
母親の存在は誰も見たことも聞いたこともない誰も知り得ない場所に到達していました。

これまでの事は全て、その場所へ行く資格(神格?)を得るためのものであり、
最後の儀式によってそれが得られるというものでした。

その未知なる場所ではそれまで同様にして資格を得た母親たちが暮らしており、
決して汚れることのない楽園として存在しているそうです。
 
最後の儀式で資格を得た母親はその楽園へ運ばれ、
後には髪をしゃぶり続けるだけの脱け殻が残る…そうして新たな命を手にするのが目的だったのです。

 
残された娘は母親の姉妹によって育てられていきます。
一人でなく二~三人産むのはこのためでした。
母親がいなくなってしまった後、普通に育てられてきた母親の姉妹が娘の面倒を見るようにするためです。
母親から解放された娘は髪の長さが元に戻る頃に男と交わり、子を産みます。
そして、今度は自分が母親として全く同じ事を繰り返し、母親が待つ場所へと向かうわけです。


ここまでがこの家系の説明です。
もっと細かい内容もあったのですが、二度三度の投稿でも収まる量と内容じゃありませんでした。
なるべく分かりやすいように書いたのですが、今回は本当に分かりづらい読みづらい文章だと思います。
申し訳ありません。 
本題はここからですので、ひとまず先へ進みます。

 
実は、この悪習はそれほど長く続きませんでした。
徐々にこの悪習に疑問を抱くようになっていったのです。
それがだんだんと大きくなり、次第に母娘として本来あるべき姿を模索するようになっていきます。  
家系としてその姿勢が定着していくに伴い、悪習はだんだん廃れていき、
やがては禁じられるようになりました。


ただし、忘れてはならない事であるとして、隠し名と鏡台の習慣は残す事になりました。
隠し名は母親の証として、鏡台は祝いの贈り物として受け継いでいくようにしたのです。
少しずつ周囲の住民達とも触れ合うようになり、夫婦となって家庭を築く者も増えていきました。



34:パンドラ[禁后]12:2011/12/16(金) 17:21:36.42 ID:s+XHJkPg0
そうしてしばらく月日が経ったある年、一人の女性が結婚し妻となりました。
八千代という女性です。
 
悪習が廃れた後の生まれである母の元で、ごく普通に育ってきた女性でした。
周囲の人達からも可愛がられ平凡な人生を歩んできていましたが、
良き相手を見つけ、長年の交際の末の結婚となったのです。


彼女は自分の家系については母から多少聞かされていたので知っていましたが、
特に関心を持った事はありませんでした。
妻となって数年後には娘を出産、貴子と名付けます。
 
母から教わった通り隠し名も付け、鏡台も自分と同じものを揃えました。
そうして幸せな日々が続くと思われていましたが、
娘の貴子が10歳を迎える日に異変が起こりました。


その日、八千代は両親の元へ出かけており、家には貴子と夫だけでした。
用事を済ませ、夜になる頃に八千代が家に戻ると、信じられない光景が広がっていました。
何枚かの爪が剥がされ、歯も何本か抜かれた状態で貴子が死んでいたのです。
 
家の中を見渡すと、しまっておいたはずの貴子の隠し名を書いた紙が床に落ちており、
剥がされた爪と抜かれた歯は貴子の鏡台に散らばっていました。
夫の姿はありません。

何が起こったのかまったく分からず、娘の体に泣き縋るしか出来ませんでした。
 
異変に気付いた近所の人達がすぐに駆け付けるも、八千代はただずっと貴子に泣き縋っていたそうです。
状況が飲み込めなかった住民達はひとまず八千代の両親に知らせる事にし、
何人かは八千代の夫を探しに出ていきました。
この時、八千代を一人にしてしまったのです。

その晩のうちに、八千代は貴子の傍で自害しました。
 
住民達が八千代の両親に知らせたところ、現場の状況を聞いた両親は落ち着いた様子でした。
「想像はつく。八千代から聞いていた儀式を試そうとしたんだろ。
八千代には詳しく話したことはないから、断片的な情報しか分からんかったはずだが、
貴子が10歳になるまで待っていやがったな。」
と言って、八千代の家へ向かいました。

 
八千代の家に着くと、さっきまで泣き縋っていた八千代も死んでいる…
住民達はただ愕然とするしかありませんでした。
八千代の両親は終始落ち着いたまま、
「わしらが出てくるまで誰も入ってくるな」と言い、しばらく出てこなかったそうです。



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23:パンドラ[禁后]1:2011/12/16(金) 17:09:29.75 ID:s+XHJkPg0
私の故郷に伝わっていた「禁后」というものにまつわる話です。
どう読むのかは最後までわかりませんでしたが、
私たちの間では「パンドラ」と呼ばれていました。


私が生まれ育った町は静かでのどかな田舎町でした。
目立った遊び場などもない寂れた町だったのですが、一つだけとても目を引くものがありました。
町の外れ、たんぼが延々と続く道にぽつんと建っている一軒の空き家です。

長らく誰も住んでいなかったようでかなりボロく、
古くさい田舎町の中でも一際古さを感じさせるような家でした。

それだけなら単なる古い空き家…で終わりなのですが、目を引く理由がありました。
一つは両親など町の大人達の過剰な反応。

その空き家の話をしようとするだけで厳しく叱られ、
時にはひっぱたかれてまで怒られることもあったぐらいです。
どの家の子供も同じで、私もそうでした。
もう一つは、その空き家にはなぜか玄関が無かったということ。
窓やガラス戸はあったのですが、出入口となる玄関が無かったのです。


以前に誰かが住んでいたとしたら、どうやって出入りしていたのか?
わざわざ窓やガラス戸から出入りしてたのか?
そういった謎めいた要素が興味をそそり、
いつからか勝手に付けられた「パンドラ」という呼び名も相まって、
当時の子供達の一番の話題になっていました。
(この時点では「禁后」というものについてまだ何も知りません。)


私を含め大半の子は何があるのか調べてやる!と探索を試みようとしていましたが、
普段その話をしただけでも親達があんなに怒るというのが身に染みていたため、
なかなか実践できずにいました。

場所自体は子供だけでも難なく行けるし、人目もありません。
たぶん、みんな一度は空き家の目の前まで来てみたことがあったと思います。
しばらくはそれで雰囲気を楽しみ、何事もなく過ごしていました。

 
私が中学にあがってから何ヵ月か経った頃、
ある男子がパンドラの話に興味を持ち、ぜひ見てみたいと言いだしました。

名前はAとします。
A君の家はお母さんがもともとこの町の出身で他県に嫁いでいったそうですが、
離婚を機に実家であるお祖母ちゃんの家に戻ってきたとのこと。
A君自身はこの町は初めてなので、パンドラの話も全く知らなかったようです。





24:パンドラ[禁后]2:2011/12/16(金) 17:10:35.26 ID:s+XHJkPg0
その当時私と仲の良かったB君・C君・D子の内、
B君とC君が彼と親しかったので自然と私達の仲間内に加わっていました。


五人で集まってたわいのない会話をしている時、
私達が当たり前のようにパンドラという言葉を口にするので、気になったA君がそれに食い付いたのでした。

「うちの母ちゃんとばあちゃんもここの生まれだけど、その話聞いたらオレも怒られんのかな?」
「怒られるなんてもんじゃねえぜ?うちの父ちゃん母ちゃんなんか本気で殴ってくるんだぞ!」
「うちも。意味わかんないよね」
A君にパンドラの説明をしながら、みんな親への文句を言い始めます。
 
ひととおり説明し終えると、一番の疑問である「空き家に何があるのか」という話題になりました。
「そこに何があるかってのは誰も知らないの?」
「知らない。入ったことないし聞いたら怒られるし。知ってんのは親達だけなんじゃないか?」
「だったらさ、何を隠してるのかオレたちで突き止めてやろうぜ!」
Aは意気揚揚と言いました。

親に怒られるのが嫌だった私と他の三人は最初こそ渋っていましたが、
Aのノリにつられたのと、
今までそうしたくともできなかったうっぷんを晴らせるということで、結局みんな同意します。
その後の話し合いで、いつも遊ぶ時によくついてくるDの妹も行きたいという事になり、
六人で日曜の昼間に作戦決行となりました。

 
当日、わくわくした面持ちで空き家の前に集合、
なぜか各自リュックサックを背負ってスナック菓子などを持ち寄り、
みんな浮かれまくっていたのを覚えています。

前述のとおり、問題の空き家はたんぼに囲まれた場所にぽつんと建っていて、玄関がありません。

二階建の家ですが窓まで昇れそうになかったので、
中に入るには一階のガラス戸を割って入るしかありませんでした。

「ガラスの弁償ぐらいなら大した事ないって」
そう言ってA君は思いっきりガラスを割ってしまい、中に入っていきました。
何もなかったとしてもこれで確実に怒られるな…と思いながら、みんなも後に続きます。
そこは居間でした。



25:パンドラ[禁后]3:2011/12/16(金) 17:11:58.49 ID:s+XHJkPg0
左側に台所、正面の廊下に出て左には浴室と突き当たりにトイレ、
右には二階への階段と、本来玄関であろうスペース。
昼間ということもあり明るかったですが、玄関が無いせいか廊下のあたりは薄暗く見えました。 
 
古ぼけた外観に反して中は予想より綺麗…というより何もありません。
家具など物は一切なく、人が住んでいたような跡は何もない。
居間も台所もかなり広めではあったもののごく普通。


「何もないじゃん」
「普通だな?何かしら物が残ってるんだと思ってたのに。」
何もない居間と台所をあれこれ見ながら、
男三人はつまらなそうに持ってきたお菓子をボリボリ食べ始めました。
「てことは、秘密は二階かな」
私とD子はD妹の手を取りながら二階に向かおうと廊下に出ます。

しかし、階段は…と廊下に出た瞬間、私とD子は心臓が止まりそうになりました。
 
左にのびた廊下には途中で浴室があり突き当たりがトイレなのですが、
その間くらいの位置に鏡台が置かれ、真前につっぱり棒のようなものが立てられていました。
そして、その棒に髪がかけられていたのです。


どう表現していいかわからないのですが、
カツラのように髪型として形を成したものというか、
ロングヘアの女性の後ろ髪がそのままそこにあるという感じです。
(伝わりにくかったらごめんなさい)
位置的にも、平均的な身長なら大体その辺に頭がくるだろうというような位置で棒の高さが調節してあり、
まるで「女が鏡台の前で座ってる」のを再現したみたいな光景。
 
一気に鳥肌が立ち、「何何!?何なのこれ!?」と軽くパニックの私とD子。
何だ何だ?と廊下に出てきた男三人も意味不明な光景に唖然。
D妹だけが、あれなぁに?ときょとんとしていました。


「なんだよあれ?本物の髪の毛か?」
「わかんない。触ってみるか?」
A君とB君はそんな事を言いましたが、C君と私達は必死で止めました。
「やばいからやめろって!気持ち悪いし絶対何かあるだろ!」
「そうだよ、やめなよ!」
どう考えても異様としか思えないその光景に恐怖を感じ、ひとまずみんな居間に引っ込みます。



26:パンドラ[禁后]4:2011/12/16(金) 17:12:36.35 ID:s+XHJkPg0
居間からは見えませんが、廊下の方に視線をやるだけでも嫌でした。
「どうする…?廊下通んないと二階行けないぞ」
「あたしやだ。あんなの気持ち悪い」
「オレもなんかやばい気がする」

C君と私とD子の三人はあまりに予想外のものを見てしまい、完全に探索意欲を失っていました。

「あれ見ないように行けばだいじょぶだって。
二階で何か出てきたって階段降りてすぐそこが出口だぜ?しかもまだ昼間だぞ?」
AB両人はどうしても二階を見たいらしく、引け腰の私達三人を急かします。
「そんな事言ったって…」
私達が顔を見合わせどうしようかと思った時、はっと気付きました。
「あれ?D子、〇〇ちゃんは?」
「えっ?」

全員気が付きました。

D妹がいないのです。 
私達は唯一の出入口であるガラス戸の前にいたので、外に出たという事はありえません。
広めといえど居間と台所は一目で見渡せます。
その場にいるはずのD妹がいないのです。

「〇〇!?どこ!?返事しなさい!!」
D子が必死に声を出しますが返事はありません。
「おい、もしかして上に行ったんじゃ…」
その一言に全員が廊下を見据えました。


「やだ!なんで!?何やってんのあの子!?」
D子が涙目になりながら叫びます。
「落ち着けよ!とにかく二階に行くぞ!」
さすがに怖いなどと言ってる場合でもなく、すぐに廊下に出て階段を駆け上がっていきました。

「おーい、〇〇ちゃん?」
「〇〇!いい加減にしてよ!出てきなさい!」

みなD妹へ呼び掛けながら階段を進みますが、返事はありません。 
階段を上り終えると、部屋が二つありました。
どちらもドアは閉まっています。



27:パンドラ[禁后]5:2011/12/16(金) 17:13:37.38 ID:s+XHJkPg0
まずすぐ正面のドアを開けました。
その部屋は外から見たときに窓があった部屋です。
中にはやはり何もなく、D妹の姿もありません。
「あっちだな」
私達はもう一方のドアに近付き、ゆっくりとドアを開けました。

D妹はいました。

ただ、私達は言葉も出せずその場で固まりました。
その部屋の中央には、下にあるのと全く同じものがあったのです。
鏡台とその真前に立てられた棒、そしてそれにかかった長い後ろ髪。
異様な恐怖に包まれ、全員茫然と立ち尽くしたまま動けませんでした。

「ねえちゃん、これなぁに?」
不意にD妹が言い、次の瞬間とんでもない行動をとりました。
彼女は鏡台に近付き、三つある引き出しの内、一番上の引き出しを開けたのです。


「これなぁに?」
D妹がその引き出しから取り出して私達に見せたもの…
それは筆のようなもので「禁后」と書かれた半紙でした。 
意味がわからずD妹を見つめるしかない私達。

この時、どうしてすぐに動けなかったのか、今でもわかりません。
D妹は構わずその半紙をしまって引き出しを閉め、
今度は二段目の引き出しから中のものを取り出しました。

全く同じもの、「禁后」と書かれた半紙です。
もう何が何だかわからず、私はがたがたと震えるしか出来ませんでしたが、
D子が我に返りすぐさま妹に駆け寄りました。
D子ももう半泣きになっています。

「何やってんのあんたは!」
妹を厳しく怒鳴りつけ、半紙を取り上げると引き出しを開け、しまおうとしました。

この時、D妹が半紙を出した後すぐに二段目の引き出しを閉めてしまっていたのが問題でした。

慌てていたのかD子は二段目ではなく三段目、一番下の引き出しを開けたのです。
ガラッと引き出しを開けたとたん、D子は中を見つめたまま動かなくなりました。
黙ってじっと中を見つめたまま、微動だにしません。

「ど、どうした!?何だよ!?」
ここでようやく私達は動けるようになり、二人に駆け寄ろうとした瞬間、
ガンッ!!と大きな音をたてD子が引き出しを閉めました。



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死ほど洒落にならない怖い話を集めてみない?


106 :: 2006/05/12(金) 15:13:55 ID:J5L31GUs0
今年の3月の終わりごろだったかな。
俺はいつもの様に、更新を楽しみにしながら洒落怖まとめサイトを見ていた。
その時、俺の叔父さん(オカルト好き)が家に遊びに来てて、
一緒になって「へぇ~こんな面白い話がたくさんあるんだ」と楽しく見ていた。

丁度、投票ランキングを見ていた時。
「ちょっと、とめて」
画面を下にスクロールさせる俺に、叔父さんが言った。
「この、リョウメンスクナっての開いてくれる?」
俺は言われるがまま、カーソルを持って行き、クリックした。
「あぁ、これね、去年ちょっとは話題に上った話で、最後なんかちょっとスレがパロディ化して…」
「ちょっと黙ってて」
いつもは優しい叔父さんが、珍しく険しい表情で言った。
黙って真剣な表情で リョウメンスクナの話を読んでいる。

10~15分は経っただろうか。叔父さんがようやく口を開いた。
「似てる…」
「えっ、何と??」
「今日は孝明(←俺の親父で叔父さんの弟、一部偽名)と良子さん(←母、偽名っす)は
旅行で帰ってこないんだろ?」
「うん、まぁ」
「じゃあ、酒でも飲んで何かつまみながら話すか。
あの2人がいたら、また変な話(オカルト系)ばっかりして、ってうるさいからな」

 



107 :: 2006/05/12(金) 15:17:16 ID:J5L31GUs0
そう言うと叔父さんは、
瓶ビールとチーズを勝手に冷蔵庫を開けて持ってきて、話し始めた。


「俺の実家が神社なのは知ってるだろう?(出雲大社系、西日本で場所は勘弁して)
それでな、地鎮祭とか時々頼まれるわけじゃない?
その時の俺ん家の(神社の)決まり事としてな、
その土地に骨や死体があった場合、の地鎮祭のやり方があるわけね。
他の神社もやってるかどうかは知らないよ?
まぁ詳細は省くけど、とにかく慎重に対処せにゃいかんわけよ。
割と近代の骨や死体なら、まだ良いんだよ。いや、良くはないんだがw、
問題なのは古すぎる骨とか、即身仏の類ね。
遺跡などの多い地域は、古代の骨は結構出るし、即身仏もごくごく、たま~に出たりする。
完全な保存状態のはまずないけどね。
 
そこで、俺の親父の話なんだけど、終戦からちょっと経ったくらいの頃ね。
とある豪商から、「土地を整地してたら変なもんが出てきて、気持ち悪いから来てくれ」って言われたのね。
それで行ってみると、その豪商の家の大きな蔵に通された。
丁度、棺桶サイズの木箱が置いてあって、蓋が開いてたんだって。
「こんなもんが出てきてなぁ。気色悪いったらありゃせん」
豪商の言葉を耳にしながら、親父は木箱の中を覗いたんだ。
「アシュラさんやないか!!」
親父は叫んだらしい。
中に横たわっていたものは、まさしく阿修羅像の様な、干からびたミイラだったらしい。
 
まず、通常の人間のミイラを思い浮かべて欲しい。
その顔の左右両脇に、別の人間の切断した首2つを縫い付ける。
そして左右の脇腹に、これまた切断された別の人間の右腕2本、左腕2本を縫い付けてある。
そんなおぞましい(造られた)ミイラだったらしいんだ」

 

108 :: 2006/05/12(金) 15:19:15 ID:J5L31GUs0
「まだあったんか…こんな腐れ外法が…」
「親父は真っ青になりながらも、急いで木箱の蓋を閉めたんだ。
そして、「見世物にしたらどうか?」と言う豪商の提案を激怒しながら一喝し、
強欲な豪商がどうしても譲らないと言い張るので、
「俺が金払ってでも引き取る」と言い、結局大枚はたいて買い上げたんだ。
そして「あの腐れ朝鮮人がっ!!」と叫んだらしい」

「??…どう言う事??」

あまりに恐ろしく現実離れした話に聞き入っていた俺は、ようやく質問する事ができた。
もう瓶のビールはあと4分の1ほどしか残っておらず、
俺は代わりを冷蔵庫から持ってきた。


「ん、ありがとう…そうそう、それでな、
さっきのリョウメンスクナって話に物部天獄って出てきたろ?
時代的にも違う人物とは思うが、
親父の生きてた時代に、金成羅って在日朝鮮人がいたらしいんだ。
天魁教ってカルト教団作って、細々と活動してたらしい。
こいつがとんでもないヤツで、「教団の教え」とか偽って信者たちと乱交したり、
大金巻き上げたりするわで、まぁ小物っちゃ小物だったらしけどね。
それでも、こいつの先代か先々代の教祖が本物だったらしく、
色んな呪法のかけ方とか書いて残してた、経典があったらしい。
その中に、「人工的に即身仏を作り出し、呪いの道具とする」方法みたいのがあって、
それがさっきのアシュラさんってわけなんだ。
 
親父が何でそんなに詳しいかと言うと、
親父の妹がこのカルト教に感化されてしまって、連れ戻すのに苦労した時期があったらしいんだ。
それで金成羅ともゴタゴタがあったわけね」

 

109 :: 2006/05/12(金) 15:21:43 ID:J5L31GUs0
「う~ん、でもそんな教団も教祖も聞いた事ないよなぁ」
「そうだろう。でも本当に小さなチンケな教団だったらしいよ。
信者もほとんどが在日朝鮮人とか中国人だったらしい。
そのくせ、やってる呪法とかが危険な物ばかりだったと。
大体ね、どの宗教や邪教の秘術とか呪いを見てもね、リョウメンスクナや
アシュラさんみたいな(生命を冒涜するような呪法・呪物)ってのはないんだよね。
悪魔教でさ、赤子とかを捧げるのはあるらしいけど、それは一応
太古や中世からの伝統であって、
このスクナとかアシュラの類は、完全に「個人で勝手に考えた思いつき」の様な気がするんだよね。
狂ってると言うか。
逆にそういう素人考えが、凄まじい怨念を発する、危険なものを造り上げたんだろうね」

「うーん…それで、そのアシュラさんはどうなったの?」
「親父もホント頑固で昔気質な所があってさ、
アシュラさん引き取った後、「朝鮮近海の海に捨ててやる!!」とか言い出したらしくてさ。
その頃金成羅は消息不明だったらしく、ほとんど腹いせだよね。
朝鮮半島に持ち込むにしても検問や入管でそんなミイラ通るわけないし、
それで少しでも近くの海に…って。
今思えば親父もちょっと狂ってたのかもなぁ。
それで知り合いの漁師に頼んで船出してもらったらしいんだけど、
そのアシュラさん積んだ船が、今のK州の西方沖で沈んだらしいんだ。
あぁ、もちろん親父は船には乗ってなかったよ。それが今から約50年ほど前かなぁ」

「で、分からずじまいと…他にもどこかにそんなミイラがある可能性ってあるの?」
「分からんねぇ…
親父もアシュラさんの件以来、そういう情報には神経を尖らせていたらしかったけど、
とうとう新たなそういう造られたミイラの情報は入ってこなかったらしいよ」

 

110 :終了: 2006/05/12(金) 15:23:04 ID:J5L31GUs0
「で、これは完全に俺の推測と言うか妄想に近いかもしれないけど、
去年の春ごろ、K州の西方沖で大地震があって、F県を始めK州各地にも違いが出ただろう?」
「あぁあれは怖かったなぁ…CDラックとか滅茶苦茶になって」
「あと最近、K州発の韓国行きの高速船や、
K州西方沖を走る高速船に、クジラのような生物がぶつかる、ってニュースが多いだろう?
怪我人も多数出て」
「あったねぇ。あまりにもぶつかる数が多すぎるよね」
「アシュラさんが沈んでる、K州西方沖と何か関係があるのかな…なんてな」
「まさか。ハハハ」
「まさか、ね。あと日本神話にもさ、天津神、国津神ってのが出てきてさ、
天津神が朝鮮半島か中国大陸からやってきた騎馬民族で、
国津神が日本列島の先住民。
戦に天津神が勝利して、朝廷が出来た…(あくまでも一説)と言う神話もあるし、
7世紀に起きた白村江の戦いや、秀吉の朝鮮出兵、さらに近年に起きた戦争、
と、日本と朝鮮の怨恨みたいなものは、深くて根強くあるのかもしれないね」


これで大体話の内容は終わりです。


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