394 : みさき:2015/03/31(火) 18:34:27.51 ID:srUp3oHH0.net
交霊
ほんまはこんなこと頼める義理じゃあないんですが、
今日この話をするんは、多少の罪滅ぼしと、亡うなったひとの供養になればと思うとるんです。
美幸さんには特にひでえことをした思うとるんで、
できればほんまのことを誰かに伝えてあげてほしい思います。
それではどうか宜しゅうお願いします。
あれがあったんは一九九二年の、八月の十四日のことじゃった思います。
大きい忌み日を避けるんは邪魔が入らんようことじゃ言う とりましたけえ確かじゃ思います。
場所は美幸さんとこの二階の子供部屋で、時間は五時を少しまわっとったでしょうか。
私は世話人いうことで、本来なら
美幸さんと川上さんの間に入られとったフクさんが来ればええんですけど、
あの人は満足に読み書きができんのんで、代わりに私に行っちゃくれんかいうことになって、
私も川上さんとは知らん間柄じゃあなかったこともあって、特になんのあれもなく、
旅行みてえなもんじゃ言われてつい受けてしもうたんです。
まさかあがあなことになるとは思わんで。
広島の駅から新幹線に乗って新大阪についたあと国鉄に乗り継いで、
駅からタクシーを呼んでもろうとったのに乗り込んで、美幸さんとこのお宅へ伺うたんです。
ついたんはまだ日が高いうちでしたけえ、
これから支度したらちょうどええ頃合いじゃあいうてお話をしたんを覚えとります。
395 : みさき:2015/03/31(火) 18:40:30.19 ID:srUp3oHH0.net
美幸さんのお宅についてから、まず簡単に挨拶を済ませました。
家ん中は真っ暗でした。
饐えたような臭いがしとって、旦那さんはもう随分と参っとってでしたけど、
なんとか気を張っておられたようでした。
美幸さんのほうは旦那さんと違ってもう限界じゃいう感 じで、ほとんど喋りもせんで、目もうつろで。
私と川上さんは二階の美咲ちゃんの部屋に案内されて、
部屋に入ると川上さんが部屋の中を見て回られて、
美咲ちゃんの大切なもの、なるべく長う使うとるものをひとつ貸してください言うちゃったんです。
そしたら美幸さんが、美咲が大切にしているぬいぐるみです言うて、
それを川上さんに渡されて、
それから私と川上さんで交霊会の支度を始めました。
396 : みさき:2015/03/31(火) 18:41:04.14 ID:srUp3oHH0.net
まず、部屋の中央に下から卓袱台を運びました。
その上に持ってきた蝋燭を立てて、私らみんなでお神酒をいただいて、塩をまいて、
川上さんが短いお経みたいなのを唱えられてから、
お父さんお母さんお待たせしました、
いまから美咲ちゃんをこの部屋に呼びます、言われました。
川上さんは持ってきた包みん中から、
魂を降ろすんに使うとる板を取り出して、卓袱台の上に置かれました。
板には真っ赤な鳥居と、はいといいえ、あとはあいうえおかきくけこいう平仮名、
それに0から9までの数字、それらが彫りこまれとってでして、
そこに川上さんがいつも使うとる、カコイサマいうやつを、ご存知ですか、それを置かれてですね、
川上さんと旦那さんと美幸さんと、三人とでそれに指を添えられて、
ぜってえ指を離さんといて ください言うて川上さんが説明しておられました。
私は川上さんの言うちゃることを帳面に記録する係ですけえ、
その間ずっと鉛筆をもって横で待機しとったんですが、
そのうちに川上さんが言われま した。
たいへん長うお待たせしました。お父さん、お母さん、いまから美幸ちゃんを降ろしますけえ、
美咲ちゃんのことを心でじっと念じてください。
できるだけ楽しいことを思い出して、美咲ちゃんの顔をはっきりと心に映してください、いうて。
ほうで川上さんは美咲ちゃんに呼びかけるような言葉を呟き始めて、
美咲ちゃん、美 咲ちゃん、言うて、なんとも居た堪れん気持ちになったのをよう覚えてます。
397 : みさき:2015/03/31(火) 18:46:37.62 ID:srUp3oHH0.net
あのカコイサマいうんは不思議なもんで、あれはほんまにひとりでに動きおるんです。
私も実際信じとらんかったですけど、ありゃあそうとしか思えんのです。
じゃけ川上さんに聞いてみたことがあるんですね、一度。
なしてありゃああなあなことになるんかいうて。
ほしたら川上さんは、あれは入り口なんじゃ言うちゃられました。
人の魂いうんは寂しゅうて仕方ないけ、あったけえところを見つけて入りてえんじゃ、
あのカコイサマにはお地蔵さんがおられて、それに誘われてするすると魂が入られるんじゃ言うて。
そういうのは魂のほうも頭で考えとるんじゃのうて、電燈に蛾が集まるみたいな、
自然なもんらしいです。
398 : みさき:2015/03/31(火) 18:47:16.79 ID:srUp3oHH0.net
川上さんが美咲ちゃん美咲ちゃん言うて呼びかけ始めてから五分くらいでしょうか、
突然旦那さんと美幸さんが身体をびくっと震わして、
えろう何かに驚かれたんは、カコイサマが動かれたんじゃ思います。
川上さんはふうっと長え息をひとつ吐かれて、美咲ちゃんがきとられますよ、て言われました。
そっから部屋の空気が全然違うたんは、ただ横に座っとっただけの私にもはっきり分かりました。
どういうんですかね、部屋の温度は寒いのに、身体は妙に暑苦しゅうて
汗が滲んでくるような、いうんですか。
蝋燭の炎の上のところだけが長あく横になびいて、気持ち悪かったんを覚えとります。
質問は、最初ん頃は川上さんも美咲ちゃんに交霊のやり方を教えんといけんのんで、
みやすい質問を何個かなさっとった思います。
歳はいくつか。名前は何か。男か女か。
美咲ちゃんは順調に答えとってで、私もこれは成功じゃ思いました。
ほいで、いよいよこの後ですよ。
こっからは美咲ちゃんが生きとるんか死んどるんか、今どこにおるんか、
それを聞き出さんといけんいうことで。
川上さんも言うとられました。おそらく子供相手じゃあええがあいかんじゃろう、て。
子供いうんは生きとるんでもろくに聞きゃあせんのに、
ま して魂じゃあまともに聞きゃあせんじゃろう言うて、私も同感じゃ思うとりました。
事実あがあなことになって、
ほんとうに手には負えんもんじゃと思い知らされて。
399 : みさき:2015/03/31(火) 18:51:09.74 ID:srUp3oHH0.net
こがあなことは滅多に言えんですが、私も川上さんも用心が足らんかったんです。
何がほんまかはそりゃあ分からんですけど、
美咲ちゃんがとられたんは人攫いじゃとか、土地に住んどる神さんじゃとか、
そげなもんじゃあねえのは確かです。
川上さんは偉え人じゃ けど見える人じゃあなかった。それで判断を誤られたんです。
始まってしばらくは順調に進んどるように思うとりました。
なにが見えるか、いうて聞いたらお母さんじゃ言うたりして。ええがにいっとる思いました。
でも、途中からなんか変じゃ思うたんです。
どこが変じゃいうのは言えんのですが、
たしか、今どこにおるんかいうようなことを聞いたら、美咲ちゃんは、いいえ、言うたんです。
400 : みさき:2015/03/31(火) 18:54:30.92 ID:srUp3oHH0.net
このいいえいう答えは意味をなしちゃおらんでしょう。
ほうじゃけ川上さんも、いいえいうんはどういう意味か、いうて改めて聞いちゃったんです。
ほしたら美咲ちゃんは、今度はうしろじゃ言うんです。うしろ。
私も含めてみな背中をあらためんではおれんかったですね。
例えなんもおらんじゃろうと分かっとっても、
ああいう言われ方は恐ろしゅう感じますけ、私もなんとなくぞおっとして、
川上さんもこのままじゃと危険じゃ思われたんでしょう、
改めて旦那さんと美幸さんに、
ええですか、何ぞ見ても取り乱さんでください、 指い離さんでくださいよ言うて
念を押しちゃって、もうそろそろ日が落ちよってじゃ言うて、
川上さんは私に、部屋の電気点けてくれんかって、私が立ち上がった
そん時です。
401 : みさき:2015/03/31(火) 18:54:58.60 ID:srUp3oHH0.net
ぱしっ、いう音がして、電球のたまの中で火花が飛んだんです。
蝋燭の火いも急にゆらゆら し始めて、
カコイサマが質問もせんのに勝手に動き出して、
順に、 い、た、い、く、び、いうて動いたところで蝋燭の火も消えてしもうて。
あとは日が落ちた真っ暗ん中で、カコイサマが動き続けとる、
木の擦れる音だけがしばらく続いとって、
わしらにゃあそれが何を言うとるか見えんのんじゃけど、
もう恐ろしいことを言うとるんじゃいうのは分かるでしょう。
川上さんはもう必死んなって、美咲ちゃん、もうええけ、美咲ちゃん、もう帰ってもええけ、言うて。
私 も怖うてたまらんで般若心経一心に唱えおったんですが、
突然耳鳴りがきーんとして、
ぴしっ言うてですね、カコイサマが真っ二つに割れんさって、
未だに忘れんですよ、
それと同時くらいに美幸さんが物凄え甲高い、笛を吹いたみたいな悲鳴を上げんさって、
そりゃあもう、あげな小せえ体のどっから出おるんかいうような、
家が震えるくらいのえれえ悲鳴だったんですから、もうみんな儀式どころじゃないですよ。
急いで美幸さん廊下に引っ張り出して、
はよう救急車じゃ言うて、
美幸さんは白目剥いて、泡吹いてがくがく痙攣しておられました。
その後はもうどげえもならんですよ。
儀式も続けられんし、わしらも身の置き所がない。
病院まで一緒に付き添うたんですが、
旦那さんがそりゃあもう凄え形相でわしらのことを睨みつけてから、
あんたらのせいで美幸まであげえなって、悪りいがもう帰ってくれ言うちゃって、
そう言われたら私らもどうもできんけえ、
荷物だけ片付けに上がらしてもろうてから、挨拶もそこそこに引き上げたんです。
それが当日のことでした。
402 : みさき:2015/03/31(火) 18:57:01.21 ID:srUp3oHH0.net
ほうで、この話はこれで終りじゃあないんです。
後日、川上さんがうちに来ちゃって、こないだの件で話があるんじゃ言うて。
私はええですよ言うたものの
川上さんもずいぶん辛えじゃろう思うて黙りこんどったら、川上さんがこう言うちゃったんです。
ありゃあえれえ家じゃ、あがあな家じゃ知っとったらわしゃあ関わらんかった言うて。
何事か思うでしょう。
それでどういうことですか言うたら、
川上さんが壊れたカコイサマを出してきちゃって、
これを見てみんさいいうけえ、私見してもろうたんです。
そしたらですね、あん時は気付かんかったんですが、明らかに変なんですね。
普通は板いうんは、折れるときは木目に沿って折れるもんじゃ思うんですが、
それが木目と違う方向に無理やり折られとるんです。
折られたいうか、真ん中から割られたいうか、裂かれたいうんか、
とにかくありゃあ人間業じゃあない思いましたね。
そんで川上さんも、こがな真似そうそうでけん、
あすこにはわしらの思うたよりずうっと恐ろしいもんがおったんじゃ、
あんとき降りてきとったんは確かに美咲ちゃんじゃったはずじゃ思うけど、
それだけじゃあなかったようにも思う、 いうて。
403 : みさき:2015/03/31(火) 18:58:09.86 ID:srUp3oHH0.net
どういうことね言うたら川上さん、
あの電球が切れたとき があったじゃろいうて、あったあった言うたら、
あんとき私見たんよ、部屋が真っ暗んなる前、
火花が飛んだとき、美幸さんの首を締めとる美咲ちゃんをはっきり見たんよ、言うて。
じゃけえ私言うたんです。
川上さん、それがほんまじゃとしても、
そりゃあ首を締めとったんじゃなくて、おぶさっとったんじゃないですかって。
子供 が親の首い締めるなんて普通考えられんで、川上さんの見間違いで しょう言うて。
ほしたらそうじゃないんじゃて川上さんは言うんですよ。
そういう子供が親に甘えとるようなふうじゃない、
そりゃあもう物凄い形相で、声は聞こえんのんじゃけど、
もう気がちごうたように泣き叫んどるんがはっきり分かったんじゃけえ、ありゃあ
あの母親には表立っては言えんことが何かあるんで、言うて。
私も川 上さんの言うちゃることが、そこでぴんときたんです。
405 : みさき:2015/03/31(火) 19:00:42.11 ID:srUp3oHH0.net
つまり、あがあな神隠しいうようなもんは実際にあるわけはない、いうわけでしょう。
いやね、人の魂を降ろして飯を食うとるようなもんが何を言うかと思われるでしょうが、
そりゃあ話が別じゃろう思いますよ、 私は。
人が死んで魂になるいうんはあっても、
肉体のある人が煙みたいに消えるいうんは、道理が通らんです。
人一人が消えるいうんはそりゃあえれえことなんで、
そげえなことはほんまの神さんにだって難しい思いますよ。
じゃけえ、私はこう思うとるんです。
美咲ちゃんは、あの家ん中で殺されとる。
そんで、どっか人目のない山ん中にでも運ばれて埋められとる。
じゃけえ、あがあなふうに美幸さんに祟りおるんでしょう。
美幸さんはあれっきり、
もうまともに話もできんようになって、一日中わけのわからんことをぶつぶつ呟いとるいうことです。
日に二度ほど我に返ってから、美咲、美咲、いうて泣きおるいう話を聞いたら
どうにも不憫で、私もどうにかしてあげたいとは思うんですが、
もうどがあもできんのです。
川上さんも参られとってで。
世の中には明るみに出さんほうがええこともあるんじゃ思うと
なんともやりきれんですが、この話だけはしとかんといけんような気がして、
別にこれでどうこういうつもりもありゃあせんですけど、
川上さんももうあがあなったら駄目かも知れん けえ、私の口が利けるうちに
お話ししおこうと思うたいうことです。
誰であれ、ほんまの犯人が見つかるとええですね。
美咲ちゃんの魂が安らかに眠れるように、私も祈うとります。
406 : みさき:2015/03/31(火) 19:01:51.16 ID:srUp3oHH0.net
談話1
川上さんは、もう終りじゃ、殺したんはわしじゃ、殺したんはわ しじゃ、言うて随分参っとったけえ、
もう気にしんさんな言うてとりあえず寝かしたんじゃけど、一晩たってみたら
もうおらんようになっとって皆なたまげてもうて、
どこに行ったんじゃろういうて皆なで探したら、裏の井戸に身を投げとったんじゃ。
最初に見つけたんは駐在さんじゃった思うけど、
そりゃあもうがたがた震えて、
わしゃあこがあな惨い死体は見たことがない言うて近づきもせんけえ、
吉田さんがそがいなことでどうするんじゃ言うて代わりに見に行きんさったんじゃけえど、
これも飛んで帰ってきて、
川上さんはどうせもうだめじゃ、あがあなもん見んほうがええ言うて。
何を見たんじゃいうたら、
真っ黒い人が底におって、それが川上さんの曲がった首をひねくり回して、
その首とわしゃあ目が合うたんじゃ、言うて。
そがあ言うても誰も信じられんし、何より引き上げんことにはやれんけえ、
皆なで連れ立って川上さんを引き上げに行ったんよ。
ほ したらこれがたまげたことにほんまなんよ。
井戸の底に真っ黒い人影が座りこんどって、川上さんの首を捻り上げて、
その目が恨めしそうにこっちを見おるんじゃけえ。
皆な飛び上がって逃げて、ありゃあまともじゃあねえで言うて、もういよいよ
誰も近づかんのんじゃけえ。
わしもあがあな怖い思いしたんは生まれて初めてじゃ。
407 : みさき:2015/03/31(火) 19:04:22.53 ID:srUp3oHH0.net
ほうじゃ言うても、そのまま放っとくわけにもいかんし、
あれが表に出てきても困るけえ、
もう川上さんには悪いけど閉めたほうがええじゃろう言うて、
皆なでコンクリの板転がして、井戸の中見んようにそおっと蓋をして、
ぎょうさん石のせてその日は寝たんじゃ。
ほんで怖いのはこっからなんよ。
その日の晩に三次の春子さんのとこから電話がかかってきて、出てみたら
血相変えてあんたとこの村だいじょうぶなんね言うから
いったいどうしたんか言うたら春子さんが、いま玄関に川上さんがきちゃってね、
美恵子姉さんがえらい大事故をして重態じゃ言うんよ、って。
でも川上さんはもう亡くなったんで言うたら、
おばちゃんえらい声で悲鳴上げて受話器放り出して、しばらく後に聞いてみたら、
玄関が血だらけじゃ言うんよ。
ほいでも別に誰も怪我しとらんし、誰の血か分からん言うて、
いち おう警察にも来てもらったけど怖くて寝られん言うて、
怖くて寝られんのんはこっちよ。
村の家みんな叩き起こして、いまこれこれこういう電話があって
こう言うちゃった言うて、話し合うた結果、
下野の三郎さんの家に嫁いできちゃった美代子さんのお兄さん、牛窓の徹さんいう人が
お寺をやっとる言うて、それでお祓いしてもろうちゃったらどうかいう話になって、
さっそく電話したら、
出た瞬間に向うがこっちから何か言う前にどないしちゃったんですか言うて、
聞いてみたら電話口から煙がもうもう出おる、いうて。
しかもこっちが話しとるすぐ横で、誰かがはあはあ息をしとる言うて。
もう怖あて怖あて。
408 : みさき:2015/03/31(火) 19:04:47.65 ID:srUp3oHH0.net
それで何とかならんですか言うたら、
事情はともかく今すぐ行くけえ待っとってください言うてくれんさって、
皆なこれで安心じゃ思うとったら徹さんが、ちなみに誰が亡うなったんですか言うから
川上さんです言うたら、
川上さんてあのまじないの人ですか、
川上さんがとられたんですか言うてえれえ驚かれて、
なんでも川上さんはそうとう霊格の高え人で、それがとられる言うのはよっぽどじゃ言うて、
正直わしの手には余るけえ今夜はなんとか辛抱してくださ い、
明日えらい人を連れて行きますけえ、それまでなんとか、いうて電話を切ろうとするけえ、
これからわしらどないすればええんですか言うたら、
どないもなりません、
この話も聞かれとりますけえ、いま川上さんをとったそれがわしの真横におって、
今も耳に息がかかるんです、たぶんもうだめじゃ言うて、それで電話は切られてしもうた。
そがあなの聞いたら皆な震え上がってしもうて、もう一睡もできんのよ。
ほいで案の定、翌日になっても徹さんは来ん。
もうどないなったんかだいたい想像つくじゃろ。
電話切ったすぐ後に家を出て、 田んぼに車ごと突っ込んで引っ繰り返って、そのまま重態いう話よ。
結局、徹さんをあんな目にあわしたんはわしらなんよ。
美代子さんなんか大泣きして
三郎さんに食って掛かって、こないなきち×い村に来たんが間違いじゃ言うて村を飛び出して、
そっちもそれで行方知れずよ。
実家にも帰らんし村にもおらん。車も見つからん。
それっきりじゃ。
409 : みさき:2015/03/31(火) 19:07:09.80 ID:srUp3oHH0.net
村は村でまた大ごとよ。
夜明けに犬がえらい鳴きおる思うたらみんな泡吹いて死んどるし、
井戸の蓋もずれて落ちとる。
ほいでももう見るん怖いけえ
警察に電話して来てもろうたんだけど、警察の人は中に何もありませんよ、言うちゃって。
恐る恐る見たら川上さんおらんのんよ。
警察の人は冗談もたいがいにしてください言うて帰っちゃったけど、
こっちももうどうしたらええんかわからんで、
川 上さんはどこかへ消えてしもうたし、
今ではほんまに死んどったんかどうかさえ確かめようがないんじゃけえ。
もうあれは夢じゃった とまで言うひとまでおってで。
それで何日かした後のこと、
松野の武さんが見たいう話じゃけど、
こげえなでっかい火の玉が川上さんの家の窓から入っていった言うて、その日の晩に
誰もおらん家の中から真っ黒い煙が上がって、
消 防が来る頃にはとっくに川上さんの家は焼けてしもうとった。
もうこうなったらどがあもならんけえ、
わしらができるこというたら、川上さんのためにお地蔵さんを立てて、拝むくらいよ。
これでおさまってください言うて手え合わして、
ほうでも何でこがあなことになったんかも誰も分からんのんじゃけ、やりようがないんよ。
今でもたまに川上さんを見たいう人が現れるおるで、
あの黒いのんがまだ歩いとるんじゃろういうて皆な怯えとる。
家に鍵かけて用心して、もう日暮れには誰も表に出んのんで。
あんたもよう気いつけんさいよ。
この話い聞いたらもう関わりがないとは言われんのんじゃけえね。
余計なことは絶対にしんさんなよ。
あんたもいつとられんとは限らんのじゃけえ、もうこがあな話には関わらんほうがええ。
関連記事
吉野美咲ちゃんの失踪 1
吉野美咲ちゃんの失踪 2